BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

文字の大きさ
58 / 151

58

しおりを挟む

『悪い、都合がつかなくてな……』

 シーディスさんに会いに行った翌日、本人から仕事を手伝わせるのを取りやめたいと申し出があった。
 ものすごく気にしているようだったので、問題ないことを告げる。忙しい人であるし、本来なら俺に仕事を教えることに時間を割くなんて難しいだろう。だから本当に気にしていないんだが、当のシーディスさんが気に病んでいる。

こういうときジルベールなら、相手が気にしないようにうまい言葉をかけられるのだろうが俺だとそうもいかない。なんせコミュニケーションスキルがゼロだからな。

 無表情で『大丈夫です。気にしていません』と、言ったところで説得力皆無だろう。ただ悔やんだところで、俺のコミュニケーション能力はあがりもしないし、笑顔も作れない。
 だから頑張って言葉を尽くして、礼儀正しくしてみた。少しでも伝わっていると事を願いながら去っていく背中を見送った。

 
 さてそんなことはあったが、俺のやることに変わりはない。借金返済である。
 といっても、俺にできることは限られている。無表情であるから、人に雇ってもらう接客業は壊滅的に向いていない。他にもいろいろと考えてみたが、何か特技があるわけでもない。

 やはり氷の置物で、何か新しい商品を開発するのが無難だという考えでまとまった。
 決まったからといって、途端にアイディアが降ってくるなら俺はモブキャラからサブキャラぐらいに格上げされているはずだ。

 どうしようかと、頭を捻っていると騎士Bに渡された本が視界に入る。結構高度な、水の術に関することが書かれている本だ。何か参考になる事が、書かれていればいいんだが……
 期待を込めてページをめくっていくと、使えそうなことが書いてあった。

 ―― とりあえず覚えるか

 書いてある通りに、できないとまず話にならない。いきなりアレンジから始めるのは、料理と一緒で危険である。
 はやる気持ちを抑えながら、術を覚えるために本を読み始めた。



 ―― 眠い

 遅くまで本の内容を、頭に叩き込んで覚えた。
 アイディアも浮かんだ。

 今売っているお氷の置物は、当たり前だが形を変えない。猫の置物を買えば、猫のままである。それに変化をつけようとしたんだ。簡潔に言うと氷の置物が、一定時間たつと水に戻りまた別の形を作り凍る。一つの形しか楽しめないものを、何パターンもの形の置物を楽しめるものを作ろうと考えた、


 ―― 上手くいかないな……

 昼休みの時間を使って、なんとか試作品だけでも完成させようとしてるんだが上手くいかない。

 氷った状態から、水に戻す。そこまではいいんだが、また形を形成する段階で上手くいかずに台が水びたしになる。こんなものを、商品として売り出せるわけもない。その状態から、脱却したと思ったら一度目は上手く形をつくれても時間が経過した二回目には上手くいかない。

 ―― これがモブの限界だろうか……

 モブである俺には、難しい術だ。レベル99までいくロイや、ジルベールと違い上がっても50止まりの俺では無理なのかもしれない。

 ―― うらやましい

 うらやましすぎて、目の前にジルベールの幻覚まで現れる。

「レイザード、レイザード」

 ―― うるさい

 幻覚が、話しかけてくる。睡眠不足のせいで、脳みそが誤作動を起こしているのだろうか。

「大丈夫かい? ちゃんと寝てる?」

 幻覚がしゃべった挙句に、頬に触れてきた。
 まてさすがに、可笑しい。手を払うと、確かに当たる感触がある。

「いつからいた」
「かなり前からだけど。集中していたみたいだから、声をかけなかったんだ」

 どうやら幻ではなかったらしい。俺の頭は、まだ大丈夫なようだ。けれど今日は、睡眠時間を確保しようと思う。なんせ実際にいるジルベールを、幻覚を見ていると思ったくらいには疲れていることが分かったからだ。

「何か困っているなら、力になるよ」
「術が上手くいかない」

 いつもなら、必要がないと断るところだ。けど今日は睡眠不足のせいか、問われて素直に答えてしまう。
 行ってしまったものはしょうがない。どうしたいのか説明してから、上手くいかない箇所も話す。

真面目な顔をして、聞いていたジルベールが思案気な顔をする。しばらくすると、術の構築についてアドバイスをしてきた。
 なんで水の適性がないジルベールが、水の術に造詣が深いのだろうか。普通は適性以外の術に関しては、深く学ばないことが多い。勉強しても使えないからだ。
けれどジルベールが、してきたアドバイスはかなり水の術について学んでいないとできないものだ。

 ―― まあいいか

 とりあえず助言通りに、やってみることにした。

「できた……」
「さすがレイザード」

 何度もチャレンジして、できなかったことがジルベールの助言一つで上手くいった。

 ―― さすが?

 一体こいつは何を言っているのか。俺は何度も失敗している。ジルベールの助言が、適切だっただけだ。

 ―― まいったな

 自分の適性の術に関してでさえ、ジルベールに劣っている。それがモブと攻略キャラの差だといわれてしまえばそれまでだ。
 モブと攻略キャラの差異―― わかりきったことだ。けれど地味に落ち込む。
 術に関しては、努力を重ねてきたつもりだ。それでもやはり埋められない差はあるらしい。

「ごめん、余計なことをいったかな」
「いや……お前のおかげで、なんとかなりそうだ。礼を言う」

 いまさらモブと、攻略キャラの差を思い返し落ち込むのは止めた。そんなことをしても意味がない。それより今は術が、上手くいったことを喜ぶことにしよう。

「何か礼をする。何がいい」
「じゃあお茶に、行かないか?」

 これで商品化の目途がつきそうだ。感謝の意を込めて、礼をするというと茶に誘われる。本当にお茶をするのが好きな奴だ。
 だが無理だ。礼なのだから、頷けばいいのはわかっている。だがあいにくと、今は金を消費したくない。

「余裕がない」
「えっ?」

 最優先事項が、借金を一刻も早く完済することである。それを果たさないと、萌えを堪能する余裕がない。茶を飲むというわずかな出費だろうと、節約しないといけないのである。

「誘ったのは俺なんだから、支払いはするよ。……そのレイザード、お金に困っているのかい?」
「……」

 困ってるレベルじゃない。いつ完済できるか、目途すら立っていない状況である。
 だがこればかりは、正直に話すわけにもいかない。金額がとんでもないから、話したらなんでそんなことになったのか聞かれるだろう。上手くごまかせる自信がない。

 別にドラゴンのブレスを、浴びたことはいい。ただその過程で、先生のことを話さないと高額な治療費の説明がつかない。幾ら重傷だと言っても、そこまでの額にならないからな。いくらなんでもシーディスさんに、生活全般の世話になったからといってあそこまでの額にはならない。

 先生が光の術師であることは、口外しないと約束してる。もし万が一、ぼろっと漏らしてしまったら大問題である。恩を仇で返す様なものだし、その時の先生の様子を想像すると物凄く恐ろしい。

「術に関する本を、大量に買ったから一時的に余裕がないだけだ」
「そっか、ならいいんだけど。困ってたら力になるから、いつでも言って」

 適当な理由を作って話すと、納得してくれたようだ。普段から本を買い込むことが多いし、図書館で本を借りることもあるから無難な言い訳で信憑性はあったらしい。

「ちょっと、まっていろ」

 礼をすると言っておいて、茶をおごってもらうのは礼になっていない。かといって今は、金のかかる礼はできない。
 そんなわけで礼になるかは、わからないが氷の置物を渡すことにした。
 形を変える新バージョンである。さっきうまくいったから、きっとできるだろう。
 
「やる」
「俺に?」
 なんとかうまくできたものを、ジルベールに差し出す。まだ改良の余地があるから、あまりいい出来ではない。上手く作れるようになったら、別のものを渡すことにしよう。

「試作品だ。大したものじゃなくて悪いが」
「ありがとう、大切にするよ」

 寝室に飾ると言われて、思わず止めそうになった。金持ちらしいジルベールの、家の中は高そうなものばかりだった。調度品も、同様だ。そこに試作品を置かれたら、悪い意味で目立つ。ただやると言った手前、それをどうするかはジルベールの自由だ。止めろというわけにもいかない。

「納得のいくものが、出来たら渡すから試作品は捨ててくれ」
「ごめん。それは無理かな。いくら君の言うことでも、聞けないよ」

 俺はそんな大げさなことを言っただろうか。試作品は見た目もあれだから、完成品ができたらそれは捨てろといっただけだ。

 そんなに試作品が気に入ったのか。できれば未完成の品は、とっておいてもらいたくない。
 頼むから捨ててくれと念を押そうとして、口に出すのは止めた。やたらと嬉しそうなお顔をして、ジルベールにが氷の置物新バージョンを眺めている。
 物珍しいから、気に入ったのかもしれない。

 ―― まあ、いいか

 贈った相手が、喜んでいるのが一番だ。ここで俺がああだこうだと、言うのはやめておこう。
 それに試作品とはいえ、作ったものを気に入ってもらえるのは嬉しいものだ。

 ―― あれ……

 氷の置物を、笑顔で見ているジルベールと誰かが重なった。
 一瞬のことで、誰であるのかが分からない。ただ嬉しそうに、見ていた気がした。

「どうかしたのかい?」
「いやなんでもない」

 軽く頭を振った俺を、ジルベールが不思議そうに見てくる。
 数秒で消えたから、きっとまたバグだろう。大したことじゃないし気にするのは止めて、視線をジルベールに戻した。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

第2王子は断罪役を放棄します!

木月月
BL
ある日前世の記憶が蘇った主人公。 前世で読んだ、悪役令嬢が主人公の、冤罪断罪からの巻き返し痛快ライフ漫画(アニメ化もされた)。 それの冒頭で主人公の悪役令嬢を断罪する第2王子、それが俺。内容はよくある設定で貴族の子供が通う学園の卒業式後のパーティーにて悪役令嬢を断罪して追放した第2王子と男爵令嬢は身勝手な行いで身分剥奪ののち追放、そのあとは物語に一切現れない、と言うキャラ。 記憶が蘇った今は、物語の主人公の令嬢をはじめ、自分の臣下や婚約者を選定するためのお茶会が始まる前日!5歳児万歳!まだ何も起こらない!フラグはバキバキに折りまくって折りまくって!なんなら5つ上の兄王子の臣下とかも!面倒いから!王弟として大公になるのはいい!だがしかし自由になる! ここは剣と魔法となんならダンジョンもあって冒険者にもなれる! スローライフもいい!なんでも選べる!だから俺は!物語の第2王子の役割を放棄します! この話は小説家になろうにも投稿しています。

美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!

元森
BL
 「嘘…俺、平凡受け…?!」 ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?! 隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??

雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。 いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!? 可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?

処理中です...