世界一の家出

弟ふみと

世界一あざとい少年

    「ななみさーん。お弁当忘れてますよー。」
　「あっ、ごめん。じゃ、行ってきます！」
　俺はここに住む条件として、家事を行うことになった。両親のいなくなっていた俺にとっては、家事は苦じゃない。
　「まぁ、条件っていっても、俺が半ば強制的に決めたんだけど。」
　マンションのうるさい洗濯機に、手を突っ込みながら思っている。ななみさんっていつも忙しそうだよなー。帰って来るなり、玄関で倒れてるし。今日だって、二時間睡眠で朝、ばたばただし……ほら、もうこんな夜中なのに、まだ帰って来ない。
     ガチャっ
　「わっ、びっくりした！ふみとくんもう寝てると思ってたわ。」
　「お・か・え・り・な・さ・い。」
　「え、こわ。無駄に万遍の笑み、こわ。」
　「ななみさん、忙しいのは分かりますが、遅れる時はちゃんと連絡してください…！それと、今日こそはちゃんと湯船に浸かりしょうね！疲れもとれませんよ。」
　彼女は玄関の靴箱に項垂れたまま、こちらをまじまじと見た。
　「な、何ですか？」
　「いやぁ、ふみとくん最初の方はにこにこしてたのに、最近は感情が露になったというか……」
　あぁ、そうなんだ。
　次の日の昼。余りもので炒飯を作っている時に、ふっと昨日の台詞が香った。初めは媚び売るので精一杯だったもんな……ななみさんを゛ほんとうの家族゛の様に叱っていた自分を思い出したら、何だか笑えてきた。 
　「ふふっ、何やってんだろう、俺は。」
　それは画一的に大切で、小さくて、ガラス細工の様な、感情だった。
　ななみさん、早く帰って来ないかな。