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12 王子様はいらない
しおりを挟むドミニク様は些か派手すぎる装いで私を待っていて、これまた行き過ぎなほどのもてなしで私を歓迎した。
そのどれもこれもご丁寧に青を基調としたものばかりで、この部屋に入った瞬間気温が下がったと錯覚するほど寒々しい。
部屋の中は様々な香水が入り混じったような匂いもしていて、少々頭が痛くなってくる。
私の虚無的な顔など見えておらず、むしろドミニク様は私が真っ赤なドレスを身に纏っていることが気に食わないらしい。
部屋に入った瞬間に完璧な笑みを浮かべたままだがほんの一瞬間ができ、それ以降もドレスを目にしては僅かに眉が寄っていた。
たかがドレスの色如きで、と内心毒吐きながらテーブルを共にする。
「殿下もつれない方でいらっしゃる。毎日でもお会いしたいというのに、滅多においでくださらないまま月渡り前日を迎えるとは」
「申し訳ないわね。少々立て込んでいたものだから」
本当はちょこちょこ後宮を訪れ、テオドア様や他の婿候補とはそれなりに交流していたなんてことは、もちろん言わないほうがいいだろう。
「そのようにお忙しくされてはお体に障りましょう。御身は唯一にして最大のお仕事である青き血を持つ子を産む御方なのですから」
相変わらずな思考を、まるで私に言い聞かせているように思えた。
彼にとって私はまるで言うことを聞かない子供という立ち位置なのかもしれない。尊き青き血を持ち、私の相手は自分と信じて疑わないのに、大して相手にされていないのだから苛立ちもあるだろう。そうは言っても彼の考えを理解してあげることはできないが。
「あなたの考えを曲げるつもりはないけれど、一応私の意見を言わせてちょうだい」
「えぇ。もちろん」
「あなたが王族を敬っているのはわかるけれど、私は自分に流れる血に従って生きているのではなくて、私が生きるために私の血が流れているの。あなたとは尊ぶものが違うわ」
「……殿下は子を産みたくないと仰せですか?」
何故そうなる。
誰の子も産みたくないと駄々をこねればそれが通るような立場ではないし、子を産みたくないなど思っていない。私は私なりに納得してこの逆ハーレム計画を従っている。
言語が同じはずなのに言葉が通じない相手が一番厄介である。
「私には私の信念があると言っているの。王族の血を繋げるという目的は同じだけど、あなたとは理念が違うのよ」
語気が強まってしまったことを悔いた。
言い訳するならば、先程のヴォルフとのやり取りで気持ちがささくれ立っていたのだ。だがそんなこと、本当にただの言い訳にしかならない。
為政者たるもの、怒りや苛立ちこそ他人に見せてはならないのだから。
「殿下のお考え、大変よくわかりました」
ドミニク様の慇懃な答えに、背筋に寒気を覚えた。
これ以上は耐え切れず、早々に退出することにして立ち上がった。短い滞在時間だというのにドミニク様は私の姿を目で追いながらも、引き止める様子はない。
「殿下、明日の月渡り、楽しみにお待ち申し上げております」
彼の部屋を出た頃に、獣の巣穴から出てきたような安堵がドッと押し寄せた。
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