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最終話:清々しい青空
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それからの約一か月の間、少なくなった時間を惜しむ間もないくらいに忙しく過ごした。
まずは里香への報告だ。
涼音と一緒に、付き合うことになったことを告げに行くと、まるで自分のことのように喜んでくれた。
改めてお礼も言ったところ、「なにもしていない」と恐縮された。確かに里香視点では何もしていないかもしれないが、もしも里香がいなかったらきっと無難に引っ越しのことを告げて、それで終わっていただろう。
出来事自体は偶然とはいえ、涼音に告白する気になれたのはある意味で里香のおかげでもあるのだ。
そんなことを説明すると、里香は苦笑して「じゃあ私はキューピッド役だったってことね。お幸せに!」と言ってくれた。
そしてもちろん涼音とも恋人らしいことをした。
登下校では手をつなぎ、帰りにはデート。二度しか出来なかったが週末にも出かけた。
多分傍目から見ると相当痛いバカップルに見えていただろうが、友人のみんなにも引っ越しのことは告げたので、温かい目で見守ってくれた。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていき、いよいよ明日に引っ越しだ。
引っ越し先は相当遠い。新幹線で約五時間。行ったり戻ってきたり出来ないことはないが、切符代だけでも相当かかる。高校生活中に会えるのは最後だと思った方がいいかもしれない。
「今までありがとうな、涼音」
「うん、凌太こそありがとう。ていうか、そんなお別れみたいなこと言わないでよ。恋人同士じゃなくなるわけじゃないんだし、通話だって出来るでしょ? ちゃんとかけてよね」
「涼音こそ、ちゃんとかけろよな――って言うまでもないか」
「へへ。多分そうだね。ウザいくらいにかけちゃうと思う」
「あとそれと――――やっぱいいや」
そこまで言ってから、この先は言わない方がいいかなと思い、やめる。やめたのだが――。
「凌太、もし向こうで好きな人が出来たら教えてよね。そしたら別れてもいいから。黙って付き合うのだけは、なし」
「涼音……お前、俺が言わなかったことを。――涼音こそ、好きな人が出来たらちゃんと言えよ。……まぁ、俺の方はありえないけどな」
「私の方こそありえないよ、もう」
二人顔を見合わせて笑う。なんかいいな、こういうの。恋人っぽい。
短い間だったけど、涼音と恋人として過ごせてよかった。
「そろそろ帰らないとね。まだ準備、残ってるでしょ?」
「あぁ……」
「ん、じゃあこれで解散。長いこといても未練が残るだけだし」
「わかった。じゃ、元気でな」
「うん、ばいばい」
顔の横で小さく手を振る涼音。うるっときたが、堪える。あの泣き虫の涼音が泣いていないのだ。俺が泣くわけには行かない。
踵を返して立ち去ろうと数歩歩く。だが、後ろから「あ、凌太、ちょっと待って」と声が聞こえた。
思わず振り返った瞬間に、唇に柔らかい感触と暖かさを感じた。
しかしそれは一瞬の出来事で、そのすぐ後にはその感触は失われてしまった。
「涼音、お前――」
「へへ。凌太のファーストキス、もらっちゃった」
涼音は「悪戯成功!」とばかりに、茶目っ気のある笑みを浮かべていた。
そんな涼音に対し、一歩近づいて距離をなくして顎を少し持ち上げてやると、少し驚いた様子だったがすぐに察して目を瞑ってくれた。
「……ん」
今度こそ、ちゃんとした口づけを交わす。
一〇秒ほどそうしていただろうか。余韻に浸るようにゆっくりと離れると、涼音の顔は真っ赤に染まっていた。
「涼音、顔真っ赤だぞ」
「凌太こそ、真っ赤だよ」
「じゃあ……仕方ないな」
「仕方ないね、だって初めてだもん」
「――それじゃ、またな」
「――うん、またね」
涼音に背を向けて歩き出す。
今度こそ、振り向かない。
これでお別れだというのに、なぜか心には寂しさはなく、むしろ「大丈夫だ」という確信めいた自信があった。
最後にこの街で見上げた空は、以前屋上で眺めたものと同じで雲一つないどこまでも透き通った青空だったが、今の俺はそれをとても清々しい気分見ることが出来た。
まずは里香への報告だ。
涼音と一緒に、付き合うことになったことを告げに行くと、まるで自分のことのように喜んでくれた。
改めてお礼も言ったところ、「なにもしていない」と恐縮された。確かに里香視点では何もしていないかもしれないが、もしも里香がいなかったらきっと無難に引っ越しのことを告げて、それで終わっていただろう。
出来事自体は偶然とはいえ、涼音に告白する気になれたのはある意味で里香のおかげでもあるのだ。
そんなことを説明すると、里香は苦笑して「じゃあ私はキューピッド役だったってことね。お幸せに!」と言ってくれた。
そしてもちろん涼音とも恋人らしいことをした。
登下校では手をつなぎ、帰りにはデート。二度しか出来なかったが週末にも出かけた。
多分傍目から見ると相当痛いバカップルに見えていただろうが、友人のみんなにも引っ越しのことは告げたので、温かい目で見守ってくれた。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていき、いよいよ明日に引っ越しだ。
引っ越し先は相当遠い。新幹線で約五時間。行ったり戻ってきたり出来ないことはないが、切符代だけでも相当かかる。高校生活中に会えるのは最後だと思った方がいいかもしれない。
「今までありがとうな、涼音」
「うん、凌太こそありがとう。ていうか、そんなお別れみたいなこと言わないでよ。恋人同士じゃなくなるわけじゃないんだし、通話だって出来るでしょ? ちゃんとかけてよね」
「涼音こそ、ちゃんとかけろよな――って言うまでもないか」
「へへ。多分そうだね。ウザいくらいにかけちゃうと思う」
「あとそれと――――やっぱいいや」
そこまで言ってから、この先は言わない方がいいかなと思い、やめる。やめたのだが――。
「凌太、もし向こうで好きな人が出来たら教えてよね。そしたら別れてもいいから。黙って付き合うのだけは、なし」
「涼音……お前、俺が言わなかったことを。――涼音こそ、好きな人が出来たらちゃんと言えよ。……まぁ、俺の方はありえないけどな」
「私の方こそありえないよ、もう」
二人顔を見合わせて笑う。なんかいいな、こういうの。恋人っぽい。
短い間だったけど、涼音と恋人として過ごせてよかった。
「そろそろ帰らないとね。まだ準備、残ってるでしょ?」
「あぁ……」
「ん、じゃあこれで解散。長いこといても未練が残るだけだし」
「わかった。じゃ、元気でな」
「うん、ばいばい」
顔の横で小さく手を振る涼音。うるっときたが、堪える。あの泣き虫の涼音が泣いていないのだ。俺が泣くわけには行かない。
踵を返して立ち去ろうと数歩歩く。だが、後ろから「あ、凌太、ちょっと待って」と声が聞こえた。
思わず振り返った瞬間に、唇に柔らかい感触と暖かさを感じた。
しかしそれは一瞬の出来事で、そのすぐ後にはその感触は失われてしまった。
「涼音、お前――」
「へへ。凌太のファーストキス、もらっちゃった」
涼音は「悪戯成功!」とばかりに、茶目っ気のある笑みを浮かべていた。
そんな涼音に対し、一歩近づいて距離をなくして顎を少し持ち上げてやると、少し驚いた様子だったがすぐに察して目を瞑ってくれた。
「……ん」
今度こそ、ちゃんとした口づけを交わす。
一〇秒ほどそうしていただろうか。余韻に浸るようにゆっくりと離れると、涼音の顔は真っ赤に染まっていた。
「涼音、顔真っ赤だぞ」
「凌太こそ、真っ赤だよ」
「じゃあ……仕方ないな」
「仕方ないね、だって初めてだもん」
「――それじゃ、またな」
「――うん、またね」
涼音に背を向けて歩き出す。
今度こそ、振り向かない。
これでお別れだというのに、なぜか心には寂しさはなく、むしろ「大丈夫だ」という確信めいた自信があった。
最後にこの街で見上げた空は、以前屋上で眺めたものと同じで雲一つないどこまでも透き通った青空だったが、今の俺はそれをとても清々しい気分見ることが出来た。
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