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第一章異世界に舞い降りたキチガイ
NPCの本質2/4
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最凶は俺の手を強引に振り払い、もう一度ナイフを首筋に振り降ろしてきた。
それを防ごうと、レイピアを前に構える。
剣とナイフが噛み合おうとして、、、また歪んで消える。
「遅いよ!そのいつの間にか来ていたコートごと!・・・!?」
後ろから切りつけようとした『最凶』の姿が『上から』も『視えていた』ので、左腕を後ろに構え直して受ける。
魔力が回復したのでもう心配ない。
『黒曇衣≪コート≫』にも十分な魔力を込められたので、今までみたいに吹っ飛ばされるなんてことは有り得ない。
再び、前方に『最凶』がむすっとした顔で現れる。
「今の攻撃もさっきの攻撃もお兄さんの視覚外から攻撃したっていうのに何故か完璧に防がれちゃったね。感じ的に。しかも今まで魔力枯渇でろくに動けなかったのに動きが良くなってる。感じ的に。」
「そりゃどうも。俺は主人公だから、逆境には強いんだよ。」
「逆境ね・・・ま、いいけどさ。やせ我慢でしょ、どうせ。感じ的に。」
翅をパタパタ高速で羽ばたかさせながら、『最凶』はにやあと笑う。
「やせ我慢が、、、偶然が続かなくなるまで、、、攻撃してあげるよ、、、感じ的に。」
ぶんっと大きく音がするや否や、後ろに回り込んだ『最凶』が攻撃してきたので振り返って防ぐ。
防いだ瞬間、またぶんっと音をたてて最凶は今度は頭上に。
突き刺すような一撃を払ったら、またぶんっと音をたて今度は側面に。
体をいちいち動かすのも面倒になって来たので、よけることにする。
視覚外に一瞬で移動するそのスキルは見事なもんだが、速さは既に対応できているし、視覚外は『視えている』。
速さ重視のナイフの一線を時には体を傾け、時には手首を払うことで対応していく。
「なんで!なんでだよ!なんで視覚外なのに避けれてるんだッ!?おかしいよ!感じ的に!」
余りの速さから、数か所からそんな声が聞こえる気がする。
そして、余裕が出来たために術は練り終わった。
「ごめん、魔力の無駄遣いは出来ないんだ。終わらせる、『曇の網≪ネット≫』」
「な、なに!?・・・ぐえっ!か、体が動かない・・・感じ的な。」
剣から溢れ出た雲が周囲を包み込み、少年の右半身を捕えこむ。
全身を捕えこむつもりだったのに、、、とっさに体をひねったのか。
右腕を少しでも動かそうともがいてはいるが、魔力は十分練ってある。
逃げられるはずがない。
半ば目的は達したので右手に凝縮された黒雲をかざす。
「吹っ飛べ!『曇の一撃≪ショット≫』4連!」
「ぐあああああっ!」
4筋の黒き奔流は『最凶』の腹に突き刺さり、絡みついた黒雲ごと魔物の大群の駐屯部へと叩きこんだ。
・・・随分遠くまでとんだな。
流石に4本分の威力はとんでもないな。
「・・・おっと、こうしちゃいられない。終わらせないと。」
上から見た所によると、『最凶』がふってきたことで軍全体が混乱し始め、俺の所に向かってくるものなどがでるなど、盆地の中から出そうな人間が出始めていた。
せっかく、上から狙い撃てるアドバンテージがあるのにもったいなさすぎる。
さっさと決めてしまおう。
「桜、パイプを強めてくれ。終わらせよう。・・・本質能力『自分であり自分でない者≪アナザー・ミー≫』」
本質能力とは、この世界で生を受けたすべての者が生命の危機を乗り越える為に魔力と共に世界から与えられるもの。
アリア=レイディウスが雷の勇者から身を守るために『曇の種』を発現し、曇の属性を開花したように。
如峰月桜が異世界という恐ろしい世界から精神を守るために、元々いた『主人公になりたい自分』をサクラとして存在させたように。
つまり、この世界限定でサクラ=レイディウスは如峰月桜であり、そうでないのだ。
では、桜はサクラ=レイディウスである時どこにいるのか。
簡単だ。サクラにすべてを委ねる一方、意識だけでありながら確固とした存在としてサクラを空から眺めていた。
簡単に言ってしまえば、サクラ=レイディウスも如峰月桜もこの世界では一個の存在として認められた存在なのだ。
つまり、二人ともにそれぞれ魔力を宿している。
普段は感覚だけをつないでいるパイプであるが、それを強めることで3つの能力が発現される。
一つ『視界の共有』
上から眺めている、桜の視界をサクラ=レイディウスは得ることが出来る。
いわゆる鳥の眼と呼ばれるこの能力。
視覚外の攻撃も視認できる能力だけでなく、大局的な戦略眼まで彼は手に入れた。
二つ『魔力の供給バイパス』
パイプによって桜の魔力をサクラに供給してあげる能力。
桜はサクラであり、桜。当然のことながら、桜とサクラは同じ魔力量で同じ質なのだ。
つまり、サクラはただでさえ多い魔力に替えがあるのだ。
魔力枯渇になりかけたサクラを二度も救ったのもこの能力。
そして3つ目。
パイプはさらに深くつながり、一度100%のシンクロを迎える。
しかし、100%では終わらない。
そして、100%は有り得ない、二人は根源的な部分が異なるから。
更に深く真理へと繋がっていく。
そして、最後に奥深き底で、お互いにシンクロ出来ない自分が残る。
『主人公になりたいと願う自分』と『主人公である自分』
世界が認めた確固たる二人がいるんだ。
彼らは、彼らであって彼らでないと世界によって認められているのだから。
同じ人間の中で異なる確固とした存在があってはならない。
結果として世界によって、一時的に二人の存在が認められる。
「初めまして、、、如峰月桜。」
青白く光る人型。
そこに本来ないはずで、でも世界によって生まれたもの。
自分であり自分でない者。
それが、サクラ=レイディウスの隣に立っていた。
如峰月桜は学生服で腰には何故かレイピアという捕まりそうな格好でその場に『いた』
彼はレイピアを抜き出し空に構える。
「『曇よ』」
如峰月桜は、曇の種の思い出し痛と自分の魔力に従って白雲を出し始める。
アリアの曇の種の疼きによって、かつてサクラ=レイディウスが教えられたやり方を、同じ感覚を共有してきた桜はもう一度繰り返す。
出来ないはずはない、彼もまたサクラなのだから。
同じ魔力を持っているのだから
雲が黒雲へと変わっていく。
サクラ=レイディウスはその光景に笑顔を浮かべる。
如峰月桜がこの世界で魔術を使えるという事は、彼がこの世界に認められたことの証明であり、、、勝利が近いことの証明だからだ。
サクラ=レイディウスと如峰月桜の剣が交差し、黒雲が混ざって、、、急に二つに分かれて戦場を駆け巡っていく。
駆け抜ける程に雲は拡大し、雲は厚くなっていく。
アリア=レイディウスの時は反発があったその魔術も反発が起こることは有り得ない。
だってすべて自分の魔力なんだから。失敗するはずがない。
如峰月桜が生み出し、託した力をサクラ=レイディウスが振るうことによって、机上の空論は現実のものになる。
かつて、アリアは言った。
「連結魔術をもし完全な状態で使えたらって研究レポートがあったんですけどそのレポートでは、もし、反発が起こらない完全な相性を持つ二人が連結魔術を使った場合、『相乗効果』って現象が起こるらしくて、通常の魔法の約100倍の威力が出るらしいですよ。おかしいですよね。双子ですら、シンクロ率は70%だっていうのに。で、その理論値を元に曇の魔術だったらどうなるかを計算してみたんですよ。曇の魔術は性質上、周りの魔力を巻き込んで更に増幅していくから。そしたらとんでもないんですよなんと・・・」
5000倍。
その数字は冗談みたいなもんですけど、実現できたらいいですねとアリアは笑っていたが、ガチみたいだぜ。それ。
自分であって自分じゃないけど、同じ性質の魔力を持っている俺だけの、、、いや、『俺たちだけ』の主人公チートだ。
名前も新しくした方がいいだろう、、、
「「『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』発動。」」
嵐が起きる前兆のように激しく震え、拡がる黒雲。
一万人が滞在可能な盆地を僅か数秒で包み込み、まだ広がる。
魔物たちが嵐を感じ取り、慄き、恐怖に身をちぢこませる。
まるで、本物の嵐の前触れかのような雲だ。
これは、本当に『災害指定生物』のステータスが本物になっちまうな。
ま、それはそれでいい。
大事なものを守るためなら、俺は主人公以外の者にもなってやるさ。
「『曇の雨雨≪スコール≫』」
ある兵士が、喉があまりにも乾いたからと言って水筒を開いたら、その中から大量の水蒸気が上がってある方向へと向かって飛んでいった。
ある村では、水田の水が全て干上がった。
ある町では、木の家が乾きすぎて燃え上がった。
余りにも大きすぎる嵐黒雲は大陸中の水分をかき集め、世界を揺るがす。
操作に関しては問題ない。
サクラが全ての能力を操作に使っているのだから。
本当は魔術によって作られた存在しないはずの雲なのに、世界がその存在を認めたかのように後付で幻の風を吹かし、雷の幻音を響かせる。
魔獣たちはこのころになると、世界の終わりを見るかのようにぼんやりと自分の死を与える存在をただ見つめる。
最初、『曇の雨雨≪スコール≫』を使ったとき、大きな水球が一つ空から落ちてきた。
しかし、雲の量は万倍にもなる。
今回の水球は、、、一つ一つがとんでもない大きさで、それが複数個。
、、、これも名前を変えた方がいいかもしれない。
ビー玉程度の質量を持った物体が12メートル先から落ちた場合でさえ、人間を殺してしまうほどの威力がある。
もし、それがビー玉の何千倍もの質量を持った水球で、雲と同じ高さから落ちてきたら
『嵐曇の落水≪メテオ・ストーム・アクア≫』
世界は水蒸気だけになった。
二回目の魔力枯渇になりそうだ。
そうならないように、桜は意識体に戻り残りの魔力を全部俺にくれた。
フラフラしながら、アリアの側に戻る。
「アリア!アリア!」
水蒸気でベッタベタになった体を抱き起して、青白い頬をパシパシ叩く。
幸運なことに、アリアはうう・・・と反応はした。
・・・よかった。
俺ほど魔力枯渇は深刻じゃなかったのか。
「よかったねおにいさん。助かったみたいじゃん。感じ的に。」
声がした方をみると、腹を抑えながら足を引きづる『最凶』が佇んでいた。
「、、、『嵐曇の落水≪メテオ・ストーム・アクア≫』の範囲外に逃げ切れたのか。」
「墜落してから、すぐにおにいさんの元へと全力で移動したからね。まさか、こんなとんでもない魔術を使ってくるとは思わなかったけど。被害だけなら勇者を越えてるんじゃないかな。感じ的に。」
呆れた表情で、盆地だったものを見る。
「多分、世界で一番デカい湖だと思うよ。これ。感じ的に。」
水蒸気が晴れていく中で、そこはまさしく何もなかった。
水中に潜れば何かしらえぐれた後とか、魔獣の死体とか見られるかもしれないがただただ水面が広がるだけだった。
「ははは、、、まさか、本気で一万の魔物を倒せるとは思ってなかったけど。」
「魔術の選択も良かったと思うよ?火山で飛龍と戦う算段だったから、熱耐性のあるモンスターばっかりで水耐性のある、、、まして、泳げるモンスターなんてほとんどいなかったと思うよ。てか、キチガイなおにいさんのキチガイ魔法の最初の水球?だけで殆ど死んじゃったと思うよ。感じ的に?」
おい、、、聞き捨てならんぞ?
「だれが、キチガイだ!?」
「いや、おにいさんキチガイでしょ?」
「違うよ!?」
「だって、周りの影響なんて一切考えずに破壊するキチガイ精神に、人間の癖に後ろに目がついてる変態性、死にそうになっても勝手に魔力が回復する虫並の生命力。・・・キチガイでしょ?感じ的に」
「しゅ、主人公スキルだもん!き、キチガイじゃないもん!」
ま、まずい、、、魔獣の国にいるこの男の子みたいな知恵のある人間たちにキチガイとして広められてしまう・・・
「おにいさん、、、空気的に論破されてない?感じ的に?」
「くそう・・・」
膝から思わずくずれ落ちてしまう。
そんな俺の様子をけらけら笑いながら見つめていた『最凶』は湖を見て急に真面目な顔をした。
「決着付けようか?おにいさん。感じ的に。」
その声を聴き、俺はレイピアを構え直す。
こんなこともあるかと思って、桜が俺になけなしの魔力を譲ってくれたのだが、、、早速だったな。
まだ、一回戦うぐらいは大丈夫だろう。
『最凶』が腹から手を外し、翅を羽ばたかせる。
宙に浮く少年の腹は、服が灼けきれていて、昆虫のような肌が見えていた。
・・・やっぱり昆虫系の魔獣、、、魔人だったのか。
魔力を使い過ぎたのか、『鳥の眼』はもう機能していない。
桜、気絶したのかな?
『黒曇衣≪コート≫』を視神経の強化に回し、一瞬の隙も見逃さないようにする。
もう速さにはついていけないから、カウンターを狙うしかない。
切っ先は常に『最凶』に向けたままだ。
「おにいさんには、礼を言っとかないとね。感じ的に。」
羽ばたきに合わせて体をぶらしながら、『最凶』は語り始める。
やっぱ、追いにくいな。
この独特のリズム、、、速さも合わせたその技は。
気づいたときには相手の懐に潜り込む、相手の意識外を渡る。
様々な小説で使われる最強で最速でテンプレの移動技『縮地』を本当に見せられてるようだ。
「実はね。今回の失敗で正式に僕の上司が降格処分喰らうだろうから、エレベーター式に僕が出世することがはっきりしてるんだ!ちょっと、目の上のたんこぶみたいなやつだったから、本当にありがとうね!お礼を言っておくよ。感じ的に!」
「・・・そうかい。」
こうして話してる間も、俺の意識外に潜りこもうと虎視眈々と狙っているのが強化された眼は捉えている。
・・・本当に、『縮地』って繊細な技なんだろうな。
そして、『縮地』使いは相手の呼吸を読むのが上手い。
気をつけねえと。
「おにいさんがキチガイって言う情報をお土産にできるしね!」
「違うよ!?・・・しまった!」
ちょっと、興奮した瞬間に『最凶』は姿を消した。
なんとか、目は追い切れてる。
「『曇の沼≪プール≫』」
雲の沼を地面に広げ、移動速度を削いでいく。
もがけばもがくほど、この雲は機動力を削いでいく。
「甘いよ。感じ的に。」
しかし、体は宙に浮かんでいたので捉えきれていない。
・・・ちっ、飛んでても縮地は使えるのか。
むしろ、飛んでる方が早いのか残像を残しつつ、俺の周りを何匹もの虫が飛んでるかのような錯覚を与える。
「これが、僕の最高スピードだ。どうやら、後ろの眼は使えないようだし、終わらせてもらう、、、よっ!」
珍しく、ふざけた語彙をつけずに『最凶』は言葉を残す。
その瞬間、虫の羽音が倍に。
流石に、目でも追いきれない。
『最凶』自体も、自分の速さについていけてないのか残像の体から出血し始めている。
「・・・」
ブーン、ブーンとソニックウェーブが鳴り響く中、俺は目を閉じる。
ブーン
ブーン
諦めたとでも思ったのか、格好つけようとしたのか、徐々に羽音は激しさを増していく
ブーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブーン
ブァ
「「ハァッ!!!」」
俺は振り返りざまに、レイピアを突き出した。
そこには手ごたえがあった。
左腕を深く切りつけられながらも、俺のレイピアは『最凶』の喉元を捉えていた。
「な、、、なんで、、、」
掠れた声で『最凶』が呆然とする。
「『縮地』で意識外の攻撃に拘るお前が正面から攻撃してくるわけない。ゼッタイ背後から攻撃してくるに決まってる。後は、お前の呼吸を盗んでいつ攻撃してくるか予想しただけだ。」
「はあ?・・・僕の動きが・・・みえてたってこと?」
「おいおい、フェッシングでは相手の呼吸から攻撃がいつ来るか予測するのは常識だぜ?速かろうが遅かろうが、呼吸さえ読めればいつ攻撃してくるかなんて簡単にわかる。」
「常識外キチガイめ・・・」
掠れた声で、『最凶』は膝から崩れ落ち、しりもちをつく。
それを、その瞬間、『最凶』に切り付けられた左手から全身にドクンと何かが流れた。
「あれ・・・?」
『黒曇衣≪コート≫』や『曇の沼≪プール≫』など、張り巡らしていた様々な魔術が勝手に霧散していく
『黒曇衣≪コート≫』の身体強化で何とか動かせていた体は崩れ落ちてしまう。
「おにいさん、、、ゆだんした、、、ね、、、ぼくも、、、息でき、、、ないけど、、、、おにい、、、さんの、、、剣、、、先、、、詰めてる、、、でしょ、、、ぼくの、、、ナイフ、、、きりつけた、、、まりょく、、、あいての、、、たんじかん、、、外に出るの、、、ぼうがい、、、する、、、感じ的に」
動かない体に『最凶』がのしかかる。
「おにいさん、、、じぶんの、、、あまさで、、、しんじゃえ、、、」
『最凶』が振り下ろそうとする剣を呆然と見つめる。
ああ、、、結構頑張ったつもりなんだが、、、駄目だったかー。
最後まで、抵抗しようと全く動かせなくなってしまった魔力を必死で練る。
「バイバイ、、、感じ的に、、、いってみた」
ナイフが振り下ろされた。
「やめておけ」
剣先は俺の胸元からわずか一センチの所で止まった。
その声を聴いた瞬間、俺も、『最凶』も体が震えはじめた。
その声の主を視ることも恐れ多くて、、、でも見ないこともまた失礼。
「そのものは我が同胞と龍人たちを救ったのだ。つまり、我もこやつに恩がある。小虫よ、もしこれ以上この人間に手を出そうとするなら、、、その翅引っこ抜いて、生皮剥いでくれよう。」
「ひ、、、、飛龍。」
動けないはずの『最凶』が、翅をバタバタはためかせて、ズザザッと後ずさる。
大きな湖の中心部に、その生き物はいた。
大きさは俺の雲なんかとは比べ物にならないぐらい小さいが、一万の軍勢でも生け捕りは無理だという意味が本能的にわかった。
ギラギラ光る緑の龍の牙が、、、爪が、、、鱗が、、、力の証明になっていた。
「・・・『黒曇衣≪コート≫』」
俺もいつの間にか、魔力のコントロールを取り戻した魔力で立ち上がった。
ホントに、短時間の効果だったんだな・・・
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
『最凶』が色々漏らしながら、すごい勢いで飛び立った。
「どうする?」
飛竜が聞いて来たので、首を振った。
俺の意思を尊重してくれたのか、飛龍は借りは返したぞと言って大きく欠伸をした。
あ、そうだ。アリア。
アリアの方を向いて、歩きはじめる。
アリアは、ぶっちゃけ、龍に負けないくらいびっくりするほど美人だな。
そんなことをぼうっと考えながら、彼女の寝顔に手を伸ばし・・・
「・・・あ」
『黒曇衣≪コート≫』が切れた。
もう、本当に空っぽだったのか・・・
アリアの寝顔に伸ばした手は、空ぶってしまった。
体は段々後ろに傾いていき、湖に落ちてしまう。
深く、深く、沈み込んでしまう。
青い世界はどんどん暗い蒼になっていく。
全く動かない体を必死に動かし、、、
上にいるはずのアリアへと手を伸ばした
世界は暗闇に包まれた。
ありがとうございます、サクラ。・・・別に、私の時より連結魔術が威力高かったからって拗ねてなんていませんけどっ!
アリアのそんな拗ねた声が聞こえた気がして、ちょっと笑ってしまった。
アリアに早く会いたい・・・
それを防ごうと、レイピアを前に構える。
剣とナイフが噛み合おうとして、、、また歪んで消える。
「遅いよ!そのいつの間にか来ていたコートごと!・・・!?」
後ろから切りつけようとした『最凶』の姿が『上から』も『視えていた』ので、左腕を後ろに構え直して受ける。
魔力が回復したのでもう心配ない。
『黒曇衣≪コート≫』にも十分な魔力を込められたので、今までみたいに吹っ飛ばされるなんてことは有り得ない。
再び、前方に『最凶』がむすっとした顔で現れる。
「今の攻撃もさっきの攻撃もお兄さんの視覚外から攻撃したっていうのに何故か完璧に防がれちゃったね。感じ的に。しかも今まで魔力枯渇でろくに動けなかったのに動きが良くなってる。感じ的に。」
「そりゃどうも。俺は主人公だから、逆境には強いんだよ。」
「逆境ね・・・ま、いいけどさ。やせ我慢でしょ、どうせ。感じ的に。」
翅をパタパタ高速で羽ばたかさせながら、『最凶』はにやあと笑う。
「やせ我慢が、、、偶然が続かなくなるまで、、、攻撃してあげるよ、、、感じ的に。」
ぶんっと大きく音がするや否や、後ろに回り込んだ『最凶』が攻撃してきたので振り返って防ぐ。
防いだ瞬間、またぶんっと音をたてて最凶は今度は頭上に。
突き刺すような一撃を払ったら、またぶんっと音をたて今度は側面に。
体をいちいち動かすのも面倒になって来たので、よけることにする。
視覚外に一瞬で移動するそのスキルは見事なもんだが、速さは既に対応できているし、視覚外は『視えている』。
速さ重視のナイフの一線を時には体を傾け、時には手首を払うことで対応していく。
「なんで!なんでだよ!なんで視覚外なのに避けれてるんだッ!?おかしいよ!感じ的に!」
余りの速さから、数か所からそんな声が聞こえる気がする。
そして、余裕が出来たために術は練り終わった。
「ごめん、魔力の無駄遣いは出来ないんだ。終わらせる、『曇の網≪ネット≫』」
「な、なに!?・・・ぐえっ!か、体が動かない・・・感じ的な。」
剣から溢れ出た雲が周囲を包み込み、少年の右半身を捕えこむ。
全身を捕えこむつもりだったのに、、、とっさに体をひねったのか。
右腕を少しでも動かそうともがいてはいるが、魔力は十分練ってある。
逃げられるはずがない。
半ば目的は達したので右手に凝縮された黒雲をかざす。
「吹っ飛べ!『曇の一撃≪ショット≫』4連!」
「ぐあああああっ!」
4筋の黒き奔流は『最凶』の腹に突き刺さり、絡みついた黒雲ごと魔物の大群の駐屯部へと叩きこんだ。
・・・随分遠くまでとんだな。
流石に4本分の威力はとんでもないな。
「・・・おっと、こうしちゃいられない。終わらせないと。」
上から見た所によると、『最凶』がふってきたことで軍全体が混乱し始め、俺の所に向かってくるものなどがでるなど、盆地の中から出そうな人間が出始めていた。
せっかく、上から狙い撃てるアドバンテージがあるのにもったいなさすぎる。
さっさと決めてしまおう。
「桜、パイプを強めてくれ。終わらせよう。・・・本質能力『自分であり自分でない者≪アナザー・ミー≫』」
本質能力とは、この世界で生を受けたすべての者が生命の危機を乗り越える為に魔力と共に世界から与えられるもの。
アリア=レイディウスが雷の勇者から身を守るために『曇の種』を発現し、曇の属性を開花したように。
如峰月桜が異世界という恐ろしい世界から精神を守るために、元々いた『主人公になりたい自分』をサクラとして存在させたように。
つまり、この世界限定でサクラ=レイディウスは如峰月桜であり、そうでないのだ。
では、桜はサクラ=レイディウスである時どこにいるのか。
簡単だ。サクラにすべてを委ねる一方、意識だけでありながら確固とした存在としてサクラを空から眺めていた。
簡単に言ってしまえば、サクラ=レイディウスも如峰月桜もこの世界では一個の存在として認められた存在なのだ。
つまり、二人ともにそれぞれ魔力を宿している。
普段は感覚だけをつないでいるパイプであるが、それを強めることで3つの能力が発現される。
一つ『視界の共有』
上から眺めている、桜の視界をサクラ=レイディウスは得ることが出来る。
いわゆる鳥の眼と呼ばれるこの能力。
視覚外の攻撃も視認できる能力だけでなく、大局的な戦略眼まで彼は手に入れた。
二つ『魔力の供給バイパス』
パイプによって桜の魔力をサクラに供給してあげる能力。
桜はサクラであり、桜。当然のことながら、桜とサクラは同じ魔力量で同じ質なのだ。
つまり、サクラはただでさえ多い魔力に替えがあるのだ。
魔力枯渇になりかけたサクラを二度も救ったのもこの能力。
そして3つ目。
パイプはさらに深くつながり、一度100%のシンクロを迎える。
しかし、100%では終わらない。
そして、100%は有り得ない、二人は根源的な部分が異なるから。
更に深く真理へと繋がっていく。
そして、最後に奥深き底で、お互いにシンクロ出来ない自分が残る。
『主人公になりたいと願う自分』と『主人公である自分』
世界が認めた確固たる二人がいるんだ。
彼らは、彼らであって彼らでないと世界によって認められているのだから。
同じ人間の中で異なる確固とした存在があってはならない。
結果として世界によって、一時的に二人の存在が認められる。
「初めまして、、、如峰月桜。」
青白く光る人型。
そこに本来ないはずで、でも世界によって生まれたもの。
自分であり自分でない者。
それが、サクラ=レイディウスの隣に立っていた。
如峰月桜は学生服で腰には何故かレイピアという捕まりそうな格好でその場に『いた』
彼はレイピアを抜き出し空に構える。
「『曇よ』」
如峰月桜は、曇の種の思い出し痛と自分の魔力に従って白雲を出し始める。
アリアの曇の種の疼きによって、かつてサクラ=レイディウスが教えられたやり方を、同じ感覚を共有してきた桜はもう一度繰り返す。
出来ないはずはない、彼もまたサクラなのだから。
同じ魔力を持っているのだから
雲が黒雲へと変わっていく。
サクラ=レイディウスはその光景に笑顔を浮かべる。
如峰月桜がこの世界で魔術を使えるという事は、彼がこの世界に認められたことの証明であり、、、勝利が近いことの証明だからだ。
サクラ=レイディウスと如峰月桜の剣が交差し、黒雲が混ざって、、、急に二つに分かれて戦場を駆け巡っていく。
駆け抜ける程に雲は拡大し、雲は厚くなっていく。
アリア=レイディウスの時は反発があったその魔術も反発が起こることは有り得ない。
だってすべて自分の魔力なんだから。失敗するはずがない。
如峰月桜が生み出し、託した力をサクラ=レイディウスが振るうことによって、机上の空論は現実のものになる。
かつて、アリアは言った。
「連結魔術をもし完全な状態で使えたらって研究レポートがあったんですけどそのレポートでは、もし、反発が起こらない完全な相性を持つ二人が連結魔術を使った場合、『相乗効果』って現象が起こるらしくて、通常の魔法の約100倍の威力が出るらしいですよ。おかしいですよね。双子ですら、シンクロ率は70%だっていうのに。で、その理論値を元に曇の魔術だったらどうなるかを計算してみたんですよ。曇の魔術は性質上、周りの魔力を巻き込んで更に増幅していくから。そしたらとんでもないんですよなんと・・・」
5000倍。
その数字は冗談みたいなもんですけど、実現できたらいいですねとアリアは笑っていたが、ガチみたいだぜ。それ。
自分であって自分じゃないけど、同じ性質の魔力を持っている俺だけの、、、いや、『俺たちだけ』の主人公チートだ。
名前も新しくした方がいいだろう、、、
「「『嵐曇魔術≪スーパーセル≫』発動。」」
嵐が起きる前兆のように激しく震え、拡がる黒雲。
一万人が滞在可能な盆地を僅か数秒で包み込み、まだ広がる。
魔物たちが嵐を感じ取り、慄き、恐怖に身をちぢこませる。
まるで、本物の嵐の前触れかのような雲だ。
これは、本当に『災害指定生物』のステータスが本物になっちまうな。
ま、それはそれでいい。
大事なものを守るためなら、俺は主人公以外の者にもなってやるさ。
「『曇の雨雨≪スコール≫』」
ある兵士が、喉があまりにも乾いたからと言って水筒を開いたら、その中から大量の水蒸気が上がってある方向へと向かって飛んでいった。
ある村では、水田の水が全て干上がった。
ある町では、木の家が乾きすぎて燃え上がった。
余りにも大きすぎる嵐黒雲は大陸中の水分をかき集め、世界を揺るがす。
操作に関しては問題ない。
サクラが全ての能力を操作に使っているのだから。
本当は魔術によって作られた存在しないはずの雲なのに、世界がその存在を認めたかのように後付で幻の風を吹かし、雷の幻音を響かせる。
魔獣たちはこのころになると、世界の終わりを見るかのようにぼんやりと自分の死を与える存在をただ見つめる。
最初、『曇の雨雨≪スコール≫』を使ったとき、大きな水球が一つ空から落ちてきた。
しかし、雲の量は万倍にもなる。
今回の水球は、、、一つ一つがとんでもない大きさで、それが複数個。
、、、これも名前を変えた方がいいかもしれない。
ビー玉程度の質量を持った物体が12メートル先から落ちた場合でさえ、人間を殺してしまうほどの威力がある。
もし、それがビー玉の何千倍もの質量を持った水球で、雲と同じ高さから落ちてきたら
『嵐曇の落水≪メテオ・ストーム・アクア≫』
世界は水蒸気だけになった。
二回目の魔力枯渇になりそうだ。
そうならないように、桜は意識体に戻り残りの魔力を全部俺にくれた。
フラフラしながら、アリアの側に戻る。
「アリア!アリア!」
水蒸気でベッタベタになった体を抱き起して、青白い頬をパシパシ叩く。
幸運なことに、アリアはうう・・・と反応はした。
・・・よかった。
俺ほど魔力枯渇は深刻じゃなかったのか。
「よかったねおにいさん。助かったみたいじゃん。感じ的に。」
声がした方をみると、腹を抑えながら足を引きづる『最凶』が佇んでいた。
「、、、『嵐曇の落水≪メテオ・ストーム・アクア≫』の範囲外に逃げ切れたのか。」
「墜落してから、すぐにおにいさんの元へと全力で移動したからね。まさか、こんなとんでもない魔術を使ってくるとは思わなかったけど。被害だけなら勇者を越えてるんじゃないかな。感じ的に。」
呆れた表情で、盆地だったものを見る。
「多分、世界で一番デカい湖だと思うよ。これ。感じ的に。」
水蒸気が晴れていく中で、そこはまさしく何もなかった。
水中に潜れば何かしらえぐれた後とか、魔獣の死体とか見られるかもしれないがただただ水面が広がるだけだった。
「ははは、、、まさか、本気で一万の魔物を倒せるとは思ってなかったけど。」
「魔術の選択も良かったと思うよ?火山で飛龍と戦う算段だったから、熱耐性のあるモンスターばっかりで水耐性のある、、、まして、泳げるモンスターなんてほとんどいなかったと思うよ。てか、キチガイなおにいさんのキチガイ魔法の最初の水球?だけで殆ど死んじゃったと思うよ。感じ的に?」
おい、、、聞き捨てならんぞ?
「だれが、キチガイだ!?」
「いや、おにいさんキチガイでしょ?」
「違うよ!?」
「だって、周りの影響なんて一切考えずに破壊するキチガイ精神に、人間の癖に後ろに目がついてる変態性、死にそうになっても勝手に魔力が回復する虫並の生命力。・・・キチガイでしょ?感じ的に」
「しゅ、主人公スキルだもん!き、キチガイじゃないもん!」
ま、まずい、、、魔獣の国にいるこの男の子みたいな知恵のある人間たちにキチガイとして広められてしまう・・・
「おにいさん、、、空気的に論破されてない?感じ的に?」
「くそう・・・」
膝から思わずくずれ落ちてしまう。
そんな俺の様子をけらけら笑いながら見つめていた『最凶』は湖を見て急に真面目な顔をした。
「決着付けようか?おにいさん。感じ的に。」
その声を聴き、俺はレイピアを構え直す。
こんなこともあるかと思って、桜が俺になけなしの魔力を譲ってくれたのだが、、、早速だったな。
まだ、一回戦うぐらいは大丈夫だろう。
『最凶』が腹から手を外し、翅を羽ばたかせる。
宙に浮く少年の腹は、服が灼けきれていて、昆虫のような肌が見えていた。
・・・やっぱり昆虫系の魔獣、、、魔人だったのか。
魔力を使い過ぎたのか、『鳥の眼』はもう機能していない。
桜、気絶したのかな?
『黒曇衣≪コート≫』を視神経の強化に回し、一瞬の隙も見逃さないようにする。
もう速さにはついていけないから、カウンターを狙うしかない。
切っ先は常に『最凶』に向けたままだ。
「おにいさんには、礼を言っとかないとね。感じ的に。」
羽ばたきに合わせて体をぶらしながら、『最凶』は語り始める。
やっぱ、追いにくいな。
この独特のリズム、、、速さも合わせたその技は。
気づいたときには相手の懐に潜り込む、相手の意識外を渡る。
様々な小説で使われる最強で最速でテンプレの移動技『縮地』を本当に見せられてるようだ。
「実はね。今回の失敗で正式に僕の上司が降格処分喰らうだろうから、エレベーター式に僕が出世することがはっきりしてるんだ!ちょっと、目の上のたんこぶみたいなやつだったから、本当にありがとうね!お礼を言っておくよ。感じ的に!」
「・・・そうかい。」
こうして話してる間も、俺の意識外に潜りこもうと虎視眈々と狙っているのが強化された眼は捉えている。
・・・本当に、『縮地』って繊細な技なんだろうな。
そして、『縮地』使いは相手の呼吸を読むのが上手い。
気をつけねえと。
「おにいさんがキチガイって言う情報をお土産にできるしね!」
「違うよ!?・・・しまった!」
ちょっと、興奮した瞬間に『最凶』は姿を消した。
なんとか、目は追い切れてる。
「『曇の沼≪プール≫』」
雲の沼を地面に広げ、移動速度を削いでいく。
もがけばもがくほど、この雲は機動力を削いでいく。
「甘いよ。感じ的に。」
しかし、体は宙に浮かんでいたので捉えきれていない。
・・・ちっ、飛んでても縮地は使えるのか。
むしろ、飛んでる方が早いのか残像を残しつつ、俺の周りを何匹もの虫が飛んでるかのような錯覚を与える。
「これが、僕の最高スピードだ。どうやら、後ろの眼は使えないようだし、終わらせてもらう、、、よっ!」
珍しく、ふざけた語彙をつけずに『最凶』は言葉を残す。
その瞬間、虫の羽音が倍に。
流石に、目でも追いきれない。
『最凶』自体も、自分の速さについていけてないのか残像の体から出血し始めている。
「・・・」
ブーン、ブーンとソニックウェーブが鳴り響く中、俺は目を閉じる。
ブーン
ブーン
諦めたとでも思ったのか、格好つけようとしたのか、徐々に羽音は激しさを増していく
ブーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブブーンーン
ブーン
ブァ
「「ハァッ!!!」」
俺は振り返りざまに、レイピアを突き出した。
そこには手ごたえがあった。
左腕を深く切りつけられながらも、俺のレイピアは『最凶』の喉元を捉えていた。
「な、、、なんで、、、」
掠れた声で『最凶』が呆然とする。
「『縮地』で意識外の攻撃に拘るお前が正面から攻撃してくるわけない。ゼッタイ背後から攻撃してくるに決まってる。後は、お前の呼吸を盗んでいつ攻撃してくるか予想しただけだ。」
「はあ?・・・僕の動きが・・・みえてたってこと?」
「おいおい、フェッシングでは相手の呼吸から攻撃がいつ来るか予測するのは常識だぜ?速かろうが遅かろうが、呼吸さえ読めればいつ攻撃してくるかなんて簡単にわかる。」
「常識外キチガイめ・・・」
掠れた声で、『最凶』は膝から崩れ落ち、しりもちをつく。
それを、その瞬間、『最凶』に切り付けられた左手から全身にドクンと何かが流れた。
「あれ・・・?」
『黒曇衣≪コート≫』や『曇の沼≪プール≫』など、張り巡らしていた様々な魔術が勝手に霧散していく
『黒曇衣≪コート≫』の身体強化で何とか動かせていた体は崩れ落ちてしまう。
「おにいさん、、、ゆだんした、、、ね、、、ぼくも、、、息でき、、、ないけど、、、、おにい、、、さんの、、、剣、、、先、、、詰めてる、、、でしょ、、、ぼくの、、、ナイフ、、、きりつけた、、、まりょく、、、あいての、、、たんじかん、、、外に出るの、、、ぼうがい、、、する、、、感じ的に」
動かない体に『最凶』がのしかかる。
「おにいさん、、、じぶんの、、、あまさで、、、しんじゃえ、、、」
『最凶』が振り下ろそうとする剣を呆然と見つめる。
ああ、、、結構頑張ったつもりなんだが、、、駄目だったかー。
最後まで、抵抗しようと全く動かせなくなってしまった魔力を必死で練る。
「バイバイ、、、感じ的に、、、いってみた」
ナイフが振り下ろされた。
「やめておけ」
剣先は俺の胸元からわずか一センチの所で止まった。
その声を聴いた瞬間、俺も、『最凶』も体が震えはじめた。
その声の主を視ることも恐れ多くて、、、でも見ないこともまた失礼。
「そのものは我が同胞と龍人たちを救ったのだ。つまり、我もこやつに恩がある。小虫よ、もしこれ以上この人間に手を出そうとするなら、、、その翅引っこ抜いて、生皮剥いでくれよう。」
「ひ、、、、飛龍。」
動けないはずの『最凶』が、翅をバタバタはためかせて、ズザザッと後ずさる。
大きな湖の中心部に、その生き物はいた。
大きさは俺の雲なんかとは比べ物にならないぐらい小さいが、一万の軍勢でも生け捕りは無理だという意味が本能的にわかった。
ギラギラ光る緑の龍の牙が、、、爪が、、、鱗が、、、力の証明になっていた。
「・・・『黒曇衣≪コート≫』」
俺もいつの間にか、魔力のコントロールを取り戻した魔力で立ち上がった。
ホントに、短時間の効果だったんだな・・・
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
『最凶』が色々漏らしながら、すごい勢いで飛び立った。
「どうする?」
飛竜が聞いて来たので、首を振った。
俺の意思を尊重してくれたのか、飛龍は借りは返したぞと言って大きく欠伸をした。
あ、そうだ。アリア。
アリアの方を向いて、歩きはじめる。
アリアは、ぶっちゃけ、龍に負けないくらいびっくりするほど美人だな。
そんなことをぼうっと考えながら、彼女の寝顔に手を伸ばし・・・
「・・・あ」
『黒曇衣≪コート≫』が切れた。
もう、本当に空っぽだったのか・・・
アリアの寝顔に伸ばした手は、空ぶってしまった。
体は段々後ろに傾いていき、湖に落ちてしまう。
深く、深く、沈み込んでしまう。
青い世界はどんどん暗い蒼になっていく。
全く動かない体を必死に動かし、、、
上にいるはずのアリアへと手を伸ばした
世界は暗闇に包まれた。
ありがとうございます、サクラ。・・・別に、私の時より連結魔術が威力高かったからって拗ねてなんていませんけどっ!
アリアのそんな拗ねた声が聞こえた気がして、ちょっと笑ってしまった。
アリアに早く会いたい・・・
応援ありがとうございます!
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