逆ハーレムを作ったけど、護衛騎士が婿候補をことごとく蹴散らしていく件【R18】

冬見 六花

文字の大きさ
39 / 54

19 諦めていない

しおりを挟む


 姫様がいなくなって二日が経った。

 あの後、王配殿下のあて先をすべて見たがいずれももぬけの殻で、城内の他の避難室も調べたが姫様もテオドアも見つからなかった。
 城内は姫様がいなくなったことで慌ただしくなり、捜索範囲は外へと移り、姫様がいなくなったことを公表したらどうかという声も現れ始めた。

 姫様がいなくなったと知ったときから一睡もせずに探しまわっているが、痕跡すらもない。
 テオドアと駆け落ちでもしたのではないかというふざけた声すら上がり、粛清と言う名の腹いせにそいつらを睨み黙らせるということをこの二日で何度もした。
 
 心配で心配で、頭がおかしくなりそうだ。
 発狂しないのがおかしいと思えるほどに。


 姫様の消失により、貴族達に緊急招集がかかり会議が行われることとなった。
 出席者には王配殿下の他、テオドアの父であるユタバイト公爵をはじめとする高位貴族の者が主だが、その中に王配殿下の生家であるディグラン子爵家の現当主であるディグラン子爵がいた。

 俺もこの会に出席するよう命じられ、王配殿下の背後に静かに立っていた。

「女王陛下はご欠席ですか」

 威厳ある声で聞いてきたのはユタバイト公爵だ。
 彼は彼で息子が消息不明になったことに、少なからずの戸惑いがあるらしくどことなく疲れているに見受けられる。それは親心というよりも、王族誘拐の容疑がかかっていることによるテオドアへの怒りだろう。

「あぁ。だが此度の件はもちろん陛下のお耳にも入れている。陛下の憂いを払うためにも、王女とテオドア卿の捜索は早急に行わねばならない」
「王配殿下、その前に一つよろしいでしょうか」

 高らかに声を上げたのはディグラン子爵だ。王配の親類ということでこの場に出席しているが、実質発言権を持っていないため、すぐさま貴族達は怪訝な表情を浮かべた。

「なんだ。ディグラン子爵」
「ユリアーネ殿下の捜索はもちろんですが、万が一のことも考え、今後の後継問題を話し合う必要があると進言します」

 一瞬にして場がざわめいた。

「女王陛下は御子を身籠ることはできません。ですがすでに王配殿下が治政しておられる今、王配殿下を国王とすればこれまでと同様平穏な世が続きましょう」
「無礼なっ! 王は青き血を持つ者と決められている! 子爵は女王陛下を愚弄しているのか!」

 すぐさま反論したのはユタバイト公爵だった。だがそれを見る他の貴族の目は冷ややかだ。「まだこいつは青き血などと宣わっているのか」と表情が言っている。
 それだけでなく、子爵の意見に賛同とは言わずとも認めざるを得ない部分もあるようで、部屋はさらにざわめきを増した。
 
 確かに姫様が助かるかわからない現状、ありとあらゆることを想定しなければならない。
 だが子爵のあまりに不敬な発言に、全身の産毛が逆立つほどの怒りを覚え、今すぐその太く短い首を切ってやろうかと手を出しかけたが、すんでのところで王配殿下が制した。

「子爵の発言も頷けよう。ユリアーネがいなくなれば後継問題は深刻となる」
「そうでございましょう。王配殿下を国王とするならば、生家である我が家が子爵家では顔が立ちません。ここはぜひ陞爵を……」

 それが狙いか。
 下卑た欲望が如実に出ている男が醜く手を擦っている姿に、腸が煮えくりかえりそうだ。
 
「先に言うが、私は王にはならん」
 
 やれやれとでも言うように、王配殿下が言った。

「子爵の心配事が現実となってしまったならば、順当に行ってユタバイト家に王位を譲ることとなるだろう。テオドア殿はユリアーネと共に姿を消した今、ドミニク殿となりえよう」

 それを聞いた公爵は、まるで「お前は立場をよくわかっているな」とでも言いたげな表情で王配殿下を見た。
 そうなれば子爵の陞爵は当然叶わなくなる。さぞ悔しいだろうと思いきや、何故か子爵はニタリと笑った。
 
「だがテオドア卿が仮に誘拐犯であったならば当然話し合いは必要だ。それにこれは机上の空論。すべては陛下の御心に従うこととなるし、重ねて言うが今はユリアーネのことを話し合う場だ。……もういいか。子爵」
「はい。出過ぎたことを申しました」
「出過ぎていると自覚できる頭はあるようだ」

 人好きそうな見た目の王配殿下だが、その実、腹の内はどす黒い。ディグラン子爵家は王配の生家として権力を振り回していることを今まで静観してきていたが、それは容認していたわけではない。
 二人の不仲を物語るように、今の王配殿下の言葉にディグラン子爵はあからさまに顔を歪ませた。

 結局長いだけで実のない会議の結果、明日になっても姫様とテオドアが見つからない場合は、国民へ公表することが決められた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました

えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。 同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。 聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。 ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。 相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。 けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。 女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。 いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。 ――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。 彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。 元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。

ハードモードな異世界で生き抜いてたら敵国の将軍に捕まったのですが

影原
恋愛
異世界転移しても誰にも助けられることなく、厳しい生活を送っていたルリ。ある日、治癒師の力に目覚めたら、聖堂に連れていかれ、さらには金にがめつい師によって、戦場に派遣されてしまう。 ああ、神様、お助けください! なんて信じていない神様に祈りを捧げながら兵士を治療していたら、あれこれあって敵国の将軍に捕まっちゃった話。 敵国の将軍×異世界転移してハードモードな日々を送る女 ------------------- 続以降のあらすじ。 同じ日本から来たらしい聖女。そんな聖女と一緒に帰れるかもしれない、そんな希望を抱いたら、木っ端みじんに希望が砕け散り、予定調和的に囲い込まれるハードモード異世界話です。 前半は主人公視点、後半はダーリオ視点。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

処理中です...