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20 糸を辿る
しおりを挟む僅かに開いていた扉を開けてみると、軋むような音と共に土埃がパラパラと落ちてきた。
中へ入り扉を閉めようとしたが、どうやらきちんと閉めることはできないらしい。中は天井が高く、曇ったガラスから射す光に土埃が光っている。
恐らく昔は立派な青いチャーチベンチが並んでいただろうが、今は子供が座ってもたぶんすぐに崩れるほど、見るからに劣化し、散乱していた。
壁も今にも表面が崩れてしまいそうなほど古くなっているが、ところどころに青い壁紙が見えた。
「殿下もテオドア卿もいらっしゃらないな……」
辺りをキョロキョロとしながら、恐る恐るルスラルドが後ろからついてきた。
「奥に部屋はないか見てきてくれ。あれば中には入らず俺を呼んでくれ」
「はいはい」
一応私のほうが年上なんですけどね。とぼやきながらルスラルドが奥へと進んだが、すぐさま無いと伝えるように手を広げ肩をすくめて戻ってきた。
「見間違えたかな……? でも確かにここに運ばれていたんだけど、あレンガ色の髪の人物はテオドア卿じゃなかったのかな」
仮にルスラルドが見たのがテオドアだとしたら、時系列がおかしい。
ここも外れか、とも思ったがこの教会は怪しいと直感が言っている。
もう少し調べてみるとしよう。
入ったときから気になっていたのは、この何もかも古い教会に不釣り合いな立派すぎる祭壇だ。
近づいてみると、そこらへんに積もっている土埃が祭壇の周りにだけ綺麗になくなっている。そして祭壇の表面を触ってみると、一切土埃は積もっていなかった。
祭壇を押して位置をズラすと、見た目の割に軽いようですぐに動いた。
「これは……」
「その祭壇がどうかした?」
「見てみろ」
俺の後ろで様子を見ていたルスラルドが、顔を覗き込ませながら尋ねたため、床を見るよう顎で指した。
手のひらほどの大きさのタイルが敷き詰められた床のため分かりづらいが、大きな戸枠ができている。しかもその僅かな隙間から、冷たい空気の流れを感じた。
やはり隠し部屋か。この王宮は隠し部屋だらけだな。
「どうやら昔の王族は地下がお好きなようだ」
「おいおい、不敬だぞ。仮にも殿下の護衛だろ」
皮肉めいたことを言う俺のことを、ルスラルドが呆れたように笑った。
「俺は姫様しか敬っていないんだ」
「そらお熱いことで」
わざとらしく肩をすくめたルスラルドも、別に昔の王族を心から敬ってはいないのがわかる。
今のはあれだ。軽口、というものだ。
そんなこと誰ともしたことがないから、どう返していいかわからない。
ひとまず視線を床へと戻した。
「それ、南京錠がついてるじゃないか」
「あぁ」
確かに祭壇の影になっているせいで見えづらかったが、小さな南京錠がついている。しかもそれは真新しい。
「どう見ても怪しいけど、開けられる道具なんてないし、一旦戻るか?」
「いや、問題ない」
手袋から糸を僅かに出し、鍵穴に差し込み動かすとあっけないと思うほど簡単に解錠した。
「すごいね。それって糸? 糸でそんなこともできるんだ」
「糸に限らずすべては使い方の問題だ。開けるぞ」
「待って! それ、開けたら大量の死体が出てくるとかない……?」
運ばれたテオドアを見た際に王宮で処理した人間だと思ったらしいルスラルドは、どうやらここに人が大量に埋められている可能性を危惧しているらしい。
「それはない。そうだとしたら臭いがあるはずだ」
「でもまだ腐ってないとか、逆にもう骨になってるとか……」
「王宮の死体処理は遺棄するだけの杜撰なものじゃないから安心しろ。開けるぞ」
なんで処理の仕方を君が知ってるんだ……。というぼやきが聞こえたが、無視して扉を開けてみると、案の定地下へと続く暗い階段が続いていた。
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