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「選挙でGO」公演台本~3~
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キリカ 夜遅くまでかかり、何とか辞書を読破した私は、村長が描いている村の未来図が見えてきた。村長が、自分の会社を村に移転させた事で、村の税収入が潤っていた。あの人は村長に成るために、会社の社長を辞めたのだ。どうしてこの村の為に、そこまでできるのだろう。
(PS4のコントローラーを持ち、ヘッドセットをつける)
キリカ ゴメン、遅くなっちゃった。違うって、選挙の準備。本当だって。なんかさぁ、どうしてああいう人達って、誰かの為とか、何かの為にあんなに頑張れるんだろうね。自分の事だけ考えて生きていきゃいいのに。上を見なければ、現実に満足しちゃえば、もっと楽に生きれるのに。あっ、ヤバッ、ちょっと回復、回復。おっ、ナイスサポート!
ゲームに夢中になるキリカ。
舞台暗転。
舞台は集会所、政策討論会
キリカ 前回の討論会で、高齢化で消滅した村は無いとおっしゃいましたが、それって、ただ思ったより皆が長生きしちゃっただけじゃないんですか。今まで大丈夫だったからって、これからもそうだとは限らないでしょ。そうですよね。
青井 確かに、2007年の時点で高齢化が原因で消滅した村はありませんでした。ですが、それは、問題が先送りにされただけです。2020年以降、最も人口の多い団塊の世代が平均寿命を越える事で、この問題は転換点を迎えます。
キリカ 10年経てば、その子どもである団塊ジュニアが年金生活に入る。人は永遠には生きられません。人口は確実に減少します。今、何か手を打たないと、間に合わないんです。この村の未来には、外からの若い力が必要なんです。
京香 じゃあ、聞くけど。あなたの描く村の未来に、この村の人たちはいるの?
キリカ それはっ……
京香 移住者を優遇し、村の人口が増えたとして、その未来にいるのは、余所から来た人達だけ。今、ここに住んでいる人達の事を考えるのが、村長の役目じゃないの。何世代にも渡ってこの村で生き、この村で死んでいく人達の事を、あなたは考えているの?
青井 それでも、外からの人の流入がなければ村は亡びます。
京香 変わり果てるより、今のまま朽ちていく道だってあるわ。
青井 それは、滅びの美学に酔いしれてるだけです!
京香 あなた達は言うわ。多様性を認める。異なる価値観に触れる。言葉だけ聞けば良い事に聞こえる。でも、自分が理解し、理解され、信頼できる人達の中で生きていくのが幸せなんじゃないの? あなたの政策は、変化に対応できる強者のみを考えてる。人はそんなに強くないわ。変わることのできない人達の事を考えていないのよ。
キリカ (思わず納得して頷く)
青井 なんであなたが納得してるんですか!
キリカ だ、だって。
京香 皆さん。選挙は、ベストじゃなくてベターを選択するべきです。私は自分の言っている事、全てが正しいとは思ってはいません。ですが、誰よりも私は、この村の事を愛しています。もう、二度と逃げたりはしません。だから、皆さん。私と一緒に、この村で最後まで生きていきましょう。
舞台暗転。
翌日、選挙事務所内
キリカ あぁ、昨日は疲れた。
月影 完全に、迫力負けだったね。
キリカ 私もあの人に投票しそうになったもん。何て言うか、覚悟が違うわ。
桐谷 開き直った女は強いわよ。
キリカ なんかさぁ、私達って、この村の悪者じゃない?
梅田 まぁ、悪名は無名に勝さると言うから。誰にも見てもらえない動画より、炎上したほうが、閲覧数が増えるのと同じだよ。
桐谷 そうね。
キリカ 梅田さん。フォローありがと。
梅田 動画撮ってるから、youtubeにアップするね。
キリカ ちょっ、マジっすか!
梅田 大丈夫、ちゃんと編集するから。キリカちゃんが勝ってるみたいに。
月影 Youtuberって、稼げるんですか?
梅田 稼げるのは、ほんの一部だけだよ。僕のは趣味みたいなもんだから。
キリカ そうなの?
梅田 世の中、そんなに簡単じゃないよ。働き方改革とか、テレワークとか言っても、制度を上手く利用できるのは、ほんの一握りの人間だから。
キリカ えっ、じゃあ生活費どうしてるんですか?
梅田 今までの貯金で何とかね、田舎なら生活費かからないし。
桐谷 梅田さん、こう見えてやり手の営業マンだったのよ。
梅田 こう見えては余計だよ。
キリカ どうして辞めちゃったんですか?
梅田 経理の人が代わって。とにかくいちいち文句言う人でさ。前の経理は領収書持っていくと「今週も頑張りましたね」って笑顔見せてくれたから、頑張ろうって気になれたんだけど、その人はいつも嫌な顔して「もう少し経費抑えて下さい」って、とにかく人の悪口ばかり言う人でさ。そのうち、領収書出すのが嫌になっちゃって。新人のやつらなんか、それが嫌で自腹切るようにまでなって。当然、全員営業成績落ちるだろ。そっから悪循環よ。利益は下がる。社長は経理の味方をして経費削減と怒鳴る。それで、ああ、もうこの会社ダメだなと思って
キリカ 辞めちゃったんだ。
桐谷 その会社、どうなったの。
梅田 経理の横領が見つかって、1年後には潰れてた。
月影 会社組織って、そんなもんですよねぇ。
桐谷 いやいや仕事してる人って、一番邪魔だもんね。
梅田 会社も結局人間だからね。
青井 政治だってそうですよ。細かい政策なんて、わかりにくくて全てを理解なんてできないでしょ。だから、信用できそうな人に委ねるんですよ。
キリカ 本当、どうして政治って、こんなにわかりにくくて、複雑なんだろう。そりゃあ、選挙に興味もなくすわよね。
桐谷 確かに、政策をわかりやくす説明するのって、難しいわよね。
キリカ 池上さんが、各地にいればいいのに。
月影 きっと、国民にわかりにくくするため、わざと難しくしているんですよ。
キリカ それ、なんの陰謀論ですか。それより、村長は?
青井 村長でしたら病院です。昨日終わってから体調がすぐれなくて。
キリカ あんなに熱くなるから。言わんこっちゃない。
そこに桜庭登場。雨雲を連れている。
桜庭 ねぇ、なんか、キリカちゃんに会いたいって男が来てるんだけど。
キリカ 誰ですか?
雨雲 あんたが、キリカ?
キリカ キリカは私だけど。
雨雲 おぉー、まじで!
キリカ 誰?
雨雲 誰はないでしょ。パートーナーに向かって?
桜庭 彼氏?
キリカ いやいや、違うし、私知らないし、こんなやつ。
雨雲 こんな奴はないだろ。毎日狩りに行ってた仲だろ。
キリカ 狩って、もしかして、雨の村雲?
雨雲 そのまさか!
キリカ うぉー、まさかマジでリアルにいたんだ。私、こういうので会うの初めて。
青井 誰?
キリカ ハンター仲間です
月、梅、桜 あぁ。
青井 キリカさん、猪とか狩ってるんですか?
キリカ そんな小物じゃなくて、モンスターですよ。
青井 モンスター?
キリカ あっ、ほら。ネットゲームの仲間で。
青井 何を言ってるか、理解不能です。
雨雲 いやぁ、本当、選挙でるんだ。
キリカ こんなクソ田舎まで、何しに来たの。
雨雲 もちろん、キリカの選対の為さ。
桐谷 あなた、選挙経験あるの?
雨雲 任せてください。5年ほど選対やってたんだから。
キリカ そうなの?
青井 それは心強い。それで、どこの党で、誰を?
雨雲 いや、推しメンがいきなり結婚宣言なんかしちゃうから、選挙からは離れてたんだけどさ。
青井 押目さん、ですか?
雨雲 推しメンだよ。あっ、メンは男って意味じゃなくてメンバーって意味ね。
桐谷 この人、大丈夫?
キリカ 大丈夫ですよ。雨の村雲って言ったら、ハンター仲間の間で、絶大な信頼があるんだから。状況把握、戦略、キャラの強さピカイチだったんですよ。狩猟笛の使い手で
青井 それ、選挙に全く関係ないですよね。
桐谷 ま、まぁ、手伝ってくれるって言うなら、いいんじゃない。
月影 そうだね、人は多いほうが心強いし。
桜庭 いいんじゃないの。
梅田 それで、何か良い案が
雨雲 ずばり、選挙は人と金だ。
青井 間違ってはないですが。
雨雲 ネットを使って全国のファンの繋がりをつくるのと、中華マネーを引っ張ってこないと。それと、以外に大変なのがCDの開封と処分な。
青井 CD?
雨雲 これが、以外にかさばって場所取るんだよ。最近じゃブックオフでも買い取ってくれないし。いっそのこと、CDじゃなくてお菓子とかにしてくれたほうがいいんだけどな、ビックリマンチョコみたいに。曲なんて誰も聞いてないんだから。
桜庭 ねぇ、あなたがやってた選挙ってもしかして、センター決めるやつ?
雨雲 そうだけど。
桜庭 やっぱり。
青井 これ、リアルな村長選挙ですから。
雨雲 えっ、そうなの。
キリカ うん。
雨雲 まっ、それならそれでもいっか。
桜庭 軽っ。
雨雲 結局、どれだけ人に金と労力を捧げさせるかって事は、変わらないでしょ。
青井 あながち間違ってるとは言えませんが。
キリカ でも、何でわざわざ手伝いに来てくれたの?
雨雲 何言ってんの、選挙ほど面白いエンターテインメントもないでしょ。
月影 選挙が?
梅田 面白い?
雨雲 人を選ぶ。人に選ばれる。自分が選んだ人が他の大勢に選ばれる。これほど、たくさんの自己承認欲求を満たすコンテンツって、他にないでしょ。
桐谷 そう言われれば、そうね。
雨雲 アイス総選挙とか楽しいだろ。自分が好きなアイスがトップ10に入ってなかったりしたらさ、こう、身悶えするくらい悔しいもん。
桐谷 そうそう。なんで、みんなこの美味しさをわかってくれないのって、なっちゃるわよね。
キリカ 私アイスと一緒なの?
青井 それで、あなたはまず何をするべきだと?
雨雲 そうだな、まずはわかりやすいキャッチコピーを考えるべきじゃね。
キリカ キャッチコピー?
雨雲 ああ、えてして大衆ってのは馬鹿だからさ。
青井 それは、否定しませんけど。
キリカ ちょっと、あなたが有権者をディスっていいんですか。
青井 キャッチコピーは大切です。人は難しい政策や理念なんかより、わかりやすい言葉に食いつきますから。
雨雲 オバマ大統領のyes we canとか、トランプ大統領のamerica firstとか、小学生でも理解できるだろ。
桜庭 確かにそうね。
雨雲 大衆ってのは自分で考えるのが苦痛なんだよ。誰か能力のある人に大変な事は任せて、自分は楽で好きな事してたいってのが、人の本性だからな。
桜庭 あんた、大衆に恨みでもあんの。
青井 いや、良いとこをついていると思います。
梅田 今回の選挙、村長が唱えるハイテク村への脱皮など、老人にどう説明しても、理解されないだろうしね。
桜庭 年寄りって、基本横文字読めないもんね。
月影 まぁ、イノベーションを起こす為のビジョンをコミットし、ソリューションパートナーとしてクライアントのサービスをマネタイズする、なんて言われてもわかりませんからね。
キリカ 今、日本語喋ってた?
月影 前の会社の上司が、よく言ってたんです。
キリカ それ、絶対本人も意味わかってないでしょ。
桐谷 それじゃあ、この選挙の対立構造をわかりやすい言葉にして、訴えましょう。
青井 よいキャッチコピー、無いですかね。
月影 ハイテク オア ローテクか、とか
桐谷 チェンジ オア ノーチェンジなんてどう。
桜庭 もっと緊迫感あるほうがいいんじゃない。デッド オア ダイ とか。
キリカ どっちも死んでるし! B級映画や海外ドラマのタイトルみたいなのより、日本語のほうが良くないですか、それと、もっと、なんかこう、前向きなやつ。言ってて楽しくなるような。
梅田 未来は僕らの手の中。
キリカ ブルーハーツか! 特定の世代しかわからないのはダメ、それから、パクリもダメ。
青井 キリカさんも考えてください。ライターなんだから、本職でしょ。
キリカ いきなり振られても、急にボケれませんよ。
青井 誰がボケろと言いましたか。
雨雲 ほら、気の利いた、いいキャッチコピー考えろよ。
キリカ 横からハードル上げないで!
キリカ、考えて。
キリカ 「変わらないと(瓦無いと)不変(不便))とか。
一瞬、間。
キリカ やっぱ、ダメ?
月影 いいじゃないですか。
雨雲 うん、変わらないと、と、瓦が無いとが、かかってるとこが面白い。
梅田 なるほど、不変と不便がかかってるのか。
桐谷 オチが効いてるわね。
桜庭 ちょっと駄洒落っぽいけど、受けるんじゃない。
キリカ いや、そんなつもりじゃないんだけど。
青井 では、これで行きましょう。
キリカ いいのかな。
雨雲 そういや、選挙カーとか出すの? 俺、一度乗ってみたかったんだよな。
青井 そうですね。桜庭さんにウグイス嬢をやって頂きたいと思ってます
桜庭 私が?
梅田 村長選挙でも選挙カー出すんだね。
青井 とりあえず、キリカさんの村での認知度を上げる必要がありますからね。
キリカ 選挙カーって、意味あるの。名前連呼してるだけでしょ。
青井 ちゃんとありますよ。走ってると頑張ってるって感じがするじゃないですか。
キリカ はい?
青井 だから、頑張ってるって感じするでしょ。
キリカ それだけ、ですか?
青井 あんまり選挙カーが走ってないと、応援してる人達からクレームの電話がくるんですよ。選挙活動真面目にやってんのか!って
キリカ あれって、政策訴える為にやってるんじゃないの?
桜庭 まぁ、普通に考えて走ってるんだから、話聞けないわよね
雨雲 流れるプールで聞くお笑いと一緒だな。
キリカ なにそれ?
雨雲 去年の夏さ、サンシャインプールに行ったわけよ。そしたらイベントでお笑い芸人さんがきてて、プールサイドでお笑いやってるわけ。
キリカ そんな場所にも来るんだ。
雨雲 暑い中、頑張ってネタやってんだけどさ、こっちは流れてるわけ。俺も頑張って流れに逆らおうとしたんだけど、やっぱ無理で、オチだけ聞こえなくてさ。
月影 それ気になるなぁ。
雨雲 それと一緒だろ。街宣カーの演説聞こうと思ったら、ストーカーみたいに後ろに張り付かなきゃ。
キリカ なんか、選挙がわからなくなってきた。
桐谷 ねぇ、キリカさん。あなた、明日からこの村をぶらついてみない?
キリカ ぶらつく? どうしてですか?
桐谷 私思うの。村の人達の意見を直接聞くのも、大切じゃないかなって。
青井 単純接触効果というやつですね。
キリカ なにそれ?
青井 人は、人と繰り返し接することで好意や印象が高まるんです。
キリカ あんたってさ、恋愛マニュアルの本とか読んで、その通りに行動するタイプ?
青井 なっ! あなたに僕の何がわかると言うんですか!
キリカ 女心は、マニュアルじゃわからないわよ。だいたい、個別訪問は法律違反なんでしょ。
桐谷 訪問しなければいいんでしょ。こんな狭い村なんだから、外を歩いていれば、誰かしら会うわよ。
月影 偶然会って話してるって体ですね。
キリカ 偶然って、何の話したらいいの。
梅田 良く言われるのは、政治と宗教の話はするなって。
雨雲 政治や宗教をテーマにしたら、クレーム来やすいからね。
キリカ そしたら、こんな芝居やってられないじゃないの。
雨雲 クレーム怖くて、芝居ができるかっての。
キリカ あんた、誰に言ってんの?
雨雲 いや、台詞に書いてたから。
キリカ 台詞って言っちゃダメ!
桜庭 私も言いと思うよ。やっぱ、私達移住者の事も知ってもらわないとね。
キリカ それじゃあ、咲良さんも行ってくださいよ。
桜庭 寒いの苦手だからパス。
キリカ 皆勝手だぁ!
青井 ここまで来たら、行動あるのみです。
キリカ でもさ、余計に悪い印象与えちゃったら?
青井 行動に失敗などありません。人は成功か失敗かの二者択一で考えがちですが、行動にあるのは、成功が成長なんです。
キリカ でた、また他人の名言。
青井 失敗例を出し、不安を煽ってアイデアや行動を止めさせるのではなく、成長を願って行動を後押しする事が大事だと、社長も言ってました。
キリカ 誰か、この意識高すぎ君を止めて。
青井 キリカさんって、どうしてそう全てに否定的なんですか。
キリカ どうしてって……どうしてだろう。
雨雲 ああ、あれだな。そういう人達の中に長くいたんだろ。文句って伝染するから。まぁ、努力しないで文句だけ言ってるほうが楽だし。人って楽なほうに流れるから。仕方ないよ。
キリカ フォローしてるの、けなしてるの?
雨雲 両方。
キリカ あんたは味方だと思ってたのに。
桐谷 でも、青井さんの言う通りよ。行動だけが未来を変えるんだから。
キリカ 桐谷さんまで。わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば!
舞台暗転。客席明かりがつく。赤木登場、客席へ
赤木 こんにちは。(天気の話題等、少しフリートーク)そういえば、もうすぐ村長選挙、ですよね。もう、どちらか決めましたか? あらっ、〇〇さんじゃないですかぁ? えっ、違う。あぁ、すいません。勘違いでした。そういえば、最近何か良い事ありました。(話を聞く)本当ですか、それは素晴らしい。そうだ、たまたま、本当にたまたまなんですが、私、こういった物を持っていまして(劇団のグッズ等を取り出す)これ、お祝いです。いえ、いいんですよ。まぁ、しかしあれですね。その代わり、投票はお願いしますね。あっ、どうせ、どっちに投票したかわからないからとか、思ってもダメですよ。こういう小さな村では、誰が誰に投票したかなんて、すぐにわかるんですから。
猪鹿村の外。そこに、キリカと雨雲登場。
キリカ あーぁ、本当。選挙なんて出るんじゃなかったわ。
雨雲 いや、考えれば考えるほど、前回の選挙で現職村長が当選したのって、奇跡だよな。
キリカ どういう事?
雨雲 一般的に人間ってのは年をとるほど変化を嫌うだろ。そして圧倒的に年寄りのほうが選挙に行く割合が多いわけだ。
キリカ そうね。
雨雲 政治家が票を集めようと思ったら、有権者に支持される政策を打ち出す必要があるわけ。橋本弁護士が2015年に行った大阪都構想の住民投票じゃ、2,30代は6割以上が賛成、4,50代も5割以上は賛成だった。でも、70代以上は6割以上が反対してた。20代の投票率は40%代、70以上は80%近く。そして有効票の多い70代以上の意見が通った。
キリカ 確か敬老パスが無くなるっていうデマで、年寄りが反対したんだよね。
雨雲 橋本さんは未来志向が強かったからな。
キリカ 未来の無い人達が、未来を決めているんだ。
雨雲 シルバーデモクラシーだよ。若い子が社会的に不遇なのも、結局は自分達が選挙に行かない事で招いてる。まぁ、自業自得だな。
キリカ じゃあ、どうすればいいのよ。
雨雲 方法は二つ。年寄りが死ぬのを待つか、若い人が選挙に行くかだ。
キリカ 年寄りが、若い人向けの政策を支持すればいいじゃない?
雨雲 現実的じゃない。自分の事より他人の事を考えろと強制はできないだろ。
キリカ じゃあ、どうやって今の村長は受かったんだろ。
雨雲 それが猪瀬京香って人の協力のお陰だとすれば、この選挙、勝ち目ねえな。
そこに、蝶野老人が登場。
キリカ あっ、おじいちゃん、ちょっとお話してもいい。
蝶野 おお。あんた、行成の娘やったとやね。討論会、見とったばい。
キリカ そ、そう。あのね、実は……。
雨雲 なぁ、じいちゃんはどっちに投票するんだ?
キリカ ちょっ! いきなりど真ん中のストレート!
蝶野 京香じゃな。
キリカ 打たれてるし!
雨雲 やっぱそうかー。
キリカ どうして、おじいちゃん、無料WIFIのお陰で助かってるって言ってたじゃない。
蝶野 行成のやった事では、助かっとる。村のもんも、便利になったって戻ってきたもんもおる。ばってん、余所者ば村に連れてくるとは、やりすぎたい。
キリカ なんで、村の人口が増えるのは、良いことじゃない。
蝶野 村には村の事情がある、人には人の事情があるようにな。人は誰しも、人には知れない、知られたくない心ば持っとるもんばい。人知れず思うふ心は深見草って言ってな。
キリカ なにそれ。
蝶野 ハッハッハ、まあ、今回の選挙は京香の勝ちじゃ。行成には悪かけど、この村ば余所者から守らないかん。
去る。
キリカ なんかさー、煙にまかれるって、こんな感じなんだろうね。
雨雲 まぁ、人の価値観はそれぞれだからな。
キリカ なんか、変な事言ってわね。深見草ってなんだろ。
雨雲 ググればいいじゃん。
キリカ 深見草……牡丹の事か。えっと、人知れず思う心は深見草 花咲きてこそ色にいでけれ。千載和歌集の歌だって。
雨雲 どういう意味?
キリカ 人知れずあなたを思う心は牡丹のように深いもの、それも花が咲いて隠せなくなってしまいました。だって。
雨雲 それ、恋の歌じゃん!
キリカ なんで、おじいちゃん、こんな歌を?
雨雲 ボケてんじゃない。
キリカ 人知れず、思う心、か。
雨雲 ほら、次行こうぜ。
アヤメ婆さん、登場。
キリカ おばあちゃん。少しお話してもいい。
アヤメ あらあら、あんたは行成の娘やなかね。隣におるとは、彼氏ね?
キリカ 違います。
アヤメ じゃあ、愛人ね。
キリカ もっと違います!
アヤメ はぁ、若い男女が二人でおって、恋人でも愛人でもなかとね、最近の若いもんは、つまらんのぉ。おぉ、これが草食系ってやつね。
キリカ 何か、私ディスられてる?
アヤメ わしの孫も、男ッ気が無くてのぉ、そうだ。あんた婿に来んね。
雨雲 僕、二次元専門なんで。
キリカ そっちかい!
雨雲 お孫さん、村に戻ってきたんだ?
アヤメ 昨年の夏になぁ、ほら、新しく村にできたやろ、テレ…テレ…テレクラ?
キリカ 九〇年代ですか!
雨雲 あぁ、テレワークね。
アヤメ そうそう、そこで働きよんしゃあ。
キリカ なにそれ?
雨雲 隣の糸島市でもやってるだろ。地方在住でもネットワークで仕事ができるテレワーク事業だよ。それで、村に戻ってきた若い人達もいるって
キリカ それじゃあ、おばあちゃん選挙はー
アヤメ わしゃあ、京香ちゃんに投票する。わしだけやなか、村のほとんどの女は、京香ちゃんの味方たい。
キリカ どーして?
雨雲 女性に嫌われてんだな。
アヤメ 行成はひどか男たい、二度も京香ちゃんば捨てて。
キリカ えっ?
雨雲 二度も?
キリカ どういう事ですか?
アヤメ どうもこうもなか。あん二人はな、昔こっそり、つきおうとったと。
キリカ そうなんですか!
アヤメ 二人は隠しとったばってん、こげな狭い村や。噂はすぐに広まる。猪瀬と山鹿、決して相いれない両家に育った二人は、まさにロミオとジュリエットやった。
雨雲 二つの家って、そんなに仲悪いの?
アヤメ この村じゃ、猪鹿交わらずというのが伝統たい。ばってん、わしはなぁ、陰ながらそんな二人ば応援しとったんよ。
雨雲 痴情のもつれ、しかも過去と今で二度目か、そう考えると、この選挙も違う側面があるのかもな。
キリカ それで、二人はどうなったんですか?
アヤメ 駆け落ち同然に村を飛び出した二人やったが、数年後、京香ちゃんだけ、この村に戻ってきたとよ。皆理由ば知りたがったばってん、京香ちゃんは何にも話さんやった。それから、行成が会社ば作ったことを噂で聞いた。なんでも、横文字のよくわからん事ばしよるって話やった。
キリカ それが、一度目ってことですね。
アヤメ 5年前の事や、父親が亡くなって、何十年ぶりに戻ってきた行成は、その翌年、村長選に立候補したとよ。村ば捨てた男が、いきなり戻ってきて村長になる事ができたとも、京香ちゃんが実家に逆らって、味方についたけんよ。
キリカ 逆らった?
アヤメ その時の村長は猪瀬玄爾。京香ちゃんの父親たい。選挙の翌年、病気で亡くなったと。
雨雲 じゃあ、親に逆らって昔の恋人の応援をしたってことか。
アヤメ それなんに、行成はこの村ば、自分の都合よかごと変えようとした。京香ちゃんは、変わっていくこの村の様子に、耐えられんやったとやろ。この村は、余所者ば受け入れる場所じゃなかとたい。
キリカ そんなに、余所者に来られて、困ることがあるんですか?
アヤメ それはなぁ……よぉ、わからん。
雨雲 なんだそりゃ。
アヤメ 昔は理由があったとやろうな。今では、言い伝えみたいなもんたい。
雨雲 そんなもんを律儀に守ってるのか、この村の人たちは
アヤメ 理屈はわからんが、理由はある。そげなもんやろ。相撲の土俵や、甲子園のバッターボックスに女が立てんのと同じたい。沖ノ島やらも、女の人が入ったらいかんて言われても、誰もちゃんとした理由ば説明はできんやろ。
雨雲 あそこは女の神様だから、嫉妬するからだろ。
アヤメ その女神様に会ったことあるとな? 誰か直接そう聞いたとな?
雨雲 いや、それは。
アヤメ 伝統なんて、そげなもんたい。まぁ、諦めて街に帰るとやな。
アヤメ、去る。
キリカ なんか、落ち込む。人に選ばれないのって、こんなに辛いんだ。
雨雲 1人くらい味方がいるって、ほら、今度は、あっちの人にも聞いてみようぜ。
キリカ あれ、あの人、何か見たことある
(PS4のコントローラーを持ち、ヘッドセットをつける)
キリカ ゴメン、遅くなっちゃった。違うって、選挙の準備。本当だって。なんかさぁ、どうしてああいう人達って、誰かの為とか、何かの為にあんなに頑張れるんだろうね。自分の事だけ考えて生きていきゃいいのに。上を見なければ、現実に満足しちゃえば、もっと楽に生きれるのに。あっ、ヤバッ、ちょっと回復、回復。おっ、ナイスサポート!
ゲームに夢中になるキリカ。
舞台暗転。
舞台は集会所、政策討論会
キリカ 前回の討論会で、高齢化で消滅した村は無いとおっしゃいましたが、それって、ただ思ったより皆が長生きしちゃっただけじゃないんですか。今まで大丈夫だったからって、これからもそうだとは限らないでしょ。そうですよね。
青井 確かに、2007年の時点で高齢化が原因で消滅した村はありませんでした。ですが、それは、問題が先送りにされただけです。2020年以降、最も人口の多い団塊の世代が平均寿命を越える事で、この問題は転換点を迎えます。
キリカ 10年経てば、その子どもである団塊ジュニアが年金生活に入る。人は永遠には生きられません。人口は確実に減少します。今、何か手を打たないと、間に合わないんです。この村の未来には、外からの若い力が必要なんです。
京香 じゃあ、聞くけど。あなたの描く村の未来に、この村の人たちはいるの?
キリカ それはっ……
京香 移住者を優遇し、村の人口が増えたとして、その未来にいるのは、余所から来た人達だけ。今、ここに住んでいる人達の事を考えるのが、村長の役目じゃないの。何世代にも渡ってこの村で生き、この村で死んでいく人達の事を、あなたは考えているの?
青井 それでも、外からの人の流入がなければ村は亡びます。
京香 変わり果てるより、今のまま朽ちていく道だってあるわ。
青井 それは、滅びの美学に酔いしれてるだけです!
京香 あなた達は言うわ。多様性を認める。異なる価値観に触れる。言葉だけ聞けば良い事に聞こえる。でも、自分が理解し、理解され、信頼できる人達の中で生きていくのが幸せなんじゃないの? あなたの政策は、変化に対応できる強者のみを考えてる。人はそんなに強くないわ。変わることのできない人達の事を考えていないのよ。
キリカ (思わず納得して頷く)
青井 なんであなたが納得してるんですか!
キリカ だ、だって。
京香 皆さん。選挙は、ベストじゃなくてベターを選択するべきです。私は自分の言っている事、全てが正しいとは思ってはいません。ですが、誰よりも私は、この村の事を愛しています。もう、二度と逃げたりはしません。だから、皆さん。私と一緒に、この村で最後まで生きていきましょう。
舞台暗転。
翌日、選挙事務所内
キリカ あぁ、昨日は疲れた。
月影 完全に、迫力負けだったね。
キリカ 私もあの人に投票しそうになったもん。何て言うか、覚悟が違うわ。
桐谷 開き直った女は強いわよ。
キリカ なんかさぁ、私達って、この村の悪者じゃない?
梅田 まぁ、悪名は無名に勝さると言うから。誰にも見てもらえない動画より、炎上したほうが、閲覧数が増えるのと同じだよ。
桐谷 そうね。
キリカ 梅田さん。フォローありがと。
梅田 動画撮ってるから、youtubeにアップするね。
キリカ ちょっ、マジっすか!
梅田 大丈夫、ちゃんと編集するから。キリカちゃんが勝ってるみたいに。
月影 Youtuberって、稼げるんですか?
梅田 稼げるのは、ほんの一部だけだよ。僕のは趣味みたいなもんだから。
キリカ そうなの?
梅田 世の中、そんなに簡単じゃないよ。働き方改革とか、テレワークとか言っても、制度を上手く利用できるのは、ほんの一握りの人間だから。
キリカ えっ、じゃあ生活費どうしてるんですか?
梅田 今までの貯金で何とかね、田舎なら生活費かからないし。
桐谷 梅田さん、こう見えてやり手の営業マンだったのよ。
梅田 こう見えては余計だよ。
キリカ どうして辞めちゃったんですか?
梅田 経理の人が代わって。とにかくいちいち文句言う人でさ。前の経理は領収書持っていくと「今週も頑張りましたね」って笑顔見せてくれたから、頑張ろうって気になれたんだけど、その人はいつも嫌な顔して「もう少し経費抑えて下さい」って、とにかく人の悪口ばかり言う人でさ。そのうち、領収書出すのが嫌になっちゃって。新人のやつらなんか、それが嫌で自腹切るようにまでなって。当然、全員営業成績落ちるだろ。そっから悪循環よ。利益は下がる。社長は経理の味方をして経費削減と怒鳴る。それで、ああ、もうこの会社ダメだなと思って
キリカ 辞めちゃったんだ。
桐谷 その会社、どうなったの。
梅田 経理の横領が見つかって、1年後には潰れてた。
月影 会社組織って、そんなもんですよねぇ。
桐谷 いやいや仕事してる人って、一番邪魔だもんね。
梅田 会社も結局人間だからね。
青井 政治だってそうですよ。細かい政策なんて、わかりにくくて全てを理解なんてできないでしょ。だから、信用できそうな人に委ねるんですよ。
キリカ 本当、どうして政治って、こんなにわかりにくくて、複雑なんだろう。そりゃあ、選挙に興味もなくすわよね。
桐谷 確かに、政策をわかりやくす説明するのって、難しいわよね。
キリカ 池上さんが、各地にいればいいのに。
月影 きっと、国民にわかりにくくするため、わざと難しくしているんですよ。
キリカ それ、なんの陰謀論ですか。それより、村長は?
青井 村長でしたら病院です。昨日終わってから体調がすぐれなくて。
キリカ あんなに熱くなるから。言わんこっちゃない。
そこに桜庭登場。雨雲を連れている。
桜庭 ねぇ、なんか、キリカちゃんに会いたいって男が来てるんだけど。
キリカ 誰ですか?
雨雲 あんたが、キリカ?
キリカ キリカは私だけど。
雨雲 おぉー、まじで!
キリカ 誰?
雨雲 誰はないでしょ。パートーナーに向かって?
桜庭 彼氏?
キリカ いやいや、違うし、私知らないし、こんなやつ。
雨雲 こんな奴はないだろ。毎日狩りに行ってた仲だろ。
キリカ 狩って、もしかして、雨の村雲?
雨雲 そのまさか!
キリカ うぉー、まさかマジでリアルにいたんだ。私、こういうので会うの初めて。
青井 誰?
キリカ ハンター仲間です
月、梅、桜 あぁ。
青井 キリカさん、猪とか狩ってるんですか?
キリカ そんな小物じゃなくて、モンスターですよ。
青井 モンスター?
キリカ あっ、ほら。ネットゲームの仲間で。
青井 何を言ってるか、理解不能です。
雨雲 いやぁ、本当、選挙でるんだ。
キリカ こんなクソ田舎まで、何しに来たの。
雨雲 もちろん、キリカの選対の為さ。
桐谷 あなた、選挙経験あるの?
雨雲 任せてください。5年ほど選対やってたんだから。
キリカ そうなの?
青井 それは心強い。それで、どこの党で、誰を?
雨雲 いや、推しメンがいきなり結婚宣言なんかしちゃうから、選挙からは離れてたんだけどさ。
青井 押目さん、ですか?
雨雲 推しメンだよ。あっ、メンは男って意味じゃなくてメンバーって意味ね。
桐谷 この人、大丈夫?
キリカ 大丈夫ですよ。雨の村雲って言ったら、ハンター仲間の間で、絶大な信頼があるんだから。状況把握、戦略、キャラの強さピカイチだったんですよ。狩猟笛の使い手で
青井 それ、選挙に全く関係ないですよね。
桐谷 ま、まぁ、手伝ってくれるって言うなら、いいんじゃない。
月影 そうだね、人は多いほうが心強いし。
桜庭 いいんじゃないの。
梅田 それで、何か良い案が
雨雲 ずばり、選挙は人と金だ。
青井 間違ってはないですが。
雨雲 ネットを使って全国のファンの繋がりをつくるのと、中華マネーを引っ張ってこないと。それと、以外に大変なのがCDの開封と処分な。
青井 CD?
雨雲 これが、以外にかさばって場所取るんだよ。最近じゃブックオフでも買い取ってくれないし。いっそのこと、CDじゃなくてお菓子とかにしてくれたほうがいいんだけどな、ビックリマンチョコみたいに。曲なんて誰も聞いてないんだから。
桜庭 ねぇ、あなたがやってた選挙ってもしかして、センター決めるやつ?
雨雲 そうだけど。
桜庭 やっぱり。
青井 これ、リアルな村長選挙ですから。
雨雲 えっ、そうなの。
キリカ うん。
雨雲 まっ、それならそれでもいっか。
桜庭 軽っ。
雨雲 結局、どれだけ人に金と労力を捧げさせるかって事は、変わらないでしょ。
青井 あながち間違ってるとは言えませんが。
キリカ でも、何でわざわざ手伝いに来てくれたの?
雨雲 何言ってんの、選挙ほど面白いエンターテインメントもないでしょ。
月影 選挙が?
梅田 面白い?
雨雲 人を選ぶ。人に選ばれる。自分が選んだ人が他の大勢に選ばれる。これほど、たくさんの自己承認欲求を満たすコンテンツって、他にないでしょ。
桐谷 そう言われれば、そうね。
雨雲 アイス総選挙とか楽しいだろ。自分が好きなアイスがトップ10に入ってなかったりしたらさ、こう、身悶えするくらい悔しいもん。
桐谷 そうそう。なんで、みんなこの美味しさをわかってくれないのって、なっちゃるわよね。
キリカ 私アイスと一緒なの?
青井 それで、あなたはまず何をするべきだと?
雨雲 そうだな、まずはわかりやすいキャッチコピーを考えるべきじゃね。
キリカ キャッチコピー?
雨雲 ああ、えてして大衆ってのは馬鹿だからさ。
青井 それは、否定しませんけど。
キリカ ちょっと、あなたが有権者をディスっていいんですか。
青井 キャッチコピーは大切です。人は難しい政策や理念なんかより、わかりやすい言葉に食いつきますから。
雨雲 オバマ大統領のyes we canとか、トランプ大統領のamerica firstとか、小学生でも理解できるだろ。
桜庭 確かにそうね。
雨雲 大衆ってのは自分で考えるのが苦痛なんだよ。誰か能力のある人に大変な事は任せて、自分は楽で好きな事してたいってのが、人の本性だからな。
桜庭 あんた、大衆に恨みでもあんの。
青井 いや、良いとこをついていると思います。
梅田 今回の選挙、村長が唱えるハイテク村への脱皮など、老人にどう説明しても、理解されないだろうしね。
桜庭 年寄りって、基本横文字読めないもんね。
月影 まぁ、イノベーションを起こす為のビジョンをコミットし、ソリューションパートナーとしてクライアントのサービスをマネタイズする、なんて言われてもわかりませんからね。
キリカ 今、日本語喋ってた?
月影 前の会社の上司が、よく言ってたんです。
キリカ それ、絶対本人も意味わかってないでしょ。
桐谷 それじゃあ、この選挙の対立構造をわかりやすい言葉にして、訴えましょう。
青井 よいキャッチコピー、無いですかね。
月影 ハイテク オア ローテクか、とか
桐谷 チェンジ オア ノーチェンジなんてどう。
桜庭 もっと緊迫感あるほうがいいんじゃない。デッド オア ダイ とか。
キリカ どっちも死んでるし! B級映画や海外ドラマのタイトルみたいなのより、日本語のほうが良くないですか、それと、もっと、なんかこう、前向きなやつ。言ってて楽しくなるような。
梅田 未来は僕らの手の中。
キリカ ブルーハーツか! 特定の世代しかわからないのはダメ、それから、パクリもダメ。
青井 キリカさんも考えてください。ライターなんだから、本職でしょ。
キリカ いきなり振られても、急にボケれませんよ。
青井 誰がボケろと言いましたか。
雨雲 ほら、気の利いた、いいキャッチコピー考えろよ。
キリカ 横からハードル上げないで!
キリカ、考えて。
キリカ 「変わらないと(瓦無いと)不変(不便))とか。
一瞬、間。
キリカ やっぱ、ダメ?
月影 いいじゃないですか。
雨雲 うん、変わらないと、と、瓦が無いとが、かかってるとこが面白い。
梅田 なるほど、不変と不便がかかってるのか。
桐谷 オチが効いてるわね。
桜庭 ちょっと駄洒落っぽいけど、受けるんじゃない。
キリカ いや、そんなつもりじゃないんだけど。
青井 では、これで行きましょう。
キリカ いいのかな。
雨雲 そういや、選挙カーとか出すの? 俺、一度乗ってみたかったんだよな。
青井 そうですね。桜庭さんにウグイス嬢をやって頂きたいと思ってます
桜庭 私が?
梅田 村長選挙でも選挙カー出すんだね。
青井 とりあえず、キリカさんの村での認知度を上げる必要がありますからね。
キリカ 選挙カーって、意味あるの。名前連呼してるだけでしょ。
青井 ちゃんとありますよ。走ってると頑張ってるって感じがするじゃないですか。
キリカ はい?
青井 だから、頑張ってるって感じするでしょ。
キリカ それだけ、ですか?
青井 あんまり選挙カーが走ってないと、応援してる人達からクレームの電話がくるんですよ。選挙活動真面目にやってんのか!って
キリカ あれって、政策訴える為にやってるんじゃないの?
桜庭 まぁ、普通に考えて走ってるんだから、話聞けないわよね
雨雲 流れるプールで聞くお笑いと一緒だな。
キリカ なにそれ?
雨雲 去年の夏さ、サンシャインプールに行ったわけよ。そしたらイベントでお笑い芸人さんがきてて、プールサイドでお笑いやってるわけ。
キリカ そんな場所にも来るんだ。
雨雲 暑い中、頑張ってネタやってんだけどさ、こっちは流れてるわけ。俺も頑張って流れに逆らおうとしたんだけど、やっぱ無理で、オチだけ聞こえなくてさ。
月影 それ気になるなぁ。
雨雲 それと一緒だろ。街宣カーの演説聞こうと思ったら、ストーカーみたいに後ろに張り付かなきゃ。
キリカ なんか、選挙がわからなくなってきた。
桐谷 ねぇ、キリカさん。あなた、明日からこの村をぶらついてみない?
キリカ ぶらつく? どうしてですか?
桐谷 私思うの。村の人達の意見を直接聞くのも、大切じゃないかなって。
青井 単純接触効果というやつですね。
キリカ なにそれ?
青井 人は、人と繰り返し接することで好意や印象が高まるんです。
キリカ あんたってさ、恋愛マニュアルの本とか読んで、その通りに行動するタイプ?
青井 なっ! あなたに僕の何がわかると言うんですか!
キリカ 女心は、マニュアルじゃわからないわよ。だいたい、個別訪問は法律違反なんでしょ。
桐谷 訪問しなければいいんでしょ。こんな狭い村なんだから、外を歩いていれば、誰かしら会うわよ。
月影 偶然会って話してるって体ですね。
キリカ 偶然って、何の話したらいいの。
梅田 良く言われるのは、政治と宗教の話はするなって。
雨雲 政治や宗教をテーマにしたら、クレーム来やすいからね。
キリカ そしたら、こんな芝居やってられないじゃないの。
雨雲 クレーム怖くて、芝居ができるかっての。
キリカ あんた、誰に言ってんの?
雨雲 いや、台詞に書いてたから。
キリカ 台詞って言っちゃダメ!
桜庭 私も言いと思うよ。やっぱ、私達移住者の事も知ってもらわないとね。
キリカ それじゃあ、咲良さんも行ってくださいよ。
桜庭 寒いの苦手だからパス。
キリカ 皆勝手だぁ!
青井 ここまで来たら、行動あるのみです。
キリカ でもさ、余計に悪い印象与えちゃったら?
青井 行動に失敗などありません。人は成功か失敗かの二者択一で考えがちですが、行動にあるのは、成功が成長なんです。
キリカ でた、また他人の名言。
青井 失敗例を出し、不安を煽ってアイデアや行動を止めさせるのではなく、成長を願って行動を後押しする事が大事だと、社長も言ってました。
キリカ 誰か、この意識高すぎ君を止めて。
青井 キリカさんって、どうしてそう全てに否定的なんですか。
キリカ どうしてって……どうしてだろう。
雨雲 ああ、あれだな。そういう人達の中に長くいたんだろ。文句って伝染するから。まぁ、努力しないで文句だけ言ってるほうが楽だし。人って楽なほうに流れるから。仕方ないよ。
キリカ フォローしてるの、けなしてるの?
雨雲 両方。
キリカ あんたは味方だと思ってたのに。
桐谷 でも、青井さんの言う通りよ。行動だけが未来を変えるんだから。
キリカ 桐谷さんまで。わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば!
舞台暗転。客席明かりがつく。赤木登場、客席へ
赤木 こんにちは。(天気の話題等、少しフリートーク)そういえば、もうすぐ村長選挙、ですよね。もう、どちらか決めましたか? あらっ、〇〇さんじゃないですかぁ? えっ、違う。あぁ、すいません。勘違いでした。そういえば、最近何か良い事ありました。(話を聞く)本当ですか、それは素晴らしい。そうだ、たまたま、本当にたまたまなんですが、私、こういった物を持っていまして(劇団のグッズ等を取り出す)これ、お祝いです。いえ、いいんですよ。まぁ、しかしあれですね。その代わり、投票はお願いしますね。あっ、どうせ、どっちに投票したかわからないからとか、思ってもダメですよ。こういう小さな村では、誰が誰に投票したかなんて、すぐにわかるんですから。
猪鹿村の外。そこに、キリカと雨雲登場。
キリカ あーぁ、本当。選挙なんて出るんじゃなかったわ。
雨雲 いや、考えれば考えるほど、前回の選挙で現職村長が当選したのって、奇跡だよな。
キリカ どういう事?
雨雲 一般的に人間ってのは年をとるほど変化を嫌うだろ。そして圧倒的に年寄りのほうが選挙に行く割合が多いわけだ。
キリカ そうね。
雨雲 政治家が票を集めようと思ったら、有権者に支持される政策を打ち出す必要があるわけ。橋本弁護士が2015年に行った大阪都構想の住民投票じゃ、2,30代は6割以上が賛成、4,50代も5割以上は賛成だった。でも、70代以上は6割以上が反対してた。20代の投票率は40%代、70以上は80%近く。そして有効票の多い70代以上の意見が通った。
キリカ 確か敬老パスが無くなるっていうデマで、年寄りが反対したんだよね。
雨雲 橋本さんは未来志向が強かったからな。
キリカ 未来の無い人達が、未来を決めているんだ。
雨雲 シルバーデモクラシーだよ。若い子が社会的に不遇なのも、結局は自分達が選挙に行かない事で招いてる。まぁ、自業自得だな。
キリカ じゃあ、どうすればいいのよ。
雨雲 方法は二つ。年寄りが死ぬのを待つか、若い人が選挙に行くかだ。
キリカ 年寄りが、若い人向けの政策を支持すればいいじゃない?
雨雲 現実的じゃない。自分の事より他人の事を考えろと強制はできないだろ。
キリカ じゃあ、どうやって今の村長は受かったんだろ。
雨雲 それが猪瀬京香って人の協力のお陰だとすれば、この選挙、勝ち目ねえな。
そこに、蝶野老人が登場。
キリカ あっ、おじいちゃん、ちょっとお話してもいい。
蝶野 おお。あんた、行成の娘やったとやね。討論会、見とったばい。
キリカ そ、そう。あのね、実は……。
雨雲 なぁ、じいちゃんはどっちに投票するんだ?
キリカ ちょっ! いきなりど真ん中のストレート!
蝶野 京香じゃな。
キリカ 打たれてるし!
雨雲 やっぱそうかー。
キリカ どうして、おじいちゃん、無料WIFIのお陰で助かってるって言ってたじゃない。
蝶野 行成のやった事では、助かっとる。村のもんも、便利になったって戻ってきたもんもおる。ばってん、余所者ば村に連れてくるとは、やりすぎたい。
キリカ なんで、村の人口が増えるのは、良いことじゃない。
蝶野 村には村の事情がある、人には人の事情があるようにな。人は誰しも、人には知れない、知られたくない心ば持っとるもんばい。人知れず思うふ心は深見草って言ってな。
キリカ なにそれ。
蝶野 ハッハッハ、まあ、今回の選挙は京香の勝ちじゃ。行成には悪かけど、この村ば余所者から守らないかん。
去る。
キリカ なんかさー、煙にまかれるって、こんな感じなんだろうね。
雨雲 まぁ、人の価値観はそれぞれだからな。
キリカ なんか、変な事言ってわね。深見草ってなんだろ。
雨雲 ググればいいじゃん。
キリカ 深見草……牡丹の事か。えっと、人知れず思う心は深見草 花咲きてこそ色にいでけれ。千載和歌集の歌だって。
雨雲 どういう意味?
キリカ 人知れずあなたを思う心は牡丹のように深いもの、それも花が咲いて隠せなくなってしまいました。だって。
雨雲 それ、恋の歌じゃん!
キリカ なんで、おじいちゃん、こんな歌を?
雨雲 ボケてんじゃない。
キリカ 人知れず、思う心、か。
雨雲 ほら、次行こうぜ。
アヤメ婆さん、登場。
キリカ おばあちゃん。少しお話してもいい。
アヤメ あらあら、あんたは行成の娘やなかね。隣におるとは、彼氏ね?
キリカ 違います。
アヤメ じゃあ、愛人ね。
キリカ もっと違います!
アヤメ はぁ、若い男女が二人でおって、恋人でも愛人でもなかとね、最近の若いもんは、つまらんのぉ。おぉ、これが草食系ってやつね。
キリカ 何か、私ディスられてる?
アヤメ わしの孫も、男ッ気が無くてのぉ、そうだ。あんた婿に来んね。
雨雲 僕、二次元専門なんで。
キリカ そっちかい!
雨雲 お孫さん、村に戻ってきたんだ?
アヤメ 昨年の夏になぁ、ほら、新しく村にできたやろ、テレ…テレ…テレクラ?
キリカ 九〇年代ですか!
雨雲 あぁ、テレワークね。
アヤメ そうそう、そこで働きよんしゃあ。
キリカ なにそれ?
雨雲 隣の糸島市でもやってるだろ。地方在住でもネットワークで仕事ができるテレワーク事業だよ。それで、村に戻ってきた若い人達もいるって
キリカ それじゃあ、おばあちゃん選挙はー
アヤメ わしゃあ、京香ちゃんに投票する。わしだけやなか、村のほとんどの女は、京香ちゃんの味方たい。
キリカ どーして?
雨雲 女性に嫌われてんだな。
アヤメ 行成はひどか男たい、二度も京香ちゃんば捨てて。
キリカ えっ?
雨雲 二度も?
キリカ どういう事ですか?
アヤメ どうもこうもなか。あん二人はな、昔こっそり、つきおうとったと。
キリカ そうなんですか!
アヤメ 二人は隠しとったばってん、こげな狭い村や。噂はすぐに広まる。猪瀬と山鹿、決して相いれない両家に育った二人は、まさにロミオとジュリエットやった。
雨雲 二つの家って、そんなに仲悪いの?
アヤメ この村じゃ、猪鹿交わらずというのが伝統たい。ばってん、わしはなぁ、陰ながらそんな二人ば応援しとったんよ。
雨雲 痴情のもつれ、しかも過去と今で二度目か、そう考えると、この選挙も違う側面があるのかもな。
キリカ それで、二人はどうなったんですか?
アヤメ 駆け落ち同然に村を飛び出した二人やったが、数年後、京香ちゃんだけ、この村に戻ってきたとよ。皆理由ば知りたがったばってん、京香ちゃんは何にも話さんやった。それから、行成が会社ば作ったことを噂で聞いた。なんでも、横文字のよくわからん事ばしよるって話やった。
キリカ それが、一度目ってことですね。
アヤメ 5年前の事や、父親が亡くなって、何十年ぶりに戻ってきた行成は、その翌年、村長選に立候補したとよ。村ば捨てた男が、いきなり戻ってきて村長になる事ができたとも、京香ちゃんが実家に逆らって、味方についたけんよ。
キリカ 逆らった?
アヤメ その時の村長は猪瀬玄爾。京香ちゃんの父親たい。選挙の翌年、病気で亡くなったと。
雨雲 じゃあ、親に逆らって昔の恋人の応援をしたってことか。
アヤメ それなんに、行成はこの村ば、自分の都合よかごと変えようとした。京香ちゃんは、変わっていくこの村の様子に、耐えられんやったとやろ。この村は、余所者ば受け入れる場所じゃなかとたい。
キリカ そんなに、余所者に来られて、困ることがあるんですか?
アヤメ それはなぁ……よぉ、わからん。
雨雲 なんだそりゃ。
アヤメ 昔は理由があったとやろうな。今では、言い伝えみたいなもんたい。
雨雲 そんなもんを律儀に守ってるのか、この村の人たちは
アヤメ 理屈はわからんが、理由はある。そげなもんやろ。相撲の土俵や、甲子園のバッターボックスに女が立てんのと同じたい。沖ノ島やらも、女の人が入ったらいかんて言われても、誰もちゃんとした理由ば説明はできんやろ。
雨雲 あそこは女の神様だから、嫉妬するからだろ。
アヤメ その女神様に会ったことあるとな? 誰か直接そう聞いたとな?
雨雲 いや、それは。
アヤメ 伝統なんて、そげなもんたい。まぁ、諦めて街に帰るとやな。
アヤメ、去る。
キリカ なんか、落ち込む。人に選ばれないのって、こんなに辛いんだ。
雨雲 1人くらい味方がいるって、ほら、今度は、あっちの人にも聞いてみようぜ。
キリカ あれ、あの人、何か見たことある
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