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14 せかいじゅー
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話を聞くと、ワタゲは楽しそうに答えてくれた。
『セカイジュ、ワタシタチモ、シッテイル』
「そうなのか?」
『ハハナルタイジュ、ワタシタチノ、コキョウ』
「へぇ。ケセラ・セラって、世界樹から生まれてんのか。面白いな」
世界樹は白玉の森にあり、そしてワタゲは森から風に乗ってこの遺跡へと辿り着き、なんか居心地が良くて定住しているようだ。
ぐっすり眠って元気になったルルと、一晩中騒ぎ続けてリフレッシュしたケケは、二人とも元気になっている。
「で、何を探しに行くにしても、まずはそのセカイジュってヤツに行かなきゃダメなんだろ? 湖の底に行かなきゃいけないなら、オレはジャックと留守番してるからルルとニコだけで行くことになるよな?」
「めぇ?」
「……」
「……他にも方法があると言っただろう。ワラワは水のない場所のことはよく知らないが、潜らなくてもいい出入り口が少なくとも三か所、あったはずだ。
「西の峡谷、南の砂漠、そして白玉の森」
「南の砂漠って、ダンジョン跡地だろ。オレも知ってるけど、あのダンジョンは砂で埋まってるゼ」
「……」
「それに、白玉の森のダンジョンは人間に管理されているな」
「……いりぐち、ぜんぶだんじょん?」
「いや、そんなことはないはずだ。少なくとも海と湖はそうじゃない。だが、いずれにしろ、今の我々には湖の底へと潜る手段がない。スライムは水が得意だが、ルルやケケを連れて行くのは難しいだろう。……そうだな、やっぱり行くなら西の峡谷だ。火山の近く」
「火山かァ。あの近くって、確か温泉があるよな」
「おんせん?」
ルルは首を傾げる。
「ルルは温泉知らないか? お湯が湧き出す泉なんだけどな、特殊な鉱物が溶け込んでて、そこに浸かるとすっごくお肌の調子が良くなるんだよ」
「おはだ……」
ルルは自分のほっぺをむにむに引っ張る。
「ルルのほっぺがもっともちもちになるな! ケケケケッ」
「……もちもち?」
「よし決定だ、温泉に行こう!」
「ワラワは温泉に行けなんて一言も言ってないが?」
「うん、いく」
「ルル?」
賑やかに話し合っていると、そこへ一匹のスライムがぽんぽん跳ねてやってきた。
『ルーサファ、けけサン、にこサン』
「んっ? どしたんだ?」
『ボクタチモ、ツレテイッテ』
「ボクタチって、何匹だ?」
スライムはキョロキョロ辺りを見回し、ぽんと一回跳ねた。
『……タチジャナイ、ボク、ツレテイッテクダサイ』
どうやら一匹だけのようだ。
ユニークネームを持たない魔物は、基本的に種族の意思が自分の意思なので、こうやって一人だけ別行動するのはとても珍しい。
「別にいいけど、オマエ、行きたいところでもあんのか?」
『イッショニ、ガンバリタイ』
「え、一緒に戦うのか?」
『タタカウノ、ニガテダケド、ガンバル』
「いやいや、やめとけって。命は大事にした方がいいよ。誰にも狙われてないのに、わざわざ殺されに行く必要ないだろ。
「人間共はクソの塊だ、意味不明かつ身勝手な理由で理不尽に命を狙われることになるぞ」
「貴様が言うと説得力が違うな」
『ボク、ヤクニタツ。……タタナイ?』
スライムはぽんぽん跳ねてルルの方へと寄って来る。
「ん」
ルルは手を伸ばして、スライムのことを抱き上げた。
抱き上げて気が付いたが、このスライムは、最初にルルが抱っこしようとして上手くいかなかった個体と同じだ。
「……ニコ、はこべる?」
「なんだ? ワラワは見ての通り、ただの水だから動けないぞ」
「ニコ。おみず、このこでもいいでしょ」
「……なるほど」
『?』
ルルはニコの入った瓶の蓋を開けて、スライムの頭にぶっかけた。
スライムは驚いてそれを取り込み、ちょっとだけ一瞬トロトロになるが、すぐにぷにょぷにょに持ち直す。
「行けそうだな」
『にこサン、ボクノナカ、イルノ?』
スライムは動揺し、プルプル震えている。
しかしニコの方が普通にしている。居心地はそこそこいいらしい。
「ん。すらいむ、いい?」
『ワ、ワカリマシタ。ヤクニ、タテルヨウニ、ガンバル!』
スライムはぽんぽん跳ねてそう言った。
「なるほどな、こうすればニコも移動できるようになるってことか。でもニコ、拒否反応はないのか?」
「……きょひ?」
「ワラワは水溶液に適合し、触れ合った液体の間で自由に意識を移動できるが、生物の体内は魔力があるから、その本体には入れないのだ。
「……しかし、スライムは、その本体は核だからな。体に溶け込める」
「……」
確かに、他の生物に寄生できるのなら、スライムとの邂逅を待つまでもなくケケの内部に入り込めば、瓶に入らなくても移動できる。
そうしなかったということは、できないということなのだろう。
ルルはニコが入ったスライムを持ち上げ、その透き通った体に向かって話しかけた。
「すらいむ。ルル、なまえをあげる」
『ナマエ!? ウレシイ!』
「ん」
魔物を名持ちにするのはやや面倒だが、ニコを持ち運ぶのに、名前がないのはさすがに不便だろう。
それにただのスライムなら、そんなに大変なことにはならない。
「ん。……すらいむ、なまえ…………」
「……」
「……」
「……」
「……ポポ」
「ポポ?」
「なんでポポ?」
ニコとケケが揃って聞き返す。
「ん、ぽよぽよ。ポポ。なまえ」
ルルは胸を張って言った。
「……」
「……」
「ポポ、いい?」
ルルは、キラキラしたスライム越しに太陽を見て、首を傾げる。
『アリガトウ!』
『オメデトウ!』
『オメデトウ!』
『オイワイ!』
『オイワイ!』
「ん。きにいったなら、よかった」
ルルは満足げに頷く。
「……なぁルル、ちなみになんだけど、なんでジャックのことは、ジャックって呼んでるんだ? ルルの場合、『モフ』とか呼んでそうなのに」
「ジャック、もふもふじゃない。ときとき」
「トキトキ? なんだそれ……あ、ツノか。尖ったツノだから。……で、なんでジャックなんだ?」
「ジャック、いやってゆった」
「断られたのか。意外と、ジャックってプライド高いんだな……ん? だとしたらルル、ジャックって名前はどこから出てきたんだよ? ルルがつけたわけではないんだよな?」
「……」
「……ん? どした? 急に黙って」
「……ルル、ねむい。ねる」
「え?」
「なまえ、かんがえて、つかれた」
「なんで疲れてるんだよ! 二音考えるのに、どんなエネルギーが必要なんだよ!! しかも同じ音だし!!」
「ジャック、べっど」
「めぇ」
ケケはまだ何かを言いたいようだったが、ジャックはルルをツノで拾って背中に乗せる。
(いいしごと、したなぁ)
ルルは満足げに目を閉じて、夢の世界へ旅立った。
『セカイジュ、ワタシタチモ、シッテイル』
「そうなのか?」
『ハハナルタイジュ、ワタシタチノ、コキョウ』
「へぇ。ケセラ・セラって、世界樹から生まれてんのか。面白いな」
世界樹は白玉の森にあり、そしてワタゲは森から風に乗ってこの遺跡へと辿り着き、なんか居心地が良くて定住しているようだ。
ぐっすり眠って元気になったルルと、一晩中騒ぎ続けてリフレッシュしたケケは、二人とも元気になっている。
「で、何を探しに行くにしても、まずはそのセカイジュってヤツに行かなきゃダメなんだろ? 湖の底に行かなきゃいけないなら、オレはジャックと留守番してるからルルとニコだけで行くことになるよな?」
「めぇ?」
「……」
「……他にも方法があると言っただろう。ワラワは水のない場所のことはよく知らないが、潜らなくてもいい出入り口が少なくとも三か所、あったはずだ。
「西の峡谷、南の砂漠、そして白玉の森」
「南の砂漠って、ダンジョン跡地だろ。オレも知ってるけど、あのダンジョンは砂で埋まってるゼ」
「……」
「それに、白玉の森のダンジョンは人間に管理されているな」
「……いりぐち、ぜんぶだんじょん?」
「いや、そんなことはないはずだ。少なくとも海と湖はそうじゃない。だが、いずれにしろ、今の我々には湖の底へと潜る手段がない。スライムは水が得意だが、ルルやケケを連れて行くのは難しいだろう。……そうだな、やっぱり行くなら西の峡谷だ。火山の近く」
「火山かァ。あの近くって、確か温泉があるよな」
「おんせん?」
ルルは首を傾げる。
「ルルは温泉知らないか? お湯が湧き出す泉なんだけどな、特殊な鉱物が溶け込んでて、そこに浸かるとすっごくお肌の調子が良くなるんだよ」
「おはだ……」
ルルは自分のほっぺをむにむに引っ張る。
「ルルのほっぺがもっともちもちになるな! ケケケケッ」
「……もちもち?」
「よし決定だ、温泉に行こう!」
「ワラワは温泉に行けなんて一言も言ってないが?」
「うん、いく」
「ルル?」
賑やかに話し合っていると、そこへ一匹のスライムがぽんぽん跳ねてやってきた。
『ルーサファ、けけサン、にこサン』
「んっ? どしたんだ?」
『ボクタチモ、ツレテイッテ』
「ボクタチって、何匹だ?」
スライムはキョロキョロ辺りを見回し、ぽんと一回跳ねた。
『……タチジャナイ、ボク、ツレテイッテクダサイ』
どうやら一匹だけのようだ。
ユニークネームを持たない魔物は、基本的に種族の意思が自分の意思なので、こうやって一人だけ別行動するのはとても珍しい。
「別にいいけど、オマエ、行きたいところでもあんのか?」
『イッショニ、ガンバリタイ』
「え、一緒に戦うのか?」
『タタカウノ、ニガテダケド、ガンバル』
「いやいや、やめとけって。命は大事にした方がいいよ。誰にも狙われてないのに、わざわざ殺されに行く必要ないだろ。
「人間共はクソの塊だ、意味不明かつ身勝手な理由で理不尽に命を狙われることになるぞ」
「貴様が言うと説得力が違うな」
『ボク、ヤクニタツ。……タタナイ?』
スライムはぽんぽん跳ねてルルの方へと寄って来る。
「ん」
ルルは手を伸ばして、スライムのことを抱き上げた。
抱き上げて気が付いたが、このスライムは、最初にルルが抱っこしようとして上手くいかなかった個体と同じだ。
「……ニコ、はこべる?」
「なんだ? ワラワは見ての通り、ただの水だから動けないぞ」
「ニコ。おみず、このこでもいいでしょ」
「……なるほど」
『?』
ルルはニコの入った瓶の蓋を開けて、スライムの頭にぶっかけた。
スライムは驚いてそれを取り込み、ちょっとだけ一瞬トロトロになるが、すぐにぷにょぷにょに持ち直す。
「行けそうだな」
『にこサン、ボクノナカ、イルノ?』
スライムは動揺し、プルプル震えている。
しかしニコの方が普通にしている。居心地はそこそこいいらしい。
「ん。すらいむ、いい?」
『ワ、ワカリマシタ。ヤクニ、タテルヨウニ、ガンバル!』
スライムはぽんぽん跳ねてそう言った。
「なるほどな、こうすればニコも移動できるようになるってことか。でもニコ、拒否反応はないのか?」
「……きょひ?」
「ワラワは水溶液に適合し、触れ合った液体の間で自由に意識を移動できるが、生物の体内は魔力があるから、その本体には入れないのだ。
「……しかし、スライムは、その本体は核だからな。体に溶け込める」
「……」
確かに、他の生物に寄生できるのなら、スライムとの邂逅を待つまでもなくケケの内部に入り込めば、瓶に入らなくても移動できる。
そうしなかったということは、できないということなのだろう。
ルルはニコが入ったスライムを持ち上げ、その透き通った体に向かって話しかけた。
「すらいむ。ルル、なまえをあげる」
『ナマエ!? ウレシイ!』
「ん」
魔物を名持ちにするのはやや面倒だが、ニコを持ち運ぶのに、名前がないのはさすがに不便だろう。
それにただのスライムなら、そんなに大変なことにはならない。
「ん。……すらいむ、なまえ…………」
「……」
「……」
「……」
「……ポポ」
「ポポ?」
「なんでポポ?」
ニコとケケが揃って聞き返す。
「ん、ぽよぽよ。ポポ。なまえ」
ルルは胸を張って言った。
「……」
「……」
「ポポ、いい?」
ルルは、キラキラしたスライム越しに太陽を見て、首を傾げる。
『アリガトウ!』
『オメデトウ!』
『オメデトウ!』
『オイワイ!』
『オイワイ!』
「ん。きにいったなら、よかった」
ルルは満足げに頷く。
「……なぁルル、ちなみになんだけど、なんでジャックのことは、ジャックって呼んでるんだ? ルルの場合、『モフ』とか呼んでそうなのに」
「ジャック、もふもふじゃない。ときとき」
「トキトキ? なんだそれ……あ、ツノか。尖ったツノだから。……で、なんでジャックなんだ?」
「ジャック、いやってゆった」
「断られたのか。意外と、ジャックってプライド高いんだな……ん? だとしたらルル、ジャックって名前はどこから出てきたんだよ? ルルがつけたわけではないんだよな?」
「……」
「……ん? どした? 急に黙って」
「……ルル、ねむい。ねる」
「え?」
「なまえ、かんがえて、つかれた」
「なんで疲れてるんだよ! 二音考えるのに、どんなエネルギーが必要なんだよ!! しかも同じ音だし!!」
「ジャック、べっど」
「めぇ」
ケケはまだ何かを言いたいようだったが、ジャックはルルをツノで拾って背中に乗せる。
(いいしごと、したなぁ)
ルルは満足げに目を閉じて、夢の世界へ旅立った。
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