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【 表 】
③
しおりを挟む「うわっ、風つよ……」
洗濯物を取り込もうと外に出た瞬間、目を眇めるような強風に思わず言葉が漏れた。
強い土の匂いがすると思い、空を見上げるとどんよりとした曇天だ。早めに取り込んで家で大人しくしているのが正解だろう。とはいってもいつも家で大人しくしているのだが。
今日はレイドはまだ来ていない。
ここ最近レイドは私の食欲不振を心配してかほぼ毎日スープを持ってきてくれているのだが、どうにも全部食べられず申し訳ないことをしてしまっている。
レイドが来る前に昨日持ってきてくれた分を食べきってしまいたいが、やはりどうにも食欲がわかない。
体調が悪いわけではないし、なんなら快調なほどなのにどういう理由だか食べる気になれないのだ。
もしかして私は病気なんだろうか。
例えば病気のせいで記憶が無くなって余命僅かな時間をここで過ごすことに決めたら、思いのほか元気に過ごしてしまっているとか……。いやでもここに住み始めて風邪1つ引いていないし、病気ということはないだろう。
こういうとき、ふと思ってしまう。
私はいったい何者なんだろう。
レイドは私になんの恩があるのだろう。
恩人だとしても、ここまで献身的なのは何故だろう。
誰もいないこの場所で、唯一会ってくれる人が自分を大切にしてくれている。
それに絆されない人がいるだろうか、
でも、これは「好き」というよりも「依存」のような気がする。
このままレイドの恩返しが続けば、私の依存心は歪さを帯びながら更に大きくなっていくだろう。
そんな歪んだものを優しいレイドに向けていいはずがない。
レイドの優しさはあくまでも恩義から来ているもので、私のことを特別な想いではないのだろう。
それをわかっているのに、レイドにとっての恩を返し終わったら、私達の関係がプツリと途絶えてしまうことを怖いと思ってしまう。
だから、この汚い「依存心」を綺麗な「好き」にして、想いを伝えたい。
レイドが私への恩を返しきる前に。
そして、あわよくば私に恩義ではない想いを抱いてほしい。
そう思っているのだがレイドからの恩返しはまだまだ終わらないらしい。
そのことに焦燥している自分もいるし、安堵している自分もいる。
いったいいつ、レイドの恩返しは終わるのだろうか。
そもそも、私はレイドにここまでさせる程の何をしたというのだろうか。
レイドは竜人だ。
竜人は角や尾が出た状態の竜人姿と完全な竜の姿にもなれる種族で、しかも人間よりも遥かに頑強なためどんな大けがだって一瞬で治ってしまうらしい。つまり私が瀕死のレイドを助けたというのも考え難い。
命を助けていないとしたら、私は一体何をしたのだろう。1年間毎日家に来て献身してくれるほどのことを、何を……――――
「あっ!」
一際強い風に煽られ、シーツが1枚宙に舞いそのまま飛ばされてしまった。
目線を宙に舞うシーツに固定しながら追いかけるため森の中へと駆け出した。
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