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第三章
閑話 ある幹部候補生チームの壊滅
しおりを挟む◇◆◇◆◇◆
「あ……あぁっ」
ワタシは目の前の異常事態に対して震えていた。
『グルアアアっ!』
目の前で咆哮する元チームメイトには、まるで理性の欠片も見当たらない。
それが邪因子の暴走によるものだとは知識として知っていたが、実際に見る事は今回が初めて。
なのでその変わり様にすっかり委縮し、足に怪我をさせられて逃げる事もままならない。
(何で? どうして……こんな事に?)
じりじりと近づいてくる怪物を前に、ワタシはこんな事になった経緯を思い出していた。
「俺達と手を組まないか?」
そう言ってこの男が近づいてきたのは、昇進試験が始まる三日前の事だった。
話を聞くと、試験の内容は毎回伏せられているが、毎回二日目は他の候補生と協力する場面があるという。なので前に挑戦した者は予め、試験前に協力する相手を見繕っておくのだとか。
本当は試験初参加の候補生には知らせない事が暗黙の了解だが、実質二日目はチームを組めなかった時点でほぼ失格。
自分は試験に三回も挑戦しているベテランであり、それを知らない新米候補生が落ちていくのがしのびない。なので一人ずつ声をかけているのだという。
怪しいとは思った。どう見ても目の前の男は親切心で声をかけるタイプに見えない。しかし自分は新米で相手は先輩。ここで断れば後々面倒な事になるし、もしチーム云々が本当なら入れば有利になる。
それに、既に同じく新米の幹部候補生が一人入っていたのも決断を後押しし、ワタシはチームに入る事となった。
その後も結局チームは五人まで増えた。やはり新米は皆不安もあったのだろう。ピーターという人以外の誘った人は皆参加した。
「五人か。まあこれだけ居れば足りるだろう」
男がチーム結成の時にそう妙な事を言っていたのをもう少し問いただせば、或いは今の状況も変わっていたかもしれない。
初日の筆記テスト、体力テストは特に問題はなかった。
筆記テストはきちんと勉強していれば解ける問題ばかりだったし、体力テストも最後の最後で邪因子の配分を間違えて変身が解けたけれどどうにか終わらせた。
個人面談では幸い面接官は優しそうな男の人で、落ち着いて質問には答えられたと思う。
流石に最後の組織と自分の命のどちらを優先するかって質問には自分の命と答えたけれど。絶対あれ組織って返すのはNGよね。そこまで覚悟は決まっていないもの。
そうして初日を終えいよいよ二日目。
情報によればここでチーム戦の告知があるという。そこで参加者が集合した中でさりげなくチーム同士で集まっていると、
「ふへへ。これさえあれば」
ワタシを誘った男が、何かの小箱を大事そうに手で持って上機嫌な笑みを浮かべていた。それはもう不気味なほどに。
チームメイトの誰かがそれは何かと質問するが、男は秘密兵器だとしか答えなかった。
結論から言えば、男の情報は間違っていなかった。
チーム戦であり、予め決めていた通りに男をリーダーに設定。ワタシ達はチェックポイントに向けて走り出し……すぐに気が付いた。
この男は、チームメンバーをただの盾代わりにしか考えていなかった事を。リーダーである自分の消耗を減らすために、自分達新米を使い捨てにする気なのだと。
でも一度リーダーに設定してしまった以上、リーダーが倒れた時点でチームは失格。なので思惑通り消耗を抑えるべく動かなければならなくて。
「……ちっ! まだ半分だってのに三人も落ちるなんて、だらしのねえ奴らだ」
(皆アナタを助けるために身代わりになったんでしょうに)
ワタシは内心で男にそう毒づく。メンバーの一人は草原エリアで飛び回る球から男を庇って倒れた。次の一人は移動中に仕掛けられていた罠を解除している際、男が無理に進もうとして罠が作動してしまい代わりに捕まってしまった。
そして最後の一人は崖登りの最中、男が落下しかけたのを下から支えたのにそのまま足場代わりにされて自分が落下した。
だけどワタシ達の奮闘も虚しく、三つ目の課題人形戦争に挑む際もう男の邪因子は大分減っていた。これまでこれだけ頑張ってきたっていうのに。
ただ、これでやっとこの嫌なリーダーから解放される。そんな暗い気持ちもある中で、
「仕方がない。コイツの出番だ」
男は懐から小箱を取り出し、その中の物をゴクリと飲み下す。その瞬間、
「……来た。キタキタキタァっ!」
男から感じる邪因子が、どこにそんな力を残していたのかというくらい一気に高まった。
そうして男はどこか興奮気味に、人形戦争を邪因子によるごり押しで通過した。ワタシは一応全体を俯瞰する役目に徹してナビをしたのだけど、罠が有ろうと敵が居ようとお構いなしに進むのであまり意味はなかったかもしれない。
とは言えこうして課題を全てクリアし、ゴールの扉の位置も大体分かった事でワタシ達はその場所へ向かっていた。
「ハハハハハ! 身体から力が溢れてくる。アイツは効果が長続きしないって言っていたが、全然そんな事ないじゃないかっ!」
相変わらず男は興奮しっぱなし。こちらは後ろについて追いかけるだけで精いっぱいだっていうのに、まるでこちらの事は眼中にない。
それにしてもさっき飲み込んだ何か。何かキャンディーのようだったけど、食べるだけでこんなに変わるだなんて。
これなら合否はどうあれ何とかクリア出来るかもしれない。そうすればこれまで失格になっていったメンバーも少しは報われる。
そう思っていたのに、それは突然起きた。
「ハハハハ……うぐっ!?」
突如高笑いしながら突っ走っていた男が立ち止まり、胸を押さえて苦しみだす。そして、
「がっ……ああアアアっ!?』
一際絶叫したかと思うと、見る見る内に怪人に変身……いや、その先の何かに変貌していった。
元々男はオーソドックスな犬型怪人だった。だが四足歩行となって目は血走り、涎をだらだらと流す様はまさに獣のよう。
ワタシはこの時点で、即座に邪因子消耗度外視で変身して逃げるべきだったのだ。だけどこれが邪因子の暴走であるという事が頭に浮かんでこず、
『ギャオンっ!』
「きゃっ!?」
振るわれたその爪で足を切り裂かれ、ゴロゴロと転がって必死にその怪物から距離を取る。
だけどどうやらワタシを獲物と認識したのか、獣は一歩一歩近づいてくる。
「いやぁ……来ないでよ」
腕だけでズリズリと離れようとするけど、どうやったって向こうが近づく方が早い。
(もう……ダメっ!?)
怪物が大きく口を開けたのを見て、ワタシは咄嗟に目を瞑り腕を翳す。せめて迫りくる死を見ないで済むように。少しでも命を長らえるように。
次の瞬間、生暖かい怪物の吐息が顔に迫り、
「どおぉりゃああぁっ!」
バキッという音と共に、目の前の怪物の気配がフッと消える。
おそるおそる目を開くと、そこには、
「ふふ~ん! あんた運が良かったじゃん! さっきの課題がどうも簡単すぎてあたし不完全燃焼だったからさぁ……あんたが食われる前にそいつをボコっちゃっても問題ないよね!」
怪物に跳び蹴りを叩きこんだのだろう体勢で、小さな暴君が見た目よりも大きな迫力を持って立っていた。
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