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しおりを挟む「ッキャア!」
「――――ぅおっ、……ラキ!おまっ!」
ぶつかったのは見慣れない鍛えられた体に自警団の制服を纏っている男性。
身長差があるからか、まず目に飛び込んできたのはその人の胸の部分だった。
見慣れない体
見慣れない制服
なのに慣れ親しんだこの匂い
聞き慣れたこの声
――――……この人は…
「ヤマ、ト……ヤマトッ!たすけっ…」
「わぁってる!!このバカ!駄犬娘がっ!!!」
「なっ……」
なんでこんな状況で久々に会った人に“駄犬”などと呼ばれなければならないんだ。と憤慨しかけたが、後ろから迫る足音にビクッと肩が震えた。
「っひ!……ぁ……ど、しよ」
「話は聞いてる。俺の仲間も近くにいるから安心しろ。とりあえず口閉じてろ。舌噛むぞ」
「――――え?…ひ、ぎゃあああっっ!!!」
腰から下が急にふわりと浮いたような錯覚を覚え、気づくと横抱きにされ夜街を天高く跳んでいた。急な浮遊感に先程とは違う恐怖感を覚え、力強く抱いてくれているヤマトにこれでもかとしがみついた。
――だがタタンッ、と軽やかな足音とともに変な浮遊感がすぐに止んだ。
「ラキ、……ラキ?もう鼠は撒いたぞ?」
未だにしがみつく私に対して、僅かに甘みを含んだ声でヤマトが言った。
その声に顔を上げると、すぐ近くにあるヤマトの顔にドキッとしてでもなんだか安心した。
久々に見るヤマトは最後に見た時よりも精悍な顔つきとなっていた。職務中だからか明るい茶髪を後ろになで上げて固めていて、それが彼の整った相貌を如実に現していた。
少し周りを見ると、先程の場所からはそんなに離れていないどこかの家の屋根の上だった。
「ヤマト……なんで……どうして、あそこに……」
「お前の友達だっつー羊の姉ちゃんが少し前に自警団まで来て俺を呼び出したんだよ。ラキが鼠に追い掛け回されてるからなんとかしてくれってな。そんで俺がお前のこと送ろうと思って来たわけ。だけどお前がさっさと帰っちまってて探してたんだ。遅れて悪かった。怖かったろ?」
「メリーが……っ………ぅ、怖かっ……うぅ、っ」
「あぁ、クソッ。だから酒場の仕事には反対だったんだ…」
最後の一言は聞こえはしたのだが、こみ上げる恐怖と安堵の入り混じった涙のせいでしゃくりあげることを止められず、私は反応できなかった。
「歩けるか?家まで送ってやるから」
「ッ!!い、家はっ…さっきの、鼠さん……知ってるって言ってて………家に、入ったこともあるようなこと言ってて……か、帰るの、恐い……」
「まじかよ……。だけど鼠野郎はすぐ捕まえっからあいつがラキん家行くことはねぇぞ?」
「でもっ……」
家を知られたことの恐怖でどうしても帰りたくない。
今、1人になってあの家で眠れる気がしない。
私のその言葉にヤマトは――チッと苛立ちながら舌打ちして、先程の場所を見ながら「鼠野郎ぶっ殺す……」と重く低くボソッと呟いた。
「今日はど、どこかの宿に泊まる…」
「いや、俺ん家来い」
「―――え?」
「家に帰るの嫌なんだろ?あぁ、心配すんな。お前を家に置いたらどのみち職場に戻らねぇといけねえからお前を襲うようなことしねぇよ。それとも期待したか?」
「なっ!バカ!するわけないでしょ!」
「ハハッ!そりゃ残念だ」
今のは怯える私に敢えて冗談めいたことを言って気を紛らわせようとしてくれてのだろう。
そう思ったら封じかけていたヤマトへの想いが少しずつ開いてしまったことを私はきちんと自覚していた。
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