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第三話
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「……空さん、機嫌悪い?」
「べっつにー」
家に帰った私を出迎えてくれたのは裕人の美味しいご飯だった。焼鮭にピリ辛の香味ソースがかかっている。小麦粉を塗して焼いた鮭は外はカリッとしているけれど、身はほくほくで、そこに唐辛子のピリリとした辛さがいいアクセントになっていた。いっぱい入った薬味ネギもまた私好み。
だんだんと機嫌が戻ってくる。やっぱり私には高級フレンチより裕人の和食がいい。――いや、もちろん特別な日にそういうのも悪くはないけどね。
「食後にプリンもあるからね。空さんの好きな、固めでカラメルソースがかかったやつ」
「本当?! やったー! ――いつもありがとね、裕人」
「俺、働いてないし、このくらいはね。それに料理するの好きだから、全然苦じゃないよ」
ああ、やっぱり心地良い。私にはこれがいいんだ。
❀
「あれ? 空じゃない? 偶然!」
「遥――」
数日後の週末。裕人と出かけていると、ばったり遥とその彼氏に出くわした。
遥はこの前のことなど露ほども気にかけていない様子で話しかけてくる。
「あ、この人がこの前言った彼氏の湊くん」
紹介された湊さんが軽く頭を下げるのに倣って、「ども」と軽くお辞儀しておく。
「湊くん、こっちの女の子がこの前言ってた大学の同期の空ね。それでこっちの男の人は…………えーっと……」
遥が「なんて言えばいい?」みたいな目でこちらを見てくる。私は面倒だなと思いながらも、
「空です。そしてこっちは今、一緒に住んでる裕人です」
と紹介しておく。裕人は軽い調子で「どーも」と笑顔を見せた。
「ねね、これからみんなでご飯食べに行かない? せっかく会ったわけだしさ」
「うーん、せっかくだけど、私たち予定あるから……」
「そんなこと言わずに、ご飯だけ!」
「湊さんとせっかくのデートなんでしょ? 二人で楽しみなよ」
「そんなこと気にしなくていいよ? 湊くんも一緒でいいよね?」
湊さんは苦笑しつつ「俺は一緒でもいいけど、向こうにも予定があるみたいだから無理強いはよくないんじゃない?」と窘めてくれている。だが遥はそんな雰囲気には気づいてもいないようで――
「うーん……あ、そうだ。湊くん、この前行ったお店、近くだったよね? いい感じだったからきっと空も気に入るはずだし、あそこにしちゃお!」
と、勝手に段取りを整えてく。私が念押しで「だから私たち予定あるって」と告げるがおかまいなしだ。だんだんとイライラしてくる。なんでこんなに頑ななんだと思っていたら、次の瞬間、とんでもないことを言いだした。
「でもさ、今日逃すと空ってなかなか捕まらないしさ。ほら、この前の話。今湊くんもいるからちょうどいいじゃん。別に二人は付き合ってないんだよね?」
「……その話、断ったよね? ごめん、もう本当に行かなきゃいけないから」
とうとう我慢ならなくなった私は、裕人の腕を「ほら、行くよ」と掴んで立ち去った。裕人は「いいの?」と聞いてきたが、「いいの!」と答えるとそれっきり黙った。
「べっつにー」
家に帰った私を出迎えてくれたのは裕人の美味しいご飯だった。焼鮭にピリ辛の香味ソースがかかっている。小麦粉を塗して焼いた鮭は外はカリッとしているけれど、身はほくほくで、そこに唐辛子のピリリとした辛さがいいアクセントになっていた。いっぱい入った薬味ネギもまた私好み。
だんだんと機嫌が戻ってくる。やっぱり私には高級フレンチより裕人の和食がいい。――いや、もちろん特別な日にそういうのも悪くはないけどね。
「食後にプリンもあるからね。空さんの好きな、固めでカラメルソースがかかったやつ」
「本当?! やったー! ――いつもありがとね、裕人」
「俺、働いてないし、このくらいはね。それに料理するの好きだから、全然苦じゃないよ」
ああ、やっぱり心地良い。私にはこれがいいんだ。
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「あれ? 空じゃない? 偶然!」
「遥――」
数日後の週末。裕人と出かけていると、ばったり遥とその彼氏に出くわした。
遥はこの前のことなど露ほども気にかけていない様子で話しかけてくる。
「あ、この人がこの前言った彼氏の湊くん」
紹介された湊さんが軽く頭を下げるのに倣って、「ども」と軽くお辞儀しておく。
「湊くん、こっちの女の子がこの前言ってた大学の同期の空ね。それでこっちの男の人は…………えーっと……」
遥が「なんて言えばいい?」みたいな目でこちらを見てくる。私は面倒だなと思いながらも、
「空です。そしてこっちは今、一緒に住んでる裕人です」
と紹介しておく。裕人は軽い調子で「どーも」と笑顔を見せた。
「ねね、これからみんなでご飯食べに行かない? せっかく会ったわけだしさ」
「うーん、せっかくだけど、私たち予定あるから……」
「そんなこと言わずに、ご飯だけ!」
「湊さんとせっかくのデートなんでしょ? 二人で楽しみなよ」
「そんなこと気にしなくていいよ? 湊くんも一緒でいいよね?」
湊さんは苦笑しつつ「俺は一緒でもいいけど、向こうにも予定があるみたいだから無理強いはよくないんじゃない?」と窘めてくれている。だが遥はそんな雰囲気には気づいてもいないようで――
「うーん……あ、そうだ。湊くん、この前行ったお店、近くだったよね? いい感じだったからきっと空も気に入るはずだし、あそこにしちゃお!」
と、勝手に段取りを整えてく。私が念押しで「だから私たち予定あるって」と告げるがおかまいなしだ。だんだんとイライラしてくる。なんでこんなに頑ななんだと思っていたら、次の瞬間、とんでもないことを言いだした。
「でもさ、今日逃すと空ってなかなか捕まらないしさ。ほら、この前の話。今湊くんもいるからちょうどいいじゃん。別に二人は付き合ってないんだよね?」
「……その話、断ったよね? ごめん、もう本当に行かなきゃいけないから」
とうとう我慢ならなくなった私は、裕人の腕を「ほら、行くよ」と掴んで立ち去った。裕人は「いいの?」と聞いてきたが、「いいの!」と答えるとそれっきり黙った。
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