人魚皇子

けろけろ

文字の大きさ
31 / 32

31.チェックメイト

しおりを挟む
 それから俺はエドと共に屋敷へ戻った。中ではサラが、興奮した面持ちで待ち構えている。
「殿下、移動の途中でも見えましたよ! すごい兵器ですね!」
「試射は大成功だ。サラよ、すぐお前の国王に伝えて欲しい事があるんだが」
「はい、馬の準備は出来ています!」
「そうか。では、人魚が次の標的を隣国の城にしている、とだけ頼む」
 サラが、ばっと部屋を飛び出し文字通り駆けて行く。その足音を聞きながら、エドは不思議そうな表情を浮かべていた。
「ねぇトニー、兵器の飛距離はまだ足りないんじゃなかったっけ? 隣国の城を壊すなんて無理――」
「馬鹿か。ここで脅さなくて、どこで脅すんだ?」
「えっ、じゃあ単なる嘘!?」
「気にしなくていい、そのうち本当になる。ドロイに予算を注ぎ込めばな」
 そこに、どぉんという爆発音が響いた。これは間違いなく例の兵器。慌ててエドを乗せ海に出ると、祝賀ムードの港がぼろぼろに破壊されている。
「ドロイめ、誤射したか! まさか人間を殺していないだろうな!?」
「まぁ港湾には退避命令を出してたし、直前に艦が爆発して沈んでるし、誰も寄り付かないよ」
 わりとのんびりしたエドの声を聞き、俺は安心と共に笑ってしまう。

 幸か不幸か、この一発は隣国に対してかなりのインパクトを与えてくれた。こっそり出港していた敵軍艦が集まり、みんな白旗を掲げ始める。
 そこにサラが持って行く、俺からの脅し。
「……これでチェックメイトだ」
 俺はそう言い、屋敷に戻った。するとロージオがやって来る。誤射の件を説明していたけれど、『結果良ければ』で許してやった。俺とエドとロージオは、今後の対応の相談を始める。
 そこへ、もう一人の客人が現れた。エドの父君だ。父君は波打ち際までやって来て、ゆっくりと頭を下げた。
「お陰さまで隣国は撤退、明日にでも我々に大変有利な平和協定が結ばれる事になりました」
「お、お父君、顔をお上げください」
「本当に隣国には参っていたのです。それを助けてくださったのは人魚、いや貴方だ。不束者の息子ですが、よろしくお願いいたします」
 一瞬の間のあと、俺は頷く。
 そののち、エドが全身で喜びを表現した。
「あっ、ありがとう父さん……! 僕の代でアスター王朝は終わっちゃうかもだけど、後継には優秀な人を選ぶから、そうすれば国は続くから……!」
「ああ、それでいい。さぁ、平和協定後に早速、こちらの人魚殿と婚姻の儀を執り行おう」
「そうだね、ほとんど準備は出来てるし!」
 着々と進む婚姻話に、俺は首を傾げる。人間の婚姻の儀とやらはよく解らない。人魚の婚姻であれば、単に互いがその意思を確認するだけだ。
「エド、婚姻の儀で、俺はどうすればいいんだ?」
「内緒! 君は身一つで来てくれればいいからね! 準備は全部こっちでするから!」
「何だと!?」
 人間界への興味を否定されたようで、俺の気分はあまり良くない。だが、「驚かせたいだけだよ」というエドの笑顔には絆されてしまう。
「じゃ、婚姻の儀は明日の午後! トニーはこのまま屋敷に居てね」
「ちょっと待たんか!」
 そこに顔を出したのは、俺の父と母、それにドロイだ。俺はドロイを労い、今後の予算を父に願い出る。父はそれについて頷いてくれた。
「やったなドロイ!」
「殿下ぁぁ~~、ありがとうございますぅぅ~~!」
 ドロイは滅茶苦茶に喜んでいる。
 しばらく経つと、その横に居た母が俺の傍に泳いできた。
「トニー、幸せにね。でも、今夜は人魚の国へ帰りましょう」
「なぜですか? どうせ明日は婚姻の儀だというのに」
「今夜はナルネルと過ごすといいわ。あの娘、きっと寂しがるから」
 俺は瞬時に頷いた。俺だってナルネルと離れるのは寂しい。いつでも里帰りは出来るだろうが、トニアラン=ヴィ=シーキングとして最後の夜は、ぜひナルネルと過ごしたかった。
「……エド、いいか?」
「午後一時くらいに、必ずこの屋敷に戻って来てくれればいいよ!」
 エドから眩しい笑顔が返って来る。何でも、俺が居ない方がサプライズしやすいとか何とか。
「じゃあ、会場はここなのか?」
「うん、僕と君の大事な場所だからね」
 それには俺も賛成だ。俺はエドに一回だけ抱き締められ、人魚の国へ戻って行った。

 人魚の国は、相変わらずの風情だ。
 俺が早速ナルネルの屋敷へ行き、彼女にエドの事や婚姻の事を話すと、驚きと共にとても喜んでくれた。だが、ナルネルの瞳からはぽろぽろと美しい涙が止まらない。
「お兄様、私、今まで何も知らなくて」
「いいんだよナルネル。俺が秘密にしていただけなんだ」
 その夜、俺とナルネルは数年ぶりに寝床をくっつけた。その後は思い出話をしながら、いつの間にかナルネルだけ眠ってしまった形だが――本当に幸せな一時を過ごしたと言えよう。
 俺はナルネルの頬をそっと撫でながら、この機会を作ってくれた母に感謝し、今度はエドの配偶者として遊びに来ようと決める。その時の土産は何がいいか――などと考えていたら、いつの間にか俺も眠っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...