逆ハーレムを作ったけど、護衛騎士が婿候補をことごとく蹴散らしていく件【R18】

冬見 六花

文字の大きさ
33 / 54

16 及第点

しおりを挟む

 
 

 後宮へ駆けつけると、早朝にも関わらず辺りは騒然となっていた。
 しかもすでに王配殿下も従者と共にいて、現場の指揮をとっていた。

「殿下!」
「あぁ、ヴォルフ。遅かったな」

 ――――やけに落ち着いておられる。
 だがそう不審に思ったことはおくびにも出さなかった。

「姫様が攫われたと聞いております」
「あぁ、そのようだ。昨夜ユリアーネと共に後宮へ渡ったメイドを今呼んでいる。まずは彼女に話を聞こう」

 今すぐにでも草の根かき分けてでも探しに行きたいが、手掛かりはあるに越したことはない。
 焦れるような思いでいるのも束の間、王配殿下の側近が一人のメイドを連れてやってきた。どうやら姫様付きのメイドではなかったらしく、見かけたことのないやや年高の者だった。
 
「ユリアーネは昨夜、月渡りの相手に誰を選んだか教えてくれ」
「テオドア・ユタバイト卿にございます」

 予想通りだった。
 だがそれでも腸が煮えくり返りそうになったのを、必死に抑え込んだ。
 今は嫉妬に駆られている場合なんかではない。

「昨夜の君の動向をできるだけ詳細に教えてくれ」
「王宮薬事室より月蕩酒を受け取り、月渡り廊下前にて王女殿下のご到着を待ちました。殿下がおいでになり、殿下が先導のもと廊下を渡ってお部屋へと向かいました。テオドア卿がお部屋の中でお出迎えくださり、私は月蕩酒をお渡しした後、月渡り廊下の後宮側と王宮側の扉に施錠をしました。その後すぐに後宮管理者に報告へ行き、鍵を所定のところへ戻した後に休ませていただきました」

 説明に一切の淀みがなかった。
 王配殿下も同じように思ったのか、一つ頷いた。

「君が部屋を出る際、周囲に人は?」
「お部屋に着いた際にテオドア卿の侍従がおりました。私がその場を辞した後もおられました」

 それは少々引っ掛かる。
 月渡りに限らず、王族の初夜は王宮所属の騎士が部屋を囲うように護衛する。だが部屋を囲うとはいっても扉の前にではなく、多少の距離を取っての護衛だ。そして翌朝に閨が行われたかの確認を王宮のメイドがすることが習わしだ。
 本来ならばこのメイドが辞する際、その侍従も一緒にその場から去るべきだ。いや、そもそもその侍従はそこにおらずともいい存在だ。だがこのメイドが去る際もテオドア卿の侍従は残った。

 そのことに、このメイドはその場で疑問を抱かなかったのだろうか。

「そうか。話してくれて礼を言う」

 俺が今抱いた疑問を口にする前に、王配殿下が鷹揚な口調でメイドに声をかけ、そのまま帰らせてしまった。

 いや、まずはあのメイドに聞くよりも、月渡りの相手であるテオドア卿から話を聞くべきだ。そもそも何をやっていたというのだ。身を挺し、万難を排してでも姫様を守るべきだというのに。
 
「テオドア卿はどこに? 彼は姫様のことで何か知らないのですか?」
「そのテオドア卿もいないのだ」


 テオドア卿も……?


 そうなると手掛かりは一切ない。

 姫様がいない。
 そう思った瞬間、急に空中に放り捨てられたような急激な恐怖と、胸の奥の奥から染み出てくるような、黒い憎悪が自身を巣食うような感覚を覚えた。

 それと同時に深い後悔に襲われた。
 昨夜、なにがなんでも引き止めればよかった。
 あの小さく細い体を抱きしめて、重なった唇をさらに合わせて、この胸の想いで姫様が潰れてしまうくらい吐き出してしまえばよかった。
 俺と姫様は糸で繋がっているはずなのに、どうして俺は姫様の居場所がわからないのだ。
 恐怖と後悔と自己嫌悪で狂ってしまいそうになる。

「落ち着け、ヴォルフ」

 冷淡な声で王配殿下が言った。

「王宮の警備を侮るな。中からも外からも簡単に出入りなどできるはずがない。ユリアーネは王宮内にいる」

 やたら確信めいた言い方なことに、胸がざらついた。
 それに王宮内という限られた範囲とはいえ、後宮も含めたらかなり広大な敷地だ。
 何世代に渡って増改築を繰り返しているため、俺が処理室として使っているような誰も訪れないような建物も多く存在しているし、加えて避難用の隠し部屋や隠し通路も多いと聞く。その中から手がかり無しで探すのはかなり骨になる。姫様がどんな状況かわからない一刻を争う事態だというのに、王配殿下の落ち着きように苛立ってしまう。
  
 早朝からざわめきだつ後宮内は異様な空気に包まれ、それに気づいた中級と下級婿達が寝間着のままちらほらと顔を出してきた。
 だがさすがに野次馬のようなことはしないのか、上級婿の姿はなかった。

「ヴォルフ、お前はこの事態、どう考える」
 
 小さいが鷹揚に響く声を向けられ、思わず背筋に寒気を覚えた。

 普通に考えるとテオドア卿が姫様を攫ったと考える。だがあの男がそんな大胆不敵なことをしでかすとは考え難い。だが姫様が人をそこまで変えるほどの魅力を持っておられるのも事実。
 だがそんな単純なものではないとするならば……。

「王配派の手によるものかと考えます」
「まあ及第点といったところか」

 渇いた笑みを浮かべたが、王配殿下の目は少しも笑ってはいなかった。
 すると俺のほうを見て人差し指で軽く手招きをしたため、顔を近づかせるために少し身を屈めた。

「ユリアーネのいる場所にいくつか当てがある。お前は私の騎士を連れてそこへ行け。ただし、誰にも悟られるな」

 やはり、この方の落ち着きようには理由があったのかと納得する。
 女王陛下と姫様を至高としている王配殿下が、姫様がいなくなったことに動揺しないはずがない。

 だが当てがあるというのはどういうことだろうか。まさか姫様がいなくなったことに、王配殿下が関与しているというのか。
 そこまで考えたが、今の最優先事項は姫様の救出だ。

「かしこまりました」

 自分の気配の一切を消し、俺はその場を静かに後にした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ストーカーから逃げ切ったつもりが、今度はヤンデレ騎士団に追われています。

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。 そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。 1~2万文字の短編予定→中編に変更します。 いつもながらの溺愛執着ものです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』

由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。 婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。 ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。 「君を嫌ったことなど、一度もない」 それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。 勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。

無能と追放された魔導鍛冶師、最強の騎士に拾われ溺愛される

ムラサメ
恋愛
​「君の打つ剣は輝きが足りない。もっと華やかに光る、騎士団の象徴となる剣を打てないのか」 ​実家の鍛冶屋からも、婚約者である騎士団長カイルからも「無能」と切り捨てられた鍛冶師・メル。不純物を削ぎ落とし、使い手の命を守るためだけに特化した彼女の「究極の業」は、美しさを求める凡夫たちには理解されなかった。 ​冷たい雨の中、行き場を失い魔物に襲われた彼女を救ったのは、隣国の至宝であり、その強すぎる魔力ゆえに触れる武器すべてを粉砕してしまう最強の騎士――アルベールだった。 ​圧倒的な武力で魔物を屠り、砕けた愛剣を悲しげに見つめるアルベール。周囲がその「化け物じみた力」を恐れて遠巻きにする中で、メルだけは違った。彼女は泥にまみれた鉄の破片を拾い上げ、おっとりと微笑む。 ​「……騎士様。この子は、あなたの力に応えようとして、精一杯頑張ったみたいですよ」 ​その場で振るわれたメルのハンマーが、世界で唯一、アルベールの全力を受け止める「不壊の剣」を産み落とした瞬間――最強ゆえに孤独だった英雄の運命が、狂おしく回り始める。

処理中です...