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第一章異世界に舞い降りたキチガイ

NPCでも主人公でいられる場所2/4

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『俺』が気絶させられ、俺の視界が暗闇に包まれた。

ぷちんっと、何かが弾ける音がして、俺と『俺』をつなぐ糸が切れてしまった。

 体から急に力が抜け、感覚的にぐんぐん引き離されていくのを感じ取っていた。

そして膜のようなものを突き抜けたかと思うと、ドンっと、何か大きなものに突き飛ばされた。

ああ、、、俺は『この世界』に拒絶されたんだな、、、となんとなく分かった。

ここですらも、、、『俺』が主人公であって、、、俺は主人公にはなれないってか。


――――――――――――――
気付いた時には俺はアスファルトの上で体を極限まで縮こませながら泣いていた。
 世界に拒絶された時の感覚がまるで誰からも見てもらえなくなったような感じがして、、、、心はもう大丈夫だと理解しているのに、体の震えは一切収まろうとしなかった。
 目からは涙、鼻からは鼻水、気道は激しい嗚咽。
 苦しくって、、、、怖くて。
 俺は元の世界に戻って来たというのに、現実に戻って来れなかった。

 「おい、、、大丈夫か?」
 「ひっ、、、ひっ、、、、ひっ、、、ひゃんき(ヤンキー)、、、センパイ(先輩)?」

 体が全然いう事を聞かない中、俺は何とか首を動かす。
そこには、俺がボールペンで毒突きをしてしまった朝日奈楓の逆ハー要員であるヤンキー先輩が立っていらっしゃった。

 「ひっ、、、ひつっ、、、、ほれいはいり(御礼参り)、、、へすか(ですか)?」
 「ああ!?何言ってっか聞こえねえよ!まるで闇討ちにあって、暗所恐怖症になったやつみたいな声出しやがって。」

ボサボサとめんどくさそうに髪を掻きむしるとヤンキー先輩は細いながらも力強い腕で俺の腕を引き上げた。
・・・殺されるっ!!!?

 「ひゃうっ!?」
 「あ、暴れんなよ!?・・・はあ、何もしやしねえよ。後輩に仕返しなんてかっこわりい真似するほど落ちぶれてねえよ。肩貸せ、家まで送ってやる。」

どうやら私情を挟み過ぎた目で、彼のことを見ていたのかもしれない。
 送ってもらいながら彼の話を聞いたところ、彼は案外いい人だった。
ま、当然だよな。
 逆ハー要員が良い人じゃなかったら逆ハー要員じゃないし。
 、、、自分でも何言ってんだか。

そんな『良い人?』なヤンキー先輩は俺にブッ飛ばされてから、自分の行動がちょっと考えなしだったなと反省したらしく、謝ろうと俺を探していたらしい。
 自分にビビって俺が裏門から出るだろうという予測はバッチリ当たっていたらしく、分かり易い奴だと笑われてしまった。
てか、そんな反省するぐらいだったら胸ぐら掴んだりすんのやめて下さいよと愚痴ったら、こっちをまるで敵を見るかのような目でこっちを見ていたお前が悪いと逆になじられた。
ちょっとした嫉妬心だと思ってたが、盛大にガン飛ばしていたようだ。

ヤンキー先輩は本当に優しい先輩だった。マジで申し訳なくなるぐらいの善い人だった。
ガチで駅まで肩を貸してくれて、10分以上面倒見てくれるだけじゃなく、おれが一人で帰宅できない状態と見るや否や、自腹でタクシーに乗せてくれた。
 必ずお代は払いますからといったら

「バカ野郎!後輩から金をもらえるか!」

と怒鳴られた。
マジリスペクトっすわ。名前知らないけど。
 今度聞いたら、覚えることにしよう。

 珍しく人のやさしさに触れてほんわかしたが、妹様はそんな弱ってる俺でも容赦なくいじめてくるのだった。
 家に帰ってみると摂氏-100度の冷視線にさらされるや否や

「私お腹が空いてるんだけど、、、この意味が分かる?」

と意味不明な言いぐさでなじられた俺は・・・

「え?ご飯自分で作るって言って「ああん!?」・・・・すぐに作ります。」

 抵抗することを諦め、泣き疲れてしまい作る気力も無かったから、出前を取ってしまった。
 北陸地方はピザ屋の出前の種類が少ないので仕方ないよね(笑)と言い訳しつつ、朝顔が嫌がりそうな高カロリーのピザーラを届けていただいた。

 嬉しそうに頬張ってる妹様を見て、本能的に負けを認めてしまったがね。
 畜生・・・いつもの低カロリー、低カロリーとか言ってんのは一体なんなのよう!
 照り焼きチキンをふんだんに載せてあるピザは妹様の餌食になりつつあるのでハーフ&ハーフにしておいた王道の方を口に含む。

チーズが照り焼きよりもふんだんに使われているので王道系の方が好みだ。
 嗜好的に、肉や魚介よりもチーズの伸びる食感や風味の方が好きなのだ。
ここでも妹様とは反りが合わない。

 仕方ねえなあと思いながらピザをもちゃもちゃと頬張っていると、突然顎に激痛が走り顔を歪めた。
 恐る恐るといった感じで触れてみるが、何の傷もない。

 「なに?虫歯?」
 「いや、歯科検診受けたのつい先月だし。虫歯じゃないよ。」

 俺のそんな様子に興味を持ったのか、朝顔は珍しく話しかけてきた。
 俺が否定するとふーんと呟き、じいと俺の顎を見つめた。
なに?おにいちゃんに惚れた?

 「な、なにかしら朝顔さん?」
 「外傷はなしか・・・『思い出し痛』かもね?」
 「・・・?なにそれ?陸上用語?」
 「たまに、骨を練習でもってかれた・・・ああ、わかんないよね。・・・ちっ、めんどくさいなあ。」

 面倒そうに朝顔は顔をしかめる。・・・このままじゃうやむやに終わるな。
 素人に話すことの面倒さについては俺も分かるけども、ここは交渉時だな。
 妹様マスターに、、、お任せ!

 「実は、ピザ頼むついでにリンゴシャーベットをデザートとして頼んであるんだが」
 「・・・」
 「青森県産らしいぞ。100%すりおろしで造られてるらしい」
 「オッケー、分かったよ。」

ちょろいんっ!、、、お兄ちゃん、あなたの将来が心配になって来たぜ!
とか、俺が考えてる間も彼女の語りは紡がれていく。

 「骨がもってかれた、、、つまり完全な激痛や熱を持つような骨折があると、神経がその痛みを覚えちゃって、完治したはずなのにその痛みだけが再発しちゃう精神病だね。幻肢痛みたいなもんだって。陸上選手の骨折は疲労骨折が多いから、ポッキリ分かりやすい形で折れることが少ないから、もってかれたなんて変な用語があるんだよ。ちなみにだけどね。」

つまり、『実際にあった』傷を体が覚えてるってことか。
 俺が『あの世界』から帰って来た時、裏門は初めて見た時のようなあんな仰々しい門ではなく、ただ鉄柵が閉じているだけのどこにでもある校門になっていた。
もしかしたら、俺がもう一回とか考えてたらまたくぐれたのかもしれないが。
 正直、簡単に乗り越えられるような門で、封鎖すらされていない。
 門がそんなんだからあの時の光景も夢かと思ってたんだが、、、『現実に喰らった痛みをぶり返させる』思い出し痛か・・・

「ちなみにその、、、『思い出し痛』ってそんなに思い出すことになる元の痛みはヤバい痛みなのか?」
 「まあ、PTSDのようなもんだしね。痛みの原因が頭をよぎる度に足が震えるぐらいはトラウマになる痛みじゃないかな?」
 「え、、、、」

つまり、おれの身には、最低でも『もってかれたアアアアアアア!』級の痛みが頬を襲ったってことですかね?
 向こうの『俺』、、、大丈夫?

 翌日、俺はいつも通り変わり映えの無い登校を行い、チビロリな担任先生に『学校舐めてんのか?ああん!』的なお小言をいただく可能性が高かったから裏門をまたぐことにした。
 裏門の様子はあのへんな珍現象が起きた時の仰々しい感じは一切なく、長い歴史の中で黒く、汚れ煤けてしまった小ぢんまりとした門だった。
・・・幻覚だったのか?最近疲れてるしなあ。
でも幻覚見るのって、主人公っぽくないですか☆
幻覚も疲れも悪いもんじゃない。
ちょっとにやつく頬を自覚しながら今日も俺は、つまらない毎日を過ごす・・・

「フン!」

グチャッ!

 「ガッ!?」

はずがなかった
門をひょいと越え、悠々とちょっと長い散歩をしようとしていた俺のコメカミに何者かが凶刃を振り下ろす!
 油断していた俺は、無抵抗のままそれを喰らってしまい倒れ伏す。

 「な、、、なんだ?」

 上手く動かせない体を必死に動かし凶行者の姿を見る。
・・・まあ、担任ちゃんだったんだがね。
 見た目はともかく中身は立派な社会人であるはずの友澤穂乃果さんが俺を襲ってきていた。
・・・マジで何してくれてんの?

 「如峰月くーんっ!仕方ないっ!仕方ないよねっ!だって如峰月君私がこんなに尽くしているのに私の話、全然聞いてくれないいんだもんねえええええ!挙句の果てには校則で禁止されてる裏門からの出入りだもんねっ!もう、折檻、、、いや体罰で心を洗うしかないよねええええ!アハ、アハ、あはははははははははははははっつ!」
 「な、何故にヤンデレ風なんすか、、、先生。」

この後、瞳孔ひらきっぱでずっと嗤い続ける先生に生徒指導室へ引きづられていく俺を見た他の生徒がFacebookに画像アップしたことでとんだ事件が起こるのだが、それはまた別の話だ。
 生徒指導室では緊張が張りつめていた。
 俺を凍るような目つきで睨みつけながら、幼女は俺を尋問し始める。

 「で?」
 「でえ?一応部活は所属したんで問題ないはずっていうか・・・まあ、合わなかったからって名目で辞めましたが。」
 「で?」
 「で~出来れば、流石にまずいだろうと思ってビブリオバトル同好会に入部したこともポイント加算してくれるとうれしいお?」
 「お?」
 「お願いだから!その本を下ろして!今すぐに!」

 先生は目をギラギラさせながら『せいとめいぼ』を取り敢えず机に置いた。
 椅子に縛り付けられた俺はひとまず、ふう・・・と腹の底から安堵の息を漏らした。
・・・と、思ったら再び本を手に持ち構えやがった。

 「ひいいいいいいいいっ!」

そんな俺の様子にひとまず満足したのか(なんて教師だ)、満面の笑みを浮かべ、先生は俺の向かい合わせに置かれた椅子に座った。

 「ふふふ、部活入るよね?」
 「(ここでノーといったら殺されるっ)・・・まあ、探す期間を設けていただければ、部活見つけて今度こそしっかり二年まで在籍します。」
 「へえ?ちなみに期間は?」
 「そうですね・・・文化祭実行委員会に在籍させられたせいで探す時間があんまり取れないのでさしあたっては・・・2か」

せんせいはまんめんのえみのまま『せいとめいぼ』をつかった

 ほおづきさくらに7000000のダメージ!

 「い、、、一か」

 先生は嗤っている。

 「25日・・・」

せんせいはためにはいった。テンションが100上がった!スーパーはいてんしょん!に入った!
きおつけろ!つぎのこうげきは2倍いじょうのだめーじだ!

 「2週間!2週間以内でお願いします!」
 「・・・はあ、この社会のゴミめ。」
 「キャラ崩壊し過ぎですよ、先生!?」
 「ほうほうほうほうほう、、、、、、、、、、、いいですか!「ガッ」担任が!「ブッ」生徒の!「げはtっ」管理を!「ぶおっ」出来ないって!「・・・(脳震盪)」いう事は!「・・・」教頭からあ!「・・・」ぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐち文句言われることになるんですよお!」

 『!』ごとに穂のちゃん先生は担任にもかかわらず、可愛い生徒を殴打する。
・・・やばいやばい!
ぶっちゃけ、あの世界よりもこっちの方が危険なんだが!?
 肩をぜい、、、ぜい、、、と動かし、彼女はゆっくりとびくびく痙攣している俺の前に立つ。
 『たーみねーとしてやるぜい』という顔をした悪魔がぬっと顔を寄せてくる。

 「これにサインしてくれますね?」

なになに?2週間以内に部活に参加しなければ、、、、
1年間の奉仕作業!?

 「穂のちゃん先生・・・これにサインて冗談ですよね?」
 「冗談じゃない。書かなければ、、、(ブンと本を振り降ろす風切り音)、、、分かってますよね?如峰月君?」
 「ちきしょう!」

 今思えば、2週間って書いてあること自体、予めこの書類は用意されていたのだろう。
くそが!嵌められた!
 震える手でペンを握り(握らされ)、ガタガタ震えながら署名欄に名を記そうとする。

その時、がらっと扉が開かれた。
そこにいたのは、別のクラスの女子だった。
 変な空気になっているこの部屋を見てうっと顔をしかめたが、すぐに本題を思い出したのか大声を上げる。

 「大変です!先生のクラスが!」
 「なに!それは大変だ!すぐにいかなければ!」

 立ち上がり、走り出そうとした俺の肩を先生はがっと掴む。

 「なんですか、先生!僕たちのクラスで大変なことが起きてるんですよ!」
 「コレ、カイテケ」
 「・・・・・はい」

 慣れないことってするもんじゃないね。
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