追放勇者はヒューマノイドと空で生きたい

白夢

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不機嫌な猫と掃除屋ロボット

ep16 あっさり希死念慮

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 ガーディナーは駆け寄って来て、僕の手を握った。

「ねぇアイト、マネージャーから聞いた? ボク、アイトとずっと一緒に居られるんだよ!」

 ガーディナーは、嬉しそうに目を細めてにっこり笑い、何か言いたげに僕を見つめる。

「分かってるよ。ガーディナーのこと、守るから安心してね」
「……! うんっ!」

 ガーディナーは、嬉しそうに勢いよく頷いて笑う。


「一緒に食べようよ、アイト! フォロワーもいるよ」

 言われて見てみると、確かにそこにはちょこんと座ったフォロワーがいた。
 急に自分の話題になったせいか、ちょっとびっくりした顔をしている。


「座って、座って!」

 ガーディナーはフォロワーの向かいの席に座り、自分のすぐ隣を軽く叩いて僕を呼んだ。
 僕の席らしきところには、布で覆われたトレイが置いてある。


「……お、おはようございます、アイトさん」

 フォロワーは相変わらず重たそうなフードを被っていて、恐々と僕の方を見ていた。
 なんだか、怯えているようにも見える。

「おはよう、フォロワー。昨日ぶりだね」
「えっ、えぇと、はい。すみません、私、昨日はずっとエンジニアの手伝いをしていたんです。でもマネージャーが……すごく喜んでたし」
「うん。傷は大丈夫だった? ケアラーが、少し悪かったって言ってたけど」
「あっ、あの、はい、大丈夫ですよ。ちょっとすりむいてただけで……」

 フォロワーは、おどおどしながら曖昧に笑ってそう言った。
 小さな手をもじもじと口元に寄せて、不安そうにしている。


「アイト、これ、食べてみて」

 ガーディナーが、布を取って自慢げに言った。
 お皿には、ほとんど見たことのないフルーツばかりが盛られている。

「今朝、ガーデンで取って来たんだよ。すごくおいしいから、食べみて!」
「わざわざ持って来てくれたの?」
「朝食のフルーツを用意するのは、ボクの仕事なんだ。ここの食事は全部ガーデンで賄ってるから、食材を見つけてくるのはボクの担当なんだよ。管理してるのは、マネージャーだけど」

 と、ガーディナーは自慢げに言う。

 僕は果物の中から、リンゴに似た赤い実を手に取って齧ってみた。

 リンゴを想像してたのに、それはプチっとトマトみたいに弾けてちょっとびっくりした。
 そういえば、帝国でも似たようなのがあったと思い出す。それはもっと小さくて、リンゴというよりプチトマトに近かったけど。

「美味しいよ」

 みずみずしく、溢れる果汁。
 硬い皮を軽く剥いだら、中身を吸い出すようにして食べる。

「そうだよね? ボクも好きなんだ」
「ガーディナーもフルーツが好きなの?」
「食べられないんだけどね、見るのは好きなんだ」

 ガーディナーは嬉しそうに笑って言った。
 本当に、ロボットの身体がもったいないくらいの美少女だ。

「ねぇアイト、一緒に外に行かない? 今日は晴れてるから、景色もいいと思うし」
「外って?」
「ガーデンにはしごがあって、デッキに出られるんだ」
「展望デッキ?」

 展望デッキに出ても、周囲は死んだ木の森だから、景色に代わり映えはなさそうだけど。
 そもそも、展望デッキってどこにあるんだろう。外から見たときには、本体だとかいうあの物体とケーブルで接続された円柱しか見えなかった。

「あれ、もしかしてアイト、まだマネージャーから聞いてないの? この船、昨晩出航したんだよ」
「出航? じゃ、じゃあ、今僕、飛んでるの?」
「そうだよ」

 ガーディナーは、キョトンとしてそう言った。

「そ、そうなんだ……全然気が付かなかった」
「アイトが寝てる間のことだったからじゃない?」

 と、ガーディナーは言う。

「それじゃあアイト、一緒に外に行こうよ!」
「うん。フォロワーも一緒に行く?」
「えっ? あっ、あの……ええと……」

 フォロワーは困ったように、ガーディナーを見上げた。
 ガーディナーは平らな表情で、立ち上がりフォロワーのことを見下ろす。

「エンジニアの手伝いでもしてたら? いつも忙しそうだし」
「あっ、ええと……うん、そ、そうだよね。ごめんなさい、アイトさん。ガーディナーと楽しんできてください」

 フォロワーはそう言って、自分のトレイを片付け、足早にカフェテリアを出て行った。


「……フォロワーは、自分で決めるのが苦手なんだよ」

 と、ガーディナーは独り言のように僕に言った。

「可哀想だよね」
「可哀想?」
「ボクも仕事が苦手だったけど、フォロワーほどじゃないよ。フォロワーって、消えてなくなりたいとか、思ったりしないのかな」
「……え?」

 突然縁起でもないことを言い出したガーディナーに虚を突かれ、僕は思わず聞き返し、彼女の顔を見た。
 とても平らな表情。無表情だ。

「仲間を失ったとき、対象者を守れなかったとき、誰かに罵倒されるとき。そんな風に自分の無力さを実感すると、ボクは『消えてなくなりたい』って思うんだ。フォロワーはそう思わないのかな」
「……」

 ガーディナーは、何でもないことのように言う。
 僕とは感覚が違うのだろうか。純粋に不思議がってるような感じだ。

「……ガーディナーはそう思うの?」
「うん。みんなそうじゃないの? 自分の存在価値を見失ったときとか、『いっそ早く処分されたい』とか、『消えてなくなりたい』とか、『生まれてこなければ良かった』って思わない? ボクは警備部に配属されてから、ずっとそう思ってたよ。ボクの対象者はいつも死ぬから、ボク、『死神』って呼ばれてたんだよ」
「……うーん、人による……かな。ガーディナー……は、そう思うんだね」

 飄々としてるけど、ヘビーなこと考えてるんだな、ガーディナー。
 闇が深いというか、なんというか。
 
「ボクラにとって職務は命でしょ? 役割を果たせないヒューマノイドに生きる意味はないんだ」
「ガーディナーが誰も守れなかったとしても、だからといってガーディナーに生きる価値がないとは思わないし、それは他のみんなも一緒だよ」

 思わず言ってしまったけど、ちょっと踏み込みすぎたかもしれない。

 僕の言うことじゃない。僕はこの国の人でもないし、ましてやヒューマノイドでもない。
 何なら未だに、前世の価値観を引きずっている。

 一線は越えないようにしてきた。帝国にいたときから、それは変わらない。
 相手の価値観を受け入れ、そういうものかと納得して、尊重して、そうやって、僕は、この国を滅ぼした。


「……僕はガーディナーにもフォロワーにも、消えないでほしいよ。外に行こう」

 僕は間違っていたのだろうか。
 ……たぶん、間違ってたんだと思う。


 外に出るのが、少し怖かった。

 それはきっとすごく美しい風景だと思うけど、それよりもずっと美しかったはずの風景だから。
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