役立たずの雑用係は、用済みの実験体に恋をする。――神域結界の余り者

白夢

文字の大きさ
3 / 51
#1 実験体

02 相性が悪いだけ

しおりを挟む

 雑用というか、便利屋というか、俺の仕事はそういう類のものだ。
 実験室の片付けとか、資料整理とか、実験体の飼育とか、物資の配送とか。

 廊下を足早に歩く。
 忙しそうに言葉を交わす白衣の研究者たちと目を合わせないように俯く。

 どうにも最近の調子は失恋のせいか下降気味で、なんかすごい色んな人に嫌わてる気がしてならない。
 いや、事実かもしれないけど、調子がいいときは人に嫌われてるとか全然考えないから。

 ははっ、だから嫌われるんだよなあ。

 軽く死にたくなってきたところで、俺は上司、というかこの研究所で一番偉い人であるレビィの部屋に辿り着いた。
 クソが、入りたくねえ。

「……あー」

 自分でも意味の分からない呻き声で気合を入れて、俺は扉をノックした。

「入れ」

 いつも通りの、底冷えするような声がした。
 多分怒ってないんだろうけど、淡々としてるせいで激怒してるように聞こえる。
 俺は帰りたいなあと思いながら、すぐ終わるんだからと自分を鼓舞して扉を開ける。

「時間外勤務かブロウ。感心せんな」

 レビィは仕事用の眼鏡を外し、吐き捨てるように言う。
 早速ビクッとしそうになってしまった。怖いんだよレビィは。

「その……早くに目が覚めて……」
「不眠か?」
「いや、そうじゃないけど……」
「本当だろうな? お前は、いつも大丈夫と言った後に問題を起こす。もしや私は、その言葉の意味を履き違えているか?」
「その……いつも本当に申し訳ないと思ってます……」

 「大丈夫」への強い不信感を顕にしながら、レビィは蛇のような眼で俺を睨む。

 エメラルドグリーンの髪と同じ色の瞳は、ともすれば幻想的に見える。
 そのくらいにレビィは美しい男だ。
 無表情だし無感情だし、綺麗だからってその髪を下手に触ったらそのまま殺されそうだけど。

「私は謝罪を要求しているわけではない。お前は物事を直接的に表現しろ」
「本当に申し訳ありません……」
「なぜ謝罪する?」
「……ごめん」
「だからなぜ謝罪するんだ。私は質問している」

 俺はこの人が本当に苦手だ。
 仕方なく曖昧な愛想笑いを浮かべてみるけれど、向こうはにこりともしてくれない。

「……おかしな奴だな」

 レビィは、感情を感じさせない冷たい声でそう言った。
 石が喋るなら、多分これと同じ声をしていると思う。

 そして話を切り上げ、ビジネスの話を始めた。

「仕事の依頼だ」
「……はい」

 俺は叱られた子供みたいに小さな声で返事する。
 確実に本調子ではない精神状態のまま、その淡々とした依頼を聞くのは、そんなにいい気分ではない。

「昨日、203実験室で事故が起き、その際に実験室の一部が破損した。被害状況の詳細な調査と、復帰を要請する。またプロジェクトG-33の終了に伴い、実験体5924を処分しろ」
「終了って、打ち切り?」
「致命的な事故が起きた」
「何が起きたのかとかは……聞いてもいい? 化学物質とか溢れたりしてない?」

 できることならこの部屋からさっさと逃げ出したいところだが、さすがに放射性崩壊とかでは死にたくない。
 優秀すぎていつも言葉足らずになりがちなレビィなので、質問は重要だ。

「事故の影響は既に消失している。お前を含め、人間に影響を与える物資及び現象の残留は確認されていない」

 レビィは淡々とそう言った。
 さすがにその辺は調査済みらしい。「お前が調べて来い、その命を使ってな」とか言われたらどうしようかと思った。その場合でも従うしかないけど。

「実験体……5924だっけ? 処分方法の指定とかない?」
「ない。融解処理でも焼却処理でも好きにしろ」
「留意点は?」
「強いて言うなら、敵対的かつ攻撃的な傾向がある。だが無力化してあるから気にすることはない」
「分かった。いつまでにやればいい?」
「復旧作業はなるべく早急にとのことだ。詳しくは資料を参照しろ」
「了解。じゃあ行ってくるよ」
「そうか」

 そう言うと、用は済んだとばかりにレビィは再び眼鏡をかけて、何か資料の執筆を始めた。
 俺はまだ部屋にいるのだが、まるでいないみたいな感じだ。
 こういう、何気ないところにすら勝手に傷つく自分が嫌いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―

月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。 その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、 人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。 そして、今――再びその年が巡ってきた。 王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。 彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。 そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。 無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。 けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、 25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。 それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

処理中です...