逆ハーレムを作ったけど、護衛騎士が婿候補をことごとく蹴散らしていく件【R18】

冬見 六花

文字の大きさ
47 / 54

23 月蕩酒はいらない

しおりを挟む




 本格的な冬をとうに迎え、雪はないが吐く息が白く濁るような夜。
 
 とっくに回復した体は先日からまた朝のランニングを再開したが、まだ鈍った感覚が抜けていない。
 今はそんな体を隅々まで磨かれ、以前着たものより煽情的なデザインのナイトドレスに着替え、以前よりも厚手のガウンを羽織り、以前と違う王女付きの侍女を連れて長い廊下を歩いていた。

 今日は二回目の月渡りだ。

 静々と歩みを進め、目的の部屋へと辿り着き侍女が扉をノックした。

「ユリアーネ・シーゲル殿下がおいでです」

 そう言って扉を開けると、肌着の状態で最上礼でいる男性が目に入った。無言のまま部屋へと入ると、侍女が月蕩酒を置いて静かに出て行った。
 これで朝までここには誰も来ない。
 独特な緊張感のある儀式から解放され、ふうと一つ息を吐いてから詰め寄った。

「で? なんであなたは後宮にいるわけ?」

 状況がまったく掴めていない私を見て、ヴォルフは不敵に笑みを浮かべた。








 正直、安請け合いをしてしまったなと後悔していた。

 あの場の空気にあてられてヴォルフに事後処理を任せ、しかもそれが完了したら夫にするなんてことを約束してしまったが、そんなこと私の一存でどうこうできるものではない。

 だが私とてヴォルフと結婚したいと思っているのは事実。
 ヴォルフに変な期待を抱かせてしまった以上、それを叶えるべくどうにかして両親を始め、高位貴族連中を納得させねばなるまいと、療養しながらアレコレと考えていた。

 そんなある日のこと。
 完治したと言っていいほど回復したのに、未だ療養中の身である私の元を久々にヴォルフは訪れ、開口一番にこう言った。
 
「本日付けで姫様の護衛騎士を辞めさせていただきます」
 と。

 驚きすぎて呆然としている私を見て「お可愛らしいです」と何故か頬を赤らめながら照れたように微笑んだ後、ヴォルフはすぐさま出ていってしまった。

 もしや私との結婚を申し出て護衛騎士を解雇されてしまったのではと、数日間気が気でなかった。
 その後すぐ、あの日以降延期されていた月渡りを次回執り行うという報せが届き、どうしたものかと思いながらリストを見ると上級婿の箇所にヴォルフの名前を見つけ、驚いて後方に倒れそうになった。

 そんなことがあって、今日に至っている。

 ヴォルフは以前と変わらない恭しさで私を席に着かせ、いつものように温かいお茶を淹れてくれた。
 だが今は月渡り。このぶ厚いガウンの下は妖艶な下着姿でいるのがどうにも落ち着かないが、今はそれを悟られたくなく、毅然とした態度でカップに口をつけた。
 いつものように私の斜め後ろ立とうとしていたため、隣に座るようソファをポンポンと叩くと、ヴォルフは頬を赤らめながらぎこちなく隣に座った。
 
「それで? ちゃんと説明してくれるんでしょうね?」

 照れ臭さからちょっと棘のある言い方になってしまったが、ヴォルフは特に気にすることはなく、むしろ愛でてくるような甘い眼差しを向けてきた。

「もちろんです。まず、諸々の処理対応は恙なくすべて終了いたしました」

 すでに黒幕が誰なのかも目的もわかっていたから、その後の対応についてはもっと早く終わるものだと思っていたのに、まさか私が完治するまで待たされるとは思わなかった。
 しかもその間外に出ることは許されず、完治していたのに軟禁状態だったのだ。多少言葉に棘が生まれるのも致し方ない。

 ヴォルフの説明は淀みなかった。

 本来なら王族の暗殺は、未遂であろうと即刻死刑となる。
 だが、ドミニク様についてはユタバイト公爵が高額の賠償金と領地の一部を国へ譲渡したため減刑となった。
 これは此度の件が本人が企てたことでなく、傀儡とされていたための恩赦だ。
 とはいえ当然本人の意思で動いたため、ドミニク様はもちろん公爵家からは追放となり、その強い信仰心から神の御許である辺境の地の教会へ修行という名の流刑となった。

 ディグラン子爵については、てっきり即刻処刑にでもされたのかと思ったが、彼は国外追放を言い渡されたらしく既にシーゲルにはいない。
 ずいぶんと情けをかけたものだと思い、素直にヴォルフに聞いてみたが「そちらのほうが適した罰と判断したので」と言われてしまった。
 その言い方からして、これ以上の追及はできないだろうと判断した。

 彼がいなくなってから王配派の蓋を開けてみると、王配派の中でさらに派閥が別れていたらしい。
 王配殿下を王とした新体制を築き新たな妃を迎えたいと考え、自分達に縁ある令嬢を当てがいたい「国王派」と、ディグラン子爵率いる王配派に有利に動いてくれる新たな王に挿げ替えたいと考える「新国王派」がいたらしい。
 どちらにとっても私は邪魔な存在だったわけだが、今回のことで新国王派筆頭のディグラン子爵がいなくなったことから、新国王派は解体となり、それに伴い国王派も鳴りを潜めた。
 結果として王配派自体がかなり縮小されることとなったそうだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました

えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。 同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。 聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。 ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。 相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。 けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。 女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。 いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。 ――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。 彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。 元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

敵将を捕虜にしたら夫になって、気づけば家族までできていました

蜂蜜あやね
恋愛
戦場で幾度も刃を交えてきた二人―― “赤い鷲”の女将軍イサナと、 “青狼”と恐れられたザンザの将軍ソウガ。 最後の戦いで、ソウガはイサナの軍に捕らえられる。 死を覚悟したその瞬間―― イサナは思わず、矢面に立っていた。 「その者は殺させない。命は……私が引き受けます」 理由などなかった。 ただ、目の前の男を失いたくなかった。 その報告を受けた皇帝エンジュは、 静かに、しかし飄々とした口調で告げる。 「庇いたいというのなら――夫として下げ渡そう」 「ただし、子を成すこと。それが条件だ」 敵国の将を“夫”として迎えるという前代未聞の処置。 拒否権はない。 こうしてソウガは、捕虜でありながら 《イサナの夫》としてアマツキ邸に下げ渡される。 武でも策でも互角に戦ってきた男が、 今は同じ屋根の下にいる。 捕虜として――そして夫として。 反発から始まった奇妙な同居生活。 だが、戦場では知り得なかった互いの素顔と静かな温度が、 じわじわと二人の距離を変えていく

処理中です...