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#5 海と島人
47 役目、その程度なのか
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ルシファー様の仰った通り、彼の周りにはちらちらと女性の影がチラつくようになった。
彼はそれに全く興味を示さないのだけれど、お見合い案内は頻繁に送られてくるらしい。
「貴族なんだってさ、お前と同じ名前の奴がいたぜ」
彼は彼女らの姿見をカードコレクションか何かと勘違いしているらしく、たまにその写真を私に見せて来る。
それだけその気がないということなのだろう。
「ゼノ・ブライドだって。どことなく顔つきもお前に似てるよな」
「私はこんなに鋭い目をしていますか?」
「初めて会ったときはこんな感じだったよ? この世の全てを憎んでるみたいな」
つまり貴方は、この世の全てを憎んでるみたいな顔の私に惚れたということですよねと思いつつ、私はその写真を彼に返した。
「いい方がいらしたら、ご結婚なさるんですか?」
「いい方なんていねーよ。ルシーに頼まれたらって感じだな。その時はするよ。ルシーの役に立つのは、俺の役目だからな」
どうせすぐ破談になるだろうけど、と彼はなんでもないことのように言う。
離婚が認められないこの国で、彼の伴侶は何度か書類上で殺されているらしい。
「それに縁談が来たとしてもお前のことはちゃんとするからさ、安心しろよ。まあ、お前はしっかりしてるから、俺が手助けする必要もないだろうけどさ」
私はあくまで彼の手伝いではあるけれど、確かに独り立ちできる程度には仕事に慣れていた。
それでも私は首を振る。
「貴方のココアが飲めなくなるのは嫌です」
静かに呟いて、タイプライターをかたかたと打ち込む。
彼は笑った。
「ココアくらい、今のお前の稼ぎならハウスメイドとか雇って淹れてもらえばいいだろ?」
「貴方でなければ意味がありません」
「あはは、可愛い」
彼は嬉しそうにして、また私のことを抱きしめた。
私は不可抗力でキーを打つ手を止めて、彼を見上げた。
出会った頃に比べると、彼は健康的に安定して、一層魅力的になったような気がする。
きっと次の伴侶は、書類上で不審死を遂げるようなことにはならない。
「ルシファー様は、貴方の意思を尊重されると仰います。貴方はどうされたいんですか、もしルシファー様が好きにしていいと仰るなら」
「そりゃ俺は、お前とずっとこうしてたいさ。朝起きて、お前がいて、一緒に仕事場行って、一緒に飯食って、また仕事して、帰ってきて夕飯食って、イチャイチャして寝る」
「……」
彼は現状に満足しているのだと思う。
これ未満を望まないのと同じくらいに、これ以上も望んでいない。
私は、「私も同じですよ」と言って再びタイプライターに視線を戻した。
彼は至極嬉しそうにしていた。
彼はそれに全く興味を示さないのだけれど、お見合い案内は頻繁に送られてくるらしい。
「貴族なんだってさ、お前と同じ名前の奴がいたぜ」
彼は彼女らの姿見をカードコレクションか何かと勘違いしているらしく、たまにその写真を私に見せて来る。
それだけその気がないということなのだろう。
「ゼノ・ブライドだって。どことなく顔つきもお前に似てるよな」
「私はこんなに鋭い目をしていますか?」
「初めて会ったときはこんな感じだったよ? この世の全てを憎んでるみたいな」
つまり貴方は、この世の全てを憎んでるみたいな顔の私に惚れたということですよねと思いつつ、私はその写真を彼に返した。
「いい方がいらしたら、ご結婚なさるんですか?」
「いい方なんていねーよ。ルシーに頼まれたらって感じだな。その時はするよ。ルシーの役に立つのは、俺の役目だからな」
どうせすぐ破談になるだろうけど、と彼はなんでもないことのように言う。
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「それに縁談が来たとしてもお前のことはちゃんとするからさ、安心しろよ。まあ、お前はしっかりしてるから、俺が手助けする必要もないだろうけどさ」
私はあくまで彼の手伝いではあるけれど、確かに独り立ちできる程度には仕事に慣れていた。
それでも私は首を振る。
「貴方のココアが飲めなくなるのは嫌です」
静かに呟いて、タイプライターをかたかたと打ち込む。
彼は笑った。
「ココアくらい、今のお前の稼ぎならハウスメイドとか雇って淹れてもらえばいいだろ?」
「貴方でなければ意味がありません」
「あはは、可愛い」
彼は嬉しそうにして、また私のことを抱きしめた。
私は不可抗力でキーを打つ手を止めて、彼を見上げた。
出会った頃に比べると、彼は健康的に安定して、一層魅力的になったような気がする。
きっと次の伴侶は、書類上で不審死を遂げるようなことにはならない。
「ルシファー様は、貴方の意思を尊重されると仰います。貴方はどうされたいんですか、もしルシファー様が好きにしていいと仰るなら」
「そりゃ俺は、お前とずっとこうしてたいさ。朝起きて、お前がいて、一緒に仕事場行って、一緒に飯食って、また仕事して、帰ってきて夕飯食って、イチャイチャして寝る」
「……」
彼は現状に満足しているのだと思う。
これ未満を望まないのと同じくらいに、これ以上も望んでいない。
私は、「私も同じですよ」と言って再びタイプライターに視線を戻した。
彼は至極嬉しそうにしていた。
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