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「リュカ、お待たせ!」

 仕事を終え、食堂の片隅で本を読んでいるリュカに声をかけると、優しい笑みを返しながら本を閉じた。

「無理に走らなくていいよ」
「これくらい平気よ。ちょっと長引いちゃったからリュカが待ってると思って。ごめんね、待たせて」
「気にしなくていいよ。仕事お疲れ様」
「~~~~っ! リュカ、大好き!」
「なに? 急に。……まぁ、俺もラーラのこと、好きだよ」

 人がいる前では照れてしまうリュカは、2人きりのときはこうして言葉を伝えてくれる。照れてはいるけれど。
 そんな姿を見て、飽きることなく胸がときめいてしまう。

「疲れてない? 家までは歩けそう?」
「まだ平気よ。仕事中も座らせてもらっているしね」
「そう。でも無理はしないでね。じゃあ帰ろっか」

 いつも当たり前のように差し出された手を見て、私はいつも心が温かくなる。
 その手に自分を重ねると、かわいらしい見た目にそぐわない剣だこがざらりと私の手の平を撫でてくる。リュカはそれを申し訳ないと思っているらしいのだが、私はこの感触が大好きだ。


 リュカに助けてもらった時、道に迷いながら足に怪我を負った私は、それ以来長時間立っていたり歩くことができなくなってしまった。
 足を引きずったりはしないのだが、足の疲れが早く訪れてしまったり、時折痛みで歩けなくなってしまうため、こまめに休憩を取らなければならない。職場である警備隊食堂では、そこを考慮しながらお仕事をさせてもらっている。

 もちろんリュカもそれを知っていて、仕事中は誰よりも俊敏に動いているというのに、私と一緒に歩く時はとてもゆっくり歩いてくれる。

 お付き合いを始めてすぐの頃、それを申し訳なく思っていると素直に伝えた時に「ラーラと歩いていると、時間がゆっくり動いているように感じられてすごく落ち着けるんだ。だからそんなふうに思わないでよ」と言われ、私は一生この人が好きだと確信した。



 隣を歩くリュカを見て、心の中で「大好き」と思っていると、ズキッとした痛みを右足に感じ、思わず歩みを止めた。
 手を繋いでいたために私につられてリュカも足を止め、心配そうに顔を覗き込んできた。

「ごめん、歩くの速かった?」
「あ、違うの。今日は少し冷えるからちょっと痛みがでちゃったみたい。さっきは平気だったのにごめん。すぐに収まると思うから少しだけ待ってくれる?」
「家までまだ少しあるからおぶるよ。ほら、背中に乗って」
「でも、最近お菓子ばっか食べちゃってたから太ったかも……」
「幽霊じゃないんだから重くて当然だよ」
「ひどい! そこは重くない、むしろ軽いよ。って言うところよ!」
「ハハッ、ほら、乗って?」

 私の前に来てしゃがんだリュカが優しい声で急かした。
 一緒に歩いているとき、私が足を痛めるとリュカはいつもこうして私をおぶってくれる。いつもは恥ずかしがり屋なのに街中であろうとこうして抱えてくれることが、私にとってどんなに嬉しいことかわかっているのだろうか。そして幾度となくリュカを好きになっていることに気付いているのだろうか。

  背中から感じる温もりが心地よくて、首に回している腕に力を込め意図せず胸を押し付けると、急にリュカの体が強張ったように感じた。

「リュカ? どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない……」
「もしかして、やっぱり重い……?」
「いや! 重くない! ……けど、まぁ確かに大きいよね、ラーラって」
「や、やっぱり下りる!」
「いや、違う! ごめん! そうじゃなくて、むしろ良いというか……とにかくこのままでいて!」

 少し焦ったような口ぶりでリュカは足を速めた。
 心なしか首元が赤いように見える。

「ほんとに平気……?」
「平気だよ。むしろラーラは心配になるほど軽いよ」
「むぅ……その台詞さっき言ってほしかった。でもありがと」

 遠慮なく体を預けるが、リュカはまったく体がぶれることない。こうしておぶってくれるときに香る、草木のような爽やかな香りを嗅ぐのが私は密かに好きだ。そしてリュカの長い耳が歩くたびに僅かにピョンピョン跳ねるのを見るのもたまらなく大好きだ。


 国境警備隊を勤める獣人たちは皆体が大きい人達ばかりで、うさぎ獣人のリュカは一際小さい。だけど私からすれば見上げるほど背が高いし、こうして軽々と私をおぶってくれるほど体を鍛えているのが背中越しでもわかる。
 他の警備隊の人達だってかっこいいと思っているけれど、やっぱりリュカは特別だ。私にとってリュカだけが光って見える。

「リュカ、大好き」
「俺も大好きだよ。……でもあんまり他の人の前でそれ言わないでね」
「どうして? みんな私がリュカのこと大好きなことを知っているのだからいいじゃない。恥ずかしいの? かわいい!」
「かっ、かわいいとか言うなよ。恥ずかしいのもあるけど……ラーラが俺のこと好きって言う顔を、あんまり見られたくないんだよ」
「え、もしかして私、変な顔してた?」
「そうじゃなくて」

 気付けば家の前。
 リュカはゆっくりと私を下してくれ、向かい合って立ってみると私の視線から逃げるように顔を赤らめながら横を向くリュカに胸がキュンとしてしまう。

「ラーラが俺のこと好きっていうとき、ほんと、可愛いから……あんま人に見せないでほしい……」
「~~~~っ!」

 たまらなくなってリュカに抱きついた。
 どうして私の大好きな人は、こんなにも可愛くて、すでに天元突破している私の「好き」をさらに増大させてくるのだ。

「リュカのばかぁ! 大好きぃ! このイケメンうさぎさんめ!」
「ハハッ、なにそれ。ったく、ラーラは。ほら、寒くなってきたからもう中に入りな?」

 目を細めて笑いながら私を優し気に見下ろす目は、リュカの背後にある満月と同じ色をしていてたまらなく綺麗だ。


「おやすみなさい、リュカ。明日もあなたが大好きよ」
「おやすみ、ラーラ。今夜も君を想って眠りにつくよ」



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