柊瑞希は青春コンプレックス

黒姫百合

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32話

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「うん。椿のことなんだけど別に文句を言いに来たわけじゃないんだ。どうしたの柊?」
「いや、なんでもない。ただ拍子抜けしただけ。てっきり一色絡みで文句を言われると思ったから」

 瑞希の拍子抜けした顔を見て首を傾げる帆波。
 椿のことで文句を言いに来たのではないなら、一体なぜ昇降口で瑞希を待っていたのだろうか。
 椿絡みということは間違いないのだが。帆波本人も言っていたし。

「違う違う。僕はただ柊に謝りたかったんだ。椿があんなこと言ってごめんなさい」

 帆波がここで瑞希を待っていた理由。
 それは、昨日椿が瑞希にしたことを謝るためだった。

「頭を上げて栗山。別にあなたに謝られる筋合いはないんだけど」

 冷たいように聞こえるかもしれないが、その問題は瑞希と椿の問題であり、別に帆波には関係ないし、帆波が口を挟むことでもない。例え、幼馴染だったとしてもだ。
 そもそも帆波と椿は、所詮幼馴染の関係でしかない。
 幼馴染がなにか相手にしたら、その幼馴染の幼馴染が謝罪する。
 それって普通におかしいのではないかと瑞希は思う。

「まぁー……そうなんだけど、僕の椿が柊に迷惑をかけたというか……」

 頭を上げた帆波は歯切れが悪かった。
 やはり瑞希は帆波のこの表現が気になってしまう。
 『僕の椿が』という表現が。
 どうして椿も帆波も、人を自分のものだと思っているのだろうか。
 基本人間は人間であり、物ではない。
 その言い方だと、その人は自分の『所有物』ですと公言しているようなものである。
 椿も、舞のことを『あたしたちの舞』とか言っていたし。

「そう言えば一色もそんな言い方してたな。『あたしの舞』とか言って。同じだな。別に金森はお前たちの所有物でもないし、一色だって栗山の所有物じゃないだろ。なのにどうして『僕の』とか『あたしたちの』って付けるんだ」
「いや……それは……」

 そのことを指摘すると帆波はまたバツの悪い表情を浮かべる。
 おまけに歯切れも悪い。

「別に私は気にしてないから安心してくれ。だからその代わり私にいちゃもんを付けるのを止めろってだけ伝えておいて。面倒くさいから」

 もしかしたら椿も帆波も、相手を所有物だと思ったり、自分が所有者だなんて思ったうえで発言しているわけではないのだろう。
 それに瑞希だって相手を物扱いしているからイライラしているのではない。
 なにかしら理由や屁理屈をこねて文句を言ってくるからイライラしているだけである。
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