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アルガルド様がマカロンを飲み込むまで見惚れていると、少しムッとした顔が返ってきた。


「俺のような男がマカロンを食べる姿がおかしいか?」
「い、いいえ?ただマカロンがお好きなんだなって」
「……別に特段好きではない」

憮然とお茶を飲んでいる姿は昨日と変わらないはずなのに、なんだかそれが照れ隠しのように思えて少し可笑しくて、やっぱり可愛いと思った。
それにこの人、寡黙ではあるが無口というわけではないらしい。言うほど無愛想というわけでもないと思うが、過去のお見合いが失敗したのは単にこのお堅い口調が高貴な令嬢方には合わなかっただけなのだろう。
この感じなら1ヶ月間楽しめそうだ。そう思うと心か軽くなって私もプチシュークリームを頬張ると、予想以上に美味しくて思わず顔が綻んだ。

「フッ…」

息を漏らすような声。
誰の声かなど探すまでもなくアルガルド様を見ると、ポトリと落とすような笑みを私に向けていた。

「私がシュークリームを食べる姿がおかしいですか?」
「いや?ただシュークリームが好きなのだなと思ったんだ」
「プッ……アッハハハ!」

アルガルド様の先の言葉を真似ると私の言葉を真似た言葉が揶揄うような口調で返ってきて、思わず声を上げて笑ってしまった。
お淑やかとは言えない私の笑い方を諫めるどころか、アルガルド様の口角も僅かに上がっている。それがなんだか嬉しい。


「フェリシア」


「っ!」
「と、呼んでも?」
「あ、はっ、はい。もちろんです」

急に名を呼ばれて思わず鼓動が強く跳ねた。
だってこの御方、声がとてつもなく艶やかなのだ。屈強な体に似合う低音に婀娜めくものを感じさせる。
そんな声で名を呼ばれたら腰にクるものがあるのは致し方あるまい……。




そうして始まった私たちの秘密の逢瀬は、単純に楽しかった。

アルガルド様は言葉数こそ少ないがまっすぐに私を見て話を聞いてくれる真摯さがある。私の山も落ちもない話でも退屈そうにせず、むしろ楽しそうに聞いてくれるのは素直に嬉しかった。
殿下からのお菓子は毎日用意され、アルガルド様はいつも茶色いマカロンを1番初めに食べる。その後は特に決まっていないが2つ3つはお菓子を食べることから甘い物は「嫌いではない」どころかむしろ好きなのだろう。そういうところが可愛いなと思った。

たまにソワソワした様子の殿下が様子を見に来ては打ち解けた私達を見てうんうんと頷いた後、私たちに「がんばれよ」と声を掛けてはすぐに出て行った。

一緒に過ごす時間が増えるほどに居心地が良くなって、最早無言の時間が気まずいなんて思わなくなっていた。





アルガルド様と過ごす時間はひどく心地いいけれど、私は不思議なほどに彼を独り占めしたいとか、恋仲になりたいなどという気持ちがこれっぽっちも湧かなかった。

この1ヶ月間という期間、私の人生を変えてくれた初恋の人と過ごしたという宝物のような時間を大切に大切に心に仕舞って私はこれからも1人で生きていこう。


改めて、そう思っていた。



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