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夢見る15歳

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「どうでしょう? その可憐な歌と踊りで歓声の雨を降らす彼女たちを、こう呼ぼうではありませんか――『雨降らす乙女達レインメイカーズ』と!!」

 シンダリが、そう宣言した途端。
 一瞬、静けさが訪れ――なんてこともなく。

『レーインメイカーズ! レーインメイカーズ! レーインメイカーズ! レーインメイカーズ! レーインメイカーズ! レーインメイカーズ! レーインメイカーズ! レーインメイカーズ! レーインメイカーズ! レーインメイカーズ! レーインメイカーズ!』×たくさん。

 怒号のごとき連呼は、むしろシンダリの声に食い気味ですらあった。

(ああ……なんてことだ!)

 それを聞きながら、俺は慚愧していた。

 あれをしておけば良かった、これをしておけば良かったという想いが、次々と浮かび上がってきたのである。たとえば、メンバー一人一人の自己紹介とか。観客に促すためのコールとか。そういった準備をしておいた方が良いと分かっていながらも、そうしなかった。

 これがどういうことかといえば、腰が引けていたのだ。観客に拒絶される可能性を前に、全力を尽くすのを、どこか躊躇っていたのだ。それなのに、観客の熱狂を目にした途端『やっておけば良かった』だなんて――なんたる浅ましさ!

 羞恥にむっつりと赤面する俺を、どう解釈したのか。
 他のメンバーたちが、観客にも負けない大声で訴えてきた。

「「「「二曲目、行きましょう!」」」」

 お、おう……と、ついつい応じてしまいそうな勢いだが、ちょっと待て。メンバーたちを押し留めて、俺はシンダリに叫んだ。

「ここから、動かなくていいのか!?」

 観客から投げられた金は、全てイゼルダのところへと転移させられている。金が、馬車の周囲50センチの範囲に入るのと同時にだ。そういう結界が、馬車には張られていた。

 コレア――ハジマッタ王国法力軍第4師団『武装僧兵ガンボーズ』筆頭、コレア=ベッピダーが寄越してくれた、魔術師たちの仕事だ。この『アイドル錬金術』作戦について、宿の作戦本部に連絡したところ、彼女の部下を派遣して、作戦の細部を固めるのを助けてくれたのだった。

 宿の方を見ると、その上空に浮かぶ『壺』――スネイルという名の自然現象は、まだまだ健在だ。地上に伸ばす触手はかなり短くなったようだが、『壺』やそこから出た巨大な女の顔には、傷ひとつ付けられていない。戦況は、どちらも攻めきれず、イゼルダのやや優勢。そしてまだまだ先は長い、といったところか。

 つまり、金はまだまだ必要になる。

 観客から投げ込まれる金は、依然として止まないし、二曲目を歌えば勢いを更に増すだろう。だが、一箇所で集められる金には限度がある。だから、場所を移動した方が良いのではないか?――俺がシンダリにしたのは、そういう問いかけだった。

「しかし、この有様ですからねえ」

 シンダリが言う通り、馬車は身動きが取れない状態だ。シンダリの手配した人間が守ってくれてはいるが、押し寄せる観客に囲まれて、前進も後退もままならない。御者も、馬の興奮を抑えるのに四苦八苦していた。

 しかし、そこで手を挙げる人がいた。
 金を転送する結界を張ってくれている、コレアの部下の魔術師だ。

「いまこの馬車に張っている結界は、戦場での使用を想定した試作品です。本来の用途では、転移させるのは金ではなく、矢や石。敵から放たれたそれらを、そのまま敵陣の上にお返しするのを目的としています。そしてこれに重ねがけすることで、更に別の効果を顕す結界がありまして――」

 魔術師に聞いた効果は、確かにいまの状況にぴったりのものだった。
 しかし――

「怪我人が出るな」

――そう問う俺に、魔術師は、こう答えた。

「コレア=ベッピダー筆頭からは、使用の許可を得ています」

 と。

 となれば、俺的にはOKだ。
 シンダリも、同じく。
 というわけで、新たな結界が、重ね張りされた。

 その結果――

「「「うわ~~。飛ぶ~~~」」」

――馬車の周囲の観客が、次々、放り投げられ出した。

 正確には、馬車の周囲50センチの範囲に入ったと同時に、2メートル程の高さに持ち上げられ、来た後ろへと放り飛ばされる。

 これが、新たな結界の効果だった。

 放られた観客に、放られた先にいる観客。どちらに怪我人が出てもおかしくないが、実際には、事前に危惧した程では無かった。転生後の俺は、強者として生きてきた。だから忘れがちだが、転生前の日本に比べ、この世界の人間は、ずっと頑丈で元気なのだった。逆に、わざと飛ばされてダイブを楽しむ奴までいる始末である。

 そして、馬車は進み出す。
 2曲目は、移動しながら歌うことになった。
 曲名は――

「では、聞いて下さい――『夢見る15歳』!」

 スマイレージの初メジャーシングルで、オリコン最高順位は、週間5位。日本レコード大賞で最優秀新人賞を獲得した名曲だ。

 シンセサイザーの前奏が始まった時点で、観客は大盛り上がりである。
 二番に入る頃には――

『ザッツ、サマーラブ! ザッツ、サマーラブ!』×たくさん。

――みんな、コーラスに声を重ねて来た。

 ますます激しくなるダイブ。
 馬車から離れた場所では、原初のサークルモッシュすら発生していた。

 そんな景色の中で歌いながら、俺は考えていた。
 次は、どこへ移動する?
 街中を練り歩くというのもありだ。
 しかし出来るなら、イゼルダの元へと近付きたい。

 そう思うのは、彼女の能力――『贈与物ギフト』が理由だ。

 目的を達成するために、必要な手順を割り出し、そのためにいくら必要か、金額を見積る。そしてその金額を払うのと同時に、それを行ったのと同じ結果だけ・・を実現する。

 それがイゼルダの『贈与物ギフト』――『前払いでOKアドバンス・ペイメント』だ。

 その際に割り出される手順は、状況によって異なる。例えば何かを両断するとして、そのときイゼルダが強力な剣を持っていればコストは安くなり、凡百の剣しか無いなら高くなる。

 そのときイゼルダが置かれている状況に、左右されるのだ。

 だから、俺がイゼルダの近くにいた方がコストが安くなるかもしれない。
 俺は、そう考えたのだった。

 そしてそんな考えに、も至ったかにように。
『壺』から、何本か。
 馬車へと、向かって来る触手があった。
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