役立たずの雑用係は、用済みの実験体に恋をする。――神域結界の余り者

白夢

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#5 海と島人

46 永遠、愛情は矛盾する

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 熱を出し倒れたブロウは、雑菌そのもののように扱われたことでメンタルにひびが入ってしまったのか、それとも病み上がりで弱っているのか、えぐえぐと私に甘えてくる。

「あーもう可愛い好き」
「貴方って本当に飽きませんね。そう言い続けてもう四年ですよ」

 つい昨日付き合ったテンションが、いつ飽きるんだろうと思いながら永遠に続く。
 何故彼は、これほどに私に対する愛が激しいのだろう。

「飽きるわけないだろ、可愛いんだから」
「いつかは飽きるんじゃないですか? それこそ、一生は続かないと思いますよ」
「続くよ、一生」
「貴方って変わってますね」

 彼は初めて触れるみたいに優しい手つきで私の髪を耳にかける。

 大人しくそれを受け入れていると、彼はもっとペタペタと私の腕や肩を触る。
 どうして彼は、いつまで経ってもこうなのだろう。

 馬車は東の森の中を駆け抜けて、ガタガタと揺れている。
 アインさんが天井に座ることにしたせいか、彼はのびのびとしているのだ。

「貴方は……何故それほどに私を想って下さるんですか?」
「どうしたの、急に?」

「気になるんです、その……貴方はいつまで私を好きでいらっしゃるのかなって」
「一生だけど」

「いえでも、その、貴方はほら、年頃でもあるわけじゃないですか……私の他に結婚相手とかいらっしゃらないんですか?」

 彼はまるで小動物のようだ。私に体を摺り寄せる。

「俺もしかして、浮気を疑われてたりする?」
「いえ、そういうわけではないんです。ただ貴方も、もうそろそろ身を固めた方が良いんじゃないかと思うんですよ」
「ん?」

 彼は私から離れ、くいっと首を傾げて、不思議そうにした。私なんかより余程可愛い。

「何? もしかしてプロポーズ?」
「いえ、貴方が私と結婚する気がないのは分かっています。四年も一緒にいますから」
「なんだ、気づいてた?」

「ええ。特に、気にもしていませんでしたしね」

 小さな嘘を吐いて、私は彼にそう言った。
 良くも悪くも素直な彼は、「酷いなあ」と私に笑って言う。

「俺はちゃんとお前のこと大好きだよ。ずっと一緒に居たい」
「……ええ、そうですね」

 しかし私には分からなかった。
 彼が結婚する気がないということは薄々感じていて、でも私に対する愛情は本物で。

 でもそれは、本当に本物なのだろうか。

 彼に対する疑念は、私の中で確実に生まれていた。
 そして彼の、それを肯定する言葉で私はより一層、分からなくなった。

「……先ほど、貴方は私にプロポーズかとお尋ねになりましたよね」
「ああ、そうだな」

 彼は至極嬉しそうにしている。

 彼は鈍感だ。
 それとも、私が上手すぎるのだろうか。

「本当にプロポーズだったら、どうなさるおつもりだったんですか」

 私は重々しいつもりで尋ねて、彼はそれに微笑んで答えた。

「ちゃんと俺の気持ち話して、納得してもらおうと思ってたよ」
「納得?」
「うん、諦めてくれって」
「……そうですか」

 私はそれしか言えなかったけど、彼は何も言わなかった。
 多分、何も思わなかったのだと思う。

「でも、お前だって俺と結婚したいとは思ってないんだろ?」

 にかっと笑った彼に、悪意なんて微塵もない。
 だからこそ私は俯いて、小さく「ええ」と言った。

「ところでさ、俺、レビィも帰って来たし、お前との契約を解消しようと思うんだ」
「契約?」

「ほら、『首輪』だよ。仲介人なしの解消はリスクがあって、それで今までして来なかったけど、レビィは帰って来たし、お前は別に暴れたり逃げ出したりしないだろ?」
「えっ、あ、ええ……」

 半分ほど忘れていた。
 そう言えば、私はそもそも彼に嫌々連れ出されたのだった。

 天寿を縛る首輪によって、私は彼に逆らえない。

「ですが、別に私は今のままでも……」

 別にいい。

 何故ならその首輪は、私の意思を縛ると同時にその天寿そのものを縛っているからだ。

 私は特性上、年を取ることがない。
 永遠に若いままで、半永久的に生き続けられる。
 だから彼の糸が途切れると同時に私自身も寿命を迎えるというのなら、それでいい。むしろ、それがいい。

 彼を失ってなお、永久に生きようなんて思わない。
 でも彼は首を振った。

「気にすんなよ、それでもお前が俺と一緒にいてくれるって信じてるからさ」
「それは……そうですが」
「遠慮しなくていいんだよ、本当良い子だなお前」
「……」

 彼は再び私に触り、そして頭を撫でたりする。私のことをペットか何かだと思っているのかもしれない。

「一生一緒に居たい、俺が生きてる限り」

 私もですよ、ブロウ。
 でも本当に、貴方はそう思っているんですか?

「好きって言って、好きって」
「好きですよ、言われなくても……愛しています」
「えーもー可愛いマジで愛してる!」

 病み上がりで疲れているからだろう。
 彼はそのまま私に頭を預けて目を閉じた。

 揺れる馬車の中で、彼の安らかな寝息が聞こえた。
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