6 / 8
お仕事タイム(sideジョエル)
しおりを挟む
ドミニスアーナ公爵領から数か所の町を潜り数日、立派な外壁の門をくぐり、それから下町を抜けて、内側にある貴族街の門を潜る。
辿り着いたのはドミニスアルの王城の元に区画整理された広大な城下町。ここには国内の表も闇も全てが潜んでいる。
最先端のブティックの並ぶ高級商店街に、美術館や博物館、音楽堂なんて高尚な趣を語る娯楽場もあれば、花街や賭博場の並んだ歓楽街も賑わう。高位貴族の邸宅が所狭しとその建物の敷地を競い、次いで屋敷を構えるのは豪商や成り上がり。
こんな煌びやかな町にはもちろん裏の姿もある。といっても、兄さんや王太子の徹底した管理の元、今や人身売買や人を狂わす薬の類は今は厳しく取り締まられ、治安維持のための人員も金も掛けられたこの町で敢えてせせこましい犯罪を起こそうなんて稀有な馬鹿者は少ない。この町でこの警備網を潜りひっそりと交わされるのは、一端には取り締まれないお偉方の取引やお遊戯だ。
もう慣れたものである寂れた建物を抜け、狭い階段を下れば、そこに広がるのは地上の建物とはうって変わり、広大で豪華絢爛な大広間。嗜みを知った紳士淑女のための、闇の社交場である。
公爵領を離れて三日。僕はもうアンドリューに会いたい。
三日も顔を合わせなければ、何をしていても思い浮かべるのはアンディの姿だ。
朝日が上ると共に聞こえる『おはようございます』を聞く為に毎日寝ているふりをする事から始まり、彼の選んだ服を着て、彼の運んだ食事を彼と一緒に食べる。そうしなければ朝は訪れない。ここ三日ほど、僕の夜は明けていない。
ああ、働きたくない。
いつもこの場に出入りするときに装うように、帽子と眼鏡に首に口元まで埋まるようなストールを巻いて、王家の金と呼ばれる珍しい色の瞳は茶色い色ガラスで繕う。帽子からのぞく金の髪はそう珍しいものではない。
変装としては随分と簡素でお粗末であるけど、僕は公式な社交会デビューもしていなければ、顔が売れるような集まりなどにも滅多に顔を出さない。素顔が見られたところで割れる素性でもないからこそだった。
僕と同じ円卓を囲むのは、頬までを覆った煌びやかな飾り仮面の淑女、全く素が見えない顔を覆った面をした痩せた老紳士、いつも胡散臭い笑顔をそのまま晒した裏町の大商人。今日は痩せた狐面の目元だけを仮面で覆った、趣味の悪い成金主義な服をきた男も同席している。
彼らは素性を隠すのも隠さないのもそれぞれ。顔で売っている権力者から、公に出入りを悟られたくないお偉方まで人によって違うのだ。
そうして僕の元に集まっているのは、各方々へそれなりの権力を持つ利に敏い者たち。兄さん経由で詳しい情報を持っている僕の身元は、おそらく王室関係者と思われていることだろう。
関係者じゃないかと言われれば、まあ関係者なんじゃないかって気もするけど。
「皆様ご存じのように、此度は王都で新しい祭事を行うのですって?楽しみですわね」
ふくよかなマダムが品良く真っ赤な唇に弧を描き、誰にともなく語りかける。話題提供をしているように見えて、恐らく詳しい情報が欲しいのだろう。仮面から覗く瞳が周囲を注意深く観察している。
「そうですね、良質な衣類や宝石などがその祭事のために良く売れているようでございます。なにやら、皆様方がた、王城でのパーティーでちょっとした贈り物をなされるという事でしてね」
商人がにこやかな笑みで同じ卓についた人々を見渡す。
「そのようにお伺いしておりますわ。して、皆さまはどのようなものをどなたに贈られるのかしら」
「特に指定はないようですよ。王城からは、扱いに困る程の荷は持ち込まないようにと。まあ、裕福な貴族は自分の財を見せつけたいでしょうな」
マダムの問いかけに、どの口が語るのかと思える金糸の刺繍の服に霞んだような痩せた男が渋い声で答える。自分はそこそこの貴族であると示しているのだろう。僕にはどこの誰か、もうわかっているけれど。
「どうやら次期様は、商業収入を増やすための試みとしてこの祭事を執り行われることとしたようですよ。ですので、大切なのはどなたにどれだけの贈り物をするかではありません」
本当は王太子じゃなくて兄さんが思いつきで考えたイベントなんだろうけど。ま、事実なんかどうでもいい。
僕が口を挟めば、皆聞き耳を立てて此方を見ているのがわかる。そう、その注目。それが重要だった。ここで僕の場に持ち込んで。それから本当の仕事が始まる。
僕は優美に唇の端を上げる。勿体ぶって、手元のワインをゆっくりと傾け、それから潜めた声を作り言葉を放つ。
「ただ、どなたへとどれだけ贈り物をなさったかは、記録に残ります。良くお考えになるのがよろしいかと。私にはこれ以上の事は申し上げられませんが」
その言葉に、卓を囲む貴人たちはごくりと喉を鳴らした。そう、僕が『滑らした態』の真実にくぎづけられている。
「そうしてね、とある尊いお方に黒い噂があるのはご存知でしょうか?ここだけの話ですが……かの、酒蔵で有名な侯爵家の卿が、隣国から贈賄を受けておられるそうで、物取りが始まりそうです」
「かのお方が。勿論そう仰るだけの証拠は上がっているということでしょうな?」
老紳士が面白そうに僕ににやりとした笑みを向ける。
ここでは僕に疑いの眼を向ける人間などいない。
「勿論、確かな筋からのお話ですよ。他にも、かの美術品収集家と名高い卿なども…」
何故ならば、これは全部真実になるからだ。この場の力を得てから、ではあるけどね。
僕はこの仕事が決して嫌いではないし、きっと向いているのだろう。
だけど、ひたすら早く帰りたい。
早く帰って、アンディといちゃいちゃ平和な日々を送りたい。それが本望だ。
煌びやかな絨毯を踏みしめ、夜も更けた社交場を後にする。月明かりも薄暗い街中で、僕を待ちわびるように声をかける男がいた。
「ジョエル様。兄上様よりお願いがおありと」
気配も薄く僕に近づいたその男は、兄さんの差し金のようだ。
「そう、何かな?僕はもう仕事は果たしてあげたはずだけど」
僕は振り返らずに軽く肩を竦める。周囲に人はいなくて、僕の影たちは潜んで警戒してくれているだろう。だが、それでも安易に話をするのには抵抗がある。これ以上の仕事が増えるのにも。
「明日、もう一仕事お願いいたしたい事があると」
畏まって告げる相手を、僕は鼻で笑った。
「嫌だよ。明日には発たないと、アンディが迎えに来るのに間に合わない。いくら兄さんだって、それを邪魔できると思ってないでしょう?僕と戦争する気なの?」
普段通りに紡いだ言葉は、ひどく冷たい。使者は少したじろいだものの、さすがはあの兄さんの寄越した者だ。躊躇う様子はない。
「まさか。貴方様がたが争えば、国の存続すら怪しい。是非とも穏便に。公爵領には此方から丁寧に使いを出させていただきます。どうぞお力をお貸しください」
そう言うからには、恐らくもう手は回されているんだろう。
本当についてない。
「しかたないなあ。僕、アンディとの生活を邪魔するなら情報網の10や20はぶっ壊して帰るからね。ま、わかってるだろうけど」
「卿も重々承知いたしております。ですので、明日の出立を数時間遅らせる程度でと」
「それ、数時間で片づけろって事だよね?本当に人使い荒いなあ」
取りあえず、無駄に拘束時間が増えるよりはずっとましだけど。
一刻でも早く、一秒でも早く、アンドリューに会いたい。それ以外の事はどうでもいいんだ。
僕はしぶしぶと残業を受け入れて仮宿に向かった。ああ、働きたくない。
翌日の僕は、少女の姿だった。扇子で顔を半分覆い、瞳の色は緑へ、金の髪は巻いてアップにして。緩めのドレスを纏えば、そこには完全な令嬢が出来上がっていた。
元々高めの声は、意識して少し軽やかにすれば違和感はない。
「それでは参りましょうかね」
やさぐれた声で適当に吐き捨てるのは部屋の中まで。そこから一歩出れば、音もなく床を踏みしめる立ち姿まで疑われる要素はないはずだ。
兄の従者にエスコートされて、待ち合わせの怪しげな場所へと向かう。少し柄の悪い交流場では、上品ぶったイノシシが昼間から酒を煽っている。
従者は僕を見せびらかし、僕は恥じらったように彼の後ろに隠れて頬を染める。
正直、面倒くさい。僕をエスコートするのがアンドリューだったら最高なのに。溜息は心の内に留めて、上目にチラチラとイノシシを見つめ、視線が絡むと儚げに微笑んだ。
イノシシはにやりと濁った目で笑った。はい、捕獲完了。
従者が席を外した間に、イノシシは僕に詰め寄る。恥じらいと恐れを上手くないまぜながら、僕は時間を稼ぐ。時折艶を乗せて流し見たり、これ見よがしに唇に触れたりして煽る事も忘れない。
イノシシが僕の両手首を取った時には、もう全てが終わっている。
戻ってきた従者は、警備兵を連れて周囲を制圧し。
僕は怯えて泣くふりだけしておけばいい。用は足りただろう。
弟に色仕掛けさせて平気なんだろうか、兄さんは。ま、兄さんだからそんなものか。
そうして、いつもより数時間遅い帰路につき。足がつかないようにとこまめに姿を変え、順路を紆余曲折しながら、3日かけて長い旅路を戻って。漸く慣れ親しんだ公爵領が見えてくれば。
「ジョエル様、ご無事のお戻り、心よりお喜び申し上げます」
いつもより少し気せわしげだったアンディは、僕を抱きしめてくれた。
何を吹き込んだのか、これが正しく兄さんからの報酬なのだろう。
「ただいま、アンドリュー。会いたかった。ねぇ、今日は一緒に寝よう?」
一時でも、コンマ数秒でも、もう離れていたくない。
兄さんはいったいどんな魔法を使ったのだろうか。
アンドリューは、少しだけ眉を寄せて小さく頷いた。
辿り着いたのはドミニスアルの王城の元に区画整理された広大な城下町。ここには国内の表も闇も全てが潜んでいる。
最先端のブティックの並ぶ高級商店街に、美術館や博物館、音楽堂なんて高尚な趣を語る娯楽場もあれば、花街や賭博場の並んだ歓楽街も賑わう。高位貴族の邸宅が所狭しとその建物の敷地を競い、次いで屋敷を構えるのは豪商や成り上がり。
こんな煌びやかな町にはもちろん裏の姿もある。といっても、兄さんや王太子の徹底した管理の元、今や人身売買や人を狂わす薬の類は今は厳しく取り締まられ、治安維持のための人員も金も掛けられたこの町で敢えてせせこましい犯罪を起こそうなんて稀有な馬鹿者は少ない。この町でこの警備網を潜りひっそりと交わされるのは、一端には取り締まれないお偉方の取引やお遊戯だ。
もう慣れたものである寂れた建物を抜け、狭い階段を下れば、そこに広がるのは地上の建物とはうって変わり、広大で豪華絢爛な大広間。嗜みを知った紳士淑女のための、闇の社交場である。
公爵領を離れて三日。僕はもうアンドリューに会いたい。
三日も顔を合わせなければ、何をしていても思い浮かべるのはアンディの姿だ。
朝日が上ると共に聞こえる『おはようございます』を聞く為に毎日寝ているふりをする事から始まり、彼の選んだ服を着て、彼の運んだ食事を彼と一緒に食べる。そうしなければ朝は訪れない。ここ三日ほど、僕の夜は明けていない。
ああ、働きたくない。
いつもこの場に出入りするときに装うように、帽子と眼鏡に首に口元まで埋まるようなストールを巻いて、王家の金と呼ばれる珍しい色の瞳は茶色い色ガラスで繕う。帽子からのぞく金の髪はそう珍しいものではない。
変装としては随分と簡素でお粗末であるけど、僕は公式な社交会デビューもしていなければ、顔が売れるような集まりなどにも滅多に顔を出さない。素顔が見られたところで割れる素性でもないからこそだった。
僕と同じ円卓を囲むのは、頬までを覆った煌びやかな飾り仮面の淑女、全く素が見えない顔を覆った面をした痩せた老紳士、いつも胡散臭い笑顔をそのまま晒した裏町の大商人。今日は痩せた狐面の目元だけを仮面で覆った、趣味の悪い成金主義な服をきた男も同席している。
彼らは素性を隠すのも隠さないのもそれぞれ。顔で売っている権力者から、公に出入りを悟られたくないお偉方まで人によって違うのだ。
そうして僕の元に集まっているのは、各方々へそれなりの権力を持つ利に敏い者たち。兄さん経由で詳しい情報を持っている僕の身元は、おそらく王室関係者と思われていることだろう。
関係者じゃないかと言われれば、まあ関係者なんじゃないかって気もするけど。
「皆様ご存じのように、此度は王都で新しい祭事を行うのですって?楽しみですわね」
ふくよかなマダムが品良く真っ赤な唇に弧を描き、誰にともなく語りかける。話題提供をしているように見えて、恐らく詳しい情報が欲しいのだろう。仮面から覗く瞳が周囲を注意深く観察している。
「そうですね、良質な衣類や宝石などがその祭事のために良く売れているようでございます。なにやら、皆様方がた、王城でのパーティーでちょっとした贈り物をなされるという事でしてね」
商人がにこやかな笑みで同じ卓についた人々を見渡す。
「そのようにお伺いしておりますわ。して、皆さまはどのようなものをどなたに贈られるのかしら」
「特に指定はないようですよ。王城からは、扱いに困る程の荷は持ち込まないようにと。まあ、裕福な貴族は自分の財を見せつけたいでしょうな」
マダムの問いかけに、どの口が語るのかと思える金糸の刺繍の服に霞んだような痩せた男が渋い声で答える。自分はそこそこの貴族であると示しているのだろう。僕にはどこの誰か、もうわかっているけれど。
「どうやら次期様は、商業収入を増やすための試みとしてこの祭事を執り行われることとしたようですよ。ですので、大切なのはどなたにどれだけの贈り物をするかではありません」
本当は王太子じゃなくて兄さんが思いつきで考えたイベントなんだろうけど。ま、事実なんかどうでもいい。
僕が口を挟めば、皆聞き耳を立てて此方を見ているのがわかる。そう、その注目。それが重要だった。ここで僕の場に持ち込んで。それから本当の仕事が始まる。
僕は優美に唇の端を上げる。勿体ぶって、手元のワインをゆっくりと傾け、それから潜めた声を作り言葉を放つ。
「ただ、どなたへとどれだけ贈り物をなさったかは、記録に残ります。良くお考えになるのがよろしいかと。私にはこれ以上の事は申し上げられませんが」
その言葉に、卓を囲む貴人たちはごくりと喉を鳴らした。そう、僕が『滑らした態』の真実にくぎづけられている。
「そうしてね、とある尊いお方に黒い噂があるのはご存知でしょうか?ここだけの話ですが……かの、酒蔵で有名な侯爵家の卿が、隣国から贈賄を受けておられるそうで、物取りが始まりそうです」
「かのお方が。勿論そう仰るだけの証拠は上がっているということでしょうな?」
老紳士が面白そうに僕ににやりとした笑みを向ける。
ここでは僕に疑いの眼を向ける人間などいない。
「勿論、確かな筋からのお話ですよ。他にも、かの美術品収集家と名高い卿なども…」
何故ならば、これは全部真実になるからだ。この場の力を得てから、ではあるけどね。
僕はこの仕事が決して嫌いではないし、きっと向いているのだろう。
だけど、ひたすら早く帰りたい。
早く帰って、アンディといちゃいちゃ平和な日々を送りたい。それが本望だ。
煌びやかな絨毯を踏みしめ、夜も更けた社交場を後にする。月明かりも薄暗い街中で、僕を待ちわびるように声をかける男がいた。
「ジョエル様。兄上様よりお願いがおありと」
気配も薄く僕に近づいたその男は、兄さんの差し金のようだ。
「そう、何かな?僕はもう仕事は果たしてあげたはずだけど」
僕は振り返らずに軽く肩を竦める。周囲に人はいなくて、僕の影たちは潜んで警戒してくれているだろう。だが、それでも安易に話をするのには抵抗がある。これ以上の仕事が増えるのにも。
「明日、もう一仕事お願いいたしたい事があると」
畏まって告げる相手を、僕は鼻で笑った。
「嫌だよ。明日には発たないと、アンディが迎えに来るのに間に合わない。いくら兄さんだって、それを邪魔できると思ってないでしょう?僕と戦争する気なの?」
普段通りに紡いだ言葉は、ひどく冷たい。使者は少したじろいだものの、さすがはあの兄さんの寄越した者だ。躊躇う様子はない。
「まさか。貴方様がたが争えば、国の存続すら怪しい。是非とも穏便に。公爵領には此方から丁寧に使いを出させていただきます。どうぞお力をお貸しください」
そう言うからには、恐らくもう手は回されているんだろう。
本当についてない。
「しかたないなあ。僕、アンディとの生活を邪魔するなら情報網の10や20はぶっ壊して帰るからね。ま、わかってるだろうけど」
「卿も重々承知いたしております。ですので、明日の出立を数時間遅らせる程度でと」
「それ、数時間で片づけろって事だよね?本当に人使い荒いなあ」
取りあえず、無駄に拘束時間が増えるよりはずっとましだけど。
一刻でも早く、一秒でも早く、アンドリューに会いたい。それ以外の事はどうでもいいんだ。
僕はしぶしぶと残業を受け入れて仮宿に向かった。ああ、働きたくない。
翌日の僕は、少女の姿だった。扇子で顔を半分覆い、瞳の色は緑へ、金の髪は巻いてアップにして。緩めのドレスを纏えば、そこには完全な令嬢が出来上がっていた。
元々高めの声は、意識して少し軽やかにすれば違和感はない。
「それでは参りましょうかね」
やさぐれた声で適当に吐き捨てるのは部屋の中まで。そこから一歩出れば、音もなく床を踏みしめる立ち姿まで疑われる要素はないはずだ。
兄の従者にエスコートされて、待ち合わせの怪しげな場所へと向かう。少し柄の悪い交流場では、上品ぶったイノシシが昼間から酒を煽っている。
従者は僕を見せびらかし、僕は恥じらったように彼の後ろに隠れて頬を染める。
正直、面倒くさい。僕をエスコートするのがアンドリューだったら最高なのに。溜息は心の内に留めて、上目にチラチラとイノシシを見つめ、視線が絡むと儚げに微笑んだ。
イノシシはにやりと濁った目で笑った。はい、捕獲完了。
従者が席を外した間に、イノシシは僕に詰め寄る。恥じらいと恐れを上手くないまぜながら、僕は時間を稼ぐ。時折艶を乗せて流し見たり、これ見よがしに唇に触れたりして煽る事も忘れない。
イノシシが僕の両手首を取った時には、もう全てが終わっている。
戻ってきた従者は、警備兵を連れて周囲を制圧し。
僕は怯えて泣くふりだけしておけばいい。用は足りただろう。
弟に色仕掛けさせて平気なんだろうか、兄さんは。ま、兄さんだからそんなものか。
そうして、いつもより数時間遅い帰路につき。足がつかないようにとこまめに姿を変え、順路を紆余曲折しながら、3日かけて長い旅路を戻って。漸く慣れ親しんだ公爵領が見えてくれば。
「ジョエル様、ご無事のお戻り、心よりお喜び申し上げます」
いつもより少し気せわしげだったアンディは、僕を抱きしめてくれた。
何を吹き込んだのか、これが正しく兄さんからの報酬なのだろう。
「ただいま、アンドリュー。会いたかった。ねぇ、今日は一緒に寝よう?」
一時でも、コンマ数秒でも、もう離れていたくない。
兄さんはいったいどんな魔法を使ったのだろうか。
アンドリューは、少しだけ眉を寄せて小さく頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる