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19 諦めていない
しおりを挟む姫様がいなくなって二日が経った。
あの後、王配殿下のあて先をすべて見たがいずれももぬけの殻で、城内の他の避難室も調べたが姫様もテオドアも見つからなかった。
城内は姫様がいなくなったことで慌ただしくなり、捜索範囲は外へと移り、姫様がいなくなったことを公表したらどうかという声も現れ始めた。
姫様がいなくなったと知ったときから一睡もせずに探しまわっているが、痕跡すらもない。
テオドアと駆け落ちでもしたのではないかというふざけた声すら上がり、粛清と言う名の腹いせにそいつらを睨み黙らせるということをこの二日で何度もした。
心配で心配で、頭がおかしくなりそうだ。
発狂しないのがおかしいと思えるほどに。
姫様の消失により、貴族達に緊急招集がかかり会議が行われることとなった。
出席者には王配殿下の他、テオドアの父であるユタバイト公爵をはじめとする高位貴族の者が主だが、その中に王配殿下の生家であるディグラン子爵家の現当主であるディグラン子爵がいた。
俺もこの会に出席するよう命じられ、王配殿下の背後に静かに立っていた。
「女王陛下はご欠席ですか」
威厳ある声で聞いてきたのはユタバイト公爵だ。
彼は彼で息子が消息不明になったことに、少なからずの戸惑いがあるらしくどことなく疲れているに見受けられる。それは親心というよりも、王族誘拐の容疑がかかっていることによるテオドアへの怒りだろう。
「あぁ。だが此度の件はもちろん陛下のお耳にも入れている。陛下の憂いを払うためにも、王女とテオドア卿の捜索は早急に行わねばならない」
「王配殿下、その前に一つよろしいでしょうか」
高らかに声を上げたのはディグラン子爵だ。王配の親類ということでこの場に出席しているが、実質発言権を持っていないため、すぐさま貴族達は怪訝な表情を浮かべた。
「なんだ。ディグラン子爵」
「ユリアーネ殿下の捜索はもちろんですが、万が一のことも考え、今後の後継問題を話し合う必要があると進言します」
一瞬にして場がざわめいた。
「女王陛下は御子を身籠ることはできません。ですがすでに王配殿下が治政しておられる今、王配殿下を国王とすればこれまでと同様平穏な世が続きましょう」
「無礼なっ! 王は青き血を持つ者と決められている! 子爵は女王陛下を愚弄しているのか!」
すぐさま反論したのはユタバイト公爵だった。だがそれを見る他の貴族の目は冷ややかだ。「まだこいつは青き血などと宣わっているのか」と表情が言っている。
それだけでなく、子爵の意見に賛同とは言わずとも認めざるを得ない部分もあるようで、部屋はさらにざわめきを増した。
確かに姫様が助かるかわからない現状、ありとあらゆることを想定しなければならない。
だが子爵のあまりに不敬な発言に、全身の産毛が逆立つほどの怒りを覚え、今すぐその太く短い首を切ってやろうかと手を出しかけたが、すんでのところで王配殿下が制した。
「子爵の発言も頷けよう。ユリアーネがいなくなれば後継問題は深刻となる」
「そうでございましょう。王配殿下を国王とするならば、生家である我が家が子爵家では顔が立ちません。ここはぜひ陞爵を……」
それが狙いか。
下卑た欲望が如実に出ている男が醜く手を擦っている姿に、腸が煮えくりかえりそうだ。
「先に言うが、私は王にはならん」
やれやれとでも言うように、王配殿下が言った。
「子爵の心配事が現実となってしまったならば、順当に行ってユタバイト家に王位を譲ることとなるだろう。テオドア殿はユリアーネと共に姿を消した今、ドミニク殿となりえよう」
それを聞いた公爵は、まるで「お前は立場をよくわかっているな」とでも言いたげな表情で王配殿下を見た。
そうなれば子爵の陞爵は当然叶わなくなる。さぞ悔しいだろうと思いきや、何故か子爵はニタリと笑った。
「だがテオドア卿が仮に誘拐犯であったならば当然話し合いは必要だ。それにこれは机上の空論。すべては陛下の御心に従うこととなるし、重ねて言うが今はユリアーネのことを話し合う場だ。……もういいか。子爵」
「はい。出過ぎたことを申しました」
「出過ぎていると自覚できる頭はあるようだ」
人好きそうな見た目の王配殿下だが、その実、腹の内はどす黒い。ディグラン子爵家は王配の生家として権力を振り回していることを今まで静観してきていたが、それは容認していたわけではない。
二人の不仲を物語るように、今の王配殿下の言葉にディグラン子爵はあからさまに顔を歪ませた。
結局長いだけで実のない会議の結果、明日になっても姫様とテオドアが見つからない場合は、国民へ公表することが決められた。
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