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不機嫌な猫と掃除屋ロボット
ep26 模範的抜群のエリート
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……再び地上に戻り、僕はコボルトから報酬をもらうことにした。
コボルト達は、この鉱山を掘り進めながら、自分たちの身体を作ったり、住む場所を確保しているのだという。
その中でも飛行石は、最近発掘されたものだが、彼らの身体に使うには脆すぎるし、魔法使いや、他の魔物も欲しがらないので、たくさん余っているそうだ。
飛行石と言うだけあって、石に魔法や衝撃で刺激を与えると、石は、自身と周囲にわずかな浮力を生じさせるみたいだった。
僕らはコボルトに、倉庫へと案内してもらった。
どうやら、中の物は全部持って行っていいらしい。使い道がないとか言っていた。
「……確かにこの石、魔力を込めるとふわっとするかも。石が浮くというよりは、周辺のものに作用するみたいだね。エンジニアが喜んでくれるといいんだけど」
「そ、その……それはあんまり、期待しない方がいいかもしれません。エンジニアは、なんていうか、あんまり感情的じゃないので……」
「とりあえずもらえるだけ持って帰ろうか。亜空間創造、開け」
僕は空間魔法で空間を作り、その中に石をぽんぽんと放り込んでいく。
飛行石なのか貴金属なのか希土類なのか鉄くずなのか分からないけれど、多いに越したことはない。とりあえず持って帰って、調べてもらおう。
「ほら、フォロワーも手伝って」
「えっ、え、えぇと、でも……こ、これを全部、ですか?」
「全部持って行っていいって言うんだから、持って行こうよ。きっとエンジニアも喜んでくれるよ」
「こ、この輪っかに入れればいいんですか?」
「そうだよ。こうやって、ぽんぽんぽーんって。簡単でしょ?」
空間魔法は、魔法学的空間に切れ目を入れて、そこに場所を作り、こちらの三元的世界からアクセスするための門をつける、という形で行われる。
この空間を切り開く作業は、少しだけ難しく、空間魔法を扱う人にとっては最初の難関だ。
それと、この魔法にはちょっと弱点がある。この空間を維持するための魔力消費が凄まじいのだ。この維持のための魔力消費は広さによって変わるらしいけど、いずれにしても激しすぎて、長距離の移動には向かない。
僕の魔力は無限だから、あんまり問題なく使ってるけど。
「お、重くないですか……?」
「重くないよ、大丈夫大丈夫。亜空間に入れてるだからね。入らなくなったら、また別の場所を開けばいいんだよ」
「これ、なんでも入るんですか? 無限に?」
「そうだねー、僕が入れたいと思う限りは入るよ。あ、でも生きてるものは入れられないんだ。死んでからじゃないと。それと、この杖も入れられないね。開けるための鍵になってるから」
「な、なるほど……魔法ってすごいんですね」
と、フォロワーは恐る恐る石を掴み、そぉっと入口から中に落とす。
「国には、魔法はなかったの?」
「魔法は……それらしいものはあったかもしれません」
「あったんだ?」
「はい。糸を縛る、契約術とか……主従関係を結ぶのに。結婚や養子などのときは、お互いの糸を結び合わせるんです」
「縛れみたいなものなのかなー。それだけ聞くと、呪術っぽいね」
「でも、魔法とは、呼ばれていなかったと思います」
「そうだねー、帝国でも、魔術とか、呪術とか、色々呼ばれ方が違ってたし、そういうものなのかもね。実際には、ちょっとずつ意味が違うんだけど」
僕は大量の鉱石を拾っては投げ、投げては拾い、まとめて抱えて中に落としていく。
みるみるうちに、倉庫は空っぽになった。
「閉じろ。っと。よし、帰ろうか」
「はい!」
「あはは、元気いいね」
「え、えへへ。そうですか?」
フォロワーは、珍しく少し前向きだった。
「げ、元気はわたしの唯一の取り柄なんです。あ、あまり褒められることがないので、嬉しいです」
「フォロワーは笑顔も可愛いし、思いやりがあっていい子だと思うよ。もっと自分に自信を持ってもいいんじゃないかな」
いい機会だと思って、僕はそれとなくフォロワーを元気づけてみる。しかし彼女はすぐに表情を曇らせた。
「で、でもわたし、みんなみたいに個性、ないですし……」
「フォロワーは小さくて可愛いよ」
「……ぁ、あはは。ありがとうございます」
悲しそうだ。体が小さいこと、気にしてたのかな。
「……フォロワーは、誰より思いやりがあるし、一生懸命頑張ってると思うよ」
「そ、そんなことないですよ。リソーサーの方が、ずっと……」
「リソーサーと比べることないよ。フォロワーとリソーサーは全然違うんだから」
「だ、だって、わたしたち、同じ、生体由来のヒューマノイドなのに……」
「フォロワーも、大きくなれば……いや、ならないとしても、ちょっとずつ勉強していけば、フォロワーが目指す存在に近づけるよ。リソーサーだって、きっと最初から優秀ではなかったと思うし」
僕は何とかして慰めてあげたかったのだけど、フォロワーはますます悲しそうに俯いてしまった。
「……リソーサー、私よりも年下なんですよ」
「……」
フォロワーは、まるくて大きな目にいっぱいの涙を溜めていた。
それでもなんとかこぼさないように、一生懸命にまぶたを見開いている。
「わたし、リソーサーのこと、知ってたんです。すごく優秀だって。生体由来のヒューマノイドは、性能にバラつきがあるんですけど、リソーサーは……『リソーサー』になる前から、誰よりも優秀で。生粋のエリートっていうか、みんなの憧れで」
「そうなの? さっきは、お互いに全然知らなかったって言ってたけど」
「知り合いではないんです、全然。わたしが一方的に知ってるだけです」
フォロワーは、右左へふわふわと視線を彷徨わせ、俯いた。
「……わたしみたいに、その能力の大部分を後天的な学習に依存するヒューマノイドは、若い内に、学習をするんです。みんなで集まって、監獄、いや……じゃなくて、学校、みたいなものです」
ヒューマノイドにも、学校というものがあるらしい。
もちろん彼らは一人一人、違う開発チームや研究チームによって、設計されたり製造されたりしているので、能力も個性も様々だ。
しかし彼らの多くは、同じことを期待されている。医者になるために生まれたヒューマノイドでも、地層学者になるためのヒューマノイドでも、最低限の常識や人付き合いを学ぶために、そこに通うそうだ。
そしてその学校は、教育の場であると同時に、選別の場でもある。
簡単にいえば、それは「テスト」だ。
もちろん、最終的に処遇を決めるのは開発チームだから、どこにボーダーラインがあるのか、そしてそれを下回ったらどうなるのかは、互いには知らない。
ノルマは一科目だけでもとてつもなく高いボーダーラインが必要という者もいるし、逆に勉強はなんでもよくて、「指定した人物に取り入り一番の親友になること」みたいな条件を持っている者もいる。
……リソーサーのノルマは高かった。
上に立つ者として、誰よりも上にならなけばならなかった。
リソーサーが課されたのは、「誰よりも優秀であること」。そして、「絶対的に規律に従い、『例の事故』をよぎらせるような事故は絶対に許されない」。
そして、それをクリアできなかった場合の結果は、『死』。
しかし、彼はその期待に応えた。プレッシャーに打ち勝ち、誰よりも優秀な成績で、全てのテストをクリアし、『リソーサー』として人事部に配属された。
ちなみに、昔から友達はいなかったらしい。
「リソーサーは、わたしの憧れなんです。人事部はただでさえエリートの集まりで、ヒューマノイドに生まれたら、誰だって一度は憧れる部署です。そんな場所に配属されるなんて、本当にすごいことなんですよ!」
と、フォロワーはやや興奮気味に話す。
この子は、自分の話をするよりも人の話をする方が好きなのかもしれない。
「リソーサーは、頭もいいし、体力もあるし、相手を見るだけで、考えてること、なんでも知れるし……」
「え?」
「あ、あれ、し、知らなかったですか? リソーサーは、人の心が読めるんですよ」
フォロワーは、少し驚いたように言う。
しかしその後、「あっ」と小さく声を漏らす。
「も、もしかして、リソーサー、隠してたんですか? わ、私、言っちゃいけなかったかな、う、ま、また私、余計なことばっかり……」
フォロワーはみるみる不安そうな顔になり、可哀想なくらいに怯え、今にも泣き出しそうな表情になってしまった。
かわいい。いや、かわいそう。
僕は慌てて、「大丈夫大丈夫」と言って宥めた。
「僕も気になってたから、聞いてみようと思ってたんだ。だから大丈夫だよ」
「はい……ありがとうございます、アイトさん」
フォロワーは、少し悲しそうだったが、なんとか泣き出す前に微笑んでくれた。
良かった、小さい子の涙はできれば見たくない。
「行こうか」
「はい、戻りましょう!」
良かった、元気になってくれて。
フォロワーは、小さな頭をひょこひょこさせながら歩く。すごく可愛い。マスコットみたい。
そして僕とフォロワーは、そのままガーディナーとケアラーと別れた場所に来た。
しかし、そこに二人はいなかった。
「あれ、おかしいな。ここで場所あってるよね?」
先に帰ってしまったのだろうか。確かに、深部まで探索して結構長い時間が経っているし、船から呼び出しがかかってもおかしくないけど。
「連絡は来てないの?」
「あっ、え、ええと、一度圏外に出たときに、その、充電を節約しようと思って、電源を切っていて……その、それを、忘れて……ました。ごめんなさい、あの、緊張してたんです、えっと、その、ご、ごめんなさい……」
フォロワーは、びくびくと可哀想なくらいに怯えて身を縮めた。
……確かにいい子なんだけど、ちょっと抜けてるところがあるのは否めないな。
「そ、その、今すぐマネージャーに聞いてみます……本当にごめんなさい。えっと…………」
フォロワーは困ったように、通信機を操作した。
「……そ、その、二人は、クリーナーを探してるみたいです」
「クリーナーはどこかに行ったの?」
「えっと…………そうみたいです。飛び出して行っちゃったみたいで。リソーサーが後を追いかけたけど、今は二人とも連絡が取れないみたいで……リソーサーとも。多分、私たちと同じで、鉱山の中に入ったんじゃないでしょうか」
「リソーサーって、クリーナーを見つけたの?」
「え、えっと……見つけて、ない、と思います。見つけたら、すぐに戻ってくると思うし……マネージャーが言うには、二人は直前まで一緒に船のデッキにいたみたいです。デッキにはマイクもカメラもないから、何をしていたのかは分からないですけど……」
こんなコボルトだらけの鉱山で、いくらなんでも無茶が過ぎる。
いや、フォロワーの話では、リソーサーはそこそこ戦えるらしいけど、それでも心配だ。
クリーナーもまだ見つかってないのなら、急いで探さないといけない。
「どっちに行ったの? 僕も探すのを手伝うよ」
「……マネージャーは、アイトさんの無事を喜んでます。疲れてるだろうし、船に戻って休んでもらって、って言ってます。その……クリーナーは、たまに家出するんです」
「心配だから、手伝わせてほしいな。コボルトは大人しい魔物だけど、トラブルになるかもしれないし。フォロワーは先に戻ってて」
「で、でも……アイトさんだけ行かせるのは、その……」
「フォロワーが邪魔なわけじゃないけど、僕は一人で動くのに慣れてるから。鉱山の中だと、通信も使えないみたいだし」
正直言うと、暗く入り組んだ湿度の高い坑道で、ふわふわのフードは申し訳ないけどちょっと邪魔だ。
フォロワーは少し申し訳なさそうに心配していたが、「アイトさんが言うなら……」と、頷く。
「絶対に無理をしないでくださいね、クリーナーもリソーサーも、ちゃんと最低限の自衛機能はあるんです。だから焦って探さなくても大丈夫なので」
「うん、分かった。すぐに戻るよ。フォロワーこそ大丈夫? ちゃんと船に戻れる?」
「この周りには他に魔物もいないみたいですし、方向は、マネージャーが教えてくれるので大丈夫です」
「そっか、気をつけてね」
僕は安心させるように微笑んで、フォロワーの頭を撫でた。
そして彼女が歩き去るのを見送ってから、再び鉱山に戻るのだった。
コボルト達は、この鉱山を掘り進めながら、自分たちの身体を作ったり、住む場所を確保しているのだという。
その中でも飛行石は、最近発掘されたものだが、彼らの身体に使うには脆すぎるし、魔法使いや、他の魔物も欲しがらないので、たくさん余っているそうだ。
飛行石と言うだけあって、石に魔法や衝撃で刺激を与えると、石は、自身と周囲にわずかな浮力を生じさせるみたいだった。
僕らはコボルトに、倉庫へと案内してもらった。
どうやら、中の物は全部持って行っていいらしい。使い道がないとか言っていた。
「……確かにこの石、魔力を込めるとふわっとするかも。石が浮くというよりは、周辺のものに作用するみたいだね。エンジニアが喜んでくれるといいんだけど」
「そ、その……それはあんまり、期待しない方がいいかもしれません。エンジニアは、なんていうか、あんまり感情的じゃないので……」
「とりあえずもらえるだけ持って帰ろうか。亜空間創造、開け」
僕は空間魔法で空間を作り、その中に石をぽんぽんと放り込んでいく。
飛行石なのか貴金属なのか希土類なのか鉄くずなのか分からないけれど、多いに越したことはない。とりあえず持って帰って、調べてもらおう。
「ほら、フォロワーも手伝って」
「えっ、え、えぇと、でも……こ、これを全部、ですか?」
「全部持って行っていいって言うんだから、持って行こうよ。きっとエンジニアも喜んでくれるよ」
「こ、この輪っかに入れればいいんですか?」
「そうだよ。こうやって、ぽんぽんぽーんって。簡単でしょ?」
空間魔法は、魔法学的空間に切れ目を入れて、そこに場所を作り、こちらの三元的世界からアクセスするための門をつける、という形で行われる。
この空間を切り開く作業は、少しだけ難しく、空間魔法を扱う人にとっては最初の難関だ。
それと、この魔法にはちょっと弱点がある。この空間を維持するための魔力消費が凄まじいのだ。この維持のための魔力消費は広さによって変わるらしいけど、いずれにしても激しすぎて、長距離の移動には向かない。
僕の魔力は無限だから、あんまり問題なく使ってるけど。
「お、重くないですか……?」
「重くないよ、大丈夫大丈夫。亜空間に入れてるだからね。入らなくなったら、また別の場所を開けばいいんだよ」
「これ、なんでも入るんですか? 無限に?」
「そうだねー、僕が入れたいと思う限りは入るよ。あ、でも生きてるものは入れられないんだ。死んでからじゃないと。それと、この杖も入れられないね。開けるための鍵になってるから」
「な、なるほど……魔法ってすごいんですね」
と、フォロワーは恐る恐る石を掴み、そぉっと入口から中に落とす。
「国には、魔法はなかったの?」
「魔法は……それらしいものはあったかもしれません」
「あったんだ?」
「はい。糸を縛る、契約術とか……主従関係を結ぶのに。結婚や養子などのときは、お互いの糸を結び合わせるんです」
「縛れみたいなものなのかなー。それだけ聞くと、呪術っぽいね」
「でも、魔法とは、呼ばれていなかったと思います」
「そうだねー、帝国でも、魔術とか、呪術とか、色々呼ばれ方が違ってたし、そういうものなのかもね。実際には、ちょっとずつ意味が違うんだけど」
僕は大量の鉱石を拾っては投げ、投げては拾い、まとめて抱えて中に落としていく。
みるみるうちに、倉庫は空っぽになった。
「閉じろ。っと。よし、帰ろうか」
「はい!」
「あはは、元気いいね」
「え、えへへ。そうですか?」
フォロワーは、珍しく少し前向きだった。
「げ、元気はわたしの唯一の取り柄なんです。あ、あまり褒められることがないので、嬉しいです」
「フォロワーは笑顔も可愛いし、思いやりがあっていい子だと思うよ。もっと自分に自信を持ってもいいんじゃないかな」
いい機会だと思って、僕はそれとなくフォロワーを元気づけてみる。しかし彼女はすぐに表情を曇らせた。
「で、でもわたし、みんなみたいに個性、ないですし……」
「フォロワーは小さくて可愛いよ」
「……ぁ、あはは。ありがとうございます」
悲しそうだ。体が小さいこと、気にしてたのかな。
「……フォロワーは、誰より思いやりがあるし、一生懸命頑張ってると思うよ」
「そ、そんなことないですよ。リソーサーの方が、ずっと……」
「リソーサーと比べることないよ。フォロワーとリソーサーは全然違うんだから」
「だ、だって、わたしたち、同じ、生体由来のヒューマノイドなのに……」
「フォロワーも、大きくなれば……いや、ならないとしても、ちょっとずつ勉強していけば、フォロワーが目指す存在に近づけるよ。リソーサーだって、きっと最初から優秀ではなかったと思うし」
僕は何とかして慰めてあげたかったのだけど、フォロワーはますます悲しそうに俯いてしまった。
「……リソーサー、私よりも年下なんですよ」
「……」
フォロワーは、まるくて大きな目にいっぱいの涙を溜めていた。
それでもなんとかこぼさないように、一生懸命にまぶたを見開いている。
「わたし、リソーサーのこと、知ってたんです。すごく優秀だって。生体由来のヒューマノイドは、性能にバラつきがあるんですけど、リソーサーは……『リソーサー』になる前から、誰よりも優秀で。生粋のエリートっていうか、みんなの憧れで」
「そうなの? さっきは、お互いに全然知らなかったって言ってたけど」
「知り合いではないんです、全然。わたしが一方的に知ってるだけです」
フォロワーは、右左へふわふわと視線を彷徨わせ、俯いた。
「……わたしみたいに、その能力の大部分を後天的な学習に依存するヒューマノイドは、若い内に、学習をするんです。みんなで集まって、監獄、いや……じゃなくて、学校、みたいなものです」
ヒューマノイドにも、学校というものがあるらしい。
もちろん彼らは一人一人、違う開発チームや研究チームによって、設計されたり製造されたりしているので、能力も個性も様々だ。
しかし彼らの多くは、同じことを期待されている。医者になるために生まれたヒューマノイドでも、地層学者になるためのヒューマノイドでも、最低限の常識や人付き合いを学ぶために、そこに通うそうだ。
そしてその学校は、教育の場であると同時に、選別の場でもある。
簡単にいえば、それは「テスト」だ。
もちろん、最終的に処遇を決めるのは開発チームだから、どこにボーダーラインがあるのか、そしてそれを下回ったらどうなるのかは、互いには知らない。
ノルマは一科目だけでもとてつもなく高いボーダーラインが必要という者もいるし、逆に勉強はなんでもよくて、「指定した人物に取り入り一番の親友になること」みたいな条件を持っている者もいる。
……リソーサーのノルマは高かった。
上に立つ者として、誰よりも上にならなけばならなかった。
リソーサーが課されたのは、「誰よりも優秀であること」。そして、「絶対的に規律に従い、『例の事故』をよぎらせるような事故は絶対に許されない」。
そして、それをクリアできなかった場合の結果は、『死』。
しかし、彼はその期待に応えた。プレッシャーに打ち勝ち、誰よりも優秀な成績で、全てのテストをクリアし、『リソーサー』として人事部に配属された。
ちなみに、昔から友達はいなかったらしい。
「リソーサーは、わたしの憧れなんです。人事部はただでさえエリートの集まりで、ヒューマノイドに生まれたら、誰だって一度は憧れる部署です。そんな場所に配属されるなんて、本当にすごいことなんですよ!」
と、フォロワーはやや興奮気味に話す。
この子は、自分の話をするよりも人の話をする方が好きなのかもしれない。
「リソーサーは、頭もいいし、体力もあるし、相手を見るだけで、考えてること、なんでも知れるし……」
「え?」
「あ、あれ、し、知らなかったですか? リソーサーは、人の心が読めるんですよ」
フォロワーは、少し驚いたように言う。
しかしその後、「あっ」と小さく声を漏らす。
「も、もしかして、リソーサー、隠してたんですか? わ、私、言っちゃいけなかったかな、う、ま、また私、余計なことばっかり……」
フォロワーはみるみる不安そうな顔になり、可哀想なくらいに怯え、今にも泣き出しそうな表情になってしまった。
かわいい。いや、かわいそう。
僕は慌てて、「大丈夫大丈夫」と言って宥めた。
「僕も気になってたから、聞いてみようと思ってたんだ。だから大丈夫だよ」
「はい……ありがとうございます、アイトさん」
フォロワーは、少し悲しそうだったが、なんとか泣き出す前に微笑んでくれた。
良かった、小さい子の涙はできれば見たくない。
「行こうか」
「はい、戻りましょう!」
良かった、元気になってくれて。
フォロワーは、小さな頭をひょこひょこさせながら歩く。すごく可愛い。マスコットみたい。
そして僕とフォロワーは、そのままガーディナーとケアラーと別れた場所に来た。
しかし、そこに二人はいなかった。
「あれ、おかしいな。ここで場所あってるよね?」
先に帰ってしまったのだろうか。確かに、深部まで探索して結構長い時間が経っているし、船から呼び出しがかかってもおかしくないけど。
「連絡は来てないの?」
「あっ、え、ええと、一度圏外に出たときに、その、充電を節約しようと思って、電源を切っていて……その、それを、忘れて……ました。ごめんなさい、あの、緊張してたんです、えっと、その、ご、ごめんなさい……」
フォロワーは、びくびくと可哀想なくらいに怯えて身を縮めた。
……確かにいい子なんだけど、ちょっと抜けてるところがあるのは否めないな。
「そ、その、今すぐマネージャーに聞いてみます……本当にごめんなさい。えっと…………」
フォロワーは困ったように、通信機を操作した。
「……そ、その、二人は、クリーナーを探してるみたいです」
「クリーナーはどこかに行ったの?」
「えっと…………そうみたいです。飛び出して行っちゃったみたいで。リソーサーが後を追いかけたけど、今は二人とも連絡が取れないみたいで……リソーサーとも。多分、私たちと同じで、鉱山の中に入ったんじゃないでしょうか」
「リソーサーって、クリーナーを見つけたの?」
「え、えっと……見つけて、ない、と思います。見つけたら、すぐに戻ってくると思うし……マネージャーが言うには、二人は直前まで一緒に船のデッキにいたみたいです。デッキにはマイクもカメラもないから、何をしていたのかは分からないですけど……」
こんなコボルトだらけの鉱山で、いくらなんでも無茶が過ぎる。
いや、フォロワーの話では、リソーサーはそこそこ戦えるらしいけど、それでも心配だ。
クリーナーもまだ見つかってないのなら、急いで探さないといけない。
「どっちに行ったの? 僕も探すのを手伝うよ」
「……マネージャーは、アイトさんの無事を喜んでます。疲れてるだろうし、船に戻って休んでもらって、って言ってます。その……クリーナーは、たまに家出するんです」
「心配だから、手伝わせてほしいな。コボルトは大人しい魔物だけど、トラブルになるかもしれないし。フォロワーは先に戻ってて」
「で、でも……アイトさんだけ行かせるのは、その……」
「フォロワーが邪魔なわけじゃないけど、僕は一人で動くのに慣れてるから。鉱山の中だと、通信も使えないみたいだし」
正直言うと、暗く入り組んだ湿度の高い坑道で、ふわふわのフードは申し訳ないけどちょっと邪魔だ。
フォロワーは少し申し訳なさそうに心配していたが、「アイトさんが言うなら……」と、頷く。
「絶対に無理をしないでくださいね、クリーナーもリソーサーも、ちゃんと最低限の自衛機能はあるんです。だから焦って探さなくても大丈夫なので」
「うん、分かった。すぐに戻るよ。フォロワーこそ大丈夫? ちゃんと船に戻れる?」
「この周りには他に魔物もいないみたいですし、方向は、マネージャーが教えてくれるので大丈夫です」
「そっか、気をつけてね」
僕は安心させるように微笑んで、フォロワーの頭を撫でた。
そして彼女が歩き去るのを見送ってから、再び鉱山に戻るのだった。
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