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31.チェックメイト
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それから俺はエドと共に屋敷へ戻った。中ではサラが、興奮した面持ちで待ち構えている。
「殿下、移動の途中でも見えましたよ! すごい兵器ですね!」
「試射は大成功だ。サラよ、すぐお前の国王に伝えて欲しい事があるんだが」
「はい、馬の準備は出来ています!」
「そうか。では、人魚が次の標的を隣国の城にしている、とだけ頼む」
サラが、ばっと部屋を飛び出し文字通り駆けて行く。その足音を聞きながら、エドは不思議そうな表情を浮かべていた。
「ねぇトニー、兵器の飛距離はまだ足りないんじゃなかったっけ? 隣国の城を壊すなんて無理――」
「馬鹿か。ここで脅さなくて、どこで脅すんだ?」
「えっ、じゃあ単なる嘘!?」
「気にしなくていい、そのうち本当になる。ドロイに予算を注ぎ込めばな」
そこに、どぉんという爆発音が響いた。これは間違いなく例の兵器。慌ててエドを乗せ海に出ると、祝賀ムードの港がぼろぼろに破壊されている。
「ドロイめ、誤射したか! まさか人間を殺していないだろうな!?」
「まぁ港湾には退避命令を出してたし、直前に艦が爆発して沈んでるし、誰も寄り付かないよ」
わりとのんびりしたエドの声を聞き、俺は安心と共に笑ってしまう。
幸か不幸か、この一発は隣国に対してかなりのインパクトを与えてくれた。こっそり出港していた敵軍艦が集まり、みんな白旗を掲げ始める。
そこにサラが持って行く、俺からの脅し。
「……これでチェックメイトだ」
俺はそう言い、屋敷に戻った。するとロージオがやって来る。誤射の件を説明していたけれど、『結果良ければ』で許してやった。俺とエドとロージオは、今後の対応の相談を始める。
そこへ、もう一人の客人が現れた。エドの父君だ。父君は波打ち際までやって来て、ゆっくりと頭を下げた。
「お陰さまで隣国は撤退、明日にでも我々に大変有利な平和協定が結ばれる事になりました」
「お、お父君、顔をお上げください」
「本当に隣国には参っていたのです。それを助けてくださったのは人魚、いや貴方だ。不束者の息子ですが、よろしくお願いいたします」
一瞬の間のあと、俺は頷く。
そののち、エドが全身で喜びを表現した。
「あっ、ありがとう父さん……! 僕の代でアスター王朝は終わっちゃうかもだけど、後継には優秀な人を選ぶから、そうすれば国は続くから……!」
「ああ、それでいい。さぁ、平和協定後に早速、こちらの人魚殿と婚姻の儀を執り行おう」
「そうだね、ほとんど準備は出来てるし!」
着々と進む婚姻話に、俺は首を傾げる。人間の婚姻の儀とやらはよく解らない。人魚の婚姻であれば、単に互いがその意思を確認するだけだ。
「エド、婚姻の儀で、俺はどうすればいいんだ?」
「内緒! 君は身一つで来てくれればいいからね! 準備は全部こっちでするから!」
「何だと!?」
人間界への興味を否定されたようで、俺の気分はあまり良くない。だが、「驚かせたいだけだよ」というエドの笑顔には絆されてしまう。
「じゃ、婚姻の儀は明日の午後! トニーはこのまま屋敷に居てね」
「ちょっと待たんか!」
そこに顔を出したのは、俺の父と母、それにドロイだ。俺はドロイを労い、今後の予算を父に願い出る。父はそれについて頷いてくれた。
「やったなドロイ!」
「殿下ぁぁ~~、ありがとうございますぅぅ~~!」
ドロイは滅茶苦茶に喜んでいる。
しばらく経つと、その横に居た母が俺の傍に泳いできた。
「トニー、幸せにね。でも、今夜は人魚の国へ帰りましょう」
「なぜですか? どうせ明日は婚姻の儀だというのに」
「今夜はナルネルと過ごすといいわ。あの娘、きっと寂しがるから」
俺は瞬時に頷いた。俺だってナルネルと離れるのは寂しい。いつでも里帰りは出来るだろうが、トニアラン=ヴィ=シーキングとして最後の夜は、ぜひナルネルと過ごしたかった。
「……エド、いいか?」
「午後一時くらいに、必ずこの屋敷に戻って来てくれればいいよ!」
エドから眩しい笑顔が返って来る。何でも、俺が居ない方がサプライズしやすいとか何とか。
「じゃあ、会場はここなのか?」
「うん、僕と君の大事な場所だからね」
それには俺も賛成だ。俺はエドに一回だけ抱き締められ、人魚の国へ戻って行った。
人魚の国は、相変わらずの風情だ。
俺が早速ナルネルの屋敷へ行き、彼女にエドの事や婚姻の事を話すと、驚きと共にとても喜んでくれた。だが、ナルネルの瞳からはぽろぽろと美しい涙が止まらない。
「お兄様、私、今まで何も知らなくて」
「いいんだよナルネル。俺が秘密にしていただけなんだ」
その夜、俺とナルネルは数年ぶりに寝床をくっつけた。その後は思い出話をしながら、いつの間にかナルネルだけ眠ってしまった形だが――本当に幸せな一時を過ごしたと言えよう。
俺はナルネルの頬をそっと撫でながら、この機会を作ってくれた母に感謝し、今度はエドの配偶者として遊びに来ようと決める。その時の土産は何がいいか――などと考えていたら、いつの間にか俺も眠っていた。
「殿下、移動の途中でも見えましたよ! すごい兵器ですね!」
「試射は大成功だ。サラよ、すぐお前の国王に伝えて欲しい事があるんだが」
「はい、馬の準備は出来ています!」
「そうか。では、人魚が次の標的を隣国の城にしている、とだけ頼む」
サラが、ばっと部屋を飛び出し文字通り駆けて行く。その足音を聞きながら、エドは不思議そうな表情を浮かべていた。
「ねぇトニー、兵器の飛距離はまだ足りないんじゃなかったっけ? 隣国の城を壊すなんて無理――」
「馬鹿か。ここで脅さなくて、どこで脅すんだ?」
「えっ、じゃあ単なる嘘!?」
「気にしなくていい、そのうち本当になる。ドロイに予算を注ぎ込めばな」
そこに、どぉんという爆発音が響いた。これは間違いなく例の兵器。慌ててエドを乗せ海に出ると、祝賀ムードの港がぼろぼろに破壊されている。
「ドロイめ、誤射したか! まさか人間を殺していないだろうな!?」
「まぁ港湾には退避命令を出してたし、直前に艦が爆発して沈んでるし、誰も寄り付かないよ」
わりとのんびりしたエドの声を聞き、俺は安心と共に笑ってしまう。
幸か不幸か、この一発は隣国に対してかなりのインパクトを与えてくれた。こっそり出港していた敵軍艦が集まり、みんな白旗を掲げ始める。
そこにサラが持って行く、俺からの脅し。
「……これでチェックメイトだ」
俺はそう言い、屋敷に戻った。するとロージオがやって来る。誤射の件を説明していたけれど、『結果良ければ』で許してやった。俺とエドとロージオは、今後の対応の相談を始める。
そこへ、もう一人の客人が現れた。エドの父君だ。父君は波打ち際までやって来て、ゆっくりと頭を下げた。
「お陰さまで隣国は撤退、明日にでも我々に大変有利な平和協定が結ばれる事になりました」
「お、お父君、顔をお上げください」
「本当に隣国には参っていたのです。それを助けてくださったのは人魚、いや貴方だ。不束者の息子ですが、よろしくお願いいたします」
一瞬の間のあと、俺は頷く。
そののち、エドが全身で喜びを表現した。
「あっ、ありがとう父さん……! 僕の代でアスター王朝は終わっちゃうかもだけど、後継には優秀な人を選ぶから、そうすれば国は続くから……!」
「ああ、それでいい。さぁ、平和協定後に早速、こちらの人魚殿と婚姻の儀を執り行おう」
「そうだね、ほとんど準備は出来てるし!」
着々と進む婚姻話に、俺は首を傾げる。人間の婚姻の儀とやらはよく解らない。人魚の婚姻であれば、単に互いがその意思を確認するだけだ。
「エド、婚姻の儀で、俺はどうすればいいんだ?」
「内緒! 君は身一つで来てくれればいいからね! 準備は全部こっちでするから!」
「何だと!?」
人間界への興味を否定されたようで、俺の気分はあまり良くない。だが、「驚かせたいだけだよ」というエドの笑顔には絆されてしまう。
「じゃ、婚姻の儀は明日の午後! トニーはこのまま屋敷に居てね」
「ちょっと待たんか!」
そこに顔を出したのは、俺の父と母、それにドロイだ。俺はドロイを労い、今後の予算を父に願い出る。父はそれについて頷いてくれた。
「やったなドロイ!」
「殿下ぁぁ~~、ありがとうございますぅぅ~~!」
ドロイは滅茶苦茶に喜んでいる。
しばらく経つと、その横に居た母が俺の傍に泳いできた。
「トニー、幸せにね。でも、今夜は人魚の国へ帰りましょう」
「なぜですか? どうせ明日は婚姻の儀だというのに」
「今夜はナルネルと過ごすといいわ。あの娘、きっと寂しがるから」
俺は瞬時に頷いた。俺だってナルネルと離れるのは寂しい。いつでも里帰りは出来るだろうが、トニアラン=ヴィ=シーキングとして最後の夜は、ぜひナルネルと過ごしたかった。
「……エド、いいか?」
「午後一時くらいに、必ずこの屋敷に戻って来てくれればいいよ!」
エドから眩しい笑顔が返って来る。何でも、俺が居ない方がサプライズしやすいとか何とか。
「じゃあ、会場はここなのか?」
「うん、僕と君の大事な場所だからね」
それには俺も賛成だ。俺はエドに一回だけ抱き締められ、人魚の国へ戻って行った。
人魚の国は、相変わらずの風情だ。
俺が早速ナルネルの屋敷へ行き、彼女にエドの事や婚姻の事を話すと、驚きと共にとても喜んでくれた。だが、ナルネルの瞳からはぽろぽろと美しい涙が止まらない。
「お兄様、私、今まで何も知らなくて」
「いいんだよナルネル。俺が秘密にしていただけなんだ」
その夜、俺とナルネルは数年ぶりに寝床をくっつけた。その後は思い出話をしながら、いつの間にかナルネルだけ眠ってしまった形だが――本当に幸せな一時を過ごしたと言えよう。
俺はナルネルの頬をそっと撫でながら、この機会を作ってくれた母に感謝し、今度はエドの配偶者として遊びに来ようと決める。その時の土産は何がいいか――などと考えていたら、いつの間にか俺も眠っていた。
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