126 / 151
<ジルベール>シリアス ルート
2
しおりを挟む
「いらっしゃい」
「邪魔をする」
いきなり約束もなく訪ねたというのに、ジルベールは笑顔を浮かべて迎え入れてくれた。なんて良い奴だろうか。なんでこんなに懐が深いのに、俺と同じボッチなのか。
―― 同じではないか
ジルベールはモテすぎることによる同性ボッチで、俺は真性ボッチだ。ジャンルが違う。
「ごめんね。茶菓子が切れていて、お茶しかだせなくて」
「いや、良い。お前と茶が飲みたくてきたから」
白を基調としたどうみても高そうなティーカップを、置きながらなぜかジルベールは謝ってくる。なぜ約束もなく家に来られた方が、謝っているのか。まったくもって訳が分からないけれど、気をつかったりしないように本当のことを伝える。
「えっ……」
「いきなり来て悪かった、すぐ帰る」
目を見開いたジルベールに、すぐ居なくなるから心配するなと返す。いくら非常識なことをしているからって、ずっと居座ろうなんて考えていない。
「そんなことないよ! あっえっと、その好きなだけ居てくれていいから」
「そうか」
自分で口にしておいて、もっと礼らしいこと言えないのかとも思う。けど上手く言葉が出てこないから、諦めた。後日、詫びになにか、することにしよう。
「やる」
礼をと考えてそういえば、持ってきたのだと思い出す。
氷で作った蝶
来る途中で水に戻そうと思ったけれど、無くなってしまうのが何故か嫌でそのまま持ってきてしまった。失敗作だから手土産と伝えるのも気が引けて、そのままテーブルの上に置いた。
「俺に? レイザードが作ったものだよね。ありがとう。嬉しいよ」
「渡しておいてなんだが、失敗作だ。すぐに、動かなくなった」
気が引けるほどの笑顔を、返されて思わず本当のことを口にしていた。最初は飛べていたけれど、直ぐに落ちたことも伝える。良い出来だろうと言えるほど、俺は図太くはない。
「レイザード……あの」
「なんだ」
とてつもなく言い辛そうに口を開くのが見えた。なんだろうか。やっぱり邪魔だから、帰ってほしいと言いたいのだろうか。
「失敗って、決めつけなくていいんじゃないかな。今回は上手くいなかっただけだよ。続けてれば、絶体に上手くいく。君なら」
「……」
卑屈さが、顔に出ていたのだろうか。表情差分が、少ないのに何故そんな表情はあるのか。押しかけた上に、気まで使わせてしまった。
「えっと、良ければ俺も協力するから」
「そうか。頼む」
さらに気を遣われた。けど今度は、素直に返せる。
前は、いやだと思った。俺が努力してできないことを、ジルベールが力を貸せばなんなく出来る。それがモブと攻略キャラとの差だと言われてしまえば、それまでだけれど。けど悔しいとか嫌だとか、そんな悪感情が浮かんだ。あげくに自分は弱いのだと、マイナス思考に陥った。
けど今は、なぜか素直に受け入れられた。ジルベールの力を借りた結果だとしても、一歩進んでいることに変わりはない。ならそれでいいのだと、そう思える。
「動きが、ぎこちないかな」
「そうだな……もっと本物のように、羽を動かせるはずなんだが……」
ジルベールの力を借りて、蝶を飛ばす。飛行時間は延びたが、動きが本物とかなり異なっている。
規則的に羽を動かす蝶の動きは、とてつもなく機械的に見えた。自然な感じと、ほど遠い。それでも俺一人で、やった時よりはだいぶましだ。
―― もっと綺麗だった
光を受けてキラキラ輝いて。捕まえようと思っても手のひらからすり抜けて本当に生きているように見えた。
―― うん?
脳裏に浮かんだ映像に、疑問を覚える。そんなものを、俺はどこで見たんだ。
考えたが、思い出せない。水の適性を持つ人は多いから、きっとどこかで見て思い出せないだけだろう。覚えてないのはしょうがない。考えるのを止めて、上手く飛ばすことに意識を向ける。
―― 作りすぎたな……
試行錯誤してやり直しているうちに、数が増えてしまった。
なんとか動きを自然なものにしようとしているジルベールの周りに、十数匹の蝶が舞っている。
―― イケメンめ
動き不自然だというのに、周りに蝶が舞っている姿が絵になる。モブの俺ではこうは、ならない。
モブの立ち位置は最高だし目立たない顔面の作りはモブ故で、イケメンになりたいわけでもないけれどなんとなく腹が立つ。
「すごい、綺麗だ」
だいぶ時間が、経過していたらしい。窓から夕日が、差し込んでくる。夕日を浴びて透明な蝶に、色の飾りがついた。
―― そうだな
動きは悪いし本物の蝶には、見えない。けどジルベールの言うように、綺麗だと素直に思えた。
『どうだ? 夕日との合作だぞ』
氷の蝶が舞う中で、笑んだジルベールと誰かが重なる。背が高いのは分かるけれど顔は、ぼやけて見えない。なのに優しい笑顔で、笑っている気がした。
『うん、すごい綺麗!』
弾んだ子供の声がする。続けて聞えてきた会話で蝶がたくさん舞ってるのは、子供が望んだからだと分かった。きっとさっきの優しい声の人が、氷の蝶を作ったのだろう。
「レイザード、どうかした……」
「なんでもない」
またバグだ。ただのバグ、今回は物騒なモノじゃない。だから問題ない。優しそうな人が笑顔でいて、子供が喜んでる。穏やかなバグだ。
穏やかで温かい時間、なのになんで、こんなに心臓の音がうるさいんだ。
「喉が渇いた……」
「そうだね、だいぶ集中していたから、もうこんな時間だ。少し待ってて、入れてくるから」
誤魔化すように言葉を紡げば、ジルベールは深く追求することなく頷き返してくれる。礼を言って、椅子に座って息を吐く
。
『お茶に、しましょう』
『わあ、良い匂い。今日のお菓子は、なに?』
優しい声と、弾む子供の声――聞えてきたバグを、追い出すように耳を塞いだ。
「邪魔をする」
いきなり約束もなく訪ねたというのに、ジルベールは笑顔を浮かべて迎え入れてくれた。なんて良い奴だろうか。なんでこんなに懐が深いのに、俺と同じボッチなのか。
―― 同じではないか
ジルベールはモテすぎることによる同性ボッチで、俺は真性ボッチだ。ジャンルが違う。
「ごめんね。茶菓子が切れていて、お茶しかだせなくて」
「いや、良い。お前と茶が飲みたくてきたから」
白を基調としたどうみても高そうなティーカップを、置きながらなぜかジルベールは謝ってくる。なぜ約束もなく家に来られた方が、謝っているのか。まったくもって訳が分からないけれど、気をつかったりしないように本当のことを伝える。
「えっ……」
「いきなり来て悪かった、すぐ帰る」
目を見開いたジルベールに、すぐ居なくなるから心配するなと返す。いくら非常識なことをしているからって、ずっと居座ろうなんて考えていない。
「そんなことないよ! あっえっと、その好きなだけ居てくれていいから」
「そうか」
自分で口にしておいて、もっと礼らしいこと言えないのかとも思う。けど上手く言葉が出てこないから、諦めた。後日、詫びになにか、することにしよう。
「やる」
礼をと考えてそういえば、持ってきたのだと思い出す。
氷で作った蝶
来る途中で水に戻そうと思ったけれど、無くなってしまうのが何故か嫌でそのまま持ってきてしまった。失敗作だから手土産と伝えるのも気が引けて、そのままテーブルの上に置いた。
「俺に? レイザードが作ったものだよね。ありがとう。嬉しいよ」
「渡しておいてなんだが、失敗作だ。すぐに、動かなくなった」
気が引けるほどの笑顔を、返されて思わず本当のことを口にしていた。最初は飛べていたけれど、直ぐに落ちたことも伝える。良い出来だろうと言えるほど、俺は図太くはない。
「レイザード……あの」
「なんだ」
とてつもなく言い辛そうに口を開くのが見えた。なんだろうか。やっぱり邪魔だから、帰ってほしいと言いたいのだろうか。
「失敗って、決めつけなくていいんじゃないかな。今回は上手くいなかっただけだよ。続けてれば、絶体に上手くいく。君なら」
「……」
卑屈さが、顔に出ていたのだろうか。表情差分が、少ないのに何故そんな表情はあるのか。押しかけた上に、気まで使わせてしまった。
「えっと、良ければ俺も協力するから」
「そうか。頼む」
さらに気を遣われた。けど今度は、素直に返せる。
前は、いやだと思った。俺が努力してできないことを、ジルベールが力を貸せばなんなく出来る。それがモブと攻略キャラとの差だと言われてしまえば、それまでだけれど。けど悔しいとか嫌だとか、そんな悪感情が浮かんだ。あげくに自分は弱いのだと、マイナス思考に陥った。
けど今は、なぜか素直に受け入れられた。ジルベールの力を借りた結果だとしても、一歩進んでいることに変わりはない。ならそれでいいのだと、そう思える。
「動きが、ぎこちないかな」
「そうだな……もっと本物のように、羽を動かせるはずなんだが……」
ジルベールの力を借りて、蝶を飛ばす。飛行時間は延びたが、動きが本物とかなり異なっている。
規則的に羽を動かす蝶の動きは、とてつもなく機械的に見えた。自然な感じと、ほど遠い。それでも俺一人で、やった時よりはだいぶましだ。
―― もっと綺麗だった
光を受けてキラキラ輝いて。捕まえようと思っても手のひらからすり抜けて本当に生きているように見えた。
―― うん?
脳裏に浮かんだ映像に、疑問を覚える。そんなものを、俺はどこで見たんだ。
考えたが、思い出せない。水の適性を持つ人は多いから、きっとどこかで見て思い出せないだけだろう。覚えてないのはしょうがない。考えるのを止めて、上手く飛ばすことに意識を向ける。
―― 作りすぎたな……
試行錯誤してやり直しているうちに、数が増えてしまった。
なんとか動きを自然なものにしようとしているジルベールの周りに、十数匹の蝶が舞っている。
―― イケメンめ
動き不自然だというのに、周りに蝶が舞っている姿が絵になる。モブの俺ではこうは、ならない。
モブの立ち位置は最高だし目立たない顔面の作りはモブ故で、イケメンになりたいわけでもないけれどなんとなく腹が立つ。
「すごい、綺麗だ」
だいぶ時間が、経過していたらしい。窓から夕日が、差し込んでくる。夕日を浴びて透明な蝶に、色の飾りがついた。
―― そうだな
動きは悪いし本物の蝶には、見えない。けどジルベールの言うように、綺麗だと素直に思えた。
『どうだ? 夕日との合作だぞ』
氷の蝶が舞う中で、笑んだジルベールと誰かが重なる。背が高いのは分かるけれど顔は、ぼやけて見えない。なのに優しい笑顔で、笑っている気がした。
『うん、すごい綺麗!』
弾んだ子供の声がする。続けて聞えてきた会話で蝶がたくさん舞ってるのは、子供が望んだからだと分かった。きっとさっきの優しい声の人が、氷の蝶を作ったのだろう。
「レイザード、どうかした……」
「なんでもない」
またバグだ。ただのバグ、今回は物騒なモノじゃない。だから問題ない。優しそうな人が笑顔でいて、子供が喜んでる。穏やかなバグだ。
穏やかで温かい時間、なのになんで、こんなに心臓の音がうるさいんだ。
「喉が渇いた……」
「そうだね、だいぶ集中していたから、もうこんな時間だ。少し待ってて、入れてくるから」
誤魔化すように言葉を紡げば、ジルベールは深く追求することなく頷き返してくれる。礼を言って、椅子に座って息を吐く
。
『お茶に、しましょう』
『わあ、良い匂い。今日のお菓子は、なに?』
優しい声と、弾む子供の声――聞えてきたバグを、追い出すように耳を塞いだ。
116
あなたにおすすめの小説
流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
転生したが壁になりたい。
むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。
ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。
しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。
今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった!
目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!?
俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!?
「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼2025年9月17日(水)より投稿再開
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる