60 / 89
第三章
雑用係 首領様にパシらされる
しおりを挟むさて。突然だが、この試験は道具の持ち込みが許可されている。
例えば武器。これは幹部級になると邪因子の関係上、生半可な重火器より自分の身体の方が速くて強いという場合があるので使う者は極端に減るが、候補生の内は牽制や威嚇の為に持つ者もそれなりに居る。
例えばロープやフック等の道具。これは試験で何をするか知らされていない以上、様々な状況に対応するべく持ち歩く者は多い。武器として転用する者も居る。
そして……食料。これに関しては試験の時間的に考えて、ほぼ全員が事前に用意している。ただしこういう場合いかに嵩張らないか、いかに栄養を重視するかに重点を置くため、どうしてもカロリーバーやゼリーと言った物が大半だ。……なので、
パクッ! パクッ!
『ムフ~! この炊き込みご飯美味し~! こっちのコーンのかき揚げも甘くて良い! それになにより……オジサンの卵焼きは最高っ!』
『ほう……お野菜たっぷりでヘルシー。それでいてボリューミーさを残し、食べたという実感を持たせる逸品。意外とダイエットに向いているかもしれませんわね。……ですがうちのメイドたちの用意したこのスペシャルサンドイッチも負けてはおりませんわ!」
画面の中でピクニックよろしくシートを出し、その上で弁当箱を広げて昼食を摂るネル達は、少々全体では浮いている方だと思う。
まあ俺のせいでもあるんだけどな。
どうにか森を抜け、次のチェックポイントを目前としたネル達。それが課題に挑む前に食事休憩を取るというのは別に間違っていない。
ただ試験中なのに思いっきりピクニック風になってしまった事が問題なだけだ。
『いやおかしいでしょっ!? なんでアンタら普通に森の木陰でランチタイムやってんのっ!? 一人だけカロリーバーを持ってきたボクおかしくないよねっ!?』
一応常識人のピーターが突っ込みを入れる。場所が場所だけに尚更旅行感が強い。
いや、聞こえてはいないが俺からも弁解させてほしい。これに関しては俺も最初はネルに栄養補助食品系を勧めようとした。
だがネルに「ヤダヤダ! 最近はもう錠剤だけじゃ全然満足できないんだもん! オジサンのご飯がなきゃヤダ!」と駄々をこねられ、その後で手作りのデザートも要求されたのだ。
ホントに以前の「栄養? 錠剤で良いじゃん」と言っていた頃とはえらい違いだ。……あの頃よりかは些かマシな顔つきになったので良しとするが。
『まあまあ落ち着きなさいませリーダーさん。貴族たる者、試験の最中であろうと優雅にあらねばなりません。それは食事時であろうともですわ。よって栄養補助食品などではなく、ちゃんとした昼食を摂ることは必須ですのよ。……リーダーさんも紅茶はいかが? まだ余分がありますわよ?』
『そうだよピーター。もぐもぐ。それだけじゃお腹が減るよ。ガーベラにちょびっと分けてもらいなよ! ……あたしのはあげないけど』
『……はぁ。ここまで予想より邪因子の消費が激しいし、カロリーバーだけじゃ厳しいか。じゃあ……お言葉に甘えて』
もうこれは素直に混ざった方が良いと、ピーターもカロリーバーを齧りながら湯気の立つ紅茶を貰う。
しかし決して警戒していない訳ではなく、時折ピーターが周囲を窺ったりガーベラが数本の髪を周囲に張っていたりする。ネルだけは何が来ても対応できるという自信からか自然体だったが。
そして、それを画面で見ていた俺はというと、
「遅いぞ雑用係」
「そうだよぉケン君。この上級幹部を待たせるなんてよろしくないんじゃない……むぐっ!?」
「ほらっ! 頼まれてたオレンジジュース。それにお前は元々ガーベラ嬢とお揃いのサンドイッチがあるだろうがっ!? ……お待たせしました首領様。こちらご所望の品。とりあえず焼きそばパンとメロンパンとホットドックと……まあ一通り買ってきました」
首領様の使いっ走りをしていた。それというのも、
「……ほぉ。つまりは知らぬ事とはいえ、あの者達に事前に課題と同じ訓練をしてしまったと?」
「仰る通りです」
俺は首領様の前で静かに正座してそう答えた。
確かに昔、雑用係の仕事で一部の職員の訓練に付き合ったことがある。そこでも今回と同じ訓練をやったので、それを参考にしたという事だろう。まさかこんなピンポイントで被るとは思っていなかったが。
しかし偶然とはいえ、事前に試験の内容そのままを教えるのは不正行為。候補生が自分で突き止めるならそれは悪の組織として正しいので問題ないが、普通に教えてしまってはマズイ。
よって先んじて頭を下げて、あくまでこちらの失態でネル達の責任ではないという風に持って行こうとしたのだが、
「……フフッ。まったくこの堅物め。何を慌てることがある。偶然課題と同じ物を訓練した。運が良かった。ただそれだけの事であろうよ。別に咎めもしないし責も問わぬ」
「……感謝します」
首領様はニヤニヤと笑いながらそう鷹揚に返し、俺は再び深く頭を下げる。
まあ首領様の性格上流してくれる可能性が高いとは思っていたが、それはそれとしてきちんと詫びておかないと後々責められるネタが出来るんだよ。
「だが……あれだな。責は問わぬが、それではお前も納得すまい。そこでだ。丁度ワタシは小腹が空いている。今の気分は上品な料理より、手で持って齧り付くような……そう。そこらの店で売っているパン等が良い……後は分かるな?」
「じゃあついでに私も飲み物を! オレンジジュースをよろしく!」
「お前は自分で買いに行けよレイっ! かしこまりました首領様」
という事で代金俺持ち(首領様なら全部タダだが、それでは罰にならない)でパシリを務める事になった訳だ。
まあ別に罰じゃなくとも、首領様の頼みとあれば大抵の事は普通に引き受けるが。無茶ぶりでなければ。
「フフッ。時間があれば、お前に手料理などを作らせて久方ぶりに楽しむという手もあったのだがな」
「お時間を頂ければご用意しますが、今は試験中ですのでご容赦頂ければ」
「分かっているさ。またいずれな」
そう言いながらパンに齧り付く首領様なのだが、
ポロポロ。ポロポロ。
「ああもうっ!? メロンパンを食べる時はもう少し気を付けてっ!? 皮がこぼれてますよっ! それと歯に焼きそばパンの青のりが付いてます。後で歯磨きをする事を勧めます」
「う、うむ。まあ良いではないか。床は後で掃除しておけ」
首領様ときたら、いくらレイの認識阻害で見えないからってすっかりオフモードになってだらけてる。カリチュマ全開だ。
まあオフの状態を知っている俺とレイ、及び近くに潜んでいる護衛の一部しか見えていないからこれであり、誰か一人でもそれ以外が居たらすぐにまたビシッとするのだが。
そうして和やかなネル達の食事風景を見ながら、こちらものんびりと買ってきたパンに齧り付いた。
「そう言えば雑用係よ。あのアンドリューとかいう幹部候補生。お前が以前幹部に昇進するかもしれないと言っていた者の一人ではないか?」
もしゃもしゃと食べていると、ふと思い出したように首領様がそう声をかけてきた。
「はい。ガーベラ嬢と並んで、俺が見る限り運が良ければ昇進できると判断した者の一人です」
「え~っ!? そうかなぁ? 流石にマイハニーと並べるにはちょっとあれじゃない?」
「お前はガーベラ嬢に肩入れしすぎなんだよ。単純なスペックだけ見ればアンドリューは大体同格。こと邪因子量と単純な身体能力だけなら上だ。どちらもあのクソガキには劣っているが、そっちには頭脳戦では圧勝できるしな」
俺は憤慨するレイを嗜めながら首領様にもう一度以前のように報告する。
「将としても兵としても傑物。個人の戦闘力も高く、頭も切れる。昇進は十分あり得るでしょうね。……運が良ければ」
「……? ちょいちょいさっきから運って挟んでくるね。今回の試験ってそこまで運に関わることあったっけ?」
レイの疑問に俺は静かに首を振る。
「いいや。そうじゃない。ガーベラ嬢に関しては彼女の気性に合うチームメンバーが見つかるかどうかの運。そしてアンドリューに関してはもっと単純だ」
俺は一拍置いて、単純明快に答えを告げる。
「運が悪いんだよ。特に勝負事になると、実力に反比例するように悪運が付いて回る。……黒い扉の中で何も起きなきゃ良いんだけどな」
◇◆◇◆◇◆
はい。ネル達が昼休憩に入ったので、ケン達もそれに合わせて休憩に入りました。
ちなみに首領様は非常に健啖家のため、ケンはかなりの量(大きめのビニール袋が二つパンパンになるくらい)買い込んでいます。これでも首領様にとっては小腹満たし程度ですが。
0
あなたにおすすめの小説
悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~
shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて
無名の英雄
愛を知らぬ商人
気狂いの賢者など
様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。
それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる