逆ハーレムを作ったけど、護衛騎士が婿候補をことごとく蹴散らしていく件【R18】

冬見 六花

文字の大きさ
31 / 54

15 姫様

しおりを挟む



 王城で過ごす日々は目まぐるしかった。
 知能が実年齢に伴わないためすぐさま教育が始まり、そこで黒は呪いなんかではなくただの遺伝というもので、しかも当たり前のように自分以外にも黒髪黒目がいることを知った。
 ユリアーネと名乗っていたあの少女は、とても偉い人の娘で、本来であれば俺のような者は話すことすらできないような人だった。だがその少女本人が、俺への教育を願い出て王城に住まわせることを許可してくれた。

 お姫様なのに、王子様みたいだと思った。

 姫様は俺のことを助け、たくさんのことを学ばせてくれて、俺にたくさん会いに来てくれて、一緒に遊んでくれて、幸せにしてくれた。
 ずっとこのまま、姫様の傍にいて幸せでい続けたい。

 そう思っていたある日、王配殿下に呼び出された。

「ユリアーネから離れてくれ」

 普段姫様の前で見せていた温厚で気弱そうな姿は一切無く、こちらを凍てつかせるような冷然としたものだった。
 それは威厳というものでもなく、ただ命を握られている仔犬にでもなったように思わせるものだった。

「なん……」
「何故かは、ユリアーネがこの国の王女だからだ」

 その一言ですべて理解できるほど、俺はまだ賢くなかった。

「君がユリアーネの周りをウロチョロするのは困る。あの子には将来然るべき相手と結婚する義務があるのだから」

 そこまで言われてようやく理解した。要は俺は邪魔なのだ。
 姫様の将来はこの国の将来。そこに俺は邪魔なのだとハッキリ言われている。
 身分相応を考えろと、この御人は言っているのだ。

 
 でも俺は、もう姫様がいない場所で生きられない。
 
 
「姫様がいないと……俺はもう動けないんです」

 だって、俺は姫様の操り人形だから。
 俺の糸は、姫様の手の中にある。
 俺の四肢も、指先も、頭も、胸の奥にある大事なところも、その全部が繋がる糸は姫様が握っている。

 俺は、これ以外の幸せを知らない。
 俺にとって、これ以外の幸せはない。
 姫様を見る、姫様が笑う、姫様がいる。

 ――――俺にとって、それが『幸せに暮らす』ことなのだ。


「そんなにユリアーネと一緒にいたいか?」

 王配殿下の目は先程のような冷たさはないが、代わりにこちらが怖気るほど妖しいものとへなっていた。
 それでも必死に気圧されず、王配殿下を見つめた。

「はい」
「ならばユリアーネの側近となりなさい。……そうだな、あのクラムロス家の血を継いでいるのなら、体は頑丈だろうし護衛がいいだろう」
「ごえい……」
「ユリアーネを守る者のことだ」

 姫様と遊ぶとき、傍らにいた剣を携えた人達が常にいた。護衛とはあれのことか。

「それになれば、常に姫様のお傍にいられるんですか?」
「むしろ常にいてもらわねば困る。……ユリアーネは常に命を狙われるような立場だからな」
「姫様の、命が……?」
「あぁ。それに人間というのはいつ裏切るかわからないものだからな。適当なものを傍に置いてしまえばユリアーネは容易に殺されてしまう」
「そんなのダメだっ……!」

 思わず声を荒げた俺を見て、王配殿下は満足そうに笑んだ。

「そうだろう。だが君のようなユリアーネへの忠誠が厚い者ならば、私も安心できる。どうかな?」
「なります。姫様を守れる人間に、絶対になります」
「ユリアーネを守るため、私の命令にも従ってもらうがいいかな?」
「それで姫様を守れるのなら」

 今思えば、俺を城で引き取った時点で王配殿下はこうなる未来を描いていたのだろう。劣悪な環境にいた俺を姫様が救い出し、俺は姫様に妄信する。忠実な仔犬を忠実な番犬となるよう育てたのだ。
 姫様にはもちろん、王配殿下にも忠実な番犬を。

 姫様の傍にいるために姫様の傍を離れると決め、王宮を出る際姫様に握手をねだると、涙を浮かべながら姫様は躊躇なく俺の手を握ってくれた。
 ――――黒くなんかならない。
 姫様の白く滑らかな手を見て、すでにわかっていたことを改めて思った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました

えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。 同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。 聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。 ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。 相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。 けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。 女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。 いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。 ――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。 彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。 元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...