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#5 海と島人
45 豪雨、疲れているらしい
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三つ目の街を出てしばらくのこと、私達は物凄い大雨のせいで野営を強いられた。
ブロウは長旅で疲れ、しかも雨に濡れたせいで風邪を拗らせたために一人隔離されていた。
アインさんはというと、「懐かしい」と一言呟き止める間もなく森の中に消えていき、それを追って所長様も森の中に入り、ジャック様以下の軍人様がその捜索に奔走していた。
私は一人、雨の中木陰で佇んでいた。
研究所の近くは雨が少ない。こんな豪雨は珍しい。
「やあ、ブライドくんじゃないか!」
「ひゃっ!」
振り返ると、そこにはルシファー様がいた。
雨の日用の外套を着ていて、にこにこと嬉しそうにしている。
「る、ルシファー様……何故ここに?」
「実は私は君に聞きたいことがあってここに来たんだ」
「私にですか?」
「ふむ、そうだ。実は……いや、私はそれほど乗り気ではないのだが、あの子ももう年頃だろう? だからあの子に身を固めさせろと奴らが五月蠅くてね。もちろん私もぶっ殺、極めて平和的な話し合いをしようと思っているんだが」
「ああ……」
よく分からなくて、私は首を傾げて生返事を返した。
ルシファー様はそれを察してか苦笑して、少し考える。
「そうだね、これは君にとって関係のないことだ。私はこんな言い訳なんて並べている場合じゃない……単刀直入に尋ねよう。君は、ブロウと結婚する気はあるかい?」
「……えっ?」
「君とあの子の交際期間は既に四年。これまで君との交際を理由にあの恥知らずな奴らを退けて来たが、もうそろそろ限界でね。あの子との将来を、どう考えているのかなと」
「そ、それは、その、私はともかく、彼にそう申し上げた方が……」
「あの子はその手のことについて深く考えない場合があるから、先に君に尋ねたんだ。どうか正直に教えてほしい。君がどう答えようとも、あの豚共には私の家族の爪の垢すら差し出す気はないが、その戦略を組み立てなければならないからね……」
豚共というのが誰を指すのかは分からないのだけれど、どうやらルシファー様は彼らと相当に仲が悪いらしい。
微笑んでいたけれど、言葉の節々に憎しみが滲んでいる。
そういえば、何故ブロウは「その手のことについて深く考えない場合がある」と思われているんだろう。
「もちろん、今すぐに答えを出してくれとは言わないよ。ただ、絶対に蛆虫どもをのさばらせることは許されないだろう? 絶対にな」
ルシファー様は微笑みながら、強く強く拳を握っていた。
「……えっと、大丈夫ですかルシファー様。何かご心労がおありですか」
「少し、な。しかしそれはこの地位にある故に、必然のものだ。大丈夫だよ、こう見えても荒波に揉まれてたくましく生きてきたのだ!」
と、ルシファー様はアリクイみたいに両手を広げ、ボールプールの波にすら飲み込まれそうな小さな体をめいいっぱい大きく見せた。
「それでは、考えておいてくれると嬉しいな。もちろん、君もブロウも、あのクズ野郎共のことは気にしなくていいんだよ」
「ありがとうございます、ルシファー様」
「安心しなさい、君たちを脅かすようなおバカちゃんは一人残らず身の毛もよだつような残虐非道な極刑に処してあげるからね。えへへっ」
私は何と言えばいいか分からず、曖昧に微笑んだ。
何故だろう、近頃愛想笑いばかり浮かべているような気がする。
「……本当のことを言うべきなんでしょうか」
彼は私と結婚する気なんてない。
何故私は、それをルシファー様に言えなかったのだろう。
ブロウは長旅で疲れ、しかも雨に濡れたせいで風邪を拗らせたために一人隔離されていた。
アインさんはというと、「懐かしい」と一言呟き止める間もなく森の中に消えていき、それを追って所長様も森の中に入り、ジャック様以下の軍人様がその捜索に奔走していた。
私は一人、雨の中木陰で佇んでいた。
研究所の近くは雨が少ない。こんな豪雨は珍しい。
「やあ、ブライドくんじゃないか!」
「ひゃっ!」
振り返ると、そこにはルシファー様がいた。
雨の日用の外套を着ていて、にこにこと嬉しそうにしている。
「る、ルシファー様……何故ここに?」
「実は私は君に聞きたいことがあってここに来たんだ」
「私にですか?」
「ふむ、そうだ。実は……いや、私はそれほど乗り気ではないのだが、あの子ももう年頃だろう? だからあの子に身を固めさせろと奴らが五月蠅くてね。もちろん私もぶっ殺、極めて平和的な話し合いをしようと思っているんだが」
「ああ……」
よく分からなくて、私は首を傾げて生返事を返した。
ルシファー様はそれを察してか苦笑して、少し考える。
「そうだね、これは君にとって関係のないことだ。私はこんな言い訳なんて並べている場合じゃない……単刀直入に尋ねよう。君は、ブロウと結婚する気はあるかい?」
「……えっ?」
「君とあの子の交際期間は既に四年。これまで君との交際を理由にあの恥知らずな奴らを退けて来たが、もうそろそろ限界でね。あの子との将来を、どう考えているのかなと」
「そ、それは、その、私はともかく、彼にそう申し上げた方が……」
「あの子はその手のことについて深く考えない場合があるから、先に君に尋ねたんだ。どうか正直に教えてほしい。君がどう答えようとも、あの豚共には私の家族の爪の垢すら差し出す気はないが、その戦略を組み立てなければならないからね……」
豚共というのが誰を指すのかは分からないのだけれど、どうやらルシファー様は彼らと相当に仲が悪いらしい。
微笑んでいたけれど、言葉の節々に憎しみが滲んでいる。
そういえば、何故ブロウは「その手のことについて深く考えない場合がある」と思われているんだろう。
「もちろん、今すぐに答えを出してくれとは言わないよ。ただ、絶対に蛆虫どもをのさばらせることは許されないだろう? 絶対にな」
ルシファー様は微笑みながら、強く強く拳を握っていた。
「……えっと、大丈夫ですかルシファー様。何かご心労がおありですか」
「少し、な。しかしそれはこの地位にある故に、必然のものだ。大丈夫だよ、こう見えても荒波に揉まれてたくましく生きてきたのだ!」
と、ルシファー様はアリクイみたいに両手を広げ、ボールプールの波にすら飲み込まれそうな小さな体をめいいっぱい大きく見せた。
「それでは、考えておいてくれると嬉しいな。もちろん、君もブロウも、あのクズ野郎共のことは気にしなくていいんだよ」
「ありがとうございます、ルシファー様」
「安心しなさい、君たちを脅かすようなおバカちゃんは一人残らず身の毛もよだつような残虐非道な極刑に処してあげるからね。えへへっ」
私は何と言えばいいか分からず、曖昧に微笑んだ。
何故だろう、近頃愛想笑いばかり浮かべているような気がする。
「……本当のことを言うべきなんでしょうか」
彼は私と結婚する気なんてない。
何故私は、それをルシファー様に言えなかったのだろう。
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