幼女剣王KUSARI ~俺が幼女になっちゃった!転生ドルオタの異世界無双!俺、異世界でアイドルになります!

ZUZU

文字の大きさ
54 / 57

迫る『手』

しおりを挟む
『マタド=ナリ』について、俺はこう言った。
 感覚としては、秋葉原の電気街くらいの広さと密度だと。

 その広さがどれくらいかと言うと、南北は神田川から蔵前橋通りまで。東西は昭和通りから昌平橋通りまでの約500メートル四方だ。

 500メートル四方と聞いて『狭い』と感じたかもしれない。俺もヲタ仲間からこの話を聞いた時は、そう思った。しかし試しに地図で測ってみたところ、確かにその通りだった。そして比較として新宿歌舞伎町の面積を調べたところ、こちらも約500メートル四方となっていたのだった。

 何故いまこんな話をしているのか?

 理由は、イゼルダのいる宿の屋根と、俺たちの距離について説明するためだ。直線距離としては、200メートルもない。もちろん、馬車が街路を征く距離は、その何割か増しになるが、イゼルダやその周囲で働く人影を目視するには、十分な近さだ――少なくとも、転生して異世界の無敵殺伐幼女となった、現在の俺にとっては。

『壺』から、こちらに向かって伸ばされてくる『手』。

 自由に形を変えられるナタデココが商品化されたら、きっと、こんな感じになるだろう。夜空の深い群青に無色の輪郭線を残しながら、『手』は揺らめき近付いてくる。

 イゼルダの『前払いでOKアドバンス・ペイメント』程では無いが、俺にも、手順を見ることが出来る。剣術の鍛錬がもたらした、魔術などに頼らない、純粋な技術の習得によって得た能力だ。どうやれば相手を斬れるか手順が頭に浮かび、戦局の遷移や、勝てるかどうかも、相手と対峙した時点である程度予想出来る。

 いま俺に浮かんだ手順によれば、『手』を斬ることは十分可能だ。『容易に』と付け加えてもいい。間近に迫られても、そしていま直線距離にして100メートルを斬るところまで『手』は近付いているわけだが、この距離を挟んだままでも、俺にはそれを両断して退ける手順――すなわち、それを可能とする剣技があった。

 しかしだ。

 いま俺は、群舞の中にいる。
 俺と『手』の間には、共に踊るメンバー達がいた。

 イゼルダのように、結果だけ・・・・を取り出せるのならともかくとしてだ。

 離れたままの状態で斬れば、間にいるメンバーまで斬ってしまう恐れがあったし、かといって間近に迫ってくるまで待ってたら、その途中で『手』にメンバーが害されないとも限らない。

 例えば、メンバー達の背丈より高くジャンプして、離れた『手』に斬撃を飛ばす。それなら、メンバー達は無事なまま、『手』を排することが出来る。これなら、問題は無い。

 いや、それでも問題はあった。

 改めて言うが、いま俺は、群舞の中にある。みんなと一緒に踊っている。その中で、一人だけジャンプしてしまったら、踊りが台無しになってしまうではないか。

 ああ……いままた、俺は慚愧する。

 こんなことを考えるのは、欲をかいているからだ。1時間ちょっと前、他人シンダリの提案で結成したグループ。そのステージに、疵を付けたくない。そんな想いを、抱いてしまっているのだ。

 こんな即席のグループの即席のステージ。練習なんて30分しか行っていないというのに、なんたる図々しさ! 浅ましさ! 恥ずかしさ!

 しかしだ。

 赤面しながら、だが俺は、こうも考えていた。同じことを、他のメンバーにも言えるだろうかと。即席のグループであり、仮にこのステージが無惨な失敗に終わったとしても、それを惜しく思うほどの努力ものを費やしてないのは、彼女たちも同じだ。

 しかし、俺は言えるだろうか。

 そんなことを、俺は、彼女たちに言えるだろうか? いや。俺に、そんなことを言ってしまえる資格はあるのか? 

 彼女たちは、このステージのために、何も費やしていない。もしかしたら、そんな前提自体が、おかしいんじゃないか?

 そしてそれは、俺自身にも言える――

 そんなことを考えながら、歌い踊る。
 そんなことをしてたからだろうか。

 ほんの一瞬。

 身体中がふわふわして、俺は、まるで空に浮かんでるような気分になってた。馬車の上のステージ、そこで踊るメンバー達、そして俺。馬車を囲む観客。建物の窓からステージを見ている人たち。何もかもを、空から見下ろしてるような気分だ。

 そんな気分で、俺は見てた。
『手』が、弾け飛んだ。
 空を横切った雷球が、命中したのだ。

 イゼルダの、横からだった。
 ルゴシだった。

 宿の屋根にいるイゼルダの、その側に、ルゴシが立っていた。グイーグ国最強と謳われるA級冒険者にして金線級魔術師は、人差し指と中指を立てた手を前に突き出し、もう片方の手では、古い喩えになるが、iPodの丸い部分を操作するような手付きで、親指を忙しなく動かしている。

 そして飛ぶ――雷球が。

 消し飛ばされるたび、また新たに俺に向かって伸ばされてくる『手』を、そうやってルゴシが、また消し飛ばす。

 それが何度か繰り返される間に、2曲目が終わった。

 1曲めの『大きな愛でもてなして』。そして2曲めの『夢見る15歳』。雨降らす乙女達おれたちが人前で披露できるのは、この2曲だけだ。

 だから次は、また『大きな愛でもてなして』を歌うことになる。でもその前に、ちょっと間を空けた方がいいだろう。

 観客に向かって、メンバー全員で手を振る。馬車の上で、お互いに位置を入れ替えながら。

 そんな時だった。
 通信の魔道具が、声を伝えてきた。

『ダハハハハ。凄いね、君。歌、上手いじゃない』

 ルゴシからだった。

『イゼルダ様から、君に指示が出た。馬車が宿の前に着いたら、イゼルダ様の隣に来てくれってさ。『前払いでOKアドバンス・ペイメント』が、それを求めているらしい。君が隣にいないと、実行できない『手順』があるんだそうだ』

 こっちの都合は訊かず、言いたいことだけ言って通信は打ち切られた。こちらに伸びてくる『手』が倍増したことを見れば、理由は分かる。話しながらじゃ、流石のルゴシにも対応しきれないってことだ。

『手』が増えた理由は、俺がイゼルダに近付くと不味いと『壺』が認識したからだろう。

 もしかしたら『壺』が『手』を使って吸い上げる情報の中には、俺たちの会話や作戦も含まれているのかもしれないというか、その可能性は高いと言わざるを得なかった。

 とにかく、馬車が宿の前に着いたら、俺はイゼルダのところに行く。
 つまり、ステージを離れざるを得ない。

 『大きな愛でもてなして』も『夢見る15歳』も、俺抜きではパフォーマンスが成り立たない。

 つまり、俺がイゼルダのところへ向かった時点で、ステージが終了するということだ。

 それをメンバーに伝えるのは、気が重かった。

 しかし――

「大丈夫です!」
「ステージは続けられます!」
「私達にはアレがあります!」
「アレが!」

――そう言って、彼女たちは不敵に笑ってみせたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...