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4 傍にいられるだけで幸せ
しおりを挟むようやく今日の顔合わせの疲れも取れてきたとき、ふと前々から少し気になっていることを思い出した。
「ねえ、ヴォルフって騎士なのよね?」
「はい。僭越ながらそのように名乗らせていただいております」
「でも騎士なのにいつも長剣を持っていないよね」
城にいる騎士達はいつも腰に長剣を携えているにも関わらず、ヴォルフはナイフのような短剣しか持っていないことに、前々から何故だろうと思っていた。だが質問する機会を逃したり、忘れてしまっていたりと聞かずじまいでいた。
今ようやく思い出して聞いてみたのだが、ヴォルフの顔は何故か悔しそうに歪んでいき、私の横に来たかと思うと、崩れ落ちるように膝を折り床に額がくっつくほどに頭を垂れた。
「えっ! 急になんなの!?」
「申し訳ございません!」
「なにが!?」
ヴォルフは基本的には無表情で何を考えているのかわからないほど寡黙だが、時折こんな感じで様子がおかしくなってしまう。
そしてそれは主に、いや必ず、私が原因でのことだ。
「俺は姫様の騎士だというのに、恥ずかしながら剣を持つことを禁じられているのです。この短剣も念の為に持っているだけでほぼ使っておりません……!」
「禁じられてる?」
「はい……。それに俺自身、剣は好きではなく……。それなのに己を騎士などと宣ってしまい、申し訳ございません!」
「謝らなくていいから、顔をあげなさい」
「姫様……!」
未だ床に座り込みながら頭だけを上げたヴォルフは、まるで私に後光が射しているかのようなまなざしで見つめてくる。
そんなヴォルフのことが大きな黒い犬のように見え、思わず手を伸ばしてまた頭を撫でた。すると明らかに嬉しそうに相貌を崩し、無いはずの尻尾がブンブンと振っている錯覚が見える。
普段ヴォルフのことを「人形のように表情を動かさない」と言う者達に、今の光景を見せてあげたいほど別人だ。
「知らなかったとはいえあなたのプライドに触るようなことをして悪かったわね」
「姫様が謝る必要などございません。すべては俺が不甲斐ないせいです。そもそも俺に自尊心など微塵もございません。尊ぶものは己ではなく姫様のみです」
「自分をもっと大切になさい」
いつまでも床に座らせているわけにもいかず、立つように命じるとすぐさま立ち上がった。
「剣を持つことを禁じられているっていうのは、ガーロンド卿から?」
「おっしゃる通りです」
ガーロンド卿はヴォルフの師であり、王室騎士団の名誉騎士団長だ。既に隠居されるような年齢だが、その頑健さと快活な性格から、いまだに騎士団の教育係として檄を飛ばしている。
私からすると昔から可愛がってくれている親戚のおじいちゃんという感じの人だ。
ヴォルフは割と傲慢な人間で、自分が認めた人以外の命令は聞かない。
彼が認めている人間はもちろん私と、あとは女王陛下と王配殿下、そしてガーロンド卿だ。
それはガーロンド卿がヴォルフに武術だけでなく、人の温かさを優しく教えてくれたからなのだろう。
だが師であるガーロンド卿が剣を禁じるというのが、どうにも引っ掛かる。
もしかしてヴォルフは、周囲に被害が及ぼすほど壊滅的に剣が不得手なのだろうか。いや、そんなはずはない。王族の専属護衛に上り詰めるのは、純然たる実力がなければならない。
それなのに武器が短剣だけ、しかもそれはほぼ使っていないというのはどういうことだろう。
もしやヴォルフは、革手袋は嵌めているが素手一本で戦うタイプなのだろうか。
普通ならば「いや、ありえない」と一蹴する考えだが、ヴォルフの恵まれた体格を考えると、あながち間違いでもないようにも思えてくる。
「それに俺が剣を持つと、姫様が不快に思われます」
一人悶々と考えている私の様子を窺うように、ヴォルフが弱々しい口調で言った。
「いや、そんなことはないけれど」
騎士として剣を持つことは至極当たり前のことだし、第一ヴォルフ以外の騎士は帯剣して城の中を歩いている。そしてそれを私はなんら不快になど思っていない。
だからヴォルフが長剣を持ったところで不快に思うはずがない。
だが師であるガーロンド卿から言われ、本人も持ちたくなさそうで、私も剣を絶対持てと思っているわけではないから無理強いなどしない。
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