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22 救ってくれたのは
しおりを挟む「……ドミニク・ユタバイトですか?」
女王派筆頭のユタバイト家と、王配派筆頭のディグラン子爵が繋がっていると聞けば、驚くのも無理はない。
「私、月渡りの相手にテオドア様を選んだの」
ヴォルフは僅かに眉をひそめた。
「……そう聞いております。ですがおかしいことに、テオドア卿は月渡りの日の夕方に攫われたようです」
「えぇ。だって月渡りでテオドア様の部屋にいたのは、ドミニク様だったのよ」
「!?」
その反応からして、月渡りの際に二人が入れ替わっていたことはまだ知られていないようだ。
「テオドア様の部屋へ行ったとき、とても甘い匂いがしたのよ」
「甘い匂い?」
「えぇ。最初は夜伽の雰囲気づくりのものかと思ったけど、どこかで嗅いだことがある匂いだった。それで思い出したのが、前日王宮でディグラン子爵から香ったものと同じだった。その後、私達を閉じ込めたドミニク様が私を助ける振りをしてあの地下室に来て、いろいろ話してくれたの。ディグラン子爵との繋がりは言っていなかったけれど、ヴォルフの話を聞いて確信した」
「……お待ちください。ではドミニク・ユタバイトは姫様を置き去りにしたということですか?」
「えぇ、そうよ」
あの暗闇の中で、考える時間はいくらでもあった。というより、必死に頭を動かしていなければ気が狂いそうだったからずっと考えていた。
そしてこの結論に至ったのだ。
「つまり子爵とドミニク様は、私とテオドア様を殺して王家の後継問題を浮上させ、ドミニク様が王太子となるのが目的だったのよ。ドミニク様にとっては、王太子になれることが最大のメリットだし、家は女王派だけど王配派も手中に入れたことから今後かなり動きやすくなる。ディグラン子爵は、ヴォルフが行った会議で言っていた通り、陞爵が狙いでしょうね」
「だから子爵は、ドミニクが王太子となると言われた際、大人しくしていたのですね」
ディグラン子爵は小物だ。
自分が国王になりたいという野心はなく、ただ高位貴族というブランドを欲しているだけ。
ドミニク様との協力関係があれば、それを利用して寄生虫のように今後一生甘い汁を啜っていけると考えたのだろう。
恐らくそれは元々ドミニク様ではなく、私の父である王配殿下を寄生先にと考えていたけれど、父と不仲であることと、父が国王にはならないと言っていたことから寄生先を変えたのだ。
それにまだ経験も浅く、少々短絡的なドミニク様のほうが傀儡にしやすいというのもあるだろう。
事実、王家を崇拝するほど女王派だったドミニク様は、自身にも流れるその血を見事に利用されてしまったのだ。
とにかく今回の一件の状況判断ができたのはよかったが、今の自分の状態だと何も対応ができない。恐らく王配殿下がなんらかの動きをしてくれているだろうが、当事者として、そして王太子としてやらなければいけないこともあるはず。
私とテオドア様が生きていることはどの程度知られているのかも知りたい。
ドミニク様とディグラン子爵がそれを知れば、何かしらのことをしでかすはずだ。
そう思ったときだった。
ヴォルフがベッドの傍らで、私に向かって跪き頭を下げていた。
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