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泣いてる…。
厳格で屈強で男らしい誰よりも強いアルガルド様が、号泣している。
しゃくりあげ、広い肩を揺らし、私の両肩を掴むから涙を拭いもせずに、ポロポロとというよりもダーーーッと涙を投げ落とすように泣いている。
それを見て、――――ドクン――――と、体が熱くなるのを感じた。
「俺はっ、君といたい…っ、……君とずっと、一緒にいたい……お願いだ、フェリシア。……そんな、思い出の中の、君を幸せにしようとしない男なんか忘れてくれ………俺を、君の傍に置いてくれっ、頼む……」
「………っ」
「俺は君のことが、……フェリシアが好きなんだっ……」
濡れている。
群青が濡れている。
溢れすぎやしないかというほど濡れに濡れている。
12歳のとき、春の暖かな日差しの中で見た群青が今、青黒い夜闇の下で濡れている。
涙は頬を伝い顎に着き、玉の雫となって次々と落ちていく。
ボタボタ……ボタボタと……
その瞬間、
胸を打たれた。
否、撃たれた。
同じだ。
あの時に感じた落雷のような衝撃と同じだ。
私を捕らえて離さなかったあの頃と同じだ。
溢れすぎやしないかと思うその涙に濡れる群青の瞳が、いや、群青の瞳を滲ませる多すぎな涙が。
いや、もっとだ。
あの頃よりももっと強い。
もっと強く、重い衝撃となって私を焦がす。
―――――……欲しい。
この群青が、この涙が、……この男が、堪らなく欲しい。
この人と誰かの幸せを願っていた数分前に戻れない。
私が、
私がこの人の隣にいたい。
この人の涙を、泣き顔を、私だけが見たい、私だけが知っていたい。
そう思ってしまった。
もう、
戻れない………―――――
「すっ、……すまない、こんな、情けない姿っ……でも、俺は……」
「好き」
「………え」
「好きです。私、あなたが好きです。あなたの隣にいたいです。お見合いなんて行かないでください」
「…フェリシア、本当に……?」
「誰のものにもならないで?私だけのアルガルド様でいて?誰にも、……誰の前でも泣かないで?アルガルド様が泣くのは私の前だけにして?」
「いや、君の前でも泣きたくないのだが………でも、自分で言っておいてアレだが……いいのか?その忘れられない男が……」
「だってその人はアルガルド様ですもん」
「!!?」
涙を出しすぎて目尻が少し赤くなってしまっているアルガルド様が瞠目した。
そのおかげで大好きな群青がよく見えた。
「デビュタントの日、少年騎士だったあなたに会って私は一生あなたを心に置いて生きていくと決めたんです。今の今まで気持ちは変わりませんでした…。―――でも、そのあなたが泣きながら私を求めてくれるだなんて、こんな幸せは世界中探したってありません」
「お、俺が……君の……?」
アルガルド様は驚きすぎてしまったのか溢れかえっていた涙がピタリと止まっている。
―――――……あぁ、もっと泣き顔が見たかったのに。
「もう、アルガルド様は覚えておられないですよね。私がデビュタントの日に……」
「覚えているっ!!君と初めて出会った日のことを忘れるはずがない!俺はあの日からずっと君のことを想っていたんだっ!」
今度は私が瞠目する番だった。
まさか覚えているだけでなく、あの日に私に心をくれていたとは。
そしてその気持ちをずっと持ってくれていたとは…。
「本当にあの日から俺を…?あの日のことは俺にとって大切な思い出でもあるが恥ずかしい過去でもある。君にあんな情けない姿……あぁ、それは今もなんだが……」
「情けなくなんかありません。私はあの日、アルガルド様を好きになってしまったんです。撃ち抜かれてしまったんです。何を話したかはもう忘れちゃったけど、でも、一生あなたを好きでい続けたいから結婚も恋愛もせずに生きていこうと12歳の子供が決意して今の今まで思っていた程に強く、あなたを好きになったんです」
「フェリシア……」
ずっと私の肩を掴んでいた手が宝物に触れるようにゆっくりと私の髪を、頬を撫でた。
少しくすぐったい。―――そう思うのは体か、心か。
自分の手をその手に添えて、厚く大きな手のひらに頬をすり寄せた。
するとアルガルド様がいつものポトリと落とすような、でもとびきり甘い笑みを向けて私の頬を親指でスルリと撫でた。
「あの日、君は俺に泣いてもいいと、言ってくれたんだ」
群青にまた、水量が増える。
庭園のライトを白く反射させて、キラキラと照り輝いている。
厳格で屈強で男らしい誰よりも強いアルガルド様が、号泣している。
しゃくりあげ、広い肩を揺らし、私の両肩を掴むから涙を拭いもせずに、ポロポロとというよりもダーーーッと涙を投げ落とすように泣いている。
それを見て、――――ドクン――――と、体が熱くなるのを感じた。
「俺はっ、君といたい…っ、……君とずっと、一緒にいたい……お願いだ、フェリシア。……そんな、思い出の中の、君を幸せにしようとしない男なんか忘れてくれ………俺を、君の傍に置いてくれっ、頼む……」
「………っ」
「俺は君のことが、……フェリシアが好きなんだっ……」
濡れている。
群青が濡れている。
溢れすぎやしないかというほど濡れに濡れている。
12歳のとき、春の暖かな日差しの中で見た群青が今、青黒い夜闇の下で濡れている。
涙は頬を伝い顎に着き、玉の雫となって次々と落ちていく。
ボタボタ……ボタボタと……
その瞬間、
胸を打たれた。
否、撃たれた。
同じだ。
あの時に感じた落雷のような衝撃と同じだ。
私を捕らえて離さなかったあの頃と同じだ。
溢れすぎやしないかと思うその涙に濡れる群青の瞳が、いや、群青の瞳を滲ませる多すぎな涙が。
いや、もっとだ。
あの頃よりももっと強い。
もっと強く、重い衝撃となって私を焦がす。
―――――……欲しい。
この群青が、この涙が、……この男が、堪らなく欲しい。
この人と誰かの幸せを願っていた数分前に戻れない。
私が、
私がこの人の隣にいたい。
この人の涙を、泣き顔を、私だけが見たい、私だけが知っていたい。
そう思ってしまった。
もう、
戻れない………―――――
「すっ、……すまない、こんな、情けない姿っ……でも、俺は……」
「好き」
「………え」
「好きです。私、あなたが好きです。あなたの隣にいたいです。お見合いなんて行かないでください」
「…フェリシア、本当に……?」
「誰のものにもならないで?私だけのアルガルド様でいて?誰にも、……誰の前でも泣かないで?アルガルド様が泣くのは私の前だけにして?」
「いや、君の前でも泣きたくないのだが………でも、自分で言っておいてアレだが……いいのか?その忘れられない男が……」
「だってその人はアルガルド様ですもん」
「!!?」
涙を出しすぎて目尻が少し赤くなってしまっているアルガルド様が瞠目した。
そのおかげで大好きな群青がよく見えた。
「デビュタントの日、少年騎士だったあなたに会って私は一生あなたを心に置いて生きていくと決めたんです。今の今まで気持ちは変わりませんでした…。―――でも、そのあなたが泣きながら私を求めてくれるだなんて、こんな幸せは世界中探したってありません」
「お、俺が……君の……?」
アルガルド様は驚きすぎてしまったのか溢れかえっていた涙がピタリと止まっている。
―――――……あぁ、もっと泣き顔が見たかったのに。
「もう、アルガルド様は覚えておられないですよね。私がデビュタントの日に……」
「覚えているっ!!君と初めて出会った日のことを忘れるはずがない!俺はあの日からずっと君のことを想っていたんだっ!」
今度は私が瞠目する番だった。
まさか覚えているだけでなく、あの日に私に心をくれていたとは。
そしてその気持ちをずっと持ってくれていたとは…。
「本当にあの日から俺を…?あの日のことは俺にとって大切な思い出でもあるが恥ずかしい過去でもある。君にあんな情けない姿……あぁ、それは今もなんだが……」
「情けなくなんかありません。私はあの日、アルガルド様を好きになってしまったんです。撃ち抜かれてしまったんです。何を話したかはもう忘れちゃったけど、でも、一生あなたを好きでい続けたいから結婚も恋愛もせずに生きていこうと12歳の子供が決意して今の今まで思っていた程に強く、あなたを好きになったんです」
「フェリシア……」
ずっと私の肩を掴んでいた手が宝物に触れるようにゆっくりと私の髪を、頬を撫でた。
少しくすぐったい。―――そう思うのは体か、心か。
自分の手をその手に添えて、厚く大きな手のひらに頬をすり寄せた。
するとアルガルド様がいつものポトリと落とすような、でもとびきり甘い笑みを向けて私の頬を親指でスルリと撫でた。
「あの日、君は俺に泣いてもいいと、言ってくれたんだ」
群青にまた、水量が増える。
庭園のライトを白く反射させて、キラキラと照り輝いている。
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