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第五章 塵も積もればなんとやら
昔話の真実
しおりを挟む「……はぁ。分かったよ。そこの言い合いは時間が無いからひとまず置いとこう。……ひとまずだからな。またその内蒸し返してやっからな」
アンリエッタとのあまり実入りの無い口喧嘩の後、互いにハアハアと肩で息をしながらどちらともなく休戦する。
あくまで休戦だ。終戦じゃないからな。
『賢明な判断ね。それでこれからの事だけど、向こうからの妨害には目を光らせておくからもうちょっかいを掛けるって事はないと思うわ。……向こうの手駒に直接妨害を受ける可能性はあるかもだけど』
「襲撃に気を付けろってことか。その点はこっちには頼れる護衛がいるから大丈夫だ。にしても……課題が被ってないなら手を組むとか出来ないのか?」
『どうかしら。一応参加者の方に意思決定権があって、担当の神はそれぞれアドバイスくらいしかできないってルールなんだけど……正直神の側が主導権を握る方が多いと思うのよね。ワタシみたいに控えめな神ばかりじゃないから』
どこが控えめだと声を大にして言いたいが、そこはぐっとこらえて先を促す。
『だからあっちから妨害をしてきた以上、敵対の意思があると思ってほぼ間違いないのよね。少なくともそこの陣営と仲良くなるのは難しいわね。これまでの慰謝料をきっちり払った上で、無礼を泣いて謝って同盟を結んでくださいと言うんだったら考えなくもないけど』
「つまり同盟の目はほぼ無しと。じゃあそこの参加者の情報とか分かるか? 男だとか女だとか」
『互いの選んだ参加者の情報は一切なし。だから向こうもアナタの姿までは知らない筈よ。そういう加護かスキルを持っていなければだけど。……大体こんな所かしら』
アンリエッタはそこで話を一度打ち切る。見ればもう通信時間ギリギリだ。また後でかけ直そう。
「そうだな。一度考えをまとめるから、十五分くらいしたらまた連絡するよ。今度はこっちからも聞きたいことがあるからな」
『分かったわ。じゃあまたね。ワタシの手駒』
そうして一度目のアンリエッタとの通信が終わった。ふぅ。妨害してきた相手が分かったのは進歩だけどこれからどうしたもんか。
俺が横をチラリと見ると、エプリはしっかりと今の会話を聞いてくれていた。
「……何?」
「いや。何でもない。それじゃあさっきの話のまとめといくか。エプリも気になったことをジャンジャン言ってくれよな」
これまで一人で考えるばかりだったけど、今回からは一緒に考えてくれる人が居る。それだけでこんなにも安心感が有るものなんだな。
「まず今の話では分かったのは、以前妨害してきたのが七神教の神様の一人ライアンである事。それと今回参加者を担当している神様連中も、それぞれ一番になったら賞品が出るって事か。それも神様でも欲しがるような何か。まあ大きなのはこの二つか」
「……それよりまず、アナタ知らない誰かから妨害を受けていたの? 初耳なのだけど」
「ああ。言ってなかったっけ? そもそも妨害が無かったら、普通に『勇者』として国の人に迎えられていたと思うぞ。まあ妨害で牢獄行きになったからこそ今ここに居るという事でもあるけどな」
「……契約内容を見直した方が良いかもしれないわね。状況が大分変ったから」
げっ!? そういえばエプリは契約内容に物凄くキッチリしてるんだよな。故意ではないとは言え、これは依頼内容に嘘を吐いたってことになるんじゃないだろうか?
もしや契約打ち切りとかか? これまでの報酬まとめて払えって言われても今は無理だしなぁ。
「報酬の支払いはもう少し待ってくれると嬉しいんだけど」
「……? 別に言われなくとも、解呪師の所に着いて解呪するまでは待つわよ?」
エプリはキョトンとした様子でそう答える。ほっ。どうやら急に打ち切りということにはならなそうだ。当初の予定通りもうしばらくは付き合ってくれるらしい。
「じゃ、じゃあ契約内容についてはひとまず置いといて、まずは今の話について考えていこうか。何か気になった事は?」
「……そうね。そのゲームというのは七人の参加者がいるってことで良いのよね。それでそれぞれに一柱ずつ神がついている。単純に考えれば、七神教の神がそれぞれついていると思えば良いのかしら? ……あんな子供が本当に女神アンリエッタだと認めることになるけど」
「……まあアレが神様だと認めづらいのは分かるけどな」
神様ならもう少し神様らしくしてほしいが、アンリエッタは見た目がただの偉そうなお子様だしな。
あんなのが神様ですと言われても、世の大多数の人が認めないだろう。……まあ美少女というか美幼女だから、ロリが好きな方々からは崇められるかもしれないが。
「私はあまり信仰心がある方ではないからまだ良いけど、ヒトによっては卒倒するかもしれないわね。アンリエッタ派のヒトは特に。……いや。それ以前に信じないか」
「もっともだ。七神教の神様についても聞いておきたいところだけど……それは時間がある時に聞いた方が良いか。エリゼさん辺りなら喜んで話してくれそうだしな。あとは賞品の事だったか?」
「……こちらに関してはまるで浮かばないわね。神が欲しがる……信仰とか?」
「どうだろな」
普通権力者とかが欲しがると言ったら金、力、女辺りが相場だ。不老不死も欲しがるかもしれない。
しかしどれもアンリエッタに当てはまるかと言うとピンと来ない。……金は欲しがると思うけど、ここまで手間暇かけなくても自分の力で手に入れれば良いだけだしな。
その後も話し合ったが、結局アンリエッタの欲しがる物はどうにも思いつかなかった。直接聞くという手もあるが、あの調子だと話すとは思えない。しばらくこれは保留にした方が良さそうだ。
「そろそろ時間だけど……次の質問は決めているの?」
「ああ。ちょっと気になっていることがあってさ。試しに聞いてみようと思ってるんだけど……エプリからも何か聞きたい事あったか?」
「……まあね。でもトキヒサが思いつかなかった場合に聞く程度だったから問題ないわ。それに……これからもどうせ一緒に聞いていてくれと言うのでしょう?」
流石に眠る前という事でフードを外しているエプリが、分かってると言わんばかりに口元をニヤリとさせる。むっ!? 読まれてたか。
「そうだな。じゃあ今回は譲ってもらうか。次も付き合ってくれよ」
そう言いながら、俺は再びアンリエッタへの通信機を起動させた。
『時間通りね。まあこのワタシを待たせたりしたらキッツ~イ罰を与えるけど。次回から換金の度に千デン取るなんてどう?』
「手数料が暴利すぎるっ!? まあそうなると課題に影響がありまくるから勘弁な」
開始早々とんでもないこと言い出すアンリエッタだが、まあそこは会話を進めやすくするための冗談だろう。……冗談だよな?
『それで聞きたいことって何? ワタシの望む賞品についてでも聞きたいのかしら?』
「それも聞きたいけど……どうせ教えてくれないだろ? 課題を進めてアンリエッタの機嫌が良くなった時にでもまた聞くさ。ポロリと漏らしてくれることを期待してな」
『へえ。じゃあ何が聞きたいの?』
アンリエッタは余裕の表情。今ならそれなりの質問も答えてくれるだろうか?
正直言ってこれを聞くべきかどうかまだ少し悩んでいる。課題に直接関わりはないし、場合によってはアンリエッタの地雷を踏み抜く事になりかねない。
だけど……ある意味で俺個人に関わるかもしれないからな。エプリもいるし、ここが聞きどころなのかもしれない。
「単刀直入に行くぞ。今日エリゼさんの教会で聞いた読み聞かせ。あれは本当のことか?」
『ああなるほど。そっちね。……本当よ。それなりに美化と脚色が入ってはいるけどね』
アンリエッタは一瞬考えて、そのまま何でもないように答えた。動揺している様子もない。大筋はあの話の通りってことか。
「じゃあ次の質問だ。……正直な所悪い神様と戦った理由は? ここの人達が困ってたから……なんて殊勝な理由で動くなんて奴じゃないだろ? 少なくともアンリエッタは」
『当然ね。強いて言うなら……ゲームに必要だったから。とだけ言っておくわ』
その言葉を聞いて、そんな昔から準備してたのかという驚きと、微妙に知りたくなかった歴史の真実を知ってしまったという何とも言えなさを感じる。スケールがデカすぎてもう腹いっぱいだ。
『まあ間違いなくこの世界のヒトにとってアイツが邪神だったのは確かだし、行動を改める気が無かったのも事実ね。話し合いで済めば一番良かったけど、向こうから襲いかかってきたんじゃ迎撃せざるを得ないわよ』
「実はわざと挑発してたりとか?」
『そんな事しないわよっ! 神同士の戦いは基本御法度なの。ゲームや代理決闘くらいなら良いけど、ルールを破って直接襲ってきたのは向こうよ』
まあ一応本当だと信じよう。アンリエッタがそこまでゲスいやり方をするとは思いたくないし。だけど、最後にこれだけは聞いておかないといけない。
「最後の質問だ。……その話、もしかして『勇者』が関わっていたか?」
『…………!?』
ここで初めてアンリエッタは俺の言葉に沈黙で返した。その反応で大体分かったよ。当たっててほしくなかったけどな。
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