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しおりを挟む「明日ですね。お見合いパーティー」
「……あぁ」
最後のお見合い練習の日。
私はパーティーの担当ではないため準備には一切関わっていないが、城内は明日のお見合いパーティーの準備でバタバタとしている。
周囲の人々のその忙しなさが明日のお見合いパーティーをより実感させていた。
今日は少しだけ空気が重い。
だけど私は敢えて気付いていない振りをしてお菓子を食べていた。
アルガルド様は今日も今日とて茶色いマカロンを食べてから違う菓子を食べている。
この姿を見るのも今日で最後かと思うと寂しいがそれでもこの人を欲しいと思わない。自分の手からすり抜けていく、という表現も烏滸がましい。彼が私の手中におさまっていたなんて思ったこともない。
「あ~あ、こんな美味しいお菓子を食べるのも今日で最後だと思うと残念です」
重い空気を払拭すべく明るい声を出したが、アルガルド様から返事がなく私の声は虚しく消えた。
「明日のこと、緊張しているんですか?」
「っ、いや…」
「大丈夫ですよ。別に明日必ず婚約者を見つけないといけないってわけではないのでしょう?きっと近いうちに、アルガルド様にとって良い人が現れますよ」
「フェリシア……その、俺は………っ」
アルガルド様は何かを言いたそうにしたが、結局は言葉を飲み込んだ。
このお見合い練習中にもこのような姿は何度も見かけた。
「あっ、お菓子。他に何か食べたいものあります?今日最後だしいっぱい食べましょうよ」
「あ、あぁ……そうだな」
「マカロンもう1ついかがです?いっつも茶色いのばっかりだし。というよりそれ何味なんですか?」
「よくわからん」
「よくわからないのにずっと食べてたんですか!?アハハハッ!」
こうした私の軽口もアルガルド様は許してくれている。というより一度も怒られたことはなかった。
「フェリシア…」
「ん?」
「その、………俺といて、楽しかったか?」
「はい!とっても楽しかったです!これならお見合いもバッチリだと思いますよ」
「……そう、か…」
「アルガルド様のような御方に協力できただなんて、私の一生の誉れです」
私の心からの言葉を心からの笑顔で言った。
だけど、アルガルド様はいつものようなポトリと落とすような笑顔ではなく、苦虫をかみ潰したような初めて見る表情で私の言葉を受け止めた。
最後のお茶会を終え、部屋を出る際―――――
「1ヶ月間、ありがとうございました。アルガルド様が心から愛せる女性と出会えるよう影ながら願っています」
「フェリシア、俺はっ………っ、…俺も、君といて楽しかった……」
「本当ですか!?そう言ってもらえて嬉しいです!私も、本当にすごく楽しかったです!」
「―――……っ」
そう言うと、アルガルド様はまた苦々し気に顔を歪ませている。
もうわかる。
これは怒っているんじゃない。彼も少なからず寂しいと思ってくれていて最後に私に何か言いたいのだろうがうまく言葉にできないのだろう。口下手で可愛い御人だ。
そう思うと少し達成感のようなものを感じた。
彼に、「自分」という人間を少しは残せたんじゃないかと、そう思うと仄暗いような嬉しさを覚えた。
「さようなら。ヴァートレット卿」
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