BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月

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<ジルベール>シリアス ルート

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「いらっしゃい」
「邪魔をする」
 いきなり約束もなく訪ねたというのに、ジルベールは笑顔を浮かべて迎え入れてくれた。なんて良い奴だろうか。なんでこんなに懐が深いのに、俺と同じボッチなのか。

 ―― 同じではないか
 ジルベールはモテすぎることによる同性ボッチで、俺は真性ボッチだ。ジャンルが違う。

「ごめんね。茶菓子が切れていて、お茶しかだせなくて」
「いや、良い。お前と茶が飲みたくてきたから」
 白を基調としたどうみても高そうなティーカップを、置きながらなぜかジルベールは謝ってくる。なぜ約束もなく家に来られた方が、謝っているのか。まったくもって訳が分からないけれど、気をつかったりしないように本当のことを伝える。

「えっ……」
「いきなり来て悪かった、すぐ帰る」
 目を見開いたジルベールに、すぐ居なくなるから心配するなと返す。いくら非常識なことをしているからって、ずっと居座ろうなんて考えていない。

「そんなことないよ! あっえっと、その好きなだけ居てくれていいから」
「そうか」
 自分で口にしておいて、もっと礼らしいこと言えないのかとも思う。けど上手く言葉が出てこないから、諦めた。後日、詫びになにか、することにしよう。

「やる」
 礼をと考えてそういえば、持ってきたのだと思い出す。
 氷で作った蝶
 来る途中で水に戻そうと思ったけれど、無くなってしまうのが何故か嫌でそのまま持ってきてしまった。失敗作だから手土産と伝えるのも気が引けて、そのままテーブルの上に置いた。

「俺に? レイザードが作ったものだよね。ありがとう。嬉しいよ」
「渡しておいてなんだが、失敗作だ。すぐに、動かなくなった」
 気が引けるほどの笑顔を、返されて思わず本当のことを口にしていた。最初は飛べていたけれど、直ぐに落ちたことも伝える。良い出来だろうと言えるほど、俺は図太くはない。

「レイザード……あの」
「なんだ」
 とてつもなく言い辛そうに口を開くのが見えた。なんだろうか。やっぱり邪魔だから、帰ってほしいと言いたいのだろうか。

「失敗って、決めつけなくていいんじゃないかな。今回は上手くいなかっただけだよ。続けてれば、絶体に上手くいく。君なら」
「……」
 卑屈さが、顔に出ていたのだろうか。表情差分が、少ないのに何故そんな表情はあるのか。押しかけた上に、気まで使わせてしまった。

「えっと、良ければ俺も協力するから」
「そうか。頼む」
 さらに気を遣われた。けど今度は、素直に返せる。
 前は、いやだと思った。俺が努力してできないことを、ジルベールが力を貸せばなんなく出来る。それがモブと攻略キャラとの差だと言われてしまえば、それまでだけれど。けど悔しいとか嫌だとか、そんな悪感情が浮かんだ。あげくに自分は弱いのだと、マイナス思考に陥った。
 けど今は、なぜか素直に受け入れられた。ジルベールの力を借りた結果だとしても、一歩進んでいることに変わりはない。ならそれでいいのだと、そう思える。



「動きが、ぎこちないかな」
「そうだな……もっと本物のように、羽を動かせるはずなんだが……」
 ジルベールの力を借りて、蝶を飛ばす。飛行時間は延びたが、動きが本物とかなり異なっている。
 規則的に羽を動かす蝶の動きは、とてつもなく機械的に見えた。自然な感じと、ほど遠い。それでも俺一人で、やった時よりはだいぶましだ。

 ―― もっと綺麗だった
 光を受けてキラキラ輝いて。捕まえようと思っても手のひらからすり抜けて本当に生きているように見えた。

 ―― うん?
 脳裏に浮かんだ映像に、疑問を覚える。そんなものを、俺はどこで見たんだ。
 考えたが、思い出せない。水の適性を持つ人は多いから、きっとどこかで見て思い出せないだけだろう。覚えてないのはしょうがない。考えるのを止めて、上手く飛ばすことに意識を向ける。
 


 ―― 作りすぎたな……
 試行錯誤してやり直しているうちに、数が増えてしまった。
 なんとか動きを自然なものにしようとしているジルベールの周りに、十数匹の蝶が舞っている。
 ―― イケメンめ
 動き不自然だというのに、周りに蝶が舞っている姿が絵になる。モブの俺ではこうは、ならない。
 モブの立ち位置は最高だし目立たない顔面の作りはモブ故で、イケメンになりたいわけでもないけれどなんとなく腹が立つ。

「すごい、綺麗だ」
 だいぶ時間が、経過していたらしい。窓から夕日が、差し込んでくる。夕日を浴びて透明な蝶に、色の飾りがついた。
 ―― そうだな
 動きは悪いし本物の蝶には、見えない。けどジルベールの言うように、綺麗だと素直に思えた。

『どうだ? 夕日との合作だぞ』 
 氷の蝶が舞う中で、笑んだジルベールと誰かが重なる。背が高いのは分かるけれど顔は、ぼやけて見えない。なのに優しい笑顔で、笑っている気がした。

『うん、すごい綺麗!』
 弾んだ子供の声がする。続けて聞えてきた会話で蝶がたくさん舞ってるのは、子供が望んだからだと分かった。きっとさっきの優しい声の人が、氷の蝶を作ったのだろう。

「レイザード、どうかした……」
「なんでもない」
 またバグだ。ただのバグ、今回は物騒なモノじゃない。だから問題ない。優しそうな人が笑顔でいて、子供が喜んでる。穏やかなバグだ。
 穏やかで温かい時間、なのになんで、こんなに心臓の音がうるさいんだ。 

「喉が渇いた……」
「そうだね、だいぶ集中していたから、もうこんな時間だ。少し待ってて、入れてくるから」
 誤魔化すように言葉を紡げば、ジルベールは深く追求することなく頷き返してくれる。礼を言って、椅子に座って息を吐く

『お茶に、しましょう』
『わあ、良い匂い。今日のお菓子は、なに?』
 優しい声と、弾む子供の声――聞えてきたバグを、追い出すように耳を塞いだ。
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