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第二章
それは、いずれ咲く華に水をやるように
メレンの激務とも言える業務に、アズキはこの一週間よく耐えた。
「副隊長っ! こちら先日不備の見られた部門からの返答です」
「はい。……なるほど。良いでしょうこちらで調査した分とほぼ合致しています。このまま進めるよう指示を」
「メレン副隊長。こちら地上の擬装用工場の補充用機材の見積もりとなります。最低限実際に稼働出来るだけの物となると、一から準備するとかなりの額になりますが」
「確認します。……ここの機材は確か別の支部で同じように擬装用として使われていましたね。そちらに連絡し譲ってもらえないか交渉してみましょう。上手くいけば大分予算を浮かせられます」
「メレンさん。こちらのこの箇所なんですが、ワタシが学園で教わったものと少しずれが」
「副隊長と呼びなさいアズキさん。ずれ……ふむ。そういう事ですか。これは魔法少女の認識を少し改める必要があるかもしれませんね」
朝からこうして多くの書類の是非を精査するメレンの傍らで、魔法少女としての視点から情報をすり合わせたり、
正午。食堂にて。
「はいスペシャル肉丼定食三人前お待ちぃっ!」
「いつもありがとうございます。さあ。昼休みは有限です。早速いただきましょう」
「いつもそうですけど、よくこんなに食べられますね」
「健全な精神は健全なる肉体に宿るという言葉があります。良い言葉だと思いますが、私ならこう続けます。そして健全なる肉体は、日々の食事から形作られるのだと。この食事も一見多いように見えますが、私にとって必要な分なのです。食事もまた業務の一環。アナタもしっかり食べておくように。食べられないというのなら置いて行きますよ」
「は、はいっ! いただきます」
ただでさえ一般人が食べるには多すぎるデカ盛り定食をいつも通り二人前平らげるメレンに追随し、必死に自分も目の前の肉と格闘したり、
午後二時。施設内某所。
スパ~ンっ!
「ぐおっ!? 痛って~っ!?」
「そこのアナタ。業務中にそういった本を嗜むのは感心しませんね。読むのなら業務外に自室で読むように。それとそこのお二人。速やかに今テーブルに隠した物を提出しなさい。……カードですか。賭け事はしていないようですが、そもそも業務中に遊ばないように。これらは全て没収します。アズキさん。回収を」
「はい。……すみません。どうかこちらの箱に」
「ちっ。ちょっとくらい大目に見ろってんだ。アズキちゃんも大変だわな。こんな融通の利かねぇ副隊長様のお付きだなんてよ」
「ははは……」
今日も見回り中にこっそり大人向けの本を嗜んでいた職員を張り倒すメレンを横目に、不満げにカードを差し出す職員に少し同情されたり、
午後四時。会議室にて。
「当然アズキさんには本来の対悪心アドバイザーとしての業務もこなしてもらいます。こちらのリストはこれまでこちらで確認された悪心のデータです。悪心には通常兵器の効きが悪いというのが定説ですが、これまでの戦闘を見るに全く効かない訳でもありません。また施設の戦闘部隊でも怪人化可能の者を主軸に据えれば充分撃破可能です。今回はこれらのデータを元により効率的な対処法を模索しましょう」
「あの、本来その悪心への対処法こそが魔法少女で」
「それはこれまでの話です。良いですか? そもそも先日のような悪心の大量発生が起きた以上、これまでのような魔法少女の運用では確実に手が回らなくなります。ならば取る手は二つ。単純に魔法少女自体の向上を図るか、それ以外の一般人でも対処出来るようにするかです。撃破しなくても良い。最低限の足止めだけでも出来るようになればそれだけ運用の幅は広がります。アナタは大切な人だけに要らぬ苦労をさせる気ですか?」
「……っ!? ……そうだ。皆が自衛出来るようになれば、それだけコムギの負担が減る。誰かを守ろうと無茶をしなくても済む」
「その通りです。さあ。その為に一つずつ目の前のリストに目を通していきましょう。これには最も悪心との戦闘経験が豊富なアズキさんの知識が必要なのです」
「はいっ!」
少しでも悪心への手札を増やすべく、メレンの熱弁にやる気を引き出されたり、
「あのねぇ。あんたいくら何でも子供相手にやり過ぎなんだってのっ!? もうアズちゃんがフラフラじゃない。これ以上無茶させるようなら医者として」
「甘い。子供だからなんです? 年齢など些細な事。評価に値するのは能力と意欲と行動のみ。そして……なによりも本人が無茶を望んでいるのです。そうですねアズキさん?」
「……はい。すみませんジェシーさん。ワタシ、ここで諦めるつもりないですから」
「アズちゃん…………分かった。でもあたしがこれ以上は本当に無理だと判断したら、無理やりにでもドクターストップをかけるからね」
メレンとジェシーが言い合う中、心配されながらも続ける意思を見せたりと、アズキは必死にメレンに食らいついていった。そして、
午後七時。訓練室。
「はああっ!」
「どうしました? その調子ではいつまで経っても私に有効打を決める事など出来ません。よろしいですか? 私が思うに、アナタの動きはまあまあ優れています」
アズキの振るう長剣を事も無げに蹴撃で受け止め、メレンは片足立ちのまま身じろぎせずに語り始める。
「剣閃は鋭く、身のこなしもここの職員と遜色なく、戦意も静かさと熱を併せ持った稀有な物。このまま育てば間違いなく一流の戦闘者になるでしょう。ですが、アナタには致命的に足りない物があります」
そう言い終えるとメレンは急に力を緩め、一瞬剣から脚が離れたタイミングで身体ごと沈み込むように体勢を低くし、そのまま大鎌を振るうようにアズキの足を払う。
咄嗟に軽く飛んで足払いを回避するアズキだが、そこへメレンが地面に突いた両腕をばねのように使い、身体ごと回転するように蹴撃の軌道を変更。
下から伸び上がるようにメレンの蹴りがアズキの剣を弾き飛ばし、そのままアズキの顔面すれすれまで伸びて急停止する。
「悪心相手ではなく、対人の戦闘経験です。アナタの居た学び舎では対悪心の戦い方のみを教えていたのでしょう。そしてそれは相手が獣や知性なき現象だけであれば問題はないでしょう。しかし、それだけでないのはアナタも知っている筈」
アズキの脳裏に浮かび上がるのは、自分やコムギへの人の悪意。先輩からのやっかみや、一般からの過剰な期待。そして……自らの母の事。
「魔法少女として大衆の正義を守る事は大いに結構。しかしもっと悪を知り、悪を修め、悪辣になるのです。この世にある数多き悪意から、自らの最も大切なモノを守るために。……アナタには、間違いなく悪の適性がある」
メレンはそう言って脚を静かに下げ、くるりと背を向ける。そのまま静かに出口へ歩き出し、
ブオンっ! ガキンっ!
そのまま背に切りかかったアズキの斬撃を、背中越しに腕で受け止めた。
「まだ、試合終了と言ってもシミュレーションを切ってもいませんでしたから……これで良いですか?」
「ええ。大変結構です」
未だ鋭い戦意をぶつけるアズキに対し、メレンは普段の微笑みではなく、獰猛な獣の笑みを浮かべて称賛した。
◇◆◇◆◇◆
順調にメレンなりの悪の教育(某スペシャルハードコース並)が進んでいるアズキでした。なお、これに一週間ついていけているだけでも多少評価はされています。
評価
メレン→アズキ
貴重な邪因子持ちの魔法少女 +10点
戦闘能力は予想より伸びる素養アリ +10点
親が政府高官なので使い道はある +30点
施設の職員達との関係性はほとんどの職員と良好 +10点
元魔法少女の視点から悪心に対しての意見と対処案をきちんと出した +5点
一週間諦めずについてきた +5点
悪としてきちんとわざと見せた隙を見逃さずに打ち込んできた +5点
XXXXXXXXXXXXX隊長をXXXX。ただし、最近は隊長のXXがXXXXXXになってきたので減点を控えめに。 -95点
以上合計-20点。現状評価に能わず。
後日実施予定の特別任務にてさらにその能力と行動を見極める予定である。
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