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第三章 ダンジョン抜けても町まで遠く
用心棒と調査隊
しおりを挟む「ささっ! 何を置いても身体は資本。そして身体を作るのはまず食から。どうぞお召し上がりください!」
俺達の目の前には、肉も野菜もたっぷりでホカホカと湯気を立てるスープが置かれていた。
「悪いなゴッチ。飯までご馳走になってしまって」
「いえいえアシュ先生。急場故これくらいのもてなししか出来ませんが。皆様もどうぞご遠慮なさらず」
「ど、どうも。ありがとうございます」
ダンジョンでの食事とは雲泥の差。なんなら給仕でも付けましょうかというほどのもてなしを前に、あまりこういう事に慣れていない俺は緊張しっぱなしだ。
「…………美味しいわね」
エプリは緊張などどこ吹く風で普通にスプーンを口に走らせている。そこはもうちょっと遠慮しようよ。あと普通に食べる所作が綺麗なのが不思議だ。
さて、俺達が何故こうなっているかと言うと、時間を少し遡る。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンから出て少しした所で、砂埃を巻き上げながら近づいてくる謎の集団。それに対して、
「エプリの嬢ちゃんとトキヒサは、ジューネとバルガスを連れて隠れてな。俺がまず話をしてみる」
「何を言うのですかアシュ!? 私も一緒に行きます。交渉事なら私が居なくてどうしますか!」
「……分かったよ。じゃあジューネは俺と一緒に。いざとなったら護りながら逃げるくらいは出来るさ」
そんな経緯があり、俺達は言われた通り近くの岩陰に身を隠す。そのまま少しそこで待っていると、
「……何だあれ?」
見えてきた謎の集団は全部でざっと三十人と少し。大半が揃いの濃い緑色の制服を着て馬に騎乗している。馬もただの馬ではなく、尾がいくつも生えていて額から角らしきものが見えるものだ。ユニコーンの親戚か?
集団はアシュさん達を見つけたらしく、指揮官らしい人が馬から降りて向かっていく。これから何が起こるのかとひやひやして見ていると、
「……えっ!?」
なんと互いにがっしりと握手したのだ。アシュさんはそのまま何か話したかと思うと手を離し、ジューネと共に俺達が隠れている方に向かって歩いてきた。
「もう大丈夫だ。話はついた」
「まったく。心配して損しましたよ」
「あの、何が何だかよく分からないんですけど、あの人達はアシュさんの知り合いですか?」
気楽な態度で言うアシュさんと、どこか拍子抜けした感じのジューネ。二人だけで納得してないで説明してほしいのだが。
「それが奇妙な偶然がありまして……あの人達は私達が情報を売りつけようとしていたダンジョンの調査隊です」
「あと隊長のゴッチは俺の知り合いだな。飲み友達だ」
調査隊って町にいるという話じゃなかったっけ? あと飲み友達って何? 俺は頭の上にはてなマークを浮かべながらも、まあ早く合流できたのは良い事かと前向きに考える事にした。
「おおっ! あなた方がアシュ先生のご友人で?」
よく分からないまま俺達は調査隊の隊長さんと引き合わされた。隊長と言うにはまだ若く二十代半ばくらいだろうか? 人の好さそうな顔をしていて優しそうな印象の人だ。……というかアシュ先生って?
「この度ダンジョンの調査隊長を任じられました、ゴッチ・ブルークと申します。アシュ先生には大変お世話になりまして、この度お会いできて嬉しく思います」
隊長さん……ゴッチ隊長は、ビシッと姿勢を正してこちらに敬礼する。見れば他の調査隊の人達も同じくだ。アシュさん一体何したの?
「少し縁があってな。一時期剣や体捌きとかを教えたことがある。……よく見たら今回の調査隊はあの時の奴らばかりだな。お前ら元気にしてたか?」
「「「はいっ! 先生!」」」
なんか物凄く慕われている。しかし先生って……アシュさん二十歳くらいの見た目だけど、調査隊の人達明らかに年上の人も結構いるんだよな。どうにも違和感がある。
アメリカとかだと実力主義だから年齢関係ないかもだけど、異世界もそんな感じかね?
「しかしゴッチが隊長とはねぇ。場所的に来てもおかしくないとは思っていたが、順調に出世しているじゃないか」
「先生の薫陶の賜物です。短い期間ではありましたが多くを教わりました」
肩を組んで笑いながらそんな事を話しているけど、その合間合間にアシュさんがゴッチさんの背中をバンバン叩いている。微妙に隊長が痛そうな顔をしているのでそろそろやめたげて。
「アシュ。もうそろそろ」
「おっと。つい知り合いに会ったもんで嬉しくてな。悪い悪い」
アシュさんはそう言われて姿勢を正すと、ゴッチさんに向き直って少しだけ真面目な顔をする。
「ゴッチ。紹介するぜ。まず今の雇い主のジューネ。それとこっちが途中で知り合ったトキヒサとエプリ。それとそこの荷車で寝ているのがバルガスだ」
「ジューネと申します。しがない商人をしています。何か入用な物があれば是非ご一報を」
「トキヒサって言います。どうぞよろしく」
「……エプリよ」
順々に紹介される中、ゴッチさんも一人一人よろしくと握手していく。第一印象通り良い人みたいだ。そして極めつけは、
「……あまり利き腕は預けたくないの」
とどこぞのスナイパーみたいなことを言って握手せず、おまけにフードを被ったまま思いっきり失礼なエプリの態度にも怒らない。それどころか「私が何か気に障るような事をしてしまったのでしょうか?」なんてこっそりアシュさんに聞いていたりする。
バルガスを見た時なんか「かなり衰弱していますね。大丈夫。部隊には腕の良い薬師も同伴していますからすぐに診てもらいましょう」と言って調査隊の人を呼んできた。かなりレベルの高い良い人だよ隊長。バルガスもこれなら一安心だ。
「ところでゴッチ。新しく見つかったダンジョンについてなんだが」
「はい。……もしや先乗りしたんですか先生! 確かに前情報があれば助かりますし、先生ほどのお方であれば問題ないとは思いますが、我々にも段取りと言うものが」
「それについては私から説明します。……よろしいですか?」
ゴッチさんの言葉にジューネが割り込む。交渉事は自分がって前から言ってたからな。その際こちらの方をチラリと見てくる。
コアの事で一番話を聞いているのは多分俺だろうから、説明するのも俺でなくて良いのかという事だろう。俺は構わず進めるようにという意味を込めて目配せする。
「少々お待ちを。こんな所で立ち話もなんですので、先にそのダンジョンの近くまで行って陣を張りましょう。先生。大変恐縮ですが、陣を張るのに適した場所を知っていたらお教えいただきたいのですが」
「分かった。丁度来る途中に良い場所が在ったからな。先導するぜ。……すまないが乗り物を用意してくれるか? 怪我人や疲労困憊な奴もいるんだ」
「それなら輸送用の馬車があります。多少揺れますが布を敷けば大丈夫かと。中も余裕を持って空けてあるので皆さん全員が乗っても問題ありません」
そう言って準備されたのは大きい幌付きの馬車。大型トラック並みの大きさで、御者席には馬が四頭も繋がれている。それも速度重視というより持久力重視のゴツイ奴ばかりだ。
「さあ皆様どうぞ中へ。先導していただく先生には予備の馬をお出しします」
アシュさんは貸し出された馬に颯爽と跨がる。元々顔立ちも整っているから中々に絵になるな。
そして俺達は調査隊の人に手伝ってもらいながらも全員馬車に搭乗した。中は少し荷物でごちゃついていたが、ちゃんと固定されているようで安心だ。布を敷いてもらい、それと一緒にラニーという薬師の女性が同乗してバルガスの診察を始める。
起こされたバルガスは最初は戸惑っていたが、今は満更でもなさそうな顔だ。ラニーさん結構美人だもんな。十人に聞いたら七、八人は美人って答えるくらいの整った顔立ちだ。
「では出発しましょう。先生。お願いします」
「分かった。よっと!」
アシュさんが軽く手綱を握って足で合図すると、馬はまるで嫌がりもせずにそのまま走り始めた。
それに続いて隊長を筆頭に調査隊の人達も出発する。合わせて俺達が乗っている馬車もだ。殿に調査隊の人が数人いて後ろへの警戒も怠っていない。これなら盗賊が来てもよほど大規模でなければ襲われないと思う。
「うわっと!? 初めて馬車に乗ったけど、やっぱり結構揺れるな」
「……そう? 布もあるし大分揺れも少なめだと思うわよ」
「そうですね。乗合馬車にはよく乗りますが、この馬車は相当乗り心地が良い方ですよ」
俺達はのんびり馬車の旅をしていたが、どうにもガタガタと揺れるのは落ち着かない。地球の乗り物がいかに乗り心地が良いかよく分かる。それにしても、
「さっき出たばかりなのにすぐとんぼ返りとは……なんか顔が出しづらいな」
まだダンジョンコアと別れてからそんなに経っていないからな。さっきあれだけ見送りをしてもらった身としては居心地が悪いというか。いや、またなって言っておいたから行くのは当然なんだけど、話が急展開すぎて何が何だか。
「そう言えばジューネ。予定が変わったけどこれからどうする? 交渉はこの人達相手で良いのか?」
元々の予定では、交渉は調査隊の人達だけではなく何人か町の有力者を交えて行うつもりだった。まあジューネの人脈の広さは商人だからだとして、それが調査隊の人達だけに話をしては問題があるんじゃないだろうかと思ったのだが、
「元々有力者を呼ぶのは、相手が信用できない相手だった場合有力な証人が必要だった為です。しかしアシュの知り合いであればそれなりに信用できますし、話す予定だった相手には後でまた話を持ち掛けるので問題ありません」
それはそれで大丈夫なんだろうか? バルガスの方を見ると、ラニーさんの診察が終わって何か薬をもらって飲んでいた。
「かなり衰弱していたので体力回復用の薬を出しておきますね。怪我の類はなさそうですが、まるで飲まず食わずで数日動き続けたみたいに疲労が溜まっています。何があったのかお話を伺えませんか?」
流石薬師。少し診察しただけでかなり細かい所まで把握していた。実際バルガスは凶魔になって二日間ダンジョンを彷徨っていた可能性が高いからな。身体に負担がかかって当然だ。
「ジューネ。話すけど良いよな?」
「今回は人命優先ですからね。情報の拡散は痛いですが仕方ありません」
人が凶魔化するなんて情報通のジューネでも知らなかった。つまり一般には知られていない。それをホイホイ喋るのは色々と問題があるが、しかし何も言わずにこのままバルガスに何かあったら大変だ。
一応これから交渉するジューネに確認を取るが、何だかんだで利益よりも人命を優先するのは助かった。俺はバルガスがダンジョンの中で凶魔化していた事をラニーさんにかいつまんで説明する。
「そんな事が……にわかには信じられません」
まあそれが普通の反応だと思う。あれは実際に目の前で見ていないと信じられない。ラニーさんは困惑していたが、何度も説明してあくまで仮定の話として受け止めてくれたようだ。
「仮に本当だとしたら、なるべく早く町に連れて行って綿密に身体を調べた方が良いかもしれませんね。疲労は回復できても後遺症が残っては大変です」
「それについてもあとでゴッチ隊長と話し合います。ですのでこの事はその時まで伏せていただきたいのですが」
ジューネの言葉をラニーさんは快く承諾してくれた。職業柄相手の秘密を知ってしまうことが多い分、秘密の漏洩にはとても気を付けているらしい。
少しほっとして、俺達はこれからのことを話し合った。交渉の内容の確認。話の持っていき方。最悪交渉が失敗した時の別案も。そしてそのまましばらくすると、
「見えてきたぞ。あそこなら大丈夫だろう」
先導するアシュさんの声がこちらにまで聞こえてきた。どうやら陣を張る場所に着いたようだ。終わったらそのまま交渉だからな。頑張ってくれよジューネ。
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