リンダの模範解答

史人

文字の大きさ
1 / 1
第一部

第一部

しおりを挟む
 ロンドンは今日も相変わらず、曇っている。鬱を吹き飛ばすように設計されたたまご色のタイル張りは、余計に鬱憤の全てを運んでくるようだった。ウィンドウ越しの人は、茶髪がぼさぼさだ。彼女がいればもっと、世界は輝くのに。グラスはプリズムを作って、輝いている。が、一向に蜘蛛の巣に勝てる気配はない。遠いレンズをそのままに、佇む白髪の女児がいる。ベリーショートの貫禄も、まだ聞かぬさえずり。大釜で肉を引き裂いた。
 さらさらと綴る。
 ヒヤシンスは己の身体を見た、
 「それだから、美しく、醜い。」
 「遅い。」
 「ごめんって。」
 何故、この男はへらへらと笑っていられるのか。あんな事の後なのに。
 「そんなの、知ってるくせに。」
 へらへらすんな。
 「仕方ないだろ、僕は欠けてるんだ。」
 心を読むな。
 「あぁ、すまないすまない。癖でね。」
 「時間が無い。早く話を進めてくれ。」
 「まぁ、待ってよ。紅茶が先だ。」
 菓子は頼むなよ、目障りだ。
 「はいはい……。」
 「だから、読むな。」
 向かいの男は今、紅茶を飲んでいる。砂糖は三つ、クリームは二匙だ。今すぐ、此奴の記憶を消し去りたい。
 「僕そんなに嫌われてるか。」
 「人の日記を見るな、悪趣味野郎。」
 紅茶が趣味何て、気色悪い。しかも、甘々なやつだ。
 「甘党の気持ちが判るものですか。」
 「お前のことは断然判りたくないな。」
 ヒヤシンスは自分の目を見た、
 「しかし、見えるものはサカナの目……。」
 「あぁ、折角僕が言おうとしてたのに。」
 「飲み終わったか。」
 「はぁ、判った、リンダ。答え合わせをしよう。」
 

 「寒っ…!」
 「あのなぁ、そんな格好で来るからだ。」
 まぁ、今日はもう四月なのに寒いな。
 「おい、リック。」
 マフラーを取って、彼に渡した。
 「やるよ。少しはマシになんだろ。」
 「わぉ、ケイ!恩に着てやるよ!」
 何て、不自然な日本語だ……。
 「リックそんな言葉いつ覚えたんだ?」
 「これかい!かっこいいだろう!」
 あまりにキラキラとした無垢な目に、変な日本語だと言うことが出来なかった……。
 
 
 「リンダ、ほら。彼らさ。覚えてないかい。」
 「……知らないな。リックとケイ…か。」
 「あぁ、そうだとも。リックは本名エリック。イギリス人で日本へ、留学に行っていたんだよ。ケイは慶四郎。日本人だね。」
 先に進もうか。
 「はいはい、仰せのままに……。」
 
 
 「ケイ、聞いてくれよ。」
 リックにしては珍しく、静かだった。教室には金魚鉢とリックの声だけの、音がする。
 「何だよ、やけに潮らしいな。」
 「僕ね……好きな人が出来たんだ……。」
 「ほんと?!」
 あっ、でも……。
 「あぁ、とても彼女は清純でね。」
 もし同じ人を好きになってしまっていたら……。
 「もう、すっかり僕は彼女の虜さ。」
 「そうなんだ……。あの、さぁ、リック。……一ついい?」
 彼は目を伏せた。
 「ごめんな、ケイ……。ほんとは知ってたんだ……。」
 あっ、ちょっと待ってくれ……まだ…。
 「同じ人を好きになってしまったこと。」
 一瞬時が止まったように、僕は動けなくなった。
 「日向楓。僕達は彼女が、好きなんだ。」
 
 
 「ほら、思い出しただろ、リンダ。君の妹に同時に告白して、同時に振られた。滑稽な彼らだよ。」
 あるかないかの薄笑いを浮かべて、奴は小説から顔を上げる。
 「君さ、聞いてるのかい。折角、僕が音読してあげているのに、日記を書かないでくれよ……。」
 「あぁ、良かったな。要点だけ早く話せば、音読する手間が省けるぞ。」
 「はぁ、君って奴は……。それじゃダメなんだよ。何も変わらないだろ。」
 変化が死んでも、生きていける。
 「………じゃあ、続きを話すよ。」
 

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...