【R18】騎士も泣かずば撃たれまい

冬見 六花

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とにかくこのまま私がずっと黙ったままだとこの重苦しい空気が続くのは目に見えているため何とか打破すべく口を開いた。

「えっと……ご、ご趣味は……?」

ありきたりすぎて泣きたくなるが見合いといったらこの言葉しか思いつかず様子を窺いながら聞いてみると、意外にもヴァートレット卿は私の事をまっすぐに見つめていた。

「鍛錬だ」
「う、うわぁ…ご趣味まで鍛錬とは…仕事熱心な真面目な御方なのですね」

苦しすぎる賛辞を述べるしかできない。どうしよ。会話が終わってしまったよ…。

「フェリシア君、フェリシア君」
「殿下ぁ…」
「ちょっとさ、僕の趣味も聞いてみてよ」
「はい?…………殿下のご趣味は何でしょう…?」

助け船でも出してくれると思いきや殿下は楽しそうに揶揄ってきた。
もうここは何も言わず従おうと思い、言われるままに問いかけた。

「僕はロマンス小説を読むのが趣味なんだ!」
「へ?」
「ほら、僕とマリアンヌって幼い頃に一目惚れし合ってそのまま何の障害もなく結婚したじゃない?僕はマリアンヌを愛しているしとても幸せなわけだけど、だからなのか障害のある恋物語というものに興味を持ってね!そうしてロマンス小説を読み始めたらもうドップリハマってしまったのさ!」

マリアンヌとは皇太子妃様だ。
仲睦まじいお2人の間には既に皇子と皇女がお生まれだ。

「特に!!初恋同士のむずむずじれじれ長年の両片思いの話が好きなのだよ」
「は、はぁ…」
「もう一度言おう!初恋同士のむずむずじれじれ長年の両片思いが僕は大好きなのだよ!ハッハッハッハッハ!」
「はぁ…」


結局、お見合い練習初日は私が質問をしてそれにヴァートレット卿が一言で答え、たまに殿下がおちょくってくるというもので幕を終えた。










次の日。

今日から2人だけのお茶会だ。気まずい。気まずすぎる。
職務中に行うため練習時間は1時間と決められている。つまりこれからあの重苦しい空気を味わう地獄のような1時間が始まるのだ。

自分でも不思議なのだが初恋相手に再会したという感動がこれっぽっちもない。
相手は自分の人生をある意味狂わせた人で、それを抜きにしても目の保養どころか目の栄養過多どころの美丈夫。自分を虜にしたあの群青もご健在。―――――それなのに、どうにもあの時に感じた衝撃も感動もない。


まあそんな私の不思議なまでの無感動など、高貴な御方々には関係のない話。
私はただ、きたる本物のお見合いパーティーまでヴァートレット卿のお相手をするだけ。

それだけだ。









殿下の好意でカラフルな菓子がテーブルに並べられていて目に楽しいが空気は変わらず重々しい。

「えっと、ヴァートレット卿。お菓子、どちらを召し上がりますか?お取りします」
「……」

これはお菓子はいらないという意思表示だろうか。
まあいいや。食べないなら私が存分に食べよう。こんな高級そうなお菓子は滅多に食べられないしな。

そう思って皿に菓子を取ろうとしたとき。

「アルガルドだ」

「はい?」
「アルガルドと呼んでくれ」
「え」
「これは見合いなのだろう。名で呼ぶのが道理だ」

道理ってなんだろう。などと思いながらもここは従うしかない。

「ア、アルガルド様……」

そう呼ぶと自分から呼べと言ったのに眉間に皺を深く刻んで睨まれた。何故だ。が、名を呼ぶことを許されたというのは多少なりとも心を許されたんじゃないだろうか。いや、もうそう思うことにしよう!もう開き直ろう!!

「アルガルド様は甘い物はお好きですか?」
「嫌いではない」
「よかった。じゃあ一緒に食べましょう!何がいいですか?なんでもいいなら適当に選びますけど」
「……」

アルガルド様の顔を見つめるがバチッと目が合ったが逸らされてしまった。
じゃあもう適当に選んであげようっと。



「………胡桃クルミ………」



「え?」

ボソッとアルガルド様が呟いた言葉を私の耳はしっかりと拾っていた。

「胡桃がお好きなのですか?」
「あ、いや…」
「でもこの中に胡桃を使ったお菓子はなさそうですね…」
「今のは忘れてくれ。………じゃあ、マカロンを1つ、もらえるか」
「 マカロン 」

思わず復唱してしまったのは致し方あるまい。
だってこんな屈強な男がマカロンを所望しているのだ。復唱せずにはいられない。
だがそれが少し癪に障ったのか片方の眉を上げて群青が私をジトリと見た。

「何だ」
「いえ!なんでも!マカロンは色々種類がありますけど何色のものがいいですか?」
「…では、その茶色いものを」
「わかりました」

アルガルド様が選んだ明るい茶色のマカロンの他に小さなフルーツタルトも皿に乗せてから渡すと大きく長い指がマカロンを摘まみ、そのまま口へと運んだ。

うおぉ、可愛いな………。

そう思ったとき、12歳の頃に感じた衝撃には遠く及ばないが少し似た感覚を感じた。


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