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ポーちゃんママと天狗
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「ワオーン!」
犬も鳴きだす江戸の夜道。
「ヒク! 酔っぱらっちゃった! アハハ!」
酔っ払いの男、酒飲みの佐助が道を歩いていた。
「お兄さん。ちょっと遊んでいきませんか?」
そこに若い女が甘い声で後ろから声をかけてくる。
「え、遊んでくれるの? すまんな。アハハ!」
酔っ払いの男はラッキーと思い声の方へ振り返る。
「鼻が長い!? ギャアアアアアアー!? お化け!?」
佐助は慌てて逃げ出した。
「ケッケッケ。私の名前は天狗。鼻が長いのだ! いっぱい人間を驚かすのだ! ケッケッケー!」
天狗が現れた。
「見たんだ!? 俺は見てはならない者を見てしまったのだ!?」
翌朝、番屋に佐助が駆け込んでいた。
「いったい何を見たんだい?」
「鼻の長い女が現れたんだ!?」
「嘘つき。」
番所の岡っ引きの銭形と中村は誰も信じない。
「本当だ!? おらあー! 見たんだ! 鼻の長い女を!」
酔っ払いの男は錯乱しているように見えた。
「ダメだ。こいつは。俺たちの管轄外だ。」
「そうですね。雑務は西町奉行所に送っておきますか。」
「そうだな。あそこは何でも屋だからな。」
こうして事件は西町奉行所に送られた。
「なんで俺たちが江戸城の石垣の掃除をやらねばならん!」
西町奉行所の与力たちは江戸城の石垣の掃除をやっていた。
「ニャア。」
子猫のミーちゃんは日陰で健やかに寝ている。
「消防訓練みたいなものだ。諦めろ。」
「これも江戸の人々の平和のためだよ。」
卯月と睦月は何でもやらされることに諦め慣れた。
「どこが! こんなもの場内の兵士にやらせろよな!」
「どこも財政ひっ迫で外注ができないから、面倒臭い仕事は私たちの所にくるのよ。」
弥生もロープに吊るされながら石垣の草をむしっている。
「わ~い! 楽しいな! キャッハッハー!」
水無はきれいに掃除したお堀で泳いで遊んでいる。
「あいつ、お堀の水を全部抜いて、きれいな水をはりやがったんだぜ。」
「水無は水に関しては私たちで一番得意だからね。」
食べるの大好き、遊ぶの大好き、寝るのも大好きな水無。
「こら! 文月! おまえも掃除を手伝えよ!」
文月は本を読んでいて何も掃除をしていなかった。
「やってるわよ。ほれ。」
「え?」
文月は読んでいる本を見せる。
「石垣に油を塗ると滑りやすいのでより良い防御になりますよ!?」
というタイトルの本を読んでいる。
「最後に油を石垣に塗ってね。」
「自分でやれー!」
「それは無理。断るわ。だって私は本を読むのに忙しいから。」
他力本願な文月。
「葉っぱ! 葉っぱ! 葉っぱ!」
いつも葉月は踊っているだけである。
「長月、てめえも掃除しろ!」
「お休み・・・・・・zzz。」
長月は夜行性であり、太陽の光に弱かった。
「そうだ! 思い出した!」
その時、卯月が何かを思い出した。
「事件だ! 事件だ! 事件だ!」
卯月が大声で叫び始める。
「どうしたの?」
声をかけるのが弥生。
「事件だ! 鼻の長い女が出たんだってよ!」
「鼻の長い女?」
事件に食いつく睦月。
「そうだよ! 絶対に妖怪だよね!」
卯月は大いに喜ぶ。
「帰って奉行に報告しよう。」
卯月たちは石垣の掃除を切り上げて帰ろうとする。
「ええー!? 私、もう少しバカンスしていく。」
「好きにしろ!」
水無は置いていかれた。
「安心しろ。私も本を読むから残ってやろう。」
「ありがとう。文月。」
「葉っぱ! 葉っぱ! 葉っぱ!」
守り神の踊る葉月も踊り続ける。
「ゴンゴン。」
「おまえ吸血鬼かよ!?」
棺桶の中から長月も「ここにいる」と言っている。
「ということです。」
奉行の旧暦零助に鼻の長い女のことを報告する睦月。
「どういうことだ?」
たまに奉行も言ってみたくなる西町奉行所の与力の情けなさ。
「大丈夫ですよ。奉行。俺がいれば。」
皐月は一人でも突き進む。
「俺たちの間違いだろうが!」
そこを卯月がチームワークのために窘める。
「まあまあ。二人とも。弥生もなんとか言ってよ。」
睦月が協調性のために落ち着かせる。
「別に。私は気にしない。」
弥生はさぼって家に帰ってゆっくり休むつもりだった。
「天狗の仕業だな。」
「天狗?」
「鼻が長くて人間を脅かす妖怪だ。」
奉行の旧暦は物知りであった。
「面白い。町に住む妖怪ばかりで物足りなかったんだ。やっと妖怪らしい妖怪が出てきたな。」
皐月は実力が試せるので嬉しそうであった。
「俺が天狗を倒して、皐月の鼻を明かしてやる!」
復讐に燃える卯月。
「まあまあ。二人とも。」
「睦月。皐月と卯月は相性が悪いから気にするだけ無駄よ。諦めなさい。」
興味のないことにはさっぱりしている弥生。
「みんな、江戸の人々の生活を守る為に頼んだぞ。」
「はい。お奉行。」
こうして西町奉行所の与力たちは夜勤に勤しむことになる。
「できました! 江戸城の石垣で西洋のピザを焼いてみました!」
水無は料理が得意だった。
「ピザではない。ピッツアと西洋では言うらしいぞ。」
文月は「ピザの正しい発音」という本を読んでいる。
「美味しそう!」
やっと葉っぱの呪いから解き放たれて踊るのをやめた葉月。食欲の方が強かったみたいだ。
「くれ! 私にも! ピザをくれ!」
棺桶から手を伸ばして叫ぶ長月。
「美味しい!」
「お茶と団子もありますよ!」
「合うな! ピザと団子!」
みんなで仲良く食事会を楽しんだ。
「お堀の水も綺麗になったから江戸の人々に水浴びをしてもらったらいいんじゃない?」
「それもいいかも。アハッ!」
これが町民プールの始まりかも知れない。
「相変わらず弥生はサボりか。」
皐月と卯月、睦月が夜間巡回に出る。
「弥生がいないのは今に始まったことではない。」
卯月も弥生はいないものと考えている。
「まあまあ。いない人の悪口は言うもんじゃないよ。」
みんなが仲良くなればと思い仲裁する睦月。
「睦月、おまえがいない時に弥生が「睦月って優柔不断で使えない」って言っていたぞ。」
弥生のいない所で弥生の言ったことをチクる皐月。
「ガーン。」
心臓を一突きされる睦月は膝から崩れる。
「これで俺とおまえの一騎打ちだな。」
「先に見つけた者の勝ちだな。」
「いつも卵ばかり温めているおまえに妖怪を倒す術があればだがな。この人間ガチャガチャ野郎。」
卯月は卵を温めるのが趣味です。
「何を!? 刀を振り回すしか能のない変態に言われたくないわ!」
「なんだと! てめえ! ぶった切るぞ!」
「やれるもんならやってみろ!」
皐月と卯月のケンカはお馴染みであった。
「はい。先に行きます。」
睦月は巡回に先に行く。
「あ!? 抜け駆けすんな!」
「待て! 逃げるな! 俺の話を聞け!」
こうして無事に巡回に出かける3人であった。
「ああ~楽しかった。」
江戸城の石垣掃除のついでにお堀パーティーをして楽しんだ水無たちが帰っていく。
「料理もおいしいし、読書も進んだよ。ありがとう。」
満足そうな文月は課外授業でも読書を忘れることはない。
「あれ? パーティーで出たごみはどうしたんだっけ?」
葉月はゴミ無しの手ぶらで帰っていることに気づいた。
「知らない。」
「まあ、いいや。」
掃除に来た職員が自分たちのごみを持って帰らずに、新しいゴミ1号になる、あるあるである。
「もう、仕方がないな。私がやらねば。」
それを夜行性の文月が棺桶から出て一人で後片付けをする。バランスの取れた西町奉行所の与力たちであった。
「絶対に皐月よりも早く鼻の長い女を見つけてやる!」
卯月は皐月に対抗心を燃やしていた。
「クソッ!? いったいどこにいるんだ!?」
なかなか妖怪は見つからなかった。
「あの人に聞いてみよう。」
夜に出歩いている女性を見つけたので卯月は声をかけてみる。
「あの、鼻の長い女を知りませんか?」
「それって、私のことですか?」
女の正体は天狗が現れた。
「ギャアアアアアアー! 出たー! 妖怪だー!」
恐ろしくて卯月はニワトリの様に騒ぎまわる。
「あの・・・・・・大丈夫ですか?」
逆に心配になり天狗の方が卯月に声をかけてくれる。
「大丈夫です。こういう損なキャラクターなので。」
とりあえず驚いてみた卯月。
「私は妖怪、天狗だ! 自慢の羽団扇をくらえ! 妖術! かまいたち! ケッケッケ!」
天狗は団扇で鋭い切れ味の風を起こして攻撃してくる。
「ギャアアアアアアー!」
卯月は悲鳴をあげる。
「何か防ぐ術はないのか!? そうだ! 卵だ!」
卯月は懐から卵を取り出した。
「忍法! 卵の殻!」
卵は忍法で盾のように大きくなり天狗の妖術を防ぐ。
「バカな!? 私のかまいたちが防がれただと!?」
天狗は自分優位に鼻持ちならない考え方をしていたので。自分の妖術が防がれて驚く。
「防いだだけじゃないぞ。おまえは卵を割ってしまったのだからな。」
「なに!?」
ピキ、ピキっと卵の殻が割れていく。
「いでよ! 獣! 忍法! 召喚の術!」
卵の中から新しい命が生まれる。
「ガオー!」
中から火の鳥が現れる。
「見たか! 火の鳥だぞ!」
「え? 小さいんですけど。」
「え? ええー!?」
現れたのは火の鳥ではなく火の小鳥であった。
「ギャオ!」
まぎれもなく火の小鳥であった。
「構うもんか! いけ! 火の小鳥! 秘剣! 火鳥斬!」
親の卯月の斬撃に火の小鳥が共に飛んでいく。
「ギャアアアアアアー!」
天狗に命中した。
「やったー! 俺でも勝てた!」
戦っては見たものの自分の強さに半信半疑だった卯月は大いに喜んだ。
「覚えてろよ!」
真っ黒焦げになった天狗が去っていく。
「何はともあれ勝てばいいのだ。勝てば官軍負ければ賊軍ってね。」
卯月は勝利に安堵した。
「ギャオ。」
火の小鳥が卯月の元に戻って来る。
「おまえもありがとうな。」
「ギャオ。」
火の小鳥が卯月に触れた瞬間だった。
「ギャアアアアアアー!」
炎が燃え盛り卯月を燃やす。
「プハー。」
真っ黒こげになった卯月は口から煙を吐き出す。
「ギャオ。」
その様子を楽しそうに見ている火の小鳥であった。
「よくやった。ご苦労だったな。」
翌朝、天狗事件の解決を旧暦奉行に報告した睦月たち。
「で、天狗は?」
「逃げられました。捕まえようとした卯月も大火傷を負って病院で入院しています。」
「そうか。激しい戦いだったのだな。」
卯月も立派な西町奉行所の与力であった。
「俺が見つけていれば火傷なんかしなかったぜ。火もぶった切ってやる。」
皐月は何でもぶった切るつもりでいる。
「まあまあ。みんな仲良くしようよ。」
優しい睦月。
「怖い。私なんかか弱いから燃やされちゃう。アハッ!」
可愛い子ぶる弥生。
「お堀泳ぎ場を開業すればかなり儲かるな。」
現代でいう所のプールである。
「長屋は火事が起こりやすいからダメですな。」
文月は「なぜ家事は起こるのか? 前編」という本を読んでいる。
「葉っぱ! 葉っぱ! 葉っぱ!」
葉っぱ踊りをするしかない葉月。
「zzz。」
朝の朝礼は寝て過ごす長月。
「まあ、いい。これにて一件落着。」
奉行が事件を締めくくる。
「火の小鳥をペットで買う時は防火対策を徹底しよう!」
「ギャオ。」
「名前を付けなくっちゃ。皐月の子猫がミーちゃんだから、おまえの名前はヒーちゃんだ。」
なんでも他人が気になる卯月であった。
「ギャオ。」
「おお! ヒーちゃんが喜んでる。気に入ったんだな。」
「ギャオ!」
こうして平和な江戸の町は火の粉に包まれるのであった。
つづく。
犬も鳴きだす江戸の夜道。
「ヒク! 酔っぱらっちゃった! アハハ!」
酔っ払いの男、酒飲みの佐助が道を歩いていた。
「お兄さん。ちょっと遊んでいきませんか?」
そこに若い女が甘い声で後ろから声をかけてくる。
「え、遊んでくれるの? すまんな。アハハ!」
酔っ払いの男はラッキーと思い声の方へ振り返る。
「鼻が長い!? ギャアアアアアアー!? お化け!?」
佐助は慌てて逃げ出した。
「ケッケッケ。私の名前は天狗。鼻が長いのだ! いっぱい人間を驚かすのだ! ケッケッケー!」
天狗が現れた。
「見たんだ!? 俺は見てはならない者を見てしまったのだ!?」
翌朝、番屋に佐助が駆け込んでいた。
「いったい何を見たんだい?」
「鼻の長い女が現れたんだ!?」
「嘘つき。」
番所の岡っ引きの銭形と中村は誰も信じない。
「本当だ!? おらあー! 見たんだ! 鼻の長い女を!」
酔っ払いの男は錯乱しているように見えた。
「ダメだ。こいつは。俺たちの管轄外だ。」
「そうですね。雑務は西町奉行所に送っておきますか。」
「そうだな。あそこは何でも屋だからな。」
こうして事件は西町奉行所に送られた。
「なんで俺たちが江戸城の石垣の掃除をやらねばならん!」
西町奉行所の与力たちは江戸城の石垣の掃除をやっていた。
「ニャア。」
子猫のミーちゃんは日陰で健やかに寝ている。
「消防訓練みたいなものだ。諦めろ。」
「これも江戸の人々の平和のためだよ。」
卯月と睦月は何でもやらされることに諦め慣れた。
「どこが! こんなもの場内の兵士にやらせろよな!」
「どこも財政ひっ迫で外注ができないから、面倒臭い仕事は私たちの所にくるのよ。」
弥生もロープに吊るされながら石垣の草をむしっている。
「わ~い! 楽しいな! キャッハッハー!」
水無はきれいに掃除したお堀で泳いで遊んでいる。
「あいつ、お堀の水を全部抜いて、きれいな水をはりやがったんだぜ。」
「水無は水に関しては私たちで一番得意だからね。」
食べるの大好き、遊ぶの大好き、寝るのも大好きな水無。
「こら! 文月! おまえも掃除を手伝えよ!」
文月は本を読んでいて何も掃除をしていなかった。
「やってるわよ。ほれ。」
「え?」
文月は読んでいる本を見せる。
「石垣に油を塗ると滑りやすいのでより良い防御になりますよ!?」
というタイトルの本を読んでいる。
「最後に油を石垣に塗ってね。」
「自分でやれー!」
「それは無理。断るわ。だって私は本を読むのに忙しいから。」
他力本願な文月。
「葉っぱ! 葉っぱ! 葉っぱ!」
いつも葉月は踊っているだけである。
「長月、てめえも掃除しろ!」
「お休み・・・・・・zzz。」
長月は夜行性であり、太陽の光に弱かった。
「そうだ! 思い出した!」
その時、卯月が何かを思い出した。
「事件だ! 事件だ! 事件だ!」
卯月が大声で叫び始める。
「どうしたの?」
声をかけるのが弥生。
「事件だ! 鼻の長い女が出たんだってよ!」
「鼻の長い女?」
事件に食いつく睦月。
「そうだよ! 絶対に妖怪だよね!」
卯月は大いに喜ぶ。
「帰って奉行に報告しよう。」
卯月たちは石垣の掃除を切り上げて帰ろうとする。
「ええー!? 私、もう少しバカンスしていく。」
「好きにしろ!」
水無は置いていかれた。
「安心しろ。私も本を読むから残ってやろう。」
「ありがとう。文月。」
「葉っぱ! 葉っぱ! 葉っぱ!」
守り神の踊る葉月も踊り続ける。
「ゴンゴン。」
「おまえ吸血鬼かよ!?」
棺桶の中から長月も「ここにいる」と言っている。
「ということです。」
奉行の旧暦零助に鼻の長い女のことを報告する睦月。
「どういうことだ?」
たまに奉行も言ってみたくなる西町奉行所の与力の情けなさ。
「大丈夫ですよ。奉行。俺がいれば。」
皐月は一人でも突き進む。
「俺たちの間違いだろうが!」
そこを卯月がチームワークのために窘める。
「まあまあ。二人とも。弥生もなんとか言ってよ。」
睦月が協調性のために落ち着かせる。
「別に。私は気にしない。」
弥生はさぼって家に帰ってゆっくり休むつもりだった。
「天狗の仕業だな。」
「天狗?」
「鼻が長くて人間を脅かす妖怪だ。」
奉行の旧暦は物知りであった。
「面白い。町に住む妖怪ばかりで物足りなかったんだ。やっと妖怪らしい妖怪が出てきたな。」
皐月は実力が試せるので嬉しそうであった。
「俺が天狗を倒して、皐月の鼻を明かしてやる!」
復讐に燃える卯月。
「まあまあ。二人とも。」
「睦月。皐月と卯月は相性が悪いから気にするだけ無駄よ。諦めなさい。」
興味のないことにはさっぱりしている弥生。
「みんな、江戸の人々の生活を守る為に頼んだぞ。」
「はい。お奉行。」
こうして西町奉行所の与力たちは夜勤に勤しむことになる。
「できました! 江戸城の石垣で西洋のピザを焼いてみました!」
水無は料理が得意だった。
「ピザではない。ピッツアと西洋では言うらしいぞ。」
文月は「ピザの正しい発音」という本を読んでいる。
「美味しそう!」
やっと葉っぱの呪いから解き放たれて踊るのをやめた葉月。食欲の方が強かったみたいだ。
「くれ! 私にも! ピザをくれ!」
棺桶から手を伸ばして叫ぶ長月。
「美味しい!」
「お茶と団子もありますよ!」
「合うな! ピザと団子!」
みんなで仲良く食事会を楽しんだ。
「お堀の水も綺麗になったから江戸の人々に水浴びをしてもらったらいいんじゃない?」
「それもいいかも。アハッ!」
これが町民プールの始まりかも知れない。
「相変わらず弥生はサボりか。」
皐月と卯月、睦月が夜間巡回に出る。
「弥生がいないのは今に始まったことではない。」
卯月も弥生はいないものと考えている。
「まあまあ。いない人の悪口は言うもんじゃないよ。」
みんなが仲良くなればと思い仲裁する睦月。
「睦月、おまえがいない時に弥生が「睦月って優柔不断で使えない」って言っていたぞ。」
弥生のいない所で弥生の言ったことをチクる皐月。
「ガーン。」
心臓を一突きされる睦月は膝から崩れる。
「これで俺とおまえの一騎打ちだな。」
「先に見つけた者の勝ちだな。」
「いつも卵ばかり温めているおまえに妖怪を倒す術があればだがな。この人間ガチャガチャ野郎。」
卯月は卵を温めるのが趣味です。
「何を!? 刀を振り回すしか能のない変態に言われたくないわ!」
「なんだと! てめえ! ぶった切るぞ!」
「やれるもんならやってみろ!」
皐月と卯月のケンカはお馴染みであった。
「はい。先に行きます。」
睦月は巡回に先に行く。
「あ!? 抜け駆けすんな!」
「待て! 逃げるな! 俺の話を聞け!」
こうして無事に巡回に出かける3人であった。
「ああ~楽しかった。」
江戸城の石垣掃除のついでにお堀パーティーをして楽しんだ水無たちが帰っていく。
「料理もおいしいし、読書も進んだよ。ありがとう。」
満足そうな文月は課外授業でも読書を忘れることはない。
「あれ? パーティーで出たごみはどうしたんだっけ?」
葉月はゴミ無しの手ぶらで帰っていることに気づいた。
「知らない。」
「まあ、いいや。」
掃除に来た職員が自分たちのごみを持って帰らずに、新しいゴミ1号になる、あるあるである。
「もう、仕方がないな。私がやらねば。」
それを夜行性の文月が棺桶から出て一人で後片付けをする。バランスの取れた西町奉行所の与力たちであった。
「絶対に皐月よりも早く鼻の長い女を見つけてやる!」
卯月は皐月に対抗心を燃やしていた。
「クソッ!? いったいどこにいるんだ!?」
なかなか妖怪は見つからなかった。
「あの人に聞いてみよう。」
夜に出歩いている女性を見つけたので卯月は声をかけてみる。
「あの、鼻の長い女を知りませんか?」
「それって、私のことですか?」
女の正体は天狗が現れた。
「ギャアアアアアアー! 出たー! 妖怪だー!」
恐ろしくて卯月はニワトリの様に騒ぎまわる。
「あの・・・・・・大丈夫ですか?」
逆に心配になり天狗の方が卯月に声をかけてくれる。
「大丈夫です。こういう損なキャラクターなので。」
とりあえず驚いてみた卯月。
「私は妖怪、天狗だ! 自慢の羽団扇をくらえ! 妖術! かまいたち! ケッケッケ!」
天狗は団扇で鋭い切れ味の風を起こして攻撃してくる。
「ギャアアアアアアー!」
卯月は悲鳴をあげる。
「何か防ぐ術はないのか!? そうだ! 卵だ!」
卯月は懐から卵を取り出した。
「忍法! 卵の殻!」
卵は忍法で盾のように大きくなり天狗の妖術を防ぐ。
「バカな!? 私のかまいたちが防がれただと!?」
天狗は自分優位に鼻持ちならない考え方をしていたので。自分の妖術が防がれて驚く。
「防いだだけじゃないぞ。おまえは卵を割ってしまったのだからな。」
「なに!?」
ピキ、ピキっと卵の殻が割れていく。
「いでよ! 獣! 忍法! 召喚の術!」
卵の中から新しい命が生まれる。
「ガオー!」
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「見たか! 火の鳥だぞ!」
「え? 小さいんですけど。」
「え? ええー!?」
現れたのは火の鳥ではなく火の小鳥であった。
「ギャオ!」
まぎれもなく火の小鳥であった。
「構うもんか! いけ! 火の小鳥! 秘剣! 火鳥斬!」
親の卯月の斬撃に火の小鳥が共に飛んでいく。
「ギャアアアアアアー!」
天狗に命中した。
「やったー! 俺でも勝てた!」
戦っては見たものの自分の強さに半信半疑だった卯月は大いに喜んだ。
「覚えてろよ!」
真っ黒焦げになった天狗が去っていく。
「何はともあれ勝てばいいのだ。勝てば官軍負ければ賊軍ってね。」
卯月は勝利に安堵した。
「ギャオ。」
火の小鳥が卯月の元に戻って来る。
「おまえもありがとうな。」
「ギャオ。」
火の小鳥が卯月に触れた瞬間だった。
「ギャアアアアアアー!」
炎が燃え盛り卯月を燃やす。
「プハー。」
真っ黒こげになった卯月は口から煙を吐き出す。
「ギャオ。」
その様子を楽しそうに見ている火の小鳥であった。
「よくやった。ご苦労だったな。」
翌朝、天狗事件の解決を旧暦奉行に報告した睦月たち。
「で、天狗は?」
「逃げられました。捕まえようとした卯月も大火傷を負って病院で入院しています。」
「そうか。激しい戦いだったのだな。」
卯月も立派な西町奉行所の与力であった。
「俺が見つけていれば火傷なんかしなかったぜ。火もぶった切ってやる。」
皐月は何でもぶった切るつもりでいる。
「まあまあ。みんな仲良くしようよ。」
優しい睦月。
「怖い。私なんかか弱いから燃やされちゃう。アハッ!」
可愛い子ぶる弥生。
「お堀泳ぎ場を開業すればかなり儲かるな。」
現代でいう所のプールである。
「長屋は火事が起こりやすいからダメですな。」
文月は「なぜ家事は起こるのか? 前編」という本を読んでいる。
「葉っぱ! 葉っぱ! 葉っぱ!」
葉っぱ踊りをするしかない葉月。
「zzz。」
朝の朝礼は寝て過ごす長月。
「まあ、いい。これにて一件落着。」
奉行が事件を締めくくる。
「火の小鳥をペットで買う時は防火対策を徹底しよう!」
「ギャオ。」
「名前を付けなくっちゃ。皐月の子猫がミーちゃんだから、おまえの名前はヒーちゃんだ。」
なんでも他人が気になる卯月であった。
「ギャオ。」
「おお! ヒーちゃんが喜んでる。気に入ったんだな。」
「ギャオ!」
こうして平和な江戸の町は火の粉に包まれるのであった。
つづく。
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靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
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