20 / 51
#2 部屋の中
19 罵声、昼夜逆転
しおりを挟む
何日か過ぎた頃、ある日の晩から、私は眠れなくなった。
彼はいつも通り食事を作ってくれる。
ただ彼は、夕食の後外出するようになったのだ。
聞けば仕事をしているらしい。
今までしていなかったのに、どういう風の吹き回しかは分からない。
けれど、とにもかくにも彼の帰宅は深夜になった。
そして彼はそのまま、すぐに眠る。
しかし、その後すぐに目を覚ましてしまう。目を覚まして、彼は大声で喋り出す。
そのせいで私は眠れなくなった。
「あー、今日もなかなかだったよな!」
「……え?」
私は突然の大声に起こされて、眠い目を擦りながら彼の方を見る。
彼は真っ暗な部屋で誰もいないテーブルに座り、虚空に向かって話していた。
「大丈夫だよ、納期には間に合うから!」
「納期?」
「そうそう、ほら、今日はまだ飲んでないだろ?」
「飲んでない?」
「いやいや、俺だって分かってるよ!」
口調は明るく、楽しそうだ。
その大声で私はいつも飛び起きる。
飛び起きてしばらく要領を得ない彼の話を聞いているうちに、彼は突然眠りに落ちる。
気絶するといってもいい。
ソファーに座って見えない本を読みながら笑っていたかと思うと、次の瞬間には横になって呆然と天井を見つめる。
その時はいつも、見知らぬ女性の声が聞こえる。
「先輩、先輩、先輩はどうしてこうもクズなんですか? ゴミなんですか? 死ねばよかったのに、先輩が消えればよかったのに」
「……」
「どうして生きてるんですか、どうして死なないんですか? 生きる価値もないのに、息をする資格もないのに」
彼は彼女から罵声を浴びせかけられる。
私は、その声が彼に聞こえているのだというらしいことに気が付いた。
少なくともその罵詈雑言は彼の耳にも届いていて、彼はそれに対して耳を塞ぐこともできずにただ、先のように大声で話している。
どうやら様子がおかしいとは私も思ってはいたのだけれど、私にとっては夜に起こされる以外の実害はないので放っておいていた。
おかげで昼夜が逆転しかけているけれど、特に問題はない。
どうせ彼のいない昼間に起きていたって、特にすることもないし。
それに、不思議と、翌日の朝になると彼はその夜のことは何もかもすっかり忘れていつも通りの生活に戻っていく。
私はそれが夢なのか現実なのか、よく分からなくなっていた。
深夜の出来事だし、彼に尋ねても首を傾げて否定するばかりだからだ。
彼はいつも通り食事を作ってくれる。
ただ彼は、夕食の後外出するようになったのだ。
聞けば仕事をしているらしい。
今までしていなかったのに、どういう風の吹き回しかは分からない。
けれど、とにもかくにも彼の帰宅は深夜になった。
そして彼はそのまま、すぐに眠る。
しかし、その後すぐに目を覚ましてしまう。目を覚まして、彼は大声で喋り出す。
そのせいで私は眠れなくなった。
「あー、今日もなかなかだったよな!」
「……え?」
私は突然の大声に起こされて、眠い目を擦りながら彼の方を見る。
彼は真っ暗な部屋で誰もいないテーブルに座り、虚空に向かって話していた。
「大丈夫だよ、納期には間に合うから!」
「納期?」
「そうそう、ほら、今日はまだ飲んでないだろ?」
「飲んでない?」
「いやいや、俺だって分かってるよ!」
口調は明るく、楽しそうだ。
その大声で私はいつも飛び起きる。
飛び起きてしばらく要領を得ない彼の話を聞いているうちに、彼は突然眠りに落ちる。
気絶するといってもいい。
ソファーに座って見えない本を読みながら笑っていたかと思うと、次の瞬間には横になって呆然と天井を見つめる。
その時はいつも、見知らぬ女性の声が聞こえる。
「先輩、先輩、先輩はどうしてこうもクズなんですか? ゴミなんですか? 死ねばよかったのに、先輩が消えればよかったのに」
「……」
「どうして生きてるんですか、どうして死なないんですか? 生きる価値もないのに、息をする資格もないのに」
彼は彼女から罵声を浴びせかけられる。
私は、その声が彼に聞こえているのだというらしいことに気が付いた。
少なくともその罵詈雑言は彼の耳にも届いていて、彼はそれに対して耳を塞ぐこともできずにただ、先のように大声で話している。
どうやら様子がおかしいとは私も思ってはいたのだけれど、私にとっては夜に起こされる以外の実害はないので放っておいていた。
おかげで昼夜が逆転しかけているけれど、特に問題はない。
どうせ彼のいない昼間に起きていたって、特にすることもないし。
それに、不思議と、翌日の朝になると彼はその夜のことは何もかもすっかり忘れていつも通りの生活に戻っていく。
私はそれが夢なのか現実なのか、よく分からなくなっていた。
深夜の出来事だし、彼に尋ねても首を傾げて否定するばかりだからだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―
月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。
その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、
人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。
そして、今――再びその年が巡ってきた。
王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。
彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。
そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。
無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。
けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、
25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。
それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。
手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる