君に「さよなら」を伝えたい

金石みずき

文字の大きさ
7 / 8

第七話:伝えたい気持ち

しおりを挟む
 涼音はきちんと聞いてくれた。
 俺は引っ越すことに決まったこと、なかなか言い出せずにまごついていたこと、そして里香との一件も出来るだけ細かく話した。
 話終えると、涼音はどこか憑き物が落ちたような表情を浮かべた。

「そっか……。ごめんね、私の早とちりで」
「いや、俺が悪い。さっさと引っ越しのことを伝えていればこんなことにはならなかったんだ」
「ううん、そんなことない。私がちゃんと落ち着いて聞いてれば良かっただけのことだよ」
「そんなことは――」
「ま、それは置いといて……」

 涼音はパンッと手を叩いて話を切った。

「一応、確認だけど里香ちゃんとは本当になんでもないんだよね?」
「ああ、マジで何もない」
「じゃあ里香ちゃんにも謝らないとな。今日すっかり迷惑かけちゃったし」
「なんなら俺から――は言わない方がいいんだろうな」
「うん、これは私の問題だから」

 そう言うと涼音は歩き出した。

「帰ろ。なんだか疲れちゃった」

 落ちそうな気分を誤魔化すかのように、気楽な様子で歩き出す涼音。
 だがそんな涼音の背中に、俺は声をかけた。

「待ってくれ」
「ん?」

 涼音がくるりと振り向く。

「ごめん、まだ伝えてないことが一つだけある」
「え、な、何?」

 狼狽した顔でこちらを見る。何を言われるかわからないんだろう。
 俺も伝えるべきかわからない。でも、全部話すと言った以上、これも黙っているわけにはいかない。そう、決めたのだ。

「俺、涼音のことが好きだ」
「――え?」
「この前は告白を断ってごめん。離れることがわかってたから受けられなかった。でも、それはやっぱり違うかなって思ったから」

 涼音は黙って聞いていた。

「今までずっと好きだった。受けてくれなくてもかまわない。でも、もしこんな俺でもいいと思ってくれるなら、俺と付き合ってください」

 二人の間を沈黙が満たす。
 気の遠くなるような時間が流れるし、逃げ出したくなる。
 あぁ、くそ。だめだったかな。今さら遅いって言われるかな。この三日で嫌と言うほど泣かしたからな。

「…………ずるい」
「え?」
「ずるいって言ったの! そんなの……断れるわけないじゃん。私だってずっと……好きだったんだから」
「すぐにいなくなるけど、いいのか?」
「もう一生会えないってわけじゃないでしょ? もし先に引っ越しのことわかってても私は告白したよ!」
「じゃあ、いいのか?」
「……うん、うん。よろしくね」

 もう何度目になるかわからない涙を涼音は流す。だが、今回の涙だけは今までのものとは違って暖かいものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...