幼女剣王KUSARI ~俺が幼女になっちゃった!転生ドルオタの異世界無双!俺、異世界でアイドルになります!

ZUZU

文字の大きさ
31 / 57

黒い代行者

しおりを挟む
 冒険者は、緩い。

 あらゆる面、あらゆる意味において緩い職業だ。だからその分、『掟』として共有されてるルールについては、厳格に守られることになる。『出自で差別しない』『日が暮れるまでは酒を飲まない』『喧嘩は握手で終わる』『助けられたら銅貨5枚』等々。そして――

『他人の能力を詮索しない』

――というのも、その1つだった。

 情報セキュリティの観点から、こういうルールがあるのは当然だろう。そして前世の俺よりも、転生後の俺――インターネットなんて無いこの世界の冒険者たちの方が、ずっとリアルに、情報漏えいの恐怖を知っていた。

 死ぬからだ。

 生死に直結する戦いが溢れたこの世界では、情報はまさしく武器になる。冒険者個人の持つ能力は、現代で言うなら戦車や戦艦のスペックみたいなものだ。そう考えれば、それを聞き出そうとする行為がどんな意味を持つかは言うまでもないだろう。

 だから、イゼルダが自分の能力――『前払いでOKアドバンス・ペイメント』について俺に明かしたのが、どれだけ特異なことだったか。そして明かされた能力の特殊さもあわせれば、単純に迂闊な行為と嗤うことも出来ない。

 思い出すことがあった。

 前世でのことだ。会社で会議室の前を通りかかったら、ドアが空いていて、部長が1人で休んでるのが見えた。向こうも俺に気付いて手招き。中に入ったら、会議で余ったお菓子を食べてけと。そこに座れと。言われたとおりにしてたら、部長が天井を仰いで話し始めた――俺の課の課長が、業者にリベートを強要してるらしいこと。それが、他の部の部長の手引きで行われてるらしいこと。それに、役員たちが注目してるらしいこと。それを、創業家に取り入る材料としようとしてる役員もいるらしいこと――いきなりそんな話をされて、主任になったばかりの俺は、背中に嫌な汗をかくくらいしか出来なかった。

 いきなり重い情報を共有する――押し付けることで、相手を自分に縛り付ける。そういうコミュニケーションの技術がある。付き合ってるか付き合ってないか微妙な段階でリストカットの痕を見せたりする女性も、その一種だろう。俺ではなく、会社の先輩の体験だが。

 イゼルダが自分の能力を明かしたのも、同じに違いない。もちろん、自分の能力について、絶対の自信があるのが前提になる。知られたところで、不覚を取るようなことは無いという確信が。

 ところでだ。

 いま俺の中には、誘惑が渦巻いている。
 自殺衝動タナトスといってもいい。

 それは、こんな質問をしてしまいたくなる衝動だ。

『『前払いでOKそれ』で、私を殺せますか?』

 もし俺がイザベラで、そんな質問をされたらどう答えるだろう? にっこり笑って『殺して欲しいの?』とか?――ダメだ。訊いちゃダメ。絶対に訊いたらダメなやつだそれ。そんなことを考えてたら――

「なんだか楽しそうね? クサリさん」

――ミルカに、言われてしまった。

「そうですかあ?……」

 はぐらかしながら俺は、もじもじ。意図してそうしたわけではない。まったくのナチュラルで、ついついそうしてしまったのだ。前世の俺なら、さぞキモかったことだろう。だがいまの俺は、美幼女KUSARI。

「「……っ!」」

 ミルカとイゼルダが、揃って息を呑むのが分かった。顔を見合わせている。くそう。前世の俺を、ここに連れてきてやりたい。いまの俺を、見せてやりたい。きっと、喜ぶだろうな……

 そうこうするうちに、目的地はもうすぐそこ。
 言われたわけではないが、分かった。
 馬車が行く道の先。

 そこに、燃え上がる建物があったからだ。

 ●

 深夜だが、街路には人が溢れていた。
 花街の客や従業員が、延焼を恐れて逃れてきたのだろう。

 馬車が停まったのは、燃えてる建物から数ブロック離れた場所。
 イゼルダが言った。

「この子の『贈与物ギフト』も、基本的には私の『前払いでOKアドバンス・ペイメント』と同じなんだけど、顕れ方・・・が違うのよね――ほら」

 ぬたり、ぬたり。

 そんな粘着音が聞こえてきそうな足取りで、街路を歩く人影があった。1つではない。いくつも、いくつもだ。ふ、と何もない空間から顕れ、踏み出し、歩きだす。そして、街路で火災を眺める人々の間に紛れ込み、向かっていく。燃え上がる、建物に向かって。

黒い代行者ブラック・サブスティチュート』――そう、呼んでいます」

 人影は、どれも同じ背格好。男か女かも分からない。全身を、真っ黒に塗りつぶされていた。彼らの輪郭とその内側だけが、景色に暗い穴が空いたような状態になっている。昔の特撮の、合成に使うマスクみたいでもあった。

「ひっいぎぃいいいいいいいっ!!!」

 建物から逃れてきた、男が街路に飛び出す。
 全身が、火だるまになっていた。
 そしてその背中には――

「ほら、あれ。あれがね、この子の『黒い代行者ブラック・サブスティチュート』――『贈与物ギフト』が顕す『結果』なのよ」

――イゼルダの指差す通り、黒い人影がしがみついていた。

 ミルカが言った。

「私が望んだのは『スネイル』の拠点壊滅と王都にいる構成員の滅殺。コストはポーションを3瓶と食事を7回、それから馬を2日間借りる代金――ところでクサリさん、乗馬は?」

「未経験です」

「だったら、一緒にお稽古しましょ? 私がお教えします。学校が始まる頃には、そこらへんの騎兵より上手にしてみせますから」

「うぎぁあああああっ!!!」

 街路を歩いてた男が、いきなり燃え上がった。
 背中には、やはり黒い影。

 また別の男の背中に、歩み寄った黒い影が飛び乗る。
 燃える。

「い”い”い”い”いいいいいっっ!!!!」

 さて疑問に思うべきは、俺に、あの黒い人影が見えている・・・・・ということだ。
 街路にいる人々は、自分たちの間をうろうろする黒い人影かれらに、まったく気付いていない。

 では何故、俺には見えているのか?

 そんな俺の疑問に、気付いたのか。
 それとも、ただふと呟いただけだったのか。
 イゼルダが言った。

「『贈与物ギフト』は、それが……そういうモノがあると、分かってしまえば見える。そうでなければ見えない――騙し絵みたいなものなのよ。騙しのカラクリに気付いてしまったら、もう二度と以前のように見ることは出来ない……そういうものなの」

 ああ、なんかやっぱりそういう――重いものを背負わせるわけですね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...