悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ

黒月天星

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第三章

ネル 暴走するワンちゃんを躾ける

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 さて。イザスタの所から張り切って出発したあたし達だけど、

「よっし! 楽勝!」
「オ~ッホッホッホっ! 余裕でしたわね!」
「な~んかちょっとズルなような気もしないでもないけど……まあ良いか」

 

 だって草原エリアのチェックポイントの課題は、以前アンドリューが言ったようにまんまオジサンとやった飛び回る球を避ける奴だったんだもの。というかこっちの方が簡単くらいなまである。

 当然あたしは楽勝で、ピーターも途中危なっかしい所があったけど何とかクリア。ガーベラは初見だけど、元々あたしよりちょび~っとだけ邪因子コントロールは上手いしやっぱりクリア。

 こうして全ての課題をクリアして、ゴールのヒントを手に入れた訳なんだけど、

「え~っと、まず山岳エリアにあったのが“森林 課題 自身の兵の数”で」
「森林エリアのヒントが“草原 課題 三番目の色”でしたわね」
「そしてさっき手に入れた草原エリアのヒントが“山岳 課題 機械の位置”……ですか」

 あたし達はそれぞれ課題とヒントの内容を思い出して照らし合わせる。

 確か森林エリアの課題『人形戦争』は五体の人形を使っていて、草原エリアの球避けは三番目に出た球は青色……ちょっと待って? 青色で五?

「……あぁ~っ!?」
「ちょっと何ですの?」
「分かったんだよゴールの扉っ! あれだよあれっ! !」

 出発直前で一例みたいにマーサが指さしたあの扉。あれは確か青色で5って番号が振ってあった! 正解だと思うんならあれを選べなんて言ってくれちゃって……そのまんま答えだったんじゃんっ!

「こうしちゃいられないっ! 早速管理センターに戻るよっ!」
「ちょっ!? ちょっと待ってくださいっ!? それだけだとまだ草原エリアのヒントの意味がっ!?」
「そんなのまず行ってから考えれば良いでしょ! ほら早く早くっ! 走るよっ!」

 ピーターが何か言っているけど、考え過ぎて時間が無くなっちゃったら意味ないもんね。

 あたしが走り出すと、ピーターとガーベラもすぐ後を追ってくる。さあ行くよ! のんびりした分を取り戻さなきゃっ!




 と、思っていたんだけど、

「わわっ!? イタタ……急に立ち止まらないでくださいよっ!?」
「おっと!? 大丈夫ですかリーダーさん?」

 管理センターに向かい速度重視であちこちに仕掛けてある罠を力づくで突破していく中、遠目に妙なものを見つけていったんストップする。

 急に止まったからピーターがつんのめってずっこけ、ガーベラが心配して立たせようとしているけど今はそれよりも、

「あれ見て……あれも試験の一環かな?」

 あたしが指さした先。ここからだと少し距離があるけど、そこには一体のデカい獣が女の人に向けて唸り声をあげていた。

 獣の方もどうやら幹部候補生っぽいとは分かるんだけど、通常の変身にしては服がビリビリのぼろきれみたいになっているし、なんか理性がどっか旅行にでも行っちゃったみたい。

 一瞬昨日の個人面談の、重要物資を届ける任務中に友軍と敵が戦っていたらどうするかって質問が頭を過ぎる。だからこれも試験かと思ったのだけど、

「何ですかねアレ? ……うわぁ。あの獣っぽい人の邪因子。ここから視ても酷い事になってます。どう視ても自分でコントロールできてないですよ」
「いけませんわっ!? あれは邪因子の暴走ですわよっ!?」

 引き気味のピーターの言葉の後に続くガーベラの言葉に、試験の一環かもという考えは吹き飛ぶ。

 ついさっきイザスタの所で半暴走状態になっていたから言えるけど、どう考えてもあの状態で手加減なんて出来そうにない。このままじゃ相手の幹部候補生の人はただじゃすまないだろう。下手すると死んじゃうかも。

「そっか……じゃああのでっかいワンちゃんを軽~く躾けてあげないとね」
「えっ!? 助けに行くんですか? ネルさんなら「あんなの放っておいていこいこっ! あたし達には関係ないし」とかなんとか言うかと思ったんですが」

 あたしが軽く腕を回すと、ピーターが少しだけ驚いた顔をする。まあ普段ならそれで間違っちゃいないけどさ。

「べっつに~。単なる気まぐれ。折角のゴール間近で妙なケチをつけられたくないし~。それに……ガーベラも前言ってたじゃん」

 あたしはガーベラの方を向いてニヤリと笑って見せる。

「他の幹部候補生はんでしょ? なら命のピンチな将来の部下を助けてやろうっていう上司のありがた~い手助けな訳。悪い?」
「……ふふっ! いいえ。それでこそ上に立つ者の振る舞い。我がライバルが動かぬようでしたら私が行こうかと思っていましたが、杞憂でしたわね」

 ガーベラがまるで微笑ましい物を見るような眼を向ける。なんか腹立つな。まあ良いけど。

「OK。そんじゃ……行っくよぉぉっ!」

 そうと決まればさっさと行こう。あたしは力強く地面を蹴って飛び出した。




「どおぉりゃああぁっ!」

 相手が気づけない位置から一気に飛び込み、デカい獣の横っ腹に跳び蹴りを叩きこむ。そのまま少し先まで吹っ飛ばして距離を取ると、あたしは地面にへたり込んでいた女の人に声をかける。

「ふふ~ん! あんた運が良かったじゃん! さっきの課題がどうも簡単すぎてあたし不完全燃焼だったからさぁ……あんたが食われる前にそいつをボコっちゃっても問題ないよね!」

 その人は半ば呆然としていたけど、つられるようにうんうんと頷く。これで言質は取った。やっぱり大義名分があった方が色々都合が良いもんね。

 だけど見た所足に怪我をしているようで、思ったより深いのか血がどくどくと流れ出ている。

(邪因子で回復は……まだかかりそうかな。それに)

『グルルルル』
「……へぇ。今の一撃で意識が飛ばないなんて結構タフじゃん」

 吹き飛ばした獣は、少しふらつきながらも威嚇するようにこちらを睨みつける。

 さっきの感触から骨の一本くらいは折れたかもだけど、暴走するほどに活性化した邪因子なら時間が経てば普通に治る。そこまで戦闘に支障もなさそう。

『グルアアアっ!』
「よっとっ!」

 お返しとばかりに地を蹴って襲ってきた獣の爪を、あたしは軽く横にステップを踏んで回避する。

 続けて二撃、三撃と振るわれる爪を横から打撃を当てて受け流し、躱しざまにまたボディに一発二発。だけど、

「チッ……こいつ全然倒れないなぁ」

 ダメージがないわけじゃない。一当てする毎に、なんとな~く目の前の獣から感じる邪因子が少しずつ削れている感じがする。

 だけど、まるで痛覚がないみたいにダメージ無視で向かってくるんじゃ少々困る。

「大丈夫ですかっ!? 飛び出すにしてもタイミングを合わせてくださいよっ!?」
「考えるより先に身体が動くおバカさんに言ってもしょうがありませんわよリーダーさん。……ネル。加勢は必要ですか?」

 そこに後から追いついてきた二人が合流する。誰がバカよガーベラっ!

「はっ。冗談っ! むしろアンタ達はそこの人を連れて下がってて。ピーターなら怪我の把握はあたしより得意でしょ?」
「分かりましたっ! さあ。こっちへ」

 あたしが獣と向き合う中、ガーベラが髪で女の人を運びつつピーターが全身の邪因子の流れを確認する。応急処置ならピーターの事だから試験に持ち込みくらいしてるでしょ。

「さて。どうしようか」

 目の前で全然倒れる様子のない獣に対して、あたしは内心ちょっぴり困る。

 女の人を二人が守っている以上、もうこっちに負ける未来は見えない。でもこの調子じゃ行動不能にするまでどれだけ掛かるか分からない。早くゴールに向かいたいのに。

(今必要なのは、時間を掛けずに一発で意識を刈り取れるだけのパワー……ってとこかな。と来れば)

 ニヤァ。

 あたしが口の端を上げて少し嗤うと、獣がどこか一瞬だけ怯えたように動きを止め、だけどすぐに立ち直る。

「ふ~ん。逃げないんだぁ? それじゃあ仕方ないよねぇ。本当はこんな所で使うつもりはなかったんだけど……ゴメン。ちょっぴり嘘。多用は避けろってイザスタ……お姉さんに言われたけど、実はどこかで使う機会がないかなあとうずうずしてたんだよね」

 あたしの身体の中の邪因子が昂り、そのまま右腕に集中していく。

 普段ならどうってことない仕草。でも、

 熱を持った邪因子が右腕に纏わりつき、そのまま細胞レベルで変質していく。つまり、

「ありがとうね。試し打ちの相手になってくれて。お礼に、一発で終わらせてあげるから」




「……っ!」

 カチリと、何かが外れる感じがした。




 ◇◆◇◆◇◆

 やっと書きたかったシーンの一つに辿り着きました。
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