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第三章
ネル やる気になったお姉さんに攫われる
しおりを挟むあたしは今、とんでもない屈辱に甘んじていた。
「は~いネルちゃん! それじゃあ言ってみましょうか!」
「……うぅ~っ。…………さん」
「え~? 元気ないわねん。もう一度大きな声で、セイっ! トゥっ! ミーっ?」
どうにかこうにか声を絞り出すも、この女はこちらをいたぶるようにニマニマしながら再度要求する。
う~。相手の逃げ道を塞ぎ、じわじわと追い詰めるこのやり口。どこかオジサンのやり方にも似たそれをやるこいつこそ、間違いなく“悪”という奴だ。
「え~いもう分かったよっ!? イザスタ…………お姉さんっ!」
「よく言えましたっ! ああそんな涙目になっちゃって。その姿も可愛いったらないわねんっ! ほ~らっ! 良い子良い子っ!」
「わぷっ!? 抱きついてこないでよっ!?」
満面の笑みでうっとおしいほど頬ずりしてくるイザスタを手で押しやりながら、あたしはどうしてこうなったか思い出していた。
イザスタに渾身の頭突きを食らわせた後、あたしは勝利を確信していた。だけど、
「むきぃっ! アラームの音と同時に当てたんだからこっちの勝ちでしょっ!?」
「いいえ。セットしたアラームが鳴る前に当てられなかった以上、残念ながらこの勝負はアタシの勝ちじゃな~い?」
この女。ああだこうだ理由を付けて負けを認めようとしない。なんて大人げない奴だ。あたしが軽く睨みつけていると、イザスタはクスっと笑って冗談よと手を振る。
「でも流石にここまでぎりぎりの判定になるとは思ってなかったし、ここは間を取って引き分けってことで手を打たないかしら?」
引き分けか。今のはぜ~ったいあたしの勝ちだと思うけど、確かにこのままじゃ埒が明かない。もう一回やれと言われても少し面倒だし。
それに、こっちは頼んでないけどガーベラとかピーターにちょっと……本当にちょこっとだけど助けられたような気がしないでもないし、その点では一人だけで勝ったとは少し言いづらい。
「……仕方ないなぁ。じゃあ引き分けで良いよ」
「オッケ~! じゃあ互いの要求は互いに呑むって事よねん! ウフフっ!」
要求? ……あっ!? 確かお姉さんと呼ばなきゃいけないんだった!? ぐぬぬ~。こんな手にひっかかるなんて悔しい。
でも、逆に言えばこっちの要求も通るという事。この厄介な女がオジサンに近づかなくなると考えれば、お姉さんと言うくらいは……まあ我慢しようじゃないの。
そうしてイザスタをお姉さん呼びする(ただし今日一日だけ)という屈辱に耐え忍び、あたしは一度ガーベラの所に向かう事にした。
「オ~ッホッホッホっ! やりましたわねっ! 見事あの方に一撃当てるとは流石我がライバルですわっ! まあ途中へこたれたアナタが立ち直るまでの私の華麗な時間稼ぎと、リーダーさんのファインプレーがあってこその勝利ですが」
ビーチチェアーで横になりながら高笑いするガーベラは、もう大分回復しているみたいだった。じっと休んでいるだけで勝手に周囲から邪因子が流れ込んでくるんだから当然か。
「うっさいうっさい! アンタ達が居なくたって、あたし一人で勝ってたもんね~だ。……まああの女に隙が出来たのは確かみたいだし、アンタが割り込んでなかったら負けにされてたかもだし、その点はちょこ~っとだけ助かったかもね。だから……その…………ありがと」
あたしが顔を背けながら言うと、ガーベラは一瞬呆気にとられたような顔をして、すぐにさっきのイザスタみたいにニマニマしてた。
「このあたしが礼を言ってあげたんだから、少しは感謝しなさいよっ!」
「まあ!? 減らず口もここまでくるとご立派ですこと。はいはい。ありがとうございました。ところでイザスタさんは?」
「ピーターを迎えに行ったよ。なんでも、中継点にちょっかいを掛けたは良いんだけど、防犯システムに引っかかって解除しないと動けないんだって。詰めが甘いんだからピーターってば」
あたしも勢いよくビーチチェアーに寝転がりながら言うと、ガーベラは「そうですか。と言ってもあの方ならそこまで悪いようにはしないでしょう」と笑う。
なんでさっき会ったばかりの奴をそこまで信じられるのか分かんない。でも、言われてみるとあの女にはどこかそういう雰囲気がある。安心感っていうの? どこかオジサンと同じ雰囲気。……そういう点も腹立つんだけど。
「たっだいま~! 待たせてごめんねぇ!」
「おっそいわよ! ……って!? どうしたのピーター!? なんか真っ白に燃え尽きたって感じになってるけど」
しばらく回復がてら果物をむしゃむしゃ食べていると、やっとイザスタがピーターをドロドロに運ばせてやってきた。
だけどピーターはどこかゲッソリしていて、逆にイザスタはなんかつやつやしてる。
「……き、聞かないでください。思い出すだけで……う~ん」
「ちょっとイザスタ……お姉さん? あんたピーターに何したの?」
まさかあたしに負けそうになった腹いせにピーターに八つ当たりでもした!? だとしたら人様の下僕に手を出した事を後悔させてやる必要があるけど。
ピーターを虐めていいのはあたしだけなんだよ!
「特に何もしてないわよん。ただ中継点で何かあると、自動でそこに居た人を捕らえる罠が作動したってだけ。流石のピーターちゃんも、周囲一帯丸ごとが一転して罠になるとは見破れなかったみたいねん」
不思議に思ってイザスタにさらに深く聞いてみると、ピーターは罠に拘束された上でイザスタが来るまで身体の隅々まで丸洗いされたとか。そう言われてみればなんだかピーターの身体が奇麗になっている気もする。
「あと強いて言うなら、いくら勝負のためとはいえ勝手に機材を弄ろうとしたので軽くお仕置きはしておいたわ! ああ大丈夫! 痛い事はしてないから」
「……ぐすっ。全身くまなくねっとりみっちり触られちゃった。おまけに悔しいけどとっても気持ち良かったし……もうお婿に行けないかも」
「リーダーさん……ご愁傷様です」
手をワキワキさせて微笑むイザスタの後ろで、すっかり涙目になってへばっているピーター。それをガーベラがどこか優しい口調で慰めていた。
まあ怪我とかは一切していないみたいだし、疲れてるみたいだけどここで少し休めばすぐ回復するだろうし……良いのかな。うん。
「さ~てと! ピーターちゃんもガーベラちゃんも終わったし、ずいぶんと待たせちゃったわねネルちゃん。早速施術を始めましょうか! 二人はまたそこで寛いでいてね!」
「えっ!? 嫌だけど? 誰がアンタの前でわざわざ無防備に肌なんか……ひゃっ!?」
ガシッ!
「まあまあそう言わずに! ケンちゃんにも頼まれてるし、個人的にもと~っても好みだからもう思いっきり気合入れてアタシ頑張っちゃうわよん!」
このっ!? コイツニコニコしてる割にすっごい強引だ!?
イザスタはあたしの身体を抱きかかえると、そのまま鼻歌交じりにさっきのテントに歩きだした。
うわ~ん!? さ~ら~わ~れ~る~っ!?
◇◆◇◆◇◆
罠に掛かったピーターとイザスタの一幕。
「た~すけてぇっ!? 頭以外全身ドロドロに呑まれちゃって動けな……ひゃうっ!? なんか溶かされてるっ!?」
「今解いてあげるからねピーターちゃん。大丈夫大丈夫。この子は肌の老廃物だけを溶解・吸収するように仕込んであるから害はない筈よん! ……下手に暴れなければ」
「早く助けてくださ~い! ……ふぅ。助かりました。このままだったら一体どうなるかと……ところでそのワキワキさせてる手は?」
「うふふっ! これはね、裏で勝手に罠に引っかかった悪い子に、お仕置きをするための手なのよん! さあまた服を脱ぎ脱ぎしましょうね!」
「ぎょ、ぎょえ~っ!?」
この後めちゃくちゃ触られました。
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