逆ハーレムを作ったけど、護衛騎士が婿候補をことごとく蹴散らしていく件【R18】

冬見 六花

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  かわいそうなままでいて

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 以前読み聞かせてくれた絵本にナディアは興味を失くしたようで、その絵本はずっと俺の部屋にあった。
 ナディアが来ない日は時間が経つのがとても遅い。だから読み聞かせてくれた言葉を思い出しながら文字を読んで、描かれている華やかな絵を日がな見つめ続けた。

 外の世界はこの絵のように綺麗なんだろうか。
 だとしたら呪われた俺が行けば、すべてが真っ黒になってしまうのだろう。
 俺の呪いのせいで、一日の半分は外も真っ黒になってしまうけれど、きっと俺が呪いを抑えることができるようになれば、外に呪いを出さずずっと外を明るくできるはず。

 呪いを全部この部屋の中に閉じ込めればいい。
 俺がここにいれば、世界のすべてを黒くさせず、呪われない。

 でもナディアは、自分が真っ黒になっても俺に優しくしてくれて、俺をここに閉じ込めてくれる。
 ずっとここにいれば、ナディア以外誰も黒くしない。
 ずっとここで、ナディアの操り人形でいればいい。

 そう思っていた。






「大丈夫?」


 聞いたことのない柔らかくも強い声を向けられ、反射的に後退った。
 ある日突然多くの人間がこの部屋に来て、何やらいろいろ言っている。そのことに恐怖しているとき、その声は聞こえた。

 先程窓の向こうでナディアの隣にいた子だ。
 あの絵本に出てくるお姫様が来ていたドレスと同じ「ピンク色」の髪を持つ、瞳は呪われていないときの空のような色だ。

 この子はまだ呪われていない。
 でもこれ以上俺に近づいたら呪われて、その綺麗な色が黒くなってしまうかもしれない。
 
「やだ! さわる、だめ!」
「わかったわ。触らないから近くに行ってもいい?」

 少女の後ろにいる大きな人間が「でんか!」と叫んでいた。
 自分とナディア以外の人間を近くで見たことはなく、その大きな声に驚き体が震えた。
 それに気づいた様子の女の子が、優しい淑やかな声で語り掛けてきた。

「私はユリアーネ。この国の姫よ」
「ひめ……おひめさま……?」

 黒に慣れきった俺の目には、女の子は内から輝いて見えた。

 だがこの子はあの絵本に出てきた悪いやつのように、俺を消しにきたのだろうか。でも、それなら退治するはずの王子様はどこにいるのだろう。
 どうして俺を倒しに来たのに、そんなに優しい笑みを向けてくれるのだろう。
 ナディアのような背筋がゾッとするような顔とは違う、泣きたくなるほど優しい笑みを。

「おれ、を、たいじ、する?」

 俺の問いかけに、少女は驚き大きな丸い目をさらに見開いた後、力強く首を振った。

「そんなことしないわ。あなたをここから出したいと思って、ここへ来たの」
「おれ、さわる、だめ……呪い、ある」

 すると少女は差し出し続けていた手をそっと下ろし、眉を下げながら無理矢理笑みを作って俺を見た。

「そう……。私が呪われないよう気遣ってくれていたんだ。優しいのね」

 少女の声が一瞬震えたように聞こえたような気がした。
 未だ戸惑う俺をよそに、自身のピンク色の髪を結んでいたリボンを解き、片側だけを掴んだ状態で俺に拳をつきだした。

「端、持って?」
「え?」
「ここ、持って? それならあなたに触れないでしょう?」

 垂れ下がったリボンの端を指差した。

「触られるのが怖いのなら、今はこのリボンを持ってくれればいいわ。一緒にお城に行きましょう」
「……おれ、たいじ、する?」
「しないってば。あなたの呪いを解いてあげるのよ」

 最後は折れるような形で、差し出されたリボンを握った。それを確認した少女が立ち上がると、自ずと俺も立ち上がった。

「行こ!」

 リボンによって俺と少女が繋がり、少女が歩き出し、つられて俺も歩く。
 

 ――――操り人形みたい。


 糸で吊られた、糸で繋がっている、操り人形。
 でもこの子に操られるのは嫌じゃないと、そう思った。



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