悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ

黒月天星

文字の大きさ
77 / 89
第三章

閑話 ある幹部候補生チームの壊滅

しおりを挟む

 ◇◆◇◆◇◆

「あ……あぁっ」

 ワタシは目の前の異常事態に対して震えていた。

『グルアアアっ!』

 目の前で咆哮する元チームメイトには、まるで理性の欠片も見当たらない。

 それが邪因子のによるものだとは知識として知っていたが、実際に見る事は今回が初めて。

 なのでその変わり様にすっかり委縮し、足に怪我をさせられて逃げる事もままならない。

(何で? どうして……こんな事に?)

 じりじりと近づいてくる怪物を前に、ワタシはこんな事になった経緯を思い出していた。




「俺達と手を組まないか?」

 そう言ってこの男が近づいてきたのは、昇進試験が始まる三日前の事だった。

 話を聞くと、試験の内容は毎回伏せられているが、毎回二日目は他の候補生と協力する場面があるという。なので前に挑戦した者は予め、試験前に協力する相手を見繕っておくのだとか。

 本当は試験初参加の候補生には知らせない事が暗黙の了解だが、実質二日目はチームを組めなかった時点でほぼ失格。

 自分は試験に三回も挑戦しているベテランであり、それを知らない新米候補生が落ちていくのがしのびない。なので一人ずつ声をかけているのだという。

 怪しいとは思った。どう見ても目の前の男は親切心で声をかけるタイプに見えない。しかし自分は新米で相手は先輩。ここで断れば後々面倒な事になるし、もしチーム云々が本当なら入れば有利になる。

 それに、既に同じく新米の幹部候補生が一人入っていたのも決断を後押しし、ワタシはチームに入る事となった。

 その後も結局チームは五人まで増えた。やはり新米は皆不安もあったのだろう。ピーターという人以外の誘った人は皆参加した。

「五人か。まあこれだけ居れば足りるだろう」

 男がチーム結成の時にそう妙な事を言っていたのをもう少し問いただせば、或いは今の状況も変わっていたかもしれない。




 初日の筆記テスト、体力テストは特に問題はなかった。

 筆記テストはきちんと勉強していれば解ける問題ばかりだったし、体力テストも最後の最後で邪因子の配分を間違えて変身が解けたけれどどうにか終わらせた。

 個人面談では幸い面接官は優しそうな男の人で、落ち着いて質問には答えられたと思う。

 流石に最後の組織と自分の命のどちらを優先するかって質問には自分の命と答えたけれど。絶対あれ組織って返すのはNGよね。そこまで覚悟は決まっていないもの。

 そうして初日を終えいよいよ二日目。

 情報によればここでチーム戦の告知があるという。そこで参加者が集合した中でさりげなくチーム同士で集まっていると、

「ふへへ。これさえあれば」

 ワタシを誘った男が、何かの小箱を大事そうに手で持って上機嫌な笑みを浮かべていた。それはもう不気味なほどに。

 チームメイトの誰かがそれは何かと質問するが、男は秘密兵器だとしか答えなかった。




 結論から言えば、男の情報は間違っていなかった。

 チーム戦であり、予め決めていた通りに男をリーダーに設定。ワタシ達はチェックポイントに向けて走り出し……すぐに気が付いた。

 この男は、チームメンバーをただの盾代わりにしか考えていなかった事を。リーダーである自分の消耗を減らすために、自分達新米を使い捨てにする気なのだと。

 でも一度リーダーに設定してしまった以上、リーダーが倒れた時点でチームは失格。なので思惑通り消耗を抑えるべく動かなければならなくて。

「……ちっ! まだ半分だってのに三人も落ちるなんて、だらしのねえ奴らだ」

(皆アナタを助けるために身代わりになったんでしょうに)

 ワタシは内心で男にそう毒づく。メンバーの一人は草原エリアで飛び回る球から男を庇って倒れた。次の一人は移動中に仕掛けられていた罠を解除している際、男が無理に進もうとして罠が作動してしまい代わりに捕まってしまった。

 そして最後の一人は崖登りの最中、男が落下しかけたのを下から支えたのにそのまま足場代わりにされて自分が落下した。

 だけどワタシ達の奮闘も虚しく、三つ目の課題人形戦争に挑む際もう男の邪因子は大分減っていた。これまでこれだけ頑張ってきたっていうのに。

 ただ、これでやっとこの嫌なリーダーから解放される。そんな暗い気持ちもある中で、

「仕方がない。コイツの出番だ」

 男は懐から小箱を取り出し、その中の物をゴクリと飲み下す。その瞬間、

「……来た。キタキタキタァっ!」

 男から感じる邪因子が、どこにそんな力を残していたのかというくらい一気に高まった。

 そうして男はどこか興奮気味に、人形戦争を邪因子によるごり押しで通過した。ワタシは一応全体を俯瞰する役目に徹してナビをしたのだけど、罠が有ろうと敵が居ようとお構いなしに進むのであまり意味はなかったかもしれない。

 とは言えこうして課題を全てクリアし、ゴールの扉の位置も分かった事でワタシ達はその場所へ向かっていた。

「ハハハハハ! 身体から力が溢れてくる。アイツは効果が長続きしないって言っていたが、全然そんな事ないじゃないかっ!」

 相変わらず男は興奮しっぱなし。こちらは後ろについて追いかけるだけで精いっぱいだっていうのに、まるでこちらの事は眼中にない。

 それにしてもさっき飲み込んだ何か。何かのようだったけど、食べるだけでこんなに変わるだなんて。

 これなら合否はどうあれ何とかクリア出来るかもしれない。そうすればこれまで失格になっていったメンバーも少しは報われる。


 そう思っていたのに、それは突然起きた。


「ハハハハ……うぐっ!?」

 突如高笑いしながら突っ走っていた男が立ち止まり、胸を押さえて苦しみだす。そして、

「がっ……ああアアアっ!?』

 一際絶叫したかと思うと、見る見る内に怪人に変身……いや、に変貌していった。

 元々男はオーソドックスな犬型怪人だった。だが四足歩行となって目は血走り、涎をだらだらと流す様はまさに獣のよう。

 ワタシはこの時点で、即座に邪因子消耗度外視で変身して逃げるべきだったのだ。だけどこれが邪因子の暴走であるという事が頭に浮かんでこず、

『ギャオンっ!』
「きゃっ!?」

 振るわれたその爪で足を切り裂かれ、ゴロゴロと転がって必死にその怪物から距離を取る。

 だけどどうやらワタシを獲物と認識したのか、獣は一歩一歩近づいてくる。

「いやぁ……来ないでよ」

 腕だけでズリズリと離れようとするけど、どうやったって向こうが近づく方が早い。

(もう……ダメっ!?)

 怪物が大きく口を開けたのを見て、ワタシは咄嗟に目を瞑り腕を翳す。せめて迫りくる死を見ないで済むように。少しでも命を長らえるように。

 次の瞬間、生暖かい怪物の吐息が顔に迫り、



「どおぉりゃああぁっ!」



 バキッという音と共に、目の前の怪物の気配がフッと消える。

 おそるおそる目を開くと、そこには、

「ふふ~ん! あんた運が良かったじゃん! さっきの課題がどうも簡単すぎてあたし不完全燃焼だったからさぁ……あんたが食われる前にそいつをボコっちゃっても問題ないよね!」

 怪物に跳び蹴りを叩きこんだのだろう体勢で、小さな暴君ネル・プロティが見た目よりも大きな迫力を持って立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...