幼女剣王KUSARI ~俺が幼女になっちゃった!転生ドルオタの異世界無双!俺、異世界でアイドルになります!

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お嬢様とギルマス

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 ここはダンジョンだ。
 日の光は届かず、灯りといったら松明くらいしか無い。

 だが『お嬢さん』の唇は紅く、ティーカップから立ち上る湯気は白かった。

 折りたたみ式のテーブルに椅子、真鍮のティーセット。どれも簡素だが、金がかかった品なのは、ひと目で分かった。脇には燕尾服に蝶ネクタイの執事までいて、彼女に日傘を差し掛けている。
 まるでどこかのお屋敷の庭園みたいだ。
 ダンジョンらしいものといったら、ただひとつ。
『お嬢さん』が着けてる、青い鎧・・・くらいなものだった。

「おかえりなさい。彼女・・は、どうだった?」

『お嬢さん』が、訊いた。
 彼女とは、ミシェールのことだろう。

「…………」

 爺さんは、無言だ。
 代わりに、俺が答えた。

「ミシェール、は……よ、ど、鎧……おじょ、さば、の………よどい、着て……ぶず、ぶ、び、じ、無事…………」

 怪しいまでに言語不明瞭だが、アイドルの握手会や物販だったら、この程度にコミュ障なオタクは、決して珍しくない。だがここは異世界だし、いま目の前にいる『お嬢さん』も、アイドルではない。

 しかし――

「ふむふむ……そういうことね。ふむふむ」

――と『お嬢さん』は栗毛色の髪を揺らして何度も頷き、

「私とミシェールの鎧が入れ替わってたのは、私の提案。コーギィ――あなたのところへ、助けを求めに行った男性ね――彼が気付くかどうか試してみましょうよって、出発前に持ちかけたのよ」

気の強そうな瞳を、くりっとさせて答えた――いや、答えてくれた。俺が言外に含ませた『何故、ミシェールが『お嬢さん』の鎧を着けていたのか?』という疑問に対して。

 そして、にかっと笑って言った。

「あなた、面白いわね。それに――可愛らしい。ねえ、アラミス? こんな娘を飾り立ててみてはどうかしら? 検討に値すると思うのだけど」

 と、俺には意味不明なことを執事に話しかける。それに対し執事は、にっこり微笑んで見せるのだが、頷いたり、あるいは首を横に降ったりとかいった類の意思表示は、いっさい無かった。20代半ばの、ややいかつい感じのイケメンで、日常的に女を抱いてる者特有のモテオーラを漂わせている。もげろ。

――と、だいぶ長閑のどかな感じになってはいたのだが。

 辺りには、死体が散乱している。
 オーガやゴブリンでなく、人間の。

 彼らが何者で、どうしてこんなことになっているのか?

 それについて訊ねたら『お嬢さん』は答えてくれるだろうか?
 だが、そんなことを試す機会は無かった。

「おお。こっちだ! こっちに――うわ! なんだこりゃ!?」

 5分も経たず、通路から、わらわら人が集まって来た。

 どこからか連絡を受け『お嬢さん』を救けに来た冒険者たちだ。
 彼らはまず死体に驚き、次にお茶会真っ最中な様子の俺たちに気付いて、なんとも言えない表情になった。

 その頃には、俺も爺さんも、執事が追加で出した椅子に座り、菓子とお茶をご相伴にあずかっていた。
 俺と爺さんは、冒険者ギルドで、ちょっと特殊な立ち位置にいる。
 そのせいもあってか、

冒険者「ご、ご無事でしたか!?」
お嬢さま「無事でしたわよ~」

 というやりとりがあった以外は、みんな、遠巻きにこちらを見るだけだった。

「は、派手にやりやがったな」
「ムートさんとクサリだ……いつものことじゃねえか」
「それにしたって――おええ。バラバラっていうにも程があるぞ」

 なんて小声の会話も、聞こえてきはしたが――じゃらり。
 俺が鎖をならすと、それも霧散した。
 そんな俺を『お嬢さん』が微笑んで見てた。
 それで俺は、何故だか分からないが、頬が熱くなってしまうのを感じるのだった。

 そんな感じで、冒険者たちが着いてから十数分。

「ああ、ああ。それで頼む。うん。うん――ああ、いま着いた。切るぞ」

 通信の魔導具に、そう話しながら現れた。
 その人について、一言でいうなら『凄い美人』だ。
 ウェーブのかかった長い赤毛に眼鏡。
 長身で、冒険者服の胸と尻をぱつんぱつんにさせている。

「ご足労でしたね、ギルドマスター。早急な対応、感謝いたします」
「いえ、ミルカ嬢。貴女のご無事が何よりの喫緊。お言葉には及びません」

 頭を下げる美女――このダンジョンを仕切る冒険者ギルドのマスターを、『お嬢さん』は片手で制して言った。

「学校で習ったことなのですけど、負傷者は腕を組んで歩かせるものなのでしょう? 私、無事とは申しましたが擦り傷くらいは負ってますのよ?」

 肘を差し出して微笑むと、ギルマスの腕を抱いて歩き出す。
 その姿が、振り向いて言った。

「私は、ミルカ=フォン=ゴーマン――憶えておいてね?」

 そして『お嬢さん』の姿は、冒険者たちの向こうに消える。
 執事もまた、どこかに消えた。

「……ムートさん。それと、クサリさん」

 男が一人、腰を低くして近付いて来た。
 何度か見かけたことのある、ギルドの職員。
 デスクワーカーでなく、現場のやり手だ。

「お手数ですが、明日、ギルドまで来ていただけませんか? いろいろと、ご説明しなければならないことが有りまして。ギルマスが是非にと言ってるんですが……どうですかね?」

 爺さんに話しかけながら、男は、ちらちらと俺を見てくる。無口な爺さんは諦め、俺に同意を求めているのか。俺が頷くと、男はあからさまに安堵していた。そういえば、前世の記憶を取り戻す以前から、俺はこういう役回りを担っていたのだった。

 そんなことを考えながら、ふと思った。
 たとえばだ。
 
 死んでた男たちは何者なのかとか、それ以外にも。色々とおかしなところはある。一方で、それに整合性をあたえるストーリーを想像することも出来る。

 しかしだ。

 背筋を伸ばし、お茶を楽しんでた『お嬢さん』。
 ミルカ=フォン=ゴーマン。
 どんな説明も、彼女のあの態度ほどの説得力は持ち得ないような気がしていた。
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