楠葵先輩は頼られたい

黒姫百合

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第六十二話

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「……もう瞳ちゃんったら……分かったから一緒に行こう」
「そうだな。実乃里も一人だと大変だろ」
「はいはい、大変です」

 実乃里もだてに瞳の彼氏をやっていない。
 瞳がもっと実乃里と一緒にいたいと察した実乃里は、改めて瞳を誘う。
 その時の瞳は誰が見ても嬉しそうだった。

「あんまり重いと実乃里ちゃんに嫌われるよ」
「うるせー、実乃里はあたしを嫌わないから大丈夫だ」
「……もう……瞳ちゃんったら……」

 葵が瞳をからかうとすぐさま瞳は言い返す。
 瞳の惚気に実乃里は恥ずかしそうに頬を赤く染める。
 仲の良いカップルである。

「……羨ましいな……恋人といちゃいちゃできて」

 机に突っ伏したまま、愛音が呟く。
 しかし、その声はあまりに小さくて優は聞き取ることができなかった。
 その後、実乃里の部屋からコップを借りることができたおかげで、みんなに飲み物を配ることができた。

「それじゃー、みんな~かんぱ~い」
「「「かんぱ~い」」」

 葵の号令でみんなと乾杯した後、オレンジジュースを飲む。
 乾いた喉にオレンジジュースが染みわたる。
 一人でオレンジジュースを飲むより、みんなと乾杯してオレンジジュースを飲む方がおいしく感じるのはみんなとこの楽しい時間を共有しているからだろう。

「みんなたくさん買ってきたから食べて食べて」

 葵はコンビニで買ってきたチョコ菓子やスナック菓子をどんどん机の上に広げていく。
 スナック菓子はみんなが食べやすいようにパーティー開けをする。
 チョコ菓子は一つ一つが包装されているおかげで大人数でも食べやすい。
 大人数でも食べやすいものをチョイスして買ってくる葵は気が利く女の子である。

「中村さんは甘いのとビターなものどっちが好き?」
「私は甘い方が好きですね。もちろんビターも好きですけど」
「そうなのね。私も甘いものは好きだわ。それに勉強していると特に甘いものが欲しくなるわ。きっと脳が糖を欲しているのね」
「分かります。私も勉強した後とか疲れている時は甘いものが欲しくなりますもん」

 優は葵と他愛もない雑談で盛り上がる。
 葵は先輩だが、ほとんど気をつかわなくて話すことができるから本当に話していて楽しい。

「木村さんも食べて食べて。たくさん買ってきたから」
「ありがとうございます。では遠慮なく」
「ジュースもおかわりあるから遠慮なく飲んで良いからね」

 葵は愛音を孤立させないように自分から愛音に会話を振っていく。
 葵はよく周りが見えている。

「楠先輩って本当に頭が良いですよね~。教え方も上手いし」
「ありがとう。木村さんも呑み込みが早いかたこの調子で頑張っていきましょう」
「はいっ。赤点取らないように頑張ります」

 愛音はいつの間にか葵と打ち解けていた。
 愛音の社交的な性格は素直に凄いと優は感心する。
 優だったら一日で先輩とここまで打ち解けることはできないだろう。

「私が見る限り一年生三人とも赤点レベルじゃないから大丈夫。自信を持って」

 葵が言うなら間違いないだろう。
 なぜか優は葵の言葉を素直に受け取ることができた。
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